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試合で投げたのは「1、2回」…日大藤沢DF片岡大慈、“努力の賜物”ロングスローが逆転勝利に導く

2023.01.01

急遽の出場からチームを勝利に導いた片岡大慈 [写真]=兼子愼一郎

 12,437名が詰め掛けた12月31日の等々力陸上競技場第2試合は、少々不可思議な試合展開を見せることとなった。前半に米子北(鳥取)がショートCKから先制点を奪い、後半に日大藤沢(神奈川)がロングスローから2得点を奪って逆転勝利となった。

「高校サッカーではよくある試合展開だろう」と思われるかもしれないが、スタンドで観ながら「え?」と思ったのは私だけではなかったはずだ。

 というのも、今年の日大藤沢はロングスローのチームではないからだ。「チームとしてロングスローの練習はしていない」というのは指揮官と選手は口を揃える通りである。事情が違ってきたのは、アクシデントから「投げ手」がピッチに出てきたからだ。

 1点ビハインドの状況で、2年生DF片岡大慈が投入されたのは55分のこと。足をつってしまったDFアッパ勇輝(3年)に代わっての出場であって、逆転を狙っての交代というわけではなかった。

 そもそも片岡は県予選で出場ゼロ。全国高校サッカー選手権大会の初戦もベンチ外だった。ただ、「最後まで全員をしっかり観た上でスタメンもベンチも決める。(登録の)30人全員が戦力だと思っているし、口先だけでそれを言っているつもりはない」と語る佐藤輝勝監督は、試合前に「ずっと練習から本当に良い準備をしてくれていた」片岡のベンチ入りを決断していた。

 その片岡のロングスローから63分にMF野澤勇飛(3年)の同点ゴールが生まれ、70分には相手オウンゴールを誘発する形での逆転ゴールまで生まれてしまった。「前はあんなに飛ばしてなかったはず」とFW森重陽介(3年)も驚愕した飛距離の出るスローは米子北側のデータにもなかったのだろう。結果的にこれが勝敗を決する形となった。

 攻撃のロングスロー練習はしていなかったものの、1回戦の西原(沖縄)、2回戦の米子北はともにロングスローに特長を持つチームである。このため、「ロングスローに対する守り方」の練習は行われていた。ここで投げ手になっていたのが片岡である。

 出番がない中で相手役のロングスロワーとして駆り出されることはネガティブに捉えることもできそうだが、片岡の考えは違った。

「アピールのチャンスが来たと思っていた」

 元よりロングスローを身に付けたのは、日大藤沢の厳しい競争を勝ち抜くために、サイドバックとしての武器を増やしたいと思っていたから。ちょうど1年前に「ロングスローのできる選手に話を聞かせてもらって」練習を開始していた。

「コーチから『やれ』とか言われたことはないんです。そもそも(日大藤沢は)ロングスローをやってないんで。でも、何とか試合に出たかったので」

 ロングスローは力任せに投げればいいと思われがちだが、実際は違う。もしパワーだけが必要なら、世のフィジカル自慢は全員がロングスローを飛ばせるはずだが、実際はそうではない。

 フォームも大事だし、リリースポイントを工夫したり、ボールの回転も重要だ。片岡も「最初は無回転になっちゃって全然飛ばなかった」と言い、綺麗なバックスピンのかかったボールを飛ばせるようになったのは最近のことだった。また、実際に試合で投げたのは「これまでで1回か2回」とも言う。

 その地道で自主的な努力が全国舞台でチームを救うのだから分からない。ただ、単なる偶然というわけでもないだろう。ベンチ外になろうと腐らずトレーニングで意欲を見せていた片岡を拾い上げた指揮官の慧眼であり、それぞれが自主性をもって努力する雰囲気を作ってきた歴代の日大藤沢サッカー部の成果と言うべきだろう。

取材・文=川端暁彦

By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

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