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松本を救ったPKストップ…引退危機を乗り越えたGK村山の挑戦とは

名古屋戦に先発出場したGK村山智彦(右)

 松本山雅FCを救った終了間際のPKストップ。サッカー選手生命の崖っぷちから這い上がってきた“守護神”村山智彦が、初のJ1に挑んだチームに勝ち点1をもたらした。

 豊田スタジアムに3万3558人という観衆を集めた名古屋グランパスとの記念すべきJ1デビュー戦。松本からは50台近いバスツアーが組まれ、約1万人サポーターが大一番の行われるアウェイの地へ駆けつけた。

 選手たちが「アルウィンのような雰囲気だった」と感じるほどの熱気に後押しされ、松本は76分までに3-1とリードを広げる。だが、ホームで負けられない名古屋が田中マルクス闘莉王を前線に上げるド迫力のパワープレーで反撃に出ると、わずか3分間で同点に。

 さらに89分、後藤圭太がペナルティエリア内でノヴァコヴィッチを倒してしまい、勝負どころの時間帯でまさかのPK献上。試合の流れは完全に名古屋へ傾いていた。ボールを持ってペナルティスポットへ向かうのは闘莉王。万事休す――そう思われた瞬間だった。

「闘莉王さんのPKについては、事前にキックの傾向を教えてもらっていました。試合の流れと残り時間、それに闘莉王さんの性格なども考えて、真ん中に蹴ってくるんじゃないかという雰囲気を感じて、ギリギリまで我慢しました。先に飛ばないようにして良かったですね」

 走り込む闘莉王とタイミングを合わせた村山は、寸前までキックの方向を見極め、自らの勘に賭けた。そしてボールは自らの正面に飛んできた。狙いどおりだった。

「3点も取られてチームに迷惑を掛けていたので、最後にPKを止めることができて良かった。ただ、たくさんのサポーターが来てくれたのに、勝利をプレゼントできなくて本当に残念。勝ち点2を落とした感覚です。3失点していたら勝てない。J2では体感できないようなクオリティの高さ、シュートの質があったけど、それを感じられたのは大きかった。僕らはチャレンジャー。ウジウジしていても仕方ない。もっと成長しなければいけないし、今日得たものを練習から還元していかなければならない」

 こう振り返る村山にとっては、この名古屋戦がJ1デビュー戦。クラブと同様に記念すべき大舞台だった。殊勲の守護神は「もっと緊張するかなと思ったけど、うまく試合に入ることができたのは収穫」と語りつつ、引き締まった表情でこう続けた。

「サッカーを辞めなければいけなくなる状況から、こうして日本のトップリーグのピッチに立つことができたのは幸せだと思います」

 2012年秋、村山に突然の危機が訪れた。当時在籍していたSAGAWA SHIGA FCがJFLからの退会とトップチームの活動停止を発表したのだ。静岡産業大から加入3シーズン目、前年にJFLベストイレブンに選ばれていた村山だが、このままプレーしていても翌シーズンの所属クラブはない――

 危機感を抱いた彼は中口雅彦監督(現ガンバ大阪強化部)に相談し、チームに迷惑を掛けることを承知の上でシーズン中にもかかわらず新天地を求め始めた。当然ながら代理人とは契約しておらず、知人を頼りながら自力で探すしかない。そうして練習参加の機会を得たのが、J2昇格1年目の松本だった。この時のプレーが認められ、翌年からのプロ契約を勝ち取る。JFLからJ2へのステップアップ。これが村山のサッカー人生において大きな岐路となった。

 松本移籍後の立ち位置は第3GK。当初はベンチに入れない時期もあったが、チームメートの負傷で巡ってきた出場機会をしっかりとつかみ、鋭い反応を生かしたシュートストップを武器に一気にポジションを手にする。そしてついにたどり着いたJ1のピッチ。村山は自身の歩みを振り返って、「ここに来るまでにはいろいろあったけど、自分がやってきたことが間違いじゃなかったと思いましたし、今度はJ1でもできることを証明しなければならない。でも、ここまでサッカーを続けてきて本当に良かったと思いました」と感慨深そうに言葉を紡いだ。

 そして「中口さんには電話で報告したいですね。あのタイミングで行くチームがなかったらサッカーを辞めざるを得なかったし、監督に送り出してもらえなかったら、そして山雅が拾ってくれなかったら、今の自分はないですから」と改めて恩師やクラブへの感謝も口にする。

 クラブとともに待ち望んだJ1の舞台。村山はそのデビュー戦で見事に存在感を発揮し、チームに勝ち点1をもたらした。2013シーズンに勝ち点1が届かずJ1昇格プレーオフ出場を逃していたことを引き合いに出しながら、「得失点や勝ち点1の重みは身に染みて分かっています。そこは今シーズンもこだわっていかなければならない。一方で『J1はそんなに甘くない』と教えてもらった部分もある。この試合で自分たちにできることも足りないことも見えたので、過信にならない程度に自信を持って前に進んでいきたい」と続けた。

 反省の弁を語る彼の表情からは勝利を逃した悔しさとともに、ある種の充実感も感じられた。だが、感傷に浸っている時間はない。決して過信してもならない。クラブも、チームも、選手も、サポーターも、足下を見ながら一歩ずつ着実に前へ進むのみ。J1での戦いはひっきりなしに訪れる。次週のサンフレッチェ広島戦はアルウィンでのJ1開幕戦だ。

「次はナイトゲームなので気温が低くて寒いと思いますけど、サポーターの皆さんを自分たちのプレーで少しでも熱くしたい」

 広島戦のチケットは一部の追加販売を除いて完売。残雪のアルプスに見守られた満員のアルウィンが、長期にわたるキャンプと名古屋との開幕戦を乗り越えた松本山雅イレブンを待っている。大声援に後押しされ、気持ちのこもったプレーでスタジアムをヒートアップさせる。自分を拾ってくれた松本のために、支え続けてくれるサポーターのために――。「男・村山」と歌われて愛される村山智彦の挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。

文=青山知雄

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