2017.01.15

【コラム】青森山田が示したストライカーの重要性…圧倒的な“決定力”の中で見えた意識改革とは

高い決定力を誇った青森山田の高橋(左)と鳴海(右) [写真]=瀬藤尚美
2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

 95回目の高校サッカー選手権は青森山田高校の優勝で幕を閉じた。その勝利が一人の選手によってもたらされたなんてことはもちろんないのだが、一つの重要な「勝因」を挙げることは可能だ。すなわち、「決定力」である。

 大会を通じて青森山田が放ったシュートは合計35本。そのうち20本、実に57%超のシュートがゴールネットを揺らしている。日本人の常識からすると、これは異常な数字と言うほかない。

 日本サッカーにおける一般常識をざっくり言うと、「シュートは外れて当然」のものだから、「より多く打ったほうが勝つ確率が高くなる」というものだと思う。このために、たくさんシュートチャンスを作るスタイルが「良いサッカー」だし、同時に「日本人らしい」ものでもある。そういうイメージは一般のファンのみならず、現場の指導者からも感じられる。Jリーグのサポーターが「シュート打て!」とコールするのも、とりあえず打たないよりも打っておいたほうが良いという風潮をよく表したものだ。

 これは「少ないチャンスを決め切るストライカーなんてどうせいないのだから」という“あきらめ”の裏返しでもあるように思う。今年の高校3年生がU-15・16年代だったころの年代別日本代表は“ゼロトップ”のシステムを採用していたのも象徴的だ。日本人らしいサッカーを希求する中で、「じゃあ、ストライカーを置かないで中盤を増やしてみよう」というチャレンジは興味深いものだったが、同時に「そこまで日本でストライカーは育たないのか」という溜め息も誘うものだった。

 その意味で今季の青森山田が持っていた発想やチーム作りは「日本人らしくない」ものであり、彼らは「青森山田らしさ」という言葉を好んで使っていた。

 高校サッカー選手権という舞台において、彼らはほとんどのチームに対して相対的に強者だ。個々の能力で彼らを上回るチームはないと言っていいし、同格の戦力を11人並べられるチームも数えるほど。そういう関係での試合だけをこなしていれば、長くボールを支配し、たくさんチャンスを作り、多くのシュートを打って、いつか決まるのを待つという日本的なアプローチを続けていたかもしれない。ただ、そうはならなかった。

 大きかったのは高円宮杯プレミアリーグの存在だ。2011年に創設されたこのリーグ戦で青森山田は4月の段階から「格上」との対戦を繰り返す環境に置かれることとなった。「個々の能力では相手のほうが上というのが当たり前のリーグ」(黒田剛監督)での戦いは、長くボールを支配して多くのチャンスを作り、シュート数で上回ることが当然だった従来のプリンスリーグ東北とは明らかに違うステージだ。東北をリーグ創設から8連覇していたサッカーが通用しないことを思い知らされる中、青森山田は少しずつサッカーに対する考え方自体を変えていった。

「このリーグでは、どうせチャンスは多くない。その中でどう勝つかを考えないといけない」(黒田監督)

 スケール感こそ違えど、これは日本代表がワールドカップでどう勝つかという思索に似ていたかもしれない。東北(アジア)ではボールを支配し、チャンスを多く作り、いつか決まるのを待つスタイルでも相応に勝てる。チーム力に大きな差があるからだ。しかしプレミアリーグ(世界大会)では、こうはいかない。「“この1本”を決めるしか、勝つ方法はない」(黒田監督)。

 ボコボコに殴られるだけでは勝負にならないのでボールを支配する力も高めるが、その一方で青森山田がこだわったのがシュートを決め切る力だった。「ありがちなのが、ミドルシュートも含めた、確率の低いシュートを“乱れ打ち”のようにしてしまっているうちに、1本のカウンターなどでやられること」と語る黒田監督は「シュートを100本打って何本入るかじゃない。1本中の1本。そういうところから変えていきたかった」と選手に意識改革を迫りつつ、1本を決めるチームに仕上げた。

 堅守速攻スタイルでそれを貫いたチームは過去にもあったが、青森山田は十分にボールを持てるチームでありながら、ワンチャンスを決め切るチームに仕上がっている点で極めて異質だった。決勝の相手となった前橋育英は日本人らしいサッカーを追求するチームで、決勝でもシュート数では青森山田を上回っているが、決定力の差は歴然としていた。

 この青森山田で特に“ストライカー”の意識を持っていたのがFW鳴海彰人とMF高橋壱晟だった。「とりあえず打っておけ」という闇雲なシュートトライではなく、“決め切る”シュートを徹底した二人は全20得点の過半数にあたる11得点を叩き出し、鳴海は5試合6得点で得点王となり、高橋は全試合得点で5得点を記録することとなった。

 負けたあとで「チャンスの数では勝っていた」、「シュート数では上回っていた」という定番の負け惜しみがあるが、あれは「チャンスの数とゴールの数は比例するものだから、相手よりゴール数が少なかったのは運が悪かっただけ」という解釈だろう。われわれ日本人は「技術」という言葉を使うとき、「ゴールを決める技術」をその外側に置いたりもする。「技術では勝っていた」。そんな言葉は、今日も育成年代の現場で平然と使われているのだが、果たしてこのままでいいのかどうか。

 日本人らしからぬ「決定力のサッカー」で日本のユース年代を制した青森山田。ただ、彼らは当然ながら普通の日本人。「どうせ日本からストライカーは育たない」という、もはや常識に近い“あきらめ”に対し、したたかなカウンターパンチを浴びせたのではないだろうか。

文=川端暁彦

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