U-18日本代表に選出された染野唯月 [写真]=兼子愼一郎
『染野唯月の大会』だったと言えるだろう。神村学園(鹿児島)、東福岡(福岡)、前橋育英(群馬)、帝京長岡(新潟)という難敵を次々と撃破し、2011年度以来2度目の選手権ベスト4に輝いた尚志(福島)。中でも2年生エースストライカー・染野唯月の存在感はずば抜けていた。
準決勝敗退も青森山田を最後まで苦しめた3得点
3回戦の前橋育英戦で今大会初ゴールを挙げたのを皮切りに、準々決勝の帝京長岡戦では値千金の決勝弾をマーク。準決勝の青森山田戦では圧巻のハットトリックを決めてみせた。高円宮杯プレミアリーグイーストで2番目に少ない失点数を誇り、今大会でも3試合で1失点だった青森山田を完全に翻弄した3得点は、まさに衝撃的な活躍だった。だが、チームはPK戦の末に敗退。“殊勲のエース”にはなることはできなかった。
「負けてしまったことが悔しい。相手がどんどん強くなることで、点を獲ることが難しくなるからこそ、そこで自分が点を決めていきたいとずっと思っていた。勝利に結びつくゴールを挙げられなかった」と青森山田戦後、唇を噛んだが、彼個人のプレー決して下を向くような内容ではなかった。対戦相手も染野の存在を脅威と感じ、青森山田の攻守の要であるMF天笠泰輝は「染野を捕まえきれなかった。食いつけば収められたり、周りに叩かれて、スペースを与えたら仕掛けられてしまう。ポストプレーだけでなく、本当に色々なことが出来る選手だと思った」と語った。
改めてハットトリックをおさらいしたい。26分、フリーキックを獲得すると、沼田皇海のパスにニアサイドで合わせて先制点をマーク。 2点目のゴールは68分、右サイドを破ったMF加瀬直輝の折り返しを受けると、相手DF3人とGKが食いついていることを確認して深く中央へ切り返した。「これまで切り返しを止められてしまうのが多かったので、切り返した直後すぐに何が出来るかが大事だと思っていた」(染野)と、切り返しから素早く左足を振り抜きゴールへ流し込んだ。
78分には一度は逆転に成功する3点目を決める。敵陣の浅い位置でボールを受けて、MF伊藤綾汰に繋ぐと、ギアを一気に上げてゴール前に猛ダッシュ。伊藤から加瀬に繋ぐと、加瀬のスルーパスに抜け出して、ダイレクトシュートを沈めた。
「『青森山田は裏が空くので、裏を狙え』というアドバイスをもらっていたので、パスを出した瞬間に、ラストパスを絶対に出してくれると信じてゴール前に走りました」と、CB三國ケネディエブスと右SB橋本峻弥の間にできたスペースを見逃さず、フリーランニングを仕掛けたことで生まれたファインゴールだった。
力を磨き2大会連続で『大会の顔』に
染野が今大会挙げたゴール数は5。その全てが彼の『凄み』を存分に見せつけたものだった。日本代表の大迫勇也に憧れる彼は、大会中にも大迫のプレーをチェックし、しっかりと『エースの仕事』たるものを目に焼き付けていた。
「大迫選手は(アジアカップ初戦の)トルクメニスタン戦でもしっかりと点を獲って、苦しいチームを救っている。それにどんな体格差があっても、ボールをしっかりと収める力が改めて凄いと思った。自分の課題はそこなので、参考にして、それができる選手になりたいです」
来年度は高校最後の1年となる。大迫勇也でさえ最後の選手権を『大迫勇也の大会』にしたが、高校2年生の選手権には出場できず、染野のようなインパクトは残せなかった。尊敬する偉大なストライカーも果たせなかった2大会連続で『大会の顔』となるために。そして、その先にある上のステージで躍動するために、「妥協せず、細かいところにこだわって伸ばしていけば、またここ(埼玉スタジアム)に戻って来られると思う。でも、ただ戻ってくるだけではなく、今日は前線でボールを収める時間が少なかったので、どんな時間帯でも自分が尚志の攻撃の起点になれるように、全てにおいて貢献できる選手になりたい。期待を裏切らないようにしたい」と話し、大会を後にした。
今後、Jクラブによる争奪戦が激化することが予想される。周囲の喧噪も大きくなるだろう。それでも染野は、一回りも二回りも大きくなって埼玉スタジアムのピッチに立つイメージを持って、己の力を磨き続ける。
取材・文=安藤隆人