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青森山田主将・松木玖生、優勝に大粒の涙 誰よりも勝利を求めた男がついに手にした“日本一”

2021.08.22

決勝の試合終了後、大粒の涙を流した松木玖生 [写真]=川端暁彦

 まさに号泣だった。

 青森山田高校のMF松木玖生は、全国高等学校体育大会決勝の終わりを告げるホイッスルが耳に届くと、涙腺を決壊させていた。仲間と抱き合い、監督・スタッフと抱き合いながら、感謝の言葉を口にし続けた。

 元来、勝ったら素直に喜ぶというタイプではない。試合結果以外の部分にも執着し、ボランチながらゴールへのこだわりも人一倍強い。1回戦の長崎総合科学大学附属高校戦後の取材では、3-0で勝利しているにもかかわらず、チャンスでシュートを外した自分自身への怒りを隠さず、「納得していない」と断言。またチームの出来にも不満を隠さなかった。

 そんな松木が、勝ち切ったという事実に対して泣いている。「うれし泣きでした」と本人が照れ笑いしたとおり、あふれすぎた喜びゆえの感情表現だったが、同時に背負ってきた重荷の大きさも感じさせる一コマだった。

 今大会、青森山田の強さは頭一つ抜けていた。試合を観ていた強豪校の監督からも「勝てるイメージが湧いてこない」という言葉が漏れてくるほど。その中心にいたのは、間違いなく松木だった。ボランチの位置からボールを狩り取り、前へと運び出し、外へと展開、またはフィニッシュに持ち込んでいく。攻守の切り替えの良さは静岡学園高校とぶつかった準決勝でも際立っていたが、ここに2ゴールも加える圧巻のプレーぶりだった。

松木玖生

主将としてチームをけん引する松木 [写真]=川端暁彦

 普段のリーグ戦でも今大会でも、サボっているチームメイトがいれば、すかさず厳しい言葉を投げかけるタイプのキャプテンである。大会の合間には、守備を怠っていたFWに「活を入れた」(松木)一幕もあったという。そして要求するだけのことを自分もサボらずやり切るからこそ説得力もあり、タイ記録ながら得点王になった攻撃面での貢献はもちろん大きかったが、同時に守備の献身性とリーダーシップも際立っていた。

 何より誰より、この大会で勝ちたいという気持ちを最も強く表現し続けていた選手だったのも間違いない。

 高校1年次にリーグ戦での日本一を経験しているが、カップ戦の日本一とはどうも縁がなかった。全国中学校サッカー大会、いわゆる「全中」でも松木は青森山田中学校の一員として決勝まで勝ち進んでいる。しかし、下馬評では優位と見られながらも、ここで苦杯。「日本一」には手が届かなかった。2019年度、2020年度の高校サッカー選手権でも、決勝で敗れており、松木と青森山田のこの世代にとって、全国大会の決勝はある種の鬼門になりつつあった。

 決勝の内容について黒田剛監督は「硬かった」と振り返ったが、この「決勝で勝てない」不安感が伝播した面は多少なりともあったのだろう。対する米子北高校も松木が「本当に徹底してきた」と振り返ったとおり、ボール保持の色気は完全に捨てて、カウンター一本を狙う構えで、青森山田に“持たせて”守る狙いを貫徹。開始早々のPKから失点したことで、何とも難しい試合になっていた。

 ただそれでも、松木は「負けると思っていなかった」と繰り返す。そして、その思いのとおりに結果のほうが付いてきたと振り返る。

青森山田が夏の王者に [写真]=川端暁彦

「言葉では表せない感情です。3年間取り組んできても(決勝では)ダメでダメで、それがやっと実った」(松木)

 最後に記者から夏のタイトル得ての気持ちをあらためて問われた松木は、ちょっとだけ考えた上で、一言もらした。

「……うれしい(笑)」

 満面の笑みを浮かべた青森の若大将は、最後にそれだけ言って仲間たちのところへ戻っていった。

取材・文=川端暁彦

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