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「武器を持て」 玉田圭司&平山相太がストライカーキャンプで中学生に伝えたかったこと

2022.07.04

ストライカーキャンプで指導にあたった玉田(左)と平山 [写真]=元川悦子

 異例の猛暑が続いた7月1日から3日にかけて、静岡県御殿場市で開催されたJFAストライカーキャンプ。FWの人材難が叫ばれる中、JFAもこの活動には特に力を入れている。過去の参加者には清武弘嗣、大迫勇也もいたというが、もっと規格外の点取屋が出てきてほしいのは関係者全体の願いに他ならない。

 そういった中、近年は大黒将志(ガンバ大阪ユースコーチ)、前田遼一(ジュビロ磐田U-18監督)ら元日本代表FW陣がゲストコーチに招聘されている。今回は昨年引退したばかりで、目下、JFA公認A級コーチングライセンス取得中の玉田圭司(V・ファーレン長崎アンバサダー兼アカデミーロールモデルコーチ)と、2018年1月の引退後は大学生に指導に当たっている平山相太(筑波大学コーチ)の2人が登場。全国から集まった14歳の才能あるFW16人と3日間のトレーニングにのぞんだ。

「教えることも大事ですが、一緒に練習する中で学ばせることも大切。僕が中2だった頃も、指導者に言われることより、見て学ぶことの方が多かった。伸び伸び楽しくやった方が大きく成長できる。そう考えて、フランクに向き合いました」と玉田は言う。

 一方の平山は、「僕は引退して時間が経っているので、あまりデモンストレーションができない。だからこそ、言葉で使える部分が重要でした。ただ、『ああしろ、こうしろ』という言い方は絶対にしないよう、『こういう選択肢もあるよ』といったアドバイスを心がけるようにしました」と現役のコーチらしい心構えを口にした。

[写真]=元川悦子

 彼らが対峙した中学生は思春期真っ只中。恥ずかしがったり、モジモジしたりと意思疎通がスムーズにいかないケースも散見される。実際、初日に玉田が「こんにちは」と大きな声で挨拶しても、反応は薄めだったという。コロナ禍で「会話は控えめに」「距離を取れ」と学校教育の現場で口を酸っぱくして言われたのも影響しているのか、積極的なコミュニケーションに二の足を踏む傾向が強いようだ。

 それに加えて、中学生には彼らなりのこだわりもある。平山自身も「自分も田原中学時代は『ヘディングはカッコよくないな』と思って、あえて足元のドリブル突破に挑んでいました。まさに『中二病』ですね(笑)。でも国見高校に行った途端、『ヘディングしろ』と言われて、『やっぱりそうか』と思いました」と苦笑する。

 ただ、そうやってトライを続けていたことは必ずプラスに働く。平山が高校選手権やU-20W杯などで自らドリブルで持ち込んでシュートを決める場面は何度も見られた。プロキャリアを重ねていくうちに、最前線でターゲットマンに徹することが増えていったが、プレーの幅を広げる努力をしたことは、決してムダではなかったはずだ。

「日本代表やワールドカップで世界と真っ向勝負しようと思うなら、個人の打開力やスピードは必要。その能力を備えていた方が自分の武器や強みを発揮できる確率が高くなると思います」と平山は自らの経験を踏まえながら語っていた。

[写真]=元川悦子

 スキルやフィジカルなど個の力を伸ばしつつ、最終的に「絶対的な強み」「自分のシュートの形」を作っていくこと。高みを目指そうと思うなら、そこを突き詰めていくべきだと玉田は改めて強調した。

「『こうなったら絶対に決めるよ』というパターンを持つこと。それはすごく重要ですね。『自分の武器を持て』というのは、初日からずっと伝えていました。みんな『これは負けない』ものがあってここに来ていたと思うし、強みを生かしてほしい。もっと我を出していいんです」

「2日目、3日目と時間が経つにつれて、選手たちも前向きに変化していったのは嬉しかった。あとはそれを自チームに戻って続けられるか。『地道にやった方がいいよ』とは声をかけました」

 2006年ドイツW杯のブラジル戦で、左45度から強烈な左足シュートを突き刺した男の言葉は重い。いわゆる『玉田ゾーン』からのフィニッシュは彼の代名詞だった。今回のキャンプ中もこの歴史的シーンの動画が流され、選手たちは真剣なまなざしで見つめていた様子。直近の6月6日にブラジル戦が行われたこともあり、王国相手に大舞台で点を取った先人の言葉は深く心に響いたはずだ。

 平山も玉田の意見に賛同していた。

「国見の頃を思い出してみると、ぶっ飛んでいるやつが多かったです(笑)。何を考えているか分からないのがFWらしさ。相手のGKやDFにそう思わせられれば優位になる。FWはそういう感覚的な部分が大きいし、それは指導者には教えられない。すごく難しいけど、人と違う部分を体現できるようになってほしい。個性や武器を磨いていってもらいたいと思います」

 岡田武史監督時代の2010年の短期間、日本代表で共闘しただけという割に、2人の息はピッタリと合っていた。今回の名コンビからのアドバイスを16人の面々がどう受け止め、今後の生かしていくのか。5~10年後に、この中から日の丸を背負って最前線に君臨する逸材が出現することを楽しみに待ちたい。

取材・文=元川悦子

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