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選手権で歴史的ハットも喜びは控えめ? 開幕戦の主役を導いたコーチの言葉とは

2019.12.31

令和最初の選手権開幕戦で主役となった山下貴之 [写真]=山口剛生

 都予選で沈黙した男が大舞台で輝いた。

 開幕戦では史上最多となる8ゴールを前原から奪い、2回戦へ駒を進めた國學院久我山。とりわけ、FW陣は揃い踏みで、3トップの中央に入る山本航生が3ゴール、右ウイングの戸坂隼人も66分にチームの6点目を奪取した。そして、このゴールラッシュを語る上で欠かせないのが、左ウイングの山下貴之(3年)だ。

 最初の見せ場は6分。アンカーの福井寿俊(3年)がゴール前にラストパスを入れると、鮮やかなトラップから右足でネットを揺らした。電光石火の先制点。この一撃で山下の緊張が解ける。

「1点が入ったおかげで気が楽になり、いつもの力が出せました」

11分にも決定機を迎えると、山本献(3年)の右クロスに反応。ファーサイドに流れたボールを見逃さず、左足で冷静に決めた。

 完全に勢いに乗った山下は後半も止まらない。3-0で迎えた52分に田中琢人(2年)のパスを左サイドで受ける。完璧なトラップでボールを前に運ぶと、ペナルティエリア手前から左足を一閃。令和初となる“選手権ハットトリック”を決め、歴史に名を刻んだ。ただ、本人の反応はちょっと意外で喜びは控え目。試合後にその理由を尋ねると、出てきた言葉はチームを想う言葉だった。

「みんなが繋いでくれて、チームの勝利に近づけたほうが嬉しかったんです」

 献身的に動きながら、チームのためにゴールを奪う。そのスタイルを貫き、2回戦進出の立役者となった。本人は控え目に話していたが、素晴らしいパフォーマンスだったのは確かだ。

 開幕戦こそ主役となった山下だが、2年生の時はメンタルに波がある選手だった。うまくいかないと、ふてくされる時もしばしば。慶應義塾大の4年生で自身も2015年に選手権準優勝を経験している山本研コーチはこう語る。

「去年は苦しそうにしていた。力があるのは間違いないけど、うまくいかない時に腐ってしまうことがあった。なので、腐っても仕方ないし、やるべきことは変わらない。そこで不貞腐れても何も起きないし、信じてやるしかないと話してきました」

 そうした問い掛けに山下も応えると、レギュラーとなった3年次は春から好調を維持。今秋の選手権予選では4試合で1ゴールに終わり、山本や戸坂の陰に隠れる存在だったが、気持ちを切らさずに調整を続けてきた。本人も当時を振り返り、焦りはなかったという。
 
「交代する時間が徐々に早くなり、悔しい時期もあった。なので、全国大会出場を決めてから、もう1回自分がすべきことと自分のストロングポイントを見直して、全国では得点を取ってやろうと思っていました」

 居残り練習では得意の左足に磨きをかけ、常に最善の準備を尽くしてきた。その山下の取り組みに山本コーチも成長を感じているという。

「去年も苦しんでいたけど、彼はサッカーをいつも楽しそうにやっている。やりたいプレーを出そうとしているし、気持ちの上がり下がりはまだあるけど、彼自身は試合にも出ているので気持ちを下げずにプレーをしていました」

 チームも自身も、選手権の初戦を最高の形で終われたのは間違いない。「3トップで7得点。やっぱりFWの選手が点を取ることはチームにとってもすごく大事なことだと思う。みんなで得点を取れたことが嬉しい」とは山下の言葉。開幕戦で強烈なインパクトを残した男は2回戦でも、チームのために戦いながらゴールを目指す。

取材・文=松尾祐希

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