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“呪い”を打ち消して10個目の星を獲りに 帝京、全国制覇へあと一つ

2022.07.30

昌平に勝利して決勝進出を決めた帝京 [写真]=川端暁彦

 カナリア色のユニフォームの胸に輝く星は合計9つ。夏に3度、冬に6度の全国制覇を勝ち取った証である。

 ただ、その星が最後に増えたのは今から20年も前のこと。大澤朋也、横山知伸、関口訓充といった後にJリーグで活躍する選手たちを擁したチームが夏の全国高校総体で、当時最強の国見高校を破って以来、帝京は全国タイトルから遠のき、やがて全国大会そのものからも遠のくようになっていた。

 帝京高校が常勝集団だった時代の当事者であり、松波正信らとともに選手権制覇も経験している日比威監督は、そんな帝京の実績を「呪い」という言葉で形容する。

「いまの子どもたちにとって、過去のことなんてどうでもいい」と日比監督が言うように、そもそも最後に日本一になったときに生まれてもいない選手たちは、「帝京」の名前にそこまで強い思いはないかもしれない。ただ、周りの見え方は違うし、言われ方も違う。そしてそれは、選手たちにも伝播するものではある。

 全国で勝った経験のない選手たちが、東京都を突破するのは当たり前、全国で勝って当たり前というプレッシャーに晒される。もちろん、監督を筆頭とするスタッフ陣も、その重みから自由になるのは難しい。逆説的になるが、その“呪い”を解くには勝つしかない。その意味で言えば、昨夏に高校総体への返り咲きを果たして全国大会のピッチを踏んだことが一つの突破口だったのだろう。

 そして今大会、一勝ごとに“呪い”を打ち消すことにも成功し、迎えた準決勝では優勝候補の昌平高校に1-0の完封勝ち。強力な攻撃陣を擁する相手にファイティングポーズを崩さずに殴りかかり、見事に勝ち切ってみせた。

FC東京内定の昌平MF荒井悠汰らが繰り出す猛攻を阻止し、1-0で逃げ切り [写真]=川端暁彦

「過去のことを引きずっているのは卒業生であったり、学校関係者であったり、私たちスタッフもそうだったかもしれない。でも、その“呪い”はもう解けたんだと思うので、ここからが勝負だと思う」(日比監督)

 今大会は2回戦で青森山田高校を激闘の末に下して一気に勢いにも乗った。選手たちのプレーには自信も漲り、指揮官も必死に勝ち残るための戦いを続ける中で、選手たちが成長している手応えがあると言う。

「この場所に立って競争できることに幸せを感じています。選手たちが全国大会を経験する中で一番成長できる場がこのインターハイ。ここで課題を洗いざらい出しながら、次に繋げていきたい」(日比監督)

 明朗快活に記者へ応対していた試合後の日比監督だが、この大会の登録メンバーから漏れた選手たちに話が及ぶと、思わず涙をこぼした。「連れて行きたい」と思えるような頑張りを見せていた選手がそれだけ多くいたということなのだろう。

 帝京はU-19日本代表候補に選ばれたDF入江羚介が負傷離脱しており、注目MF押川優希も大会中に負傷。だが、新たに出場機会を得た選手たちが大きく成長して穴を埋めて余りある働きを見せている。全盛期の帝京も控えている選手たちの質が高く、競争意識に富んでいるチームだったが、その様子から図らずも伝統の継承を感じさせられた。

 もちろん、まだ栄冠を手にしたわけではなく、名門復活などと言うのは来も早いのかもしれない。最後に特別な1試合が残っているのだから、当然だ。

 30日の決勝戦。迎える相手は今大会の優勝候補筆頭であり、その前評判に違わぬプレーを見せてきた前橋育英高校である。準決勝の昌平戦で決勝点を奪い取ったFW山下凜に、群馬のタイガー軍団の印象を問うと、「強いっす」と苦笑いとともに返してくれたが、これは偽らざる実感なのだろう。

[写真]=川端暁彦

 一方、主将のFW伊藤聡太は決勝に向けて、こう語った。

「あと一歩で優勝なので、ここで勝たないと意味がないと思っている。決勝に向けて全力で、どん欲に取りに行くだけです。前橋育英という去年も負けてて、最高の強い相手だと思うんで。ここに勝ってこそ胸を張って『優勝したぞ』と言って東京の仲間たちに会いに行ける。どうやっても勝ちたいです」

“呪い”を乗り越えたその先へ。新時代のカナリア軍団が、10個目の星を獲りに行く。

取材・文=川端暁彦

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