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「まずコアな方」「地上波で露出」「健全な市場を」 U-NEXT、7年間のプレミアリーグ放映権取得で描く未来

2024.09.12

堤天心 代表取締役社長

 7月23日、SVODサービスを手掛ける『U-NEXT』が2024-25シーズンから日本における7年間のプレミアリーグ独占放映権を獲得したと発表した。

 日本では韓国資本系列の『SPOTV NOW』が2024-25シーズンまで配信することが決まっていた中、同日に契約の終了が突如発表され、入れ替わるように『U-NEXT』が取得した形となった。すでに前年の2023-24シーズンから5年間のラ・リーガ配信権も取得している『U-NEXT』が本格的にサッカーのライブストリーミング事業に乗り出したことになる。

 プレミアリーグは7年間、ラ・リーガも5年間の2年目と長期の配信権を取得した中、どのようなビジョンを持って取り組んでいくのか。株式会社U-NEXTの堤天心代表取締役社長に聞いた。

インタビュー=小松春生

―――プレミアリーグの放映権を今シーズンから獲得しましたが、一気に発表まで進んだ印象です。獲得の経緯について、お話しいただける範囲でお聞かせください。

堤 契約周りについてお話しすることは難しいですが、プレミアリーグ側からコメントが出ているように、彼らはU-NEXTを日本におけるメディアパートナーとして考えてくれています。一方、我々はプラットフォームとして、日本でのプレミアリーグの魅力をどう最大化するかという視点で考えています。双方がプレミアリーグというIPの最大化という視点で、7年間にわたるパートナーシップの目線合わせができたことが一番のポイントだったと個人的には思っています。

―――韓国に母体を持つ『SPOTV NOW』が韓国と日本でのプレミアリーグ放映権を2022-23シーズンから3年間持っていました。一方、韓国では契約が切れる2025-26シーズンからの放映権を『Coupang Play』が取得したと言われており、日本での放映権もどうなるのかというタイミングでした。契約期間としては『SPOTV NOW』が1年残している中、早期契約終了の発表と入れ替わる形での獲得となりましたが、どこかのタイミングで取得しようという思いがあったのでしょうか?

堤 プレミアリーグにも一定の契約タームがありますので、更新のタイミングは当然ありました。交渉のタイミングがないと契約の話もできませんので、いろいろなコミュニケーションを通じてという形です。

―――プレミアリーグの放映権獲得は悲願だったのでしょうか?

堤 悲願です。昨シーズンからラ・リーガの配信をスタートしました。ここにプレミアリーグという魅力的なリーグが追加されることによって、お互いのシナジーも期待できますし、ヨーロッパサッカーという一つのカテゴリーが成立するという認識でした。

[写真]=Getty Images

―――U-NEXTとしてVODサービスを長年やってきた中、ライブ配信への参入は準備を続けていたのでしょうか?

堤 我々のサービスはレンタルビデオのデジタル化という側面が強かったですが、コロナ禍でいろいろな意味で時代が加速し、広く一般的にデジタル環境での視聴が成立するようになりました。そして次は、有料放送で届けられていたスポーツをはじめとするライブコンテンツがデジタル化していくことになると。ユーザーから見てもマルチデバイス導入が進んでいること、サインアップへのハードルが低くなったこと、若年層にとって有料放送に入るよりも、OTTサービス加入が当然となっていること等々を考えると、従来の有料放送が担っていた役割がデジタルに移行していくだろうという思いがありました。

 コロナ禍を経て、ライブコンテンツにおいてもデジタルの時代が来ると思っていましたし、各リーグや協会といったライセンスホルダーも世界的な傾向として、OTTファーストになっています。以前は放送権がメインで、配信権がオプションのような形でしたが、今は逆転した状況です。市場の動向や、我々が考えた参入のタイミングなどが合致し、VODとスポーツの総合エンターテイメントという組み合わせが成立するだろうという思いで決断しました。

―――VODとライブ配信ではまったく異なるリソースや設備投資が必要です。一方で、世界的にライブ配信が主軸となり、ノウハウなどが積みあがっていく中で、うまく流れに乗れたということでしょうか?

堤 テクノロジーやコロナ禍を含めた世界的情勢など、タイミングとしてはベストだったという認識です。

―――昨シーズンからラ・リーガの配信を行い、手応えはいかがでしょうか? 実況・解説の方と一部独占契約を締結するなど、新たなチャレンジや、対価をしっかりと支払った上でサービスを展開する姿勢などが見えました。

堤 手応えは当然あります。ライブそのものをシンプルに届けるだけではなく、コメンタリーなどの周辺コンテンツも含めて、どうストーリー化していくかは、もう一つの重要なミッションだと思っていますので、アグレッシブに取り組もうと考えています。

[写真]=Getty Images

―――一方で配信の実績を積み上げることで見える課題もあると思います。解消しようとしている課題はいかがでしょうか?

堤 ベーシックなところで言うと、まず高画質で配信することです。特にスポーツは4K HDR 50fpsで配信することで、大画面での恩恵を大きく受けます。現状、OTTでの4K HDR 50fps高画質配信は、少なくとも日本ではあまりない認識でしたので、まずはそこでハイクオリティなものを『U-NEXT』としてやろうとしています。ライブを楽しむ上でのベーシックな品質価値を絶対的に担保したい、届けたいです。

 もう一つは、海外でプレーする日本人選手が増え、現地で評価されていながらも、その価値が日本で伝えきれてない気もしていて、現地での評価を積極的に日本のファンに届ける努力をしていきたいです。ライブ配信や重厚的なコンテンツに限らず、例えばクラブスタッフやファンからの評価を絶えず発信し続けるだけでも、発見、興味も増えると思っています。

―――ラ・リーガは『Netflix』でドキュメンタリーを配信していますし、各クラブなども『Amazon Prime』と組むなどしています。リーグやクラブが自分たちの価値や求められているものを十分に承知している中で、『U-NEXT』としても取り組める土壌があると言えます。

堤 我々としてはまさにそれをやるべきですし、これからやりたいと思っています。スポーツとドキュメンタリー、スポーツと広い意味でのバラエティ、どちらも生のドラマですし、『Netflix』さんは個人的にもアプローチなどが素晴らしいと思っています。一方でもちろん我々もアプローチができると強く思っています。

―――スポーツにおけるOTTサービスの現状をどうご覧になっていますか? サービスが乱立する中での難しさもあると思います。

堤 大前提としてOTTがスポーツにおいてメインになるだろうと考えています。逆に言うとOTTでないと、いろいろな意味で耐えられない。また、我々の仮説ですが、エンターテイメントとスポーツの相互性を持っていることが強みの一つになろうかと思っています。スポーツはオフシーズンがあるので、ユーザーをどう引き留めるかは我々にとっても課題ですが、特にスポーツ専用サービスはさらに難しさがあると思います。ただ、エンタメとスポーツの両方があることで、オフシーズンにVODサービスを利用していただけるのであればビジネスとして十分成立します。

[写真]=Getty Images

 もしくは継続性の動機づけとして、総合的に楽しめることがスポーツ専門サービスに対して差別化できる要素になりうるだろうと。逆も然りで、エンタメ専業でスポーツライブがないサービスに対しては、ライブコンテンツあることの付加価値で差別化が図れます。むしろそれがメインストリームになると思っています。なので、正直に言って、競合各社が本気で参入してくれば脅威ですし、するだろうとも思っています。『Netflix』さんもアメリカでは『WWE』(プロレスの世界最大手団体)と2025年からの10年契約を締結しました。これまで、OTTではエンタメとスポーツの垣根が何となく分かれていましたが、それが取り払われていくでしょうし、スポーツ専門サービスも対抗するアクションをしていくと思います。競争のレベルがまた上がるでしょうし、市場はダイナミックに動いています。

―――放映権の金額に関しては毎年のように高騰してきた中、高止まりしつつあるのではないかという兆候も見えます。

堤 イギリスではプレミアリーグの視聴に月8000円~1万円払うことが当たり前になり、アメリカでもスポーツパッケージに対して月80ドル~100ドルを払っていて、それが数百万、数千万世帯となるマーケットがあります。プレミアリーグはイギリス国内の人口6000万人強に対して、数千億円規模の放映権料。ちょっと考えられません。ただ、放映権料が頭打ちになっていることは、ユーザーが払える限界値が1万~2万円くらいで、それ以上はいくらスポーツ好きといっても…という部分が見えてきての高止まりだと思います。

 海外を見ると、放映権料の高騰とユーザー単価の上昇が相関しています。日本だと月1万円で成立する市場ではありませんが、スポーツはエンゲージメントが高いですし、お金を払うことに対して前向きに捉えていただいていると言いますか、何でも無料で見られてしまうことがスポーツ振興に繋がらないこともユーザーの方に理解していただきながら、一定の対価を支払う価値観を持っている方も多いという認識があります。

 あとは日本における適切なプライスゾーンとサブスクの売り上げ、放映権のバランスにおいて、まだまだ成立する余地があると思います。それは我々がこれまで月約2000円というVODにしては高い金額で頑張ってきたことも、間接的にはスポーツへの参入のしやすさにつながったとも思います。スポーツを視聴している方は月2000円が「高い」とはあまり言いません。もし、我々がVODサービスを月500円で展開していれば、「サッカーパックは月2600円です」となると印象が変わります。VODでこれまで約2000円のサービスをしてきた中で、サッカーパックが2600円。かつ割引ポイントを導入し、両サービスを行き来しやすくすることで、このモデルが成立しうる前提になると考えています。

[写真]=Getty Images

―――この数年、放映権について過渡期にあり、ユーザーも放映権ビジネスについて広く知るようになりました。サービスもいろいろと展開された中で、金額設定やコンテンツ需要など、適切なラインが見えてき始めたところだと思います。

堤 ある一定の対価を払う健全な市場は作るべきだと、特にスポーツに関して思っています。でないと、スポーツ振興や選手の年俸などを含め、産業トータルとしての活性化にはつながりません。ただ、もちろん限界はありますし、バランスがあります。我々としても、今回のサッカーパックのプライスでまずはやってみて、期待値も込めて「いけるかな」という思いでラインを設計しています。

―――コンテンツ内容はどうお考えでしょうか? コアなサッカーファン向けのコンテンツを作る、ライト層に向けて入口になりやすいものを作る、その両軸のバランスの難しさはあります。

堤 まず、コアな方に満足いただけるサービスを展開することがベースだと思っています。マニアックな解説や切り口もどんどん充実させていきたいですね。コアな方がファンになっていただければ、長期間エンゲージいただける期待値が上がります。一番はファンを裏切ってはいけない。コアなファンにしっかりと届けられているという確信が持ててから、ライト層の方に間口を広げる取り組みをしていく順番だと思っています。最初にライト層を意識してしまうと、心理的にもコア層の方が少しずつ離れていくリスクがあります。

―――それができるのも7年契約であるからだと。

堤 おっしゃる通りです。初動も重要ですが、7年間という中でピークをどんどん伸ばしていく施策をやっていきたいです。まずはコアな方、サッカーが好きな方、パッションを持っているユーザーに向けて。僕自身もサッカーファンですし、気持ちがわかります。『U-NEXT』チームにもそういう人間が多いので、まずは「こういうものがあったらいいよね」、「今まではなかったけど、こういうものが欲しいよね」というものを実現し、満足していただけることがファーストステップです。

 ただ、広がりについても考えていかなければいけない部分はあります。きっかけがあればファンになるかもしれないゾーンにいる方も非常に多いと思います。現在、日本人所属選手が増えている中、ライト層の方にプレミアリーグをどう体験してもらうか。シンプルにタッチポイントを増やすことが重要だと思っています。我々はニュース映像の権利も持っているので、各放送局さんとも提携し、地上波、テレビでもプレミアリーグが一定量の露出をされていくサイクルを、何とか実現したいと思っています。

[写真]=Getty Images

 現状、放映権料の高騰と合わせて、ニュース映像権料の高騰や扱いづらさもあり、地上波での露出量が減っています。過去に何があったかは、我々もわからないところがありますが、少なくとも今回は我々が権利もハンドリングしますので、フレキシブルに、積極的に露出していきたいと思っています。

 あとは商業施設、ホテル等々でのタッチポイント作っていきますし、それが草の根的に全国へ広がり、積み上げれば、日常生活の中でプレミアリーグを知る機会が7年間で相当な量になり、大きな効果が出ると思っています。その点もじっくりではなく、スピーディーにやっていきたいですね。生活の中で映像が見えることで、ふとした会話で、熱量のある友達から、興味を持っているくらいの友達に熱量が伝わる可能性もありますし、話が広がっていく口コミ的なことも重要だと思っています。話題化させる、共通化させるような仕掛け作り、きっかけ作りには、全力で投資、拡大をしてきたいです。

―――一般生活の中で海外サッカーが気軽に見られるような状況が近年少なくなっていましたが、そこを再びしっかりやっていきましょうと。

堤 それが放映権料の高騰や他に理由があったかはわかりません。でも、例えば商業施設に対して、ショートターム契約での導入は事業リスクがあります。同意を得た1年後に突如契約終了では、その商業施設の信頼を失うことになります。B to Bで考えると、ショートタームだと難しい。今回の7年契約はそういったところも含めて重要です。日本でスポーツバーの文化がどこまで広がるかについてはチャレンジですが、ファンで盛り上がる場があることや、見知らぬ人と盛り上がれることは、シンプルに楽しい体験ですから、『USEN&U-NEXT GROUP』グループを挙げて、7年という時間を活用していきたいと考えています。

―――大規模イベントの実施や他の放映権獲得など、夢に描く構想があれば教えてください。

堤 正直、ステップバイステップだとは思っています。ただ、個人的には究極としてサッカーがすべて『U-NEXT』で見られるくらいのことを実現できたらという思いはあります。もちろんエコノミクスの問題や契約のタイミングの問題、競合サービスとの関係性もあるので、現実的なところはステップバイステップだと思っていますが、思いは持っています。

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By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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