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大会直前で急きょ主将に…“誇り”と”気遣い”示し、全国初勝利を引き寄せた東山GK荒木光汰

PK戦後、尚志GK森本に声をかける東山GK荒木 [写真]=安藤隆人

 東山GK荒木光汰の左腕に巻かれたキャプテンマークは、本来ならばベンチにいるMF倉貫直人が付けるものだった。しかし、インターハイ1週間前の練習試合で負傷退場し、今大会は準々決勝以降まで進まないと出場できない状況となってしまった。

 攻守の要であり、精神的支柱でもあった倉貫の離脱はチームにとって大きな激震だった。だが、幸いなことに勝ち上がれば出場することも可能。だからこそ、負けるわけにはいかない。キャプテンマークを引き継いだ荒木は、その気持ちをプレーで表現した。

 一回戦はシードだった東山の二回戦での相手は強豪・尚志(福島)。U-17日本代表FW染野唯月ら強力攻撃陣を擁する相手とあって、「キャプテンとして自分のことだけではなく、全体の流れを汲み取らないといけません。ミスした選手のケアをしたり、周りを盛り立てたり。いろいろ考えながらプレーしました」と、荒木はより集中力を研ぎ澄ませていた。

 この日は強烈な直射日光と、台風接近による強烈な風に見舞われるという、かなり劣悪なコンディションだった。それだけにショートパスなどでの崩しよりも、ロングキックが増えてしまう展開になるのも致し方なかった。試合はボールが互いのエリアを行き来し、双方が決定機を作り出せないという、落ち着かない展開に。頻繁にピンチがあるわけではない分、いつ一撃が来るかわからないというGKにとってリズムを作りづらい、難しい展開でもあった。

[写真]=安藤隆人

 その中でも荒木は、「尚志の前線は競り合いが強いし、風もあったので、いつDFラインの裏にボールがこぼれて来るかわからない。常に意識を張っておかないといけませんでした。でも、裏へのボールの処理は自信があるし、飛び出しにはかなり気を配っていました」と、常に周りの状況を意識しながら、集中を切らさなかった。

 だからこそ、尚志に流れが傾いた後半はチームを救うプレーを見せた。60分過ぎ、途中出場のMF坂下健将に強烈なミドルシュートを浴びるが、冷静に軌道を見極めて、ジャンプからのトスティング。相手の『一撃』を綺麗に枠の外にはじき出した。さらに裏へのボールをペナルティーエリア内ギリギリまで飛び出して、2度スライディングキャッチをするなど、相手に付け入る隙を与えなかった。

「迷わずに思い切ってやって行こうという意識があった。少しでも自分が一歩前に行くことを意識して、自分の足が無意識に出たらそれを止めずに思い切り行くようにしています。暑い中での連戦で、明日も試合があるので、少しでも味方の負担を減らしたいと思っていました。ポジション的に僕がピッチ上で一番運動量が少ないので、その中でやれることをやろうと思いました」

 荒木の思い切りの良さと気配りで、堅守を築いたチームは70分間無失点を貫いたものの、得点が奪えず、勝負はPK戦に。

 GKとして最大の見せ場がやってきたが、PK戦では1本も止めることはできなかった。しかし、今度は『荒木を助ける番』と言わんばかりに仲間がPKを全員成功。尚志は3人目のキックがバーに弾かれ、勝負あり。東山が3回戦進出を果たした。

[写真]=安藤隆人

「倉貫から『俺の分まで頑張ってくれ』と言われて、意識が変わりました。左腕にいつもと違う感覚があるので、試合中にふと見てもう一回気を引き締めていました。みんなで歴史を塗り替えることができて嬉しいです」

 仲間を想う気持ちが結果に結びついた。しかも、この勝利は東山にとって単なる1勝ではない。東山高校サッカー部にとって『全国大会初勝利』だったのだ。選手権2回、インターハイは今回で2度目。プリンスリーグ関西に4度参戦し、2014年は高円宮杯プレミアリーグウエストを戦うなど、リーグ戦では全国レベルの結果を出しているが、トーナメントでの勝利がなかった。歴史的瞬間をチーム全体で掴みとった。大きな価値のある1勝だ。

 荒木は歴史を塗り替えた直後、仲間だけでなく、相手を思う気持ちを見せた。勝利が決まった瞬間、歓喜のダッシュをする仲間を尻目に、真っ先にセーブできずに倒れ込んだ尚志GK森本涼太のもとへ駆け寄った。抱き起こすと、肩を抱えて一緒に列へ向かって歩いた。泣きじゃくる森本と時折言葉を交わしながら、ゆっくりと2人で歩き、健闘を称え合った。

[写真]=安藤隆人

「(PK戦の攻守)入れ替わりのときも、『今の危なかった!』など、ちょっと言葉を交わしていて、勝った瞬間は嬉しかったけど、相手に何度も止められそうになっていたし、同じGKとして『もう少し手を出していれば…』という気持ちは痛いほどわかるので、声を掛けに行きました。(森本とは)知り合いではないです。でも、同じGKとして想いが伝わったんです」

 誇り高きゲームキャプテンは、誇り高き人間でもあった。彼のすべての行動は、チームの歴史的勝利をより価値あるものにした。

取材・文=安藤隆人

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