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FC.AWJから変える ゴールドマン・サックス出身COOが描くJリーグの未来

2022.07.11

FC.AWJの三上COO

 関西サッカーリーグ1部所属「FC.AWJ」のCOO(最高執行責任者)を務める三上昴氏は、ゴールドマン・サックスで7年間勤務したのちに、Jリーグ史上最年少(当時31歳)でFC琉球の社長を経験。その後クラブ経営の外部コンサルタントを経て、今年3月に再びサッカークラブの現場に戻ってきた。

 縁もゆかりもない地方のクラブに身を置いた決意の中には、Jリーグへの並々ならぬ熱い想いがあった。

記事提供=FC.AWJ

■Jリーグへの強烈な憧れと現状との乖離

「2020年8月にFC琉球を退職し、Jリーグの最前線から離れました。1993年に誕生したJリーグのブームの最中でサッカー少年として育った自分にとって、Jリーグは憧れの世界です。それはいつになっても変わりません。それが1年間ある程度距離を取った付き合いをしている中で、冷静に“今”のJリーグを見つめるいい時間になりました。『Jリーグってこんなもんじゃない』。これが沸々と湧いてきた感情です。Jリーグに対しての強烈な憧れがある分、“今”のJリーグに満足できていないのが悔しく、自分が最前線でコミットしたいと思うようになりました」

「日本のサッカーを変える。Jリーグを憧れの舞台にする」

「これが僕のベースにあります。レベルの高い海外サッカーに対しての想い以上に、自分が夢にまで見てきた憧れのJリーグに対しての情熱が勝っていました。このためにもう一度自分の人生を懸けてみようと。正直、悩みました。選択をすることに怖気付いている自分もいました。サッカーの仕事がしたいという心の揺れや人生のキャリア設計すら飛び越えて進みたい、抑えられない衝動でした。これまでも人生に訪れた分岐点は全て、心が突き動かされる方に動いてきました。のどが乾いたら水を飲みたいという欲求のように、魂が求めているのを感じました。青臭い、そして泥臭い生き方ですが、それが今、淡路島にいる理由です」

淡路島が拠点の「FC.AWJ」。島の名産である玉葱のモニュメント前にて。

■勝ち負けを超えた価値

 6月中旬時点においてリーグ前期が終わり、FC.AWJは1分6敗の最下位に沈んでいる。もちろん勝負事であるからには、勝ち負けは大事。しかし、勝ち負けというのはルールの上で決めた評価軸であり、それがお客様の感動に繋がるかというと、必ずしもそうではないのではないか、と三上氏は疑問を投げかける。

「Jリーグを離れ、地域リーグの世界に来ただけなのに、恐ろしいほどJリーグの結果や順位を見なくなりました。同じサッカーの世界にいる自分ですらこの状態ですので、サッカーから離れている人にとっては尚更だと思います。去年の優勝チーム、一昨年の優勝チームを覚えている人がどれだけいるでしょうか。J2やJ3など下のカテゴリーだとさらにこの傾向は強くなります。J3はそもそも存在していることすら知らない人が大半だったりします。だからこそクラブに勝ち負けを越えた価値がないと、そもそも誰にも見てもらえないのではないかと思っています。しかし負けが込んでいるクラブは、選手から発言してくることはほとんどないですし、シーズン前は活発であったSNS等の発信も段々少なくなっていきます」

「クラブが降格した際に最近よく見かけるのは、クラブの社長が代表してサポーターに謝罪する光景です。勝ったら“ありがとうございました”、負けたら“すいませんでした”。ほとんどの選手たちは負けた時に沈黙に入ります。もちろんプロ選手として、試合に勝つことを目標にしてやってきている分、お客様を満足させることができなかったことは改善すべきですし、開き直ることでもありません。しかし、仮に『クラブが地域のシンボルになり、地域を元気づける』といった理念を掲げていた場合、勝てない時期が続いたとしても、全力を尽くした結果なのであれば、謝罪する必要はないのではないかと思っています。地域の人たちは、結果以上にクラブの取り組みをよく見ています。我々FC.AWJは、“勝利”を越えた“価値”を追求しています。島の人たちが一つの場所に集まり、同じ想いで応援する。ここで生まれる島を誇れる時間、空気、環境がこれまでのすべてを変えていくと僕たちは信じています」

■クラブとサポーターの熱狂的なコミュニティを作っていきたい

 そんなクラブとサポーターとの関係性について強い問題意識を持つ三上氏が、面白いツールに出会ったという。地域活性化およびサポーターとの関係性づくりの手段の一つとして、6月から新たに取り入れたのが、『FiNANCiE』(以下、フィナンシェ)というトークン発行型の新しい形のファンコミュニティサービスだ。フィナンシェのどういった仕組みに三上氏の考えがハマったのかを聞いてみた。

「圧倒的なスタジアムでの体感でクラブの価値は決まると思っています。Jリーグ全体にも言えることですが、僕はJクラブとその周りにあるサポーターのコミュニティが対等な関係になっていないのではないかと思っています。クラブの目指す世界、クラブの哲学とも言えると思います。これがはっきりしていないと、勝てなくなったときや上手くいかなくなったときに立ち返ることのできる場所がありません。それは選手やファン・サポーターも同じです。そうすると、クラブや選手とファン・サポーターのコミュニケーションは遮断され、沈黙が続きます。これが今のJクラブだと考えています。ここに向き合い、同じ夢を見る仲間として対等に接していくことが熱狂的なコミュニティを作る第一歩だと思っています」

「フィナンシェでは、ファン・サポーターがトークンと呼ばれるクラブへの応援の“証”の役割を果たすデジタルアイテムを保有することにより、クラブの運営やサッカーを通した地域活性化に参画するという権利を有します。今のJリーグは、クラブに対してファン・サポーターが踏み込める領域がほとんどないと感じています。クラブのグッズを買うか、試合の観戦に行くかのシンプルな関わり方です。フィナンシェでは、両者が深く対等な関係を築き相乗効果を生み出すことで、今までクラブ側が思いつかなかったグッズのアイデアや、試合における面白い企画を生み出すことも出来るかもしれません。未完成な部分が多い地域リーグほど、ファン・サポーターがクラブに入り込む意義が大きいと考えており、これから熱狂の渦のようなコミュニティ作りを目指したいと思っています」

フィナンシェでは、クラブとファン・サポーターの「熱狂の渦」のようなコミュニティを目指す。

■淡路島の歴史を塗り替える

 熱狂的なコミュニティをリアルな場で体現したのが、7月3日に開かれたFC.AWJ主催の『トモツクフェスティバル』。地域の人々と“共に創る”をテーマとし、三上氏が3カ月をかけて仕込んできた、サッカーを中心としたスポーツ・音楽・食・健康といった様々なジャンル融合の一大イベントである。淡路島出身の元サッカー日本代表である加地亮さんや波戸康広さん、人気サッカー系YoutuberのREGATEドリブル塾に、自ら声を掛けてゲストとして招き、会場を賑わせた。地域リーグ公式試合の平均観客数は約50~100人のところ、本イベントの中で行われたFC.AWJvsおこしやす京都の観客は1200人を超えた。実際に本人の手応えはどうだったのか。

「選手たちの表情からこの日にピッチに立てる喜びを感じることができました。試合に出ている選手からは『もっとプレーしたい』、出ていない選手からも『いつも以上にピッチに立ちたい』という気迫を感じることができました。個人的にはまだまだできると思っています。この日は確かに多くの方の記憶に残る一日にはなったと思いますが、熱狂という意味ではきっかけに過ぎません。我々が描いた共に創る“トモツク”という言葉の意味も多くの方に知っていただき、さらに大きな熱狂の渦を創っていきたいと考えています。ただ一言で言うならば、試合には敗れましたが、この日はやっている選手たちも裏方のスタッフたちも皆楽しそうでした。これが答えだと思います」

7月3日に開かれたFC.AWJ主催の「トモツクフェスティバル」の様子。多くの地域住民が集まった。

■今後の展望について

 三上氏が導くFC.AWJのストーリーはまだ始まったばかり。最後に今後の展望について聞いてみた。

「淡路島に熱狂の渦を。トモツクフェスティバルを通じて感じたことは多くの方の参加があって、はじめて熱狂が生まれるということです。もちろんサッカーを極めるための努力は欠かせませんが、ホームゲームは多くの方の参加があって成立します。このことを強く感じるきっかけになりました。今後も応援してくださる皆様との接点を大切にし、より良いコミュニケーションを創っていきます。我々のチャレンジは、こういう些細なところから日本のサッカー界を変えていくことだと思っています」

FC.AWJトークン販売ページ

By サッカーキング編集部

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