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選手権初出場・初勝利飾った日体大柏 強化につながる柏レイソルとの『Win-Win』の関係

2022.12.30

選手権初勝利を飾り、観客席へ挨拶する日体大柏の選手たち [写真]=野口岳彦

 記念すべき「選手権初勝利」。日本体育大学柏(千葉)にとって、芦屋学園(兵庫)を3-1で下した2022年12月29日は歴史的な一日となった。

 屈指の激戦区である千葉県を勝ち抜いて初出場となった日体大柏の前評判は元より高い。「本当にレベルの高い選手が揃っている」と評したのは2回戦で対戦する丸岡(福井)の小阪康弘監督。柏レイソル入りの決まっているFWオウイエ・ウイリアム(3年)だけでなく、GKから各ポジションに技術的なクオリティの高い選手が揃い、また先発の平均身長が180cm近く、高さでもアドバンテージを取れるチームである。

 質の高い選手が集まるようになった背景は8年前からJリーグの柏と提携を結んだことだ。柏U-18の選手を受け入れて活動の便宜を図りつつ、同時に柏からコーチの派遣を受けるという形からまずスタート。当初は1名のコーチが派遣されるのみだったが、年々枠を拡充し、ついに「監督」も任せることに。前任の酒井直樹監督の指揮下で2019年に夏の高校総体出場を果たし、着実に強化を進めた。

 その過程ではグラウンドの整備なども進み、また柏が地域クラブと提携を進めていく中で、柏U-18への昇格を果たせなかった提携クラブの選手たちも日体大柏に加入することに。芦屋学園戦の先制点を決めたFW古谷柊介(3年)も、提携関係にある柏レイソルA.A.TOR’82の出身。同チームは日体大柏のグラウンドでトレーニングもこなしており、高校進学も自然な選択だったと言う。

 また柏U-18と日体大柏は合同セレクションも実施している。「レイソルに入りたい」と集まってきたものの、U-18に合格するラインには達しなかった選手たちに、もう一つの選択肢を提示できるようにもなっている。

 大会前にはJリーグ仕様の天然芝グラウンドでもトレーニングを実施。「人工芝と天然芝では、パスだったりのボールが全然違う。天然芝に慣れておけたのは大きなメリットだった」(FW吉田眞翔/3年)という恩恵も受けた。

 柏側にとってのメリットも大きい。U-18の選手たちにとって良い環境を提供できるだけでなく、「コーチ育成」でも新たな場が作られたからだ。前任の酒井監督は後にU-18監督になるが、「高校サッカーでの指導を通じて学んだことは本当に生きている」と語る。現任の根引謙介監督も、前任の酒井監督もクラブ育ちで選手として高校サッカーを知らないのだが、だからこそ余計に強い刺激を受けたようだ。

 現在は柏のアカデミーで長く指導してきた根引監督の下、Jリーグで選手として豊富な実績を持つ菅沼実コーチも重要な役割を担う。シビアな勝負の感覚と多様な選手に対応する能力が求められる高校サッカーの現場で、指導者としての蓄積を作っている形だ。

 提携の効果は心理的な部分にも現れる。選手たちからは、柏U-18の選手たちと机を並べて学び、触発される効果の大きさについてのコメントも多く聞かれた。選手権のスタンドに柏U-18の選手たちも駆け付け、日体大柏のユニフォームをまとって応援する姿も観られたが、「本当に刺激になっている」(古谷)クラスメートの存在は頼もしかったようだ。

 高校サッカーとJクラブの提携は柏に限った話ではないが、実際はうまくいっているケースばかりではない。ロジックも目的意識も異なる組織と組織が「Win-Win」の関係を維持するのは難しいからだ。それゆえに選手権での勝利という分かりやすい成果が出た意義は小さくなさそうだ。

 地元ということもあり、初戦を前に「プレッシャーはすごかった」と根引監督は笑って言うが、逆に言えば、1勝したことで振り払えたものも大きかったはず。高校サッカーの新しい形を提示する日体大柏が、歴史的な1勝を柏の葉に刻んだ。

取材・文=川端暁彦

By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

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