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『監督たちの流儀』『監督の異常な愛情』刊行記念 トークイベント 西部謙司×ひぐらしひなつ

『監督たちの流儀』『監督の異常な愛情』刊行記念 トークイベント 西部謙×ひぐらしひなつ

司会 MCタツ(池田タツ)
「W杯だけがサッカーじゃない!!  J2監督・戦術よもやま話」 

2018年・7月16日 秋葉原書泉ブックタワー 

さる2018年7月16日、東京・秋葉原の書泉ブックタワーにおいて、サッカーライターの西部謙司さんとひぐらしひなつさん、それぞれの著書「監督たちの流儀」「監督の異常な愛情」の出版を記念してトークイベントが行われた。

監督=マッドサイエンティスト?

――  まず、お二方に自己紹介と本の紹介をお願いします。

西部  サッカーの物書きをしています。西部謙司です。こういう本を出しています。
この本に登場する人たちが新しい展開を迎えていて、内容はちょっと過去形になってきてますが(笑)

ひぐらし サッカーの物書きをやっております。こういう本を出しております(笑)

西部 僕の自己紹介の仕方が悪かったかな(笑)

ひぐらし いやいや、とりあえず御大をリスペクトする形で(笑)
当初、3月に出版する予定だったんですが、遅れに遅れ、水害の影響もあり発売が遅れて皆様にご迷惑おかけしましたけども、よろしくお願いします。

西部 ひとつ聞きたかったんだけど、ひぐらしさん、この本のタイトルは誰が決めたの?

ひぐらし これは、あそこにいる編集者が。

西部 なんでこのタイトルにしたの?

編集 もうラインナップと企画趣旨を聞いた瞬間にコレだと。キューブリックの。

西部 スタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情」という映画があるんですけど、見たことある方います? 凄い面白いですよ。ピーター・セラーズが一人三役で出てて、ブラックジョークの効いた作品で、米ソが対立している状況下で間違って水爆を落としちゃうという映画です。

ひぐらし えらいザックリした説明ですね(笑) 
マッドサイエンティストっぽい監督たちだよねというところから編集者が発想したみたいです。

西部 なるほどね。

田坂監督はカンテみたいな人

――  今回は本に登場する監督たちのことをうかがっていきますか。
 まずひぐらしさん、田坂監督から。この本を読んで、正直、ウルっとしました。人情味あふれるというか……

ひぐらし 池田さん、けっこうピュアなんですね(笑)

―― けっこうピュアですよ。グッときちゃって、この人めちゃめちゃイイ人だなという印象です。

ひぐらし 作戦成功ですね(笑) 田坂さん自身がものすごくピュアで、熱血あんちゃんなんです。この本が配本されるタイミングで、田坂さんのご実家のある広島にまた豪雨災害が起きてしまったので、「絶対にこの試合は勝つぞ」と泣きながら誓っているんじゃないかなと思ったりしました。
 3.11の時もそうだし、2014年の広島の豪雨災害の時も、記者会見で「被災地に元気を届けたい」と号泣したんです。
―― 西部さんは田坂さんに取材したことは?

西部 直接はないかもですね。監督しての印象は堅い感じ……。軍人みたいな。受け答えとか。

ひぐらし 田坂監督が大分の監督の頃、ジェフにとって大分はお得意様だったんで、嫌なイメージは無いんじゃないですか?

西部 ないですね(笑)

―― 田坂さんはネットでは「結果の出ない監督」という感じでイジられることがありましたが、J1にも昇格させているんですよね。

西部 そうですよ。そのプレーオフでジェフは負けてますから。

―― 選手も伸ばしているんじゃないかと思うんです。手腕はどうですか?

ひぐらし とにかく自分がいいなと思うことは積極的に取り入れるんですけど、取り入れすぎてしまって何が何だかわからなくなってしまうこともあるんです。

 ただジェフとのプレーオフ、85分から1バックでやって、林丈統の決勝ゴールにつながったんですけど、ああいう勝負師的なことをやるセンスもあると思うんです。

―― あの試合は西部さんも覚えていると思うんですけど。

西部 前半はずっとジェフがボールを持ってたんです。でも相手の陣地に入っていけない。持たされている状態です。すると選手もそう思ってしまう。「俺たち持たされているぞ。このまま時間が経過したら何かやってくるぞ」と。

 でも「持たされている」か「持っている」かは本人の主観次第なんです(笑)

ボールを持っていることには変わりはない。ボールを持っていれば自分たちに主導権があるのは間違いないんだから。「持たされている」と思ったら負けなんです。そこで「持たされている」と思ったメンタリティが昇格できない理由。

後日、当時の監督の木山さんと話した時に言ったんですけど、「そんな風には(自分たち次第)当時は考えられなかった」と言ってましたけどね。

ひぐらし あの試合では大分の選手たちはもうガクガクでしたよ。立ち上がりから足が震えてボールが足につかないし。ずっとジェフがボールを持っているし。それを見ながらベンチで林丈統は「俺、この試合、途中出場したくねえな」と思ってたそうです(笑)

西部 実はお互いにビビっていたという情けない話ですね(笑) プレーオフ自体が初めてだし、お互いにやりなれていない国立競技場だったし、両方に緊張感があったのかもしれないね。

―― 選手の育成という点ではいかがですか?

ひぐらし この本にも書いたんですけど、ポジションコンバートが好きで「魔改造」をよくやったんですけど、その中で目覚ましく成長したのはジェフにいった為田ですかね。まだジェフではいまいち活躍できてないかなという印象ですが。

西部 一番か二番か三番目くらいには活躍しているかな(笑)

ひぐらし 守備はどうですか?

西部 守備は……がんばってる(笑) 基本的にはボールを持ってナンボの選手ですから。ほとんどの得点のパターンは為田のクロスからラリベイのヘディングといった感じですからね。

ひぐらし 去年の大分戦、為田が出てきてからジェフのペースになってやられてしまったので、あれは痛恨でしたね。

西部 相手の選手からしたら難しかったのかなあ。

ひぐらし 彼はなかなか計算できないところがあって、安定してパフォーマンスが出せないところがあるんです。若くてメンタル的なところもあったのかもしれないですけど、田坂さんはその辺のところをうまくやったと思います。為田ってちょっとアーティスティックなところがあるじゃないですか。

西部 そうそう。ボールをまたいだり、引いたりとか遊びが多いですよね。

ひぐらし ああいうのを引き出すために言葉のマジックじゃないですけど、彼のテンションを上げたりしていました。

西部 違う考え方の監督もいると思うんですよね。「なにチャラチャラやってんだ」とか言われかねない部分でもある。そうなっちゃうと、為田の良さも無くなってしまう。

―― 田坂さんは、選手の好みってありました?

ひぐらし 厳密に言えば好みはあったかもしれないですけど、とにかく大分もお金がない中で、特に田坂さんが就任した年というのは未曾有の経営危機があってからの立ち上がりの時だったので、手元にいる選手をなんとか使うという感じでした。そこはもうどんな食材も無駄にしない人。大根の葉っぱの茎のところまで捨てずに使っちゃうような人です。たぶんそういうのが好きなんだと思います。だからいま福島に行ってイキイキしてますよ。

―― この本にも「イバラの道を行く男」とありますけど、そういう苦労のあるクラブの方が楽しめてしまう?

ひぐらし だってありえないですよね。大分クビになって、その後、もう絶対降格しそうっていう状況のエスパルスに、普通は行かないでしょう?

―― その辺はちょっと変わってるところがありますよね。

ひぐらし 「僕は子供の頃から、みんながやりたがらない便所掃除とかでも進んでやるタイプだった」と言ってました。

西部 カンテみたいだよね(笑) 

―― プレースタイルもカンテっぽかったですよね(笑) みんながやりたがらない仕事をピッチ上でもやる。

西部 ほんとハードワーカーだよね。技術もしっかりしていたし、黙々と一杯動くという。

―― ああいう選手が一人いると楽ですよね。

西部 まあそうですよね。あまり波もないし計算ができる選手でしたよね。

―― あとはこの本で田坂さんについて伝えたかったことは?

ひぐらし 2015年は結果が出なくてボロカス言われたんですけど、その頃、クラブの中には表にしづらいいろんな事情があったんです。田坂さん一人を悪者にしてしまうのはなぁ……でも外から見るとそうにしか見えないよなぁ……というところがあったので、その辺はちょっとだけ匂わせつつ……。クラブの暗部に触れるようなところもあり、ドキドキしながらトリニータに原稿チェックをお願いしたんですけど、一切修正しなくていいですと(笑)
「えっ!? いいんですか!?」と一応確かめたんですけど、「事実は事実として出さなくては」と。

―― それはいいクラブですね、懐が深くて。

ひぐらし 「若干キツいこと書いてますよ!?」と言っても「仕方がありません」と。

―― そういうクラブばかりじゃないじゃないですか。

西部 ええ、そういうクラブばかりじゃないです(笑)

ひぐらし いままでいろいろ波風は立ってきたので、そういう耐性はできてるのかなと。

―― なんでジェフは大分に強いんですかね。

西部 なんだろうね。大分はサッカーが堅いんだよね。手堅いというか、コンパクトにしてブロックを作ってからやろうという。それはわかりやすいやり方なんで、得意としていたわけではないんだけども、結果的にやりやすかったという。むしろ相手があまりにキチっとしているので、それに導かれるように攻めていくという(笑)。キッチリとしている分、ズレると意外と修正がきかないということもあるのかもしれない。

ファン・エスナイデルという生き方

―― 今度は西部さんの「監督たちの流儀」についてですが。どういうテーマで書かれたのか。

西部 少し前の本になるので……どういうテーマでしたっけ?

編集 それぞれのスタイルで実績を上げている監督についてタイプ別に論じるという。

―― だいぶ前に西部さんとあちらの編集さんで「監督力」という本を出されていまして、その続編というイメージですかね。今回は日本限定ですが。

西部 描きだすというより、側面ですね。チームのことは中に入らないとわからないので、僕からの見た目で。ただ見た目と言っても一般の人の場合、見た目さえあやふやな場合もあるから。パンダとレッサーパンダの違いくらいはわかるだろうけど、同じパンダでもこのパンダとあのパンダはちょっと違うんですよという(笑)

―― 冒頭にファン・エスナイデルが登場しますが。

西部 はい。もうすぐいなくなるんじゃないかと(苦笑)。

そういう情報を持っているわけではなく、客観的に見て「いなくなるだろうな」と。失点がやたらに多いんですね。なぜ多いかというとハイライン・ハイプレスだから。

―― はい。誰が見てもわかります(笑)

西部 この本にも書きましたけど、エスナイデルという監督はサッカーと自分の生き方がわりとピタっと一致している人なんです。ハイライン・ハイプレスで失点しているのは事実なんですが、では失点を止めるにはどうしたらいいですかとなると、ハイライン・ハイプレスを強化することしか頭にないんです。基本的に。そこは変えない。そこを変えるととことは自分の人生を否定されるような気になっちゃうじゃないかな(笑)。これは生き方であると。

あのサッカーでうまくハマれば面白いものができるし、魅力的なサッカーになるんですが、現実的に見て、ハイプレスが効かなくてハイラインを保てるクオリティがないわけです。それを今の監督に「違うやり方に変えてください」というリクエストは恐らく出せない。ということは監督を変えるしかない。
 このサッカーを本当に大事にしてジェフのサッカーにしたい、順位は関係ないというのであれば、継続するという方法もあると思う。でもフロントが「昇格します」と言っちゃってる。昇格するためにこのサッカーをやるという論理だてですかから、このサッカーでダメであれば監督は解任です。
 僕は逆に考えた方がよかったと思っています。

―― 「逆に」というのは昇格のためにではなく、このサッカーがやりたんだよという。

西部 J2だから大丈夫だろうと思ったかもしれないだろうけど、そんなに甘くないし。一年目はまだチャンスがあった。でもJ2のクラブ、みんな上手くなってるんですよ。2年目になったら、半分くらいのチームはハイプレスしてもボールを取れないです。そうするともうスッスカスカだから。自分たちで自分たちの首をしめている。
町田也真人を欠いているというのも一つの要因ではあるんだけど、ハイプレスの精度を上げるということよりも違う道を探った方がいいと思う。

―― 成功したモデルケースはどこかないですかね?

西部 極端なことを言っちゃえばバルセロナですよ。レアルマドリードもそうでしょうね。チェルシーやユヴェントスなんかもそうかもしれないね。

―― 強者のサッカーをやりたいと。

西部 ただ、ボールを持っているから押し込める、押し込めるからハイプレスが効くという循環なんです。押し込んじゃったらラインが下がったままではいけないので上がっていく。

―― あえて問題点を挙げるとしたらどこですか。たくさんあるかもしれないですが。

西部 押し込むために後ろからボールを大事にして回しましょう、とやってるんですけど、まあだいたいミスが出ますよ。キーパーが相手のFWにパスとか。もう致命的だから。ゴールキーパーが前に出過ぎていないとか。1年に2回くらい無人のゴールにシュートが入るというのがある。

―― それだと勝ち点はついてこないですよね。

西部 それ以上に点が取れればいいんですけど。昨日の試合(金沢戦)は4-3です。3点とって勝てないサッカーはありえないですから。3-2くらいならあるんだけど、3点とっても4点とられちゃうんだから、サッカーにならないです。

―― エスナイデルと言えば食事管理が話題になりましたが。この点はポジティブにとらえているように思いましたが。

西部 食事管理は普通のことですよね。日本のプロチームが緩すぎる。サッカー選手って、アスリートだから。体が資本です。体は食べ物から出来ているわけです。うちは猫を飼ってるんですけど、ドライフードしかあげないんです。その方が長生きするから。要するにサッカー選手にとって食事というのはエサなんです。エネルギー源に変えるもので、美味いとか不味いとかそういう問題じゃない。現役の間は我慢しないとしょうがない。

―― この改革はエスナイデルがいなくなった後も残っていきそうなんですか。

西部 どうなんだろうね。残すべきだと思いますけどね。

―― 大分は食事の管理はどうですか?

ひぐらし いちおうトレーナーがいて、選手たちが食べ物はどんなものが合うのかという検査を受けたりはしていますが、チームとしては基本的に個人の管理に任せています。

西部 これを食ったから勝てる、ということじゃないんだけど、アスリートとして何年もやっていくのであれば基本的にやらなければならないこと。グァルディオラがバイエルンミュンヘンの監督だった時、ホームゲームでは試合が終わった後にみんなで食事をするこになっているんだけど、参加せず帰ってしまう選手がいて、グァルディオラがものすごく怒ったということがありました。ドイツのトップチームであっても意識としてはそんなものなんです。スペインはわりとその点は進んでいる。エスナイデルにしてみれば「なんでオカズがあるのにゴハンにカレーかけて食ってるんだよ」「ソースが多すぎる」「チキンは素焼きだ」となるわけです。

―― エスナイデルのエックスデーはいつになるんですかね。

西部 次の監督を決めてないとできないし、エスナイデルと心中するくらいの勢いでやってた感はあるので……いまバタバタしてるんじゃないですか。

―― 大分から見たエスナイデルは? 大分からすれば相性が悪くて、この間はじめて勝てた。

ひぐらし 4点とって勝っているので、あの時点で解任されるんじゃないかと思いました。ジェフサポにとってはそのレベルの衝撃だったんじゃないかと思うんです。

西部 おそらく意見は割れてると思う。あのサッカーが好きだから続けて欲しいという人と、いくらなんでもこんなに負けたらダメだという人と。よりによって大分にというのはこの時点ではないと思う。
―― ここでジェフ、エスナイデルがらみで何か質問はありませんか。
男性 どうしてあんなにアウェーで弱いんですか?

西部 ホームと同じサッカーをやるからじゃないですか(笑)
 アゥエーなのにキーパーからセンターバック、センターバックからキーパーとパスを回しているうちに「あれ芝生が!?」とか言ってるうちにやられちゃったりしてる。(笑)

―― アゥエーでリスクをヘッジしたサッカーをやらないんですか? と西部さんが訊いたら……

西部 「私が今までそれをやったことがありますか? ないですよね」と(笑)

―― なんか常に自信満々な感じはありますよね。

西部 まあね。本当に自信がある人はそうはしないと僕は思うけど。それが彼の人生なんだと思う。「それでダメならいいよ」というくらい。すごくわかりやすいというかストレートな感じ。
 ただねえ、見てるとわかるんだけど、先制されるとけっこうすぐ諦めるんだよね、あの人。とたんに集中力が落ちてくる。スタンドから見ててもわかるくらい(笑)2点目取られるとレフェリーに文句言いだすから。

―― 退席処分もありましたね。

西部 そんなに狼藉を働いてるわけじゃないんだけどね。審判に何か言いにいった時に、無駄に迫力があるから。「あっ、なんか向かってきた」と審判もビビッて退席にしちゃうのかもしれない。

―― 眼光も鋭いですからね。

西部 怖いもん。デカいしさ。

KODAK Digital Still Camera

片野坂監督のヒートマップが見たい

―― 続いては片野坂監督いってみましょうか。昨日の大宮戦、残念ながら負けてしまいましたが。

ひぐらし 大宮との戦力・力量の差が如実に出た。前半は特にそうでしたね。そうなることは想定内だったので、チームはそれまでの一週間、何をやっていたのとかというと……
 今のエスナイデルの話を聞いていると、片野坂監督も、3点とったけど4点取られるような試合があったよねと大分のサポーターも思っているでしょうね。キーパーから相手のフォワードにパスしちゃうようなシーンとか。
 片野坂さんもやり方を曲げないようなところがあるので、やっぱり研究されています。研究されている上で、大宮みたいなポテンシャルの高いチームと対戦するなかで、やってくることもわかってる。相手がどことどこを押さえてくるかもわかってる。ただそこをうちのやり方を変えず進化させて、どういう風にやってかいくぐるかをこの一週間みっちりやってきたんですけど、前半はなかなか出せなかった。出せなかったけど、それを出そうと延々とやり続けていたんです。たぶん外から見ているだけだけとわからないかもしれないけれど、練習から見ていたらわかるくらいのレベルでやり続けてました。
 それがちょっと効いてきたのと、大宮が石井監督に変わって若干、鹿島っぽくなってきたこともあって引いてきた。ただ鹿島るにはまだ徹底していないところがあり、少し大分のペースに持ち込めたかなと。ただ結局、決定力がなかった。
 これを昨日、片野坂監督は「ジャブを打ち続けて、ボディブローが効いてきたんだけど、最後の右ストレートが当たらなかった」と表現していました。それが昨日の試合の全てだと思います。

―― 昨日は僕も見ていて、50分からは大分ペースという感じになりましたよね。あれはだんだん大宮がボランチのところをつぶせなくなってきたという感じですかね?

ひぐらし ハイプレスでプレッシャーに来させていたということもあったので、そこだと思います。

―― ちょっとプレスが緩くなると鋭いパスワークで簡単に崩してしまう。そこはスムーズにできてるなと感心したんですけど。パスワークはジェフよりもいいいかなと。

西部 なにっ(苦笑)

―― そこはもう長く続けてきたところが大きいんですね?

ひぐらし 基本の形はあるので、それを進化させるためにものすごい細かいレベルでちょっとずつアレンジを加えてバリエーションを増やしているところです。逆に言えば選手の個の能力がジェフよりも低い分、ベースの形を持たせていないと対応できない部分があるということじゃないですか。

西部 チームというのは右肩上がりに上がっていかないんですよ。今までの土台になる強みがあるんだったら、新しいものを加えて幅を広げようとするじゃないですか。この試合だったら、これだろうというものを落とし込んだわけでしょう? でもそうなると、そればっかりになっちゃう。そればっかりということは、それが第一選択肢になっちゃうから、自分の判断が無くなっちゃう。
 エスナイデルが来た時、「プレスしろ」と言ったら、こんなところでプレスしてもダメだろうというところまで行ってプレスしちゃう。監督も「何やってんだ!!」と言ってるんだけど、「だってプレスしろって言ったじゃん」ということになる。どうしても。そういう期間というのは必ずある。
 この間、曺貴裁さんと話すことがあって、先週、サイドチェンジを入れる練習をやったら、サイドチェンジばっかりやるようになっちゃったから、今週はあえて全然違うことをやってると言っていた。そういうのを繰り返しながらチームというのは上がっていく。 
 同じことばっかりやっていたらそのうちバレるし、威力が無くなっていく。じゃあ新しいことを加えると今度はそればっかりになっちゃって、自分たちの本筋の強みが無くなっちゃう。だけどもやらないわけにはいかない。そうやって揺れながら成長していく。

―― このW杯を見ていて、強いチームはどのチームも90分の中でいろんな戦い方を持っていました。大分を見ていると90分の中で愚直すぎないかなともちょっと思ったんです。
バリエーションはあって、貫くのはメインのところなんだけど、90分の中で波が必要なんじゃないかなと思ったんですけど、その辺は次のステージなんですかね?

ひぐらし そうですね。そういうことは片野坂さんも常に言っていて、「戦い方のオプションはいくつもあるんだから、その中から自分たちで判断してやれ」と言ってるんです。いかんせん片野坂さん自身がとても愚直な方なので。
 これはキーパーの修行が言ってたんですけど、「チームの性格は監督の人柄にすごく似る」と。そういう意味でもとても愚直で実直なチームです。結局、昨日の大宮みたいな相手になると「我々は走るしかないですから」と監督が言って、その通りの試合になったなと思いました。

―― 西部さん、現役時代も含めて片野坂さんの印象は。

西部 実直な人(笑) 昔、広島を担当したことがあって、そんなに何回も取材に言ったわけではないんだけど、ちょうど彼が入ってきたばかりの頃だったので、余計に大人しいという印象です。片野坂さんと話した記憶がない。話したことがあるかもしれないけど、記憶がない。

―― ひぐらしさんの本にも書かれていたんですけども、暴れるというか動きがダイナミックじゃないですか。テクニカルエリアで。昨日も試合後のインタビューで髪型がとんでもいなことになってて。すごいなと(笑)

ひぐらし ずっとレギュラーで出ている鈴木義宜が、一度、ベンチから見ていた試合があって、その時に初めて後ろからテクニカルエリアの片野坂さんを見て衝撃を受けたらしいです(笑)

西部 そんなにすごいの(笑)

ひぐらし もうヒートマップ作ったら凄いですよ。昨日の藤本憲明より動いてるんじゃないかくらいです(笑)

西部 そんな印象ないんだけどね(笑)

―― 片野坂カメラをやって欲しいですよね。

ひぐらし 私もそれを提案しているんですけど、なかなか実現しないですよね。あれは絶対に二画面で見たい。

西部 ビジョンにワイプで抜いたら面白いだろうね(笑)

ひぐらし 今季、途中からパーマをかけたものだから、かきむしったら余計にすごいことになって(笑)

西部 2002年のワールドカップで、テクニカル映像といって、いくつか特殊なアングルの映像が用意されて、ずっと監督を移している映像があって、どんなんだろうと思ってみたら、ずっとカマチョ監督の脇汗を見ることになっちゃった(苦笑)

―― 今回のW杯ではピッチの状況、俯瞰映像と合わせて見られるアプリがありましたね。

ひぐらし 片野坂さんとW杯の話もだいぶしたんですけど、「いや~セネガルのシセ監督は面白いよね。アクションが派手だよね」と言ってて、「あなたが言うんですか?」と思わず言ってしまいました(笑) 本人は自覚がないみたいですね。何かが乗り移ってるんですかね?

―― 昨日も記者会見で声ガラガラでしたよ。

ひぐらし 試合で最後の方、声が全然出なくなってコーチに代弁してもらっていたこともありました。

西部 そういうば次の代表監督、森保さんに打診したというニュースが出てたけど。今西チルドレンというか、バクスターチルドレンというか、すごいよね。監督やってる人が多くて。片野坂さんもそうだし、風間さん、高木琢也さん、小林伸二さん。ハシェックなんか会長だもんね。

ひぐらし あのとき、すごい充実したメンバーが広島にいたんですね。

西部 ノ・ジュンユンさんがわからないんですよね。風間さんも消息不明だと言ってましたけど。集めたのは今西さんであることは確かなんで。バクスターよりも今西さんの影響の方が大きいんじゃないかな。人間的にしっかりした人を選んでるなという感じがする。

―― 片野坂さんは怒ったりということはしないんですか?

ひぐらし 怒りますよ、けっこう。町田戦(9人の町田に4-3まで追い上げられた)の後なんかDAZNの試合後のインタビューでプリプリ怒ってましたからね。「ダメです。こんな試合、首位のチームの試合じゃありません!!」と。いきなりそれから始まったものだから、見ていて爆笑しちゃいましたけど(笑)
 あれを見た瞬間、モヤモヤしていたものが解消されました。私たち以上に現場が改善しようと頑張っているのが体現されていて。ここは矛を収めようかなという気になりました。
 でも、基本的には練習中に声を荒げるというようなことはないですね。それは現役時代から変わらないそうです。
 いまバクスターの話が出たので思い出した話があります。この間、小林伸二さんから聞いたんですけど、片野坂さんは現役時代、右利きで左サイドバックをやっていたんですけど、あまりにソツなくプレーするものだからバクスターは片野坂さんを左利きだと思いこんでいたそうです。

西部 へぇー、僕も左利きだと思ってた。

ひぐらし 実は右利きなんですよ。だから、自分が出来てしまうからかもしれないんですけど、ビルドアップやクロスを上げるのでも左サイドには左利きということにこだわるんです。右利きの選手も使おうとするんですけど、なかなか自分ほど上手くはできないと思っているのか、できるだけ左利きを使いたがるところがありますね。

―― けっこうお茶目なイメージもあるんですけど。髪の毛がぼさぼさになっていたり、声をからしてたりとか、かわいいんですけど。

ひぐらし 天然ですよね。あるサポーターがとある温泉施設で片野坂さんとすれちがったらしいんです。マスクをしていちおう面が割れないようにしていたらしいんですけど、プーマのTシャツを着ていてどこからどう見てもカタさんにしか見えなくて(笑)。カゼひいてるのかな、くらいにしか見えなかったそうです。
天然なんだろうなぁ。

どうなる? 後半戦の千葉と大分

―― さてここからはJ2の後半の展望をうかがっていきましょうか。今シーズン、ここまで見ていて、J2のレベルが高いなと思ったんですが。

西部 僕はジェフがらみの試合を観ることになるんですが、ハイプレスが効かないんだよね。いくとポンと外されて、次の人も外されちゃう。それで後ろが空いてるからポーンと入れられてやられちゃう。プレスがハマる時もあります。
去年なんかもあのパスが上手い名古屋に対してハマりにハマった試合もあったわけで、それが今季はハマらないというのは、どこのチームもレベルアップしているということ。同時に、もうバレバレなんだなと(苦笑)

ひぐらし 私も西部さんと全く同じで、大分もバレバレなんだなと。レベルが上がった要因は選手ですか? それとも監督ですか?

西部 監督ではレベルは上がらないと思います。多少はあると思うけど。例えば立ち位置を少し変えるとか、ズラしてボールをまわすとか。

―― いま流行りのポジショナルプレー的な動きがJ2でも行われてきていると。

西部 皆さん、ポジショナルプレーというのはご存知ですか? 中盤の選手がセンターバックの位置まで下りてきて、サイドバックが上がって、サイドの選手は中に入って、そうやってちょっとずつズラすと、最初誰かがフリーな状態になるとドミノ倒しみたいに優位な状況が出来ていくんです。最近、サッカーの戦術好きな人たちの間ではよく使われてて、ポジショナルプレーなんて言うとえらそうなんだけど、実は昔からあって、ラモスなんかもよくやっていた。ラモスが下がって、都並が上がって、カズが中に入ってと。やれる人はやれるんです。言葉がなかっただけなんですけど。
あのプレーは、どういう意図でそういうプレーをするのかを解っている人がそろっていないとできないんです。フリーになってもそこでモタモタしていたらすぐにマークされてしまうわけで、そのアイデアと技術がないと上手くできないプレーなんです。
今はもうアイデア自体はあるし、技術に関してはやってるうちに上がってくる面もある。
ひぐらしさんの「監督ですか?」という質問に対してイエスという部分もある。このプレーには多少リスクはあって、選手が成長するためにこのリスクをとろうと判断する「眼」のある監督が出てきている。去年だったら、同じメンツで蹴ってたわけです。今年はやろうという感じに変わってきている。

―― 昇格争いもあれば残留争いもあるわけで、ジェフはいかがでしょうか。

西部 失点が一番多いチームは落ちても仕方がない。得点がいくら多くても。ガンバ大阪はそれで一度落ちたでしょ。そういう意味ではジェフは危ないと思います。まあ、落ちはしないと思うけど、結構な危機感のところまでいくかもしれない。

―― 大分の方は昇格の可能性がかなりあると思うのですが。とはいえここにきて3連敗。

ひぐらし そうですね。失点は多いんです。これが地味に多くて。得失点差を稼いでたんですが、そこもだんだん詰まってきてて。大分と山口が抜けてきたかなと思ったら、その下もまた詰まってきている。
ただJ2はホントに何が起きるかわからないですから。
 それは大分に関しても同じで、例えばケガ人が出るとか、何が起こるかわからない。特に今年はそういうリーグになっていて、22チーム中、最後まで白星がなかった松本山雅が首位まで上がってきている。もう「最後に上にいたチーム」としか言えないですよね。

勝利のためのストーリーを作る

―― その中で、どこが怖いですか?

ひぐらし どこも怖いですけど、山口は霜田さんのまくりっぷりが気になっています。確か千葉戦、すごいまくって追いついた試合がありました。あの時はナイトゲームで、ピッチレポーターが「スタジアムの気温は下がってきましたが霜田監督は燃えています!! ジャケットを脱ぎました!!」と言ってました。試合終盤に向けての自分のテンションの上げ方と、カードの切り方のテンションの上がり方がものすごくリンクしてて。

西部 霜田さんはよく知っているというわけではないけど、山口を見ていて思うのは、どのチームもそうなんですけど、最終的に昇格するとか、優勝するチームというのはストーリーをちゃんと持っているんです。
 特に最近のサッカーはそうなんですけど、ゲーム自体のスートリーってあんまり勝敗に直結しない。だけど、その一個一個の出来事が全体の事と必ずリンクしている。
 わかりやすい例えかどうかわからないけど、日本とベルギーの試合で柴崎から原口へのスルーパスで点を取った。あれなんかは、チームとしてああいうプレーを用意していたかどうかは別として、原口があそこでパーンとスタートを切っているじゃないですか。「絶対に来い!!」という感じで緩めずに走っているからフェルトンフェンがひっくり返っちゃった。芝崎もギリギリのところにパスを出した。もう一回やったらたぶん通らないと思う。あのプレーだけ見れば、「あの一回が成功したね」でしかない。
カウンターがどうのとかいう話じゃない。カウンターというのはチャンスがあればみんなやるべきなので、それは戦術でもなんでもない。走って、パスを出した。それだけの話。
だけど原口があそこまで頑張って守ってハードワークする選手じゃなければ、柴崎はパスを出さなかったかもしれない。あの原口が「来いよ!!」と行ったものだから「これは出さなきゃ!!」となったし、原口も柴崎だったら来ると信じているからスピードを緩めない。ベルギーは来ないだろうと思ったら凄い勢いで走ってるからひっくり返っちゃった。
原口は浦和レッズにいたころはそんな選手じゃなかった。「俺にパスをくれたらドリブルでなんとかしてやるよ」というタイプ。それが何がきっかけで変わったかはわからないけれど、ドイツに行って昔の良さを持ちながらも全然違う選手に変わった。そういう原口自身のストーリーがあって、それが代表の中に入って、西野さんのやり方もありつつ、あのプレーが生まれた。あのプレーは一発だけのものだけど、そこに背景がないと生まれなかった。
試合全体でボールを70%持ってました。右から攻めてました、左から攻めてました、ここで相手のビルドアップをストップしましたという作戦はあんまり関係ないんだよ。僕らはメディアだからそこが試合を決めましたという風に書いてしまうんだけど、それはコップに入っている水の表面の部分なんです。ちょっと水を入れたらあふれた。水があふれるという現象がイベントだから、我々はどうしてもそこを中心に書いてしまう。でも前提としてコップ一杯まで水が入ってないとそのイベントは生まれない。
水が一杯入っているから柴崎から原口へパスが通ったんです。それが、そのチームとしてのストーリーだと思うんだよね。
それを持っているチームと……みんな持っているとは思うんだけど、どこかうまく行ってないところがある。それがシーズン通すと見えてきちゃうわけです。

―― 松本山雅なんかはその辺を持っているなという感じがします。

西部 そこで監督の力というのは相当関わってきますね。そういうところのストーリーをスタートから作っていくことが監督の仕事のメインの部分だろうから。そこがうまくいってるな、というのが山口なんかは傍目から見てると感じる。チームが強くなっていくストーリー性がにじみ出ているように感じる。
 一発のパス、シュート、ディフェンスというのを一個一個見れば、その一個でしかないんだけど、意外とその根底ではつながっている。

―― 霜田さんは事務方、裏方のイメージが強くて、そういう人が監督としてこういう姿を見せるのは意外だったんですけど。霜田さんとは何回かフットサルやお酒をご一緒したことがあって、本当にいい人で柔らかい、優しい感じの人なんで監督しては怖さが足りないんじゃないかと。

ひぐらし あの優しい顔をして、ああいう激しいことをやるから余計にタチが悪いというか、怖い感じがするんだと思います。この人、何考えてるんだろう? という。

西部 見た目が怖いかどうかじゃなくて、監督として怖さがあるかどうだと思うよ(笑)

監督にとって記者会見はピンチか、チャンスか?

―― そういうわけで、この後、山口は注目ということで。松本山雅にも触れましたが、西部さん、この本の中で反町監督について書かれています。今年の山雅の印象はどうですか?

西部 あんまり見れてないです。最初の頃、苦労したじゃないですか。「あ、山雅やばいじゃないかな」と思ってしばらくして順位表見たら「えっ!?」という位置にいてビックリした(笑)

―― 気がついたら、という感じですよね。反町さんについてはどういう印象を。

西部 すごく変わっています。本にも書いたんですけど、御茶ノ水の山の上ホテルでインタビューしたことがあって、文豪が利用したりする有名なところなんだけど、それだけに古いんです。入って左側に営業してるんだかしてないんだかよくわからないような喫茶店があって、絨毯の上に小さいテーブルとイスが並んでます。客が誰もいなくて、僕は約束の時間よりも早くついたからお茶でも飲んで時間をつぶそうと思ったら、反町さんが先に来ていた。見ると書類という書類が自分のテーブルの上だけでなくて、隣のテーブルやイスや通路にまでブチまけてあって、「この人、何してるんだろう?」と思った(笑)

―― それだけ研究熱心だと。

西部 そうなんでしょうね。明らかに取っ散らかってるんですけど。変な人だなぁ~と。

―― 記者会見でもいつも面白いことを言ってくれますよね。

西部 落語家みたいだよね。

―― 必ずなにか一ネタやってくれる。僕はJリーグの記者会見を見ていて、監督たちはつつかれたくなくて、ピンチの場だと思っているように見えるんです。本来はみんな知ってもらえる、報道してもらえるチャンスじゃないですか。反町さんはチャンスの場だととらえているというイメージなんですけど。

西部 反町さんは全日空でパイロットをどの時間にどの飛行機に乗せるかという作業表を作る仕事をしていたんです。会社員だったんです。Jリーグが始まって、みんなプロ契約したんだけど、あの人だけギリギリまで社員契約だったんです。サッカーじゃなくて勉強で慶応に入っていて、慶応に入った時も最初はサッカー部じゃなかったんです。「えっ、清水東の反町なの」とバレて入部させられた(笑)
 そういう経緯のある人なので普通の体育会系の監督さんとはセンスも違うし、考え方とかも面白い。

―― 曺貴裁さんなんかも会見はチャンスだととらえているタイプですよね。

西部 それはその人自身のキャラクターもあると思う。曺さんはこういう言い方はあれかもしれないけど、教育者タイプ。「育成主義」というタイトルの本も出版しているくらいで、人として成長しないとサッカーは成長しないという考え方をする人だと思います。
 もちろん戦術的なことも考えるんですけど、それよりも「人間としていかに」ということを考えるタイプなので、インタビューでも記者会見でもけっこう哲学的なことを滔々と述べるんだよね。意外と面白いんだけど、これ質問と関係ないじゃんという時もある(笑)
 風間さんは技術屋さん。工場でノギスで部品を測って、「0・1ミリ違うね。この部品ダメだね」というタイプ。職人さんなの。だから記者会見でメディアに質問されて答える時も、相手が職人じゃない、同じ世界の人間じゃないから、わかるわけないと思っている。だから通り一遍のことしか言わない。逆に言うとすごくつまらない。
わりと当たり障りのないことを言うんだけど、何ミリとかの突っ込んだ話を聞くと、大好きだからいくらでもしゃべってくれる(笑)。でも自分がこの世界の人間だということがわかってるから、細かな技術のことを話してもわからないだろうから、大きな部分の話をして終わってしまうことが多い。記者会見をあまりうまく使えてない。
西野さんもどちらかというとそのタイプかな。もうちょっとポエマーな感じなんだけど(笑)

―― 確かに、ちょっとポエマー入ってます(笑)

西部 面白いと言えば面白いんだけど、何言ってるのかわからなくなっちゃうことがある。

―― ひぐらしさんは記者会見が面白い監督と言うと?

ひぐらし どの監督もけっこう面白いんですけど、風間さんで言えば去年大分と対戦した時ですね。大分がハイプレスの裏をついて4点取って勝ったんですけど、名古屋の番記者が「守備に関してはどう評価されますか?」と質問したんです。その頃、ちょうど名古屋がそういう形で失点を重ねてて、「風間さんヤバいんじゃない?」という雰囲気が流れていたので、記者も恐る恐る質問したと思うんですが、風間さんは笑ったんですよ。そして「守備も何も人がいなかったよね」と(笑)。いや、それはあなたが整理してあげないといけないとこなんじゃないですか? と突っ込みたくなるような感じでした。

西部 あの人は基本的に守備の話をしないから。守備という言葉が禁句だから(笑)
 川崎の監督の時に、中村憲健剛とか大島が言ってたけど、「守備」という言葉すら使わない。選手たちは「もうそろそろ守った方がいいんじやないか」と思っているんだけど、誰が猫の首に鈴をつけるんだという状態(笑)
 なんとなく監督にそういうことを言っても意に介さない。僕が話を聞くときでも「守備はどうしますか?」と聞いてもまともな答えが返ってこない。「失点をどう減らしますか?」という聞き方をすると「ボールを取られなければいい」という答えが返ってくる(笑)

ひぐらし そうなりますよね。

西部 ある意味理屈は通ってて、川崎フロンターレというチームは試合の大半はボールを持っているチームだった。点を取られるとするとマズいボールの取られ方をした時にやられるわけだから。守備が云々じゃなくて、ボールの取られ方が悪くなければ、失点を減らすには一番早い。それは確かにそうなんです。失点を減らす=守備とは考えない。
 でも、そこは技術屋さんだからこだわりがあるわけですよ。風間さんにとって守備とは相手をマークしたり、スペースを押さえることであって、失点を減らすことは守備ではない。失点を減らすことは、失点を減らすことであって、そのためには攻撃をすることだというわけです。
そういう一つの答えが得られるんだけど、「守備はどうしますか?」と質問すると、守備自体をどうこうして失点を減らそうと思ってないから、「マークすればいいんじゃないの?」で話が終わっちゃうんです。

ひぐらし そういう意味で大木武さんはどうですか?

西部 大木さんは直接関わったことはないんですけど、相当変人ですよね。風間さんより通じないと思う。何も。
 風間さんは「この人は通じない」と思えば通じないなりの話をしてくれるんです。テレビにも出ていたし。でも大木さんは通じないと思ったら、本当に通じないからね(笑) 自分のしゃべりたいことを言って終わってしまう感じ。

―― やっているサッカーはいつも大木色に染めてしまいますよね。

西部 そうですね。大木さんも完全に技術屋さんです。だからたぶん突っ込んだ話をしたらすごく話してくれると思う。

―― 岐阜は財力も限られているし、大木さんでもっている部分もあると思うんですが、大木さんがお金のあるチームを率いたらどうなるんですかね。見てみたい気もするんですが。

西部 それはもう名古屋の風間さんを見ればわかることじゃない。

―― ジェフはどうですか?

西部 大木さんを取れる度胸があればエスナイデルで続けられるよ(笑)

J2後半、注目はこの選手

―― では、ここからは皆さんからの質問に答えていきましょう。

男性 監督の話に集中したんですけど、J2の後半戦、この選手に注目という選手がいたら。

西部 けっこう対戦相手を見てて「凄いな」と思った選手がいても、時間が経つと忘れちゃうんだよね(笑)
 とりあえず大宮のマテウスかな。エムバぺみたいです。そのくらい速いと思うよ。

ひぐらし 速いですね。

―― 昨日の試合を見ていても尋常じゃないですよね。想定外のスピードで、開始早々は対応できないですよね。

西部 後半とかに出されると嫌だよね。足が止まってる時にビュンビュン来られたら付いていけないよ。

ひぐらし シーズン序盤はけっこう後半から出てきてたんですけどね。

西部 一試合もたないんじゃないかな……。
 あとは手前味噌ですが熊谷アンドリュー。彼はうまくすれば代表にいけます。

―― J1からのオファーを断ったという話も。

西部 行ってりゃ良かったのにな(苦笑) チームにとっては間違いなく残って欲しい人なんだけど、彼のキャリアを考えたら。まあシーズン途中だったからというのもあるね。終わったら行くんじゃない?
 アンドリューはもともとマリノスのユースでやってて、来た時から才能があって、上手いんだけど、どこがハマるのかなあと思っていた。
エスナイデルが最初に沖縄のキャンプで使った時に、ワンプレー目でいきなり自殺点だったの(笑) バーンってキーパーに下げたら風に乗っちゃってそのまま入っちゃった。「大丈夫かな~」と思ってたら、そのあとケガしちゃってなかなか試合に出られなかった。
 アンカーで使われるようなって、「そこで使うんだ?」と思ってたら凄く成長しましたね。守備のところでボールを取るか、ファウルするかどっちかしろと言われて、チーム全体もハイプレスですから、その辺の加減がわかってきたんじゃないかな。全部取りに行っているうちに、どれが取れて、どれが取れないかということが。それで自分のポテンシャルもわかってきたと思う。
 日本で、一人で中盤の底をやれる選手って、実はあまりいない。やっているチームも少ないので。これは行くなという選手はわかるよね、見てると。たぶん皆さんもわかるよね。熊谷はうまくすれば代表クラスの選手になります。

―― 今も伸びている感じですか?

西部 今は止まってます(笑)。止まっているというか悩んでいる。千葉ではアンドリューと船山は別格。あの二人はどんな試合でも自分のプレーができる。

―― ひぐらしさんの注目選手は?

ひぐらし そうですね、私は今季の開幕前にJ2の注目選手ということで甲府に移籍した小塚君を挙げたんです。山口でも上野監督のもとでけっこう効いていた。甲府に移籍してどのくらいやるのかなと思っていたら、いつの間にか甲府の監督が上野さんになっていて、大分もさんざんやられたんです。次に対戦した時に「小塚君、ケガして出ないんだ」と思っていたら堀米君が1トップの位置で出てきて、0トップ的な戦い方をしたんです。
 またちょうど噛み合わせが悪いことに、大分がボランチを1枚前に上がらせる形でやっていた。お互い相手の出方がわからないなかでガチでぶつかった時に、うちはバイタルがスカスカで、向こうは0トップでそこを無茶苦茶使われる展開。その時に堀米君がすごく効いていたので、今は堀米君に注目しています。
 あとは、山口と岐阜で活躍していたボランチの庄司君が京都に移籍した。今の京都で庄司が何をするのか。監督も変わったことだし、やることも変えようとしているところなのか、気になります。

讃岐にとって、なくてはならない人

―― では次の質問に行きます。

男性 ひぐらしさんの本で書かれている讃岐の北野さん。昨日も福岡との試合後、サポーターとひと悶着あって、いろいろと熱いお言葉をいただきました。北野さんの今後の讃岐での展望をお願いします。

ひぐらさん 讃岐サポさんなんですね。気が気じゃないですよね。

男性 毎年、胃が痛いです。

ひぐらし そうですよね。北野さんをなんでこの本でとりあげたかというと、もう愛情ですね。北野さんに対する。なんで北野さんとしゃべるようになったかというと、北野さんがロアッソ時代に教え子だった西弘則という選手が大分にいまして、いま讃岐に行ってるんですけど。私が西についてしょうもない小ネタ、試合中に北野さんのから野次で西が集中を削がれたということをネットに書いたんです。北野さんがそれを読んでいて、大分との対戦の時に試合後の記者会見で、私を指さして「俺、西に今日は一言も声かけてないから」と直接言われたんです。そういうところがある人で、すごく一人一人に手厚くてキャッチーで、そういう姿勢をもってチームを作っていらっしゃると思うんです。
 たぶんクラブの運営も、なかなかお金がなくてうまくいかないなかで、まわりの人全てにそういうスタンスで接していらっしゃると思います。あのクラブはほとんど北野さんでもっているということはあると思います。
 ただ監督という立場上、結果が出なくて、あれだけ責められている。私が一番気になっていたのが練習場がなくてフットサルコートしでしか練習できないのに、どんな練習をしているんだろうと。そこが気になっていたんですけど、そこからさらに人柄に触れていくうちに、この人は讃岐にとって、なくてはならない人だなと思いました。だからこれからも風向きは苦しいと思いますけど、なんとか北野さんを応援してもらいたいなと思っています。

―― けっこう怖いイメージがあるんですけどそんなことはないですか?

ひぐらし むしろ可愛いところのある人ですね。趣味がバイクで、ハーレーを持っているんですけど去年とか負けすぎていて、街でハーレーに乗っているのを見られたら石を投げられそうだから1回しか乗らなかったと言ってました。
「えっ!? 1回は乗ったんですか」と(笑)

―― 曺監督と仲がいいらしいですね。北野さんは早稲田ですか?

ひぐらし 北野さんは帝京高校からの流れなんで。この本にも書いたんですけど帝京高校もグラウンドが小さいんです。だから北野さんが高校生の頃から狭いスペースでボールを使って、フィジカルもやっていて、「俺なんかあの頃からピリオダイゼーションをやってたよ」と言ってました(笑)

西部 帝京はグラウンドが狭くて部員が100人くらいいたからね。

ひぐらし その環境であの強豪になったわけですから先生がすごかったんですね。

コンパクトな町田のサッカー

―― 次の質問いかがでしょうか?

男性 今シーズンの町田に関して、どう思われますか?

西部 見たはずですが……

ひぐらし 対戦もしてますよね(笑)

西部 町田はコンパクトに、ジェフっぽいというかワリと似てるというイメージはありますね。コンパクトにしてハイリスクでやってるかなと。サッカーの種類としては違うんだろうけど。あとは谷澤がんばれと思ってたら相模原に移籍して……。

ひぐらし 相馬さんがタテにヨコにコンパクトなサッカーをされるようになった。大分が片野坂さんになってから初めて対戦した時は、ウチは幅を使ったサッカーなので、とにかく逆サイドに展開して振り回すというサッカーをやったんです。
 1試合はウチのペースでやったんです。どこのチームも町田に対しては同じことをやってくるんですよね。あれだけ寄っちゃったら逆サイドに振るわけです。大木さんなんかもスモールフィールドでやっていた時に同じ課題が出て、逆サイドに一人張らせて幅をとるやり方に修正するわけですけど、相馬さんは一切修正せず、そのまま貫いてますよね。それで強くなってるのがスゴイなと思います。
 選手たちのハードワーク度が上がっているというか、対応できるようになっているんですよ。今その中心にいるのがキャプテンをやっている、大分のアカデミー出身の井上裕大なんです。ちょっと複雑な想いで見てます。大分と順位が転覆しそうだなと(笑)

成功続きの、ジェフのコンバート

男性 西部さん聞きたいんですが、私は松本サポでして、さきほど船山の話が「別格」とい言ってもらえてうれしかったんです。今、千葉でどういった立ち位置で活躍してるんですか。

西部 今はやめていますけど一時期、4-4-2で中盤をダイアモンドにしたことがあって、トップ下に船山を使ったんです。船山の仕事は何かというと、アンドリューが2バックの間に下りた時に、アンカーの位置まで下りるんです。要するに組み立ての中心をやる。そこからボールを捌いて、ゴール前まで行って点を取る。「全部やる」という感じで、僕は船山システムと呼んでたんです(笑)
 ある意味、あまりにも依存し過ぎている。だけどそれをこなしてましたから。ジェフに来たばかりの時はエース格では入ってきたんだけど、そこまでは活躍できなかった。なかなか点をとれなかったし。清武もいたし、外国人も入ってきたし、なかなかフィットしない時期もあったんですが今季は凄いですね。ものすごく走るし、ボールを動かせるし。シュートはねえ、入れてるんですけど、練習がすごいですよ。
 練習を見ててあんなにシュートが入る人はあんまり見たことがない。右45度くらいから蹴ると、アウトにかけてカーブさせてキーパーが取れないところからゴールに入るんです。沖縄の合宿で、キーパーを入れてフリーで撃ってるのを見てて、「これは2、30点取るんじゃないか」と思ったくらい。そんなことは全然なかったんですけど(笑)
 シュートは上手いんだけど、シュートに持っていくまでの外し方とかがそんなバリエーションがない。

―― 僕は逆にシュートは下手だと思ってました。

西部 取る時はワリとゴチャゴチャっとしたところで点を取ることが多いんだけど、シュート技術はホント上手いですよ。

―― 外し方が豪快なイメージが。

西部 そうそう。自信があるから遠いところから狙うでしょ。入れてる点もあるけど確率としては低いよね。技術は持ってるから狙いたくなっちゃう。

―― J2が長い選手ですが、ひぐらしさんから見てどうですか。

ひぐらし もうねえ、松本にいた頃から嫌な選手だったんですけど、天敵の千葉に行ってさらに嫌な選手になりましたね(笑)
 トップ下で出てた時、けっこう衝撃的でした。どちらかというとサイドの方から入ってきて、嫌なところに飛び込んでくるようなイメージが強かったんです。でもトップ下はとても面白かったです。千葉の選手起用の面白さってありますね。町田也真人をサイドで使ったりとか。

西部 そうですね。さっきのアンドリューのこともありますし、茶島もそうですね。攻撃的な中盤の選手だったのに右サイドバックで使ってますから。

―― ジェフはコンバートが成功するイメージがありますね。

西部 そうなんですよ。米倉もこれどうするんだろうと思っていた。右サイドバックで高橋を取ったんだけど、ケガか何かで右サイドバックが誰もいなくなって、「じゃあヨネにやらせてみよう」と使ってみたら「すげえじゃん」となって。それで高橋は左に回っちゃったんです。米倉は結局ガンバに行ったんですけど。
右サイドバックにコンバートとするだいたいうまくいくね。もともといないんです、右サイドバックが。去年だと山本真希がもともと中盤の選手だったのが右サイドバックで定着した。だいたい困って使うとそこが良くなる。そういうパターン(笑)

ベルギー代表のストーリー

―― 質問はあと一つくらいですかね。どなたか最後の質問を。

西部 最後っていうのもプレッシャーだよね(笑)

―― ではW杯の話をちょっとしましょうか。一番気になった監督は誰でしょう。

西部 一番気になったのはベルギーのマルティネス監督。いろんな作戦を使って。ブラジル戦なんかでも選手の置き方を変えて、デブライネを偽センターフォワードみたいにして、後ろの組み方も3バックか4バックかよくわからないような形に変えて、それがハマった。FIFAのテクニカルレポートにもあったんだけど、そうやって相手を研究して分析して対策をとれるチームがいい成績を上げたW杯だったと。
 でも、さっきも言った通り、それはコップからあふれた部分の話であって、あふれさせるまで水をためるところを非常にうまくやったんだと思う。
 あの試合をご覧になった方はわかると思うけど、あの奇策が効いてたのは45分間だけだった。後半のブラジルはベルギーの対策に対して、特に何もしていない。いわゆる「自分たちのサッカー」をして押し切りにいって、事実、押しきれる寸前までいった。ベルギーが勝ったのはクルトワがいたから。あれだけばんばんシュートを撃ってるのに一つもこぼさないでピタっと止められるキーパーがいたから勝ち抜けた。
 でも前半45分の間ブラジルを戸惑わせたのは事実で、その分、時間が足りなくてブラジルが勝てなかった。そういう意味ではあの作戦のおかげで勝てたということは言えます。それは僕らメディアもそういう書き方をしがちなんです。でもせっかくこういう場所ですからあえて言いますけど、水がコップ一杯まで入ってないと、あふれないんです。
ベルギーというのは昔から手堅いサッカーをやるチームなんです。ベルギー人に聞くと「石橋を叩いても渡らない」と自分で言ってたくらい。隣のオランダ人は好きなこと、新しいことをどんどんやるんだけど、俺たちは全然違うと言ってる。ほら、近い国同士で張り合うというか、俺たちはアイツらと違うぞという。「俺たちスゴイ慎重だから」と。

―― 控えめな印象はありますよね。

西部 そこに新しいアフリカの選手とか入ってきてスケールが大きくなっていった。タレントが豊富で、ブラジルみたいなチームになった。どこを削ろうかと悩むくらい。しょうがないからカラスコはウィングバックで使う、デブライネは後ろの方でやってくれという形でなるべくタレントを試合に出そうとしていた。勝ち進んで、日本戦で相当苦戦して、ヤバいんじゃないかと思ってたら次は本物のブラジルと対戦することになった。普通にやってたら勝てない。そこで初めて考えるわけです。そこで打った手が当たって勝ったんだけど、そこまでのバックグラウンドが絶対にあったと思う。そこも含めたストーリーをうまく作れてたんじゃないかと思う。

―― 今大会のベルギーは好き勝手やりすぎだなというイメージがあったんですけど、ブラジル戦でいきなり変わった。

西部 殊勝な感じになったよね。あ、ベルギーは本来こうだったよねという感じに戻った。

西野監督、ポエマー疑惑

―― ひぐらしさんは気になった監督は。

ひぐらし 私もベルギーの監督はすごく気になって、特に3バックか4バックかよくわからないようなのをやってたのが、大分的にも参考になるんじゃないかなと思ってみてました。今年、いろんな角度からの映像が見られたので戦術カメラの映像を何回も見てました。
 ベルギーの監督の話が出たので、私は西野さんの話をしようかなと思います。ポーランド戦の残り10分になった時、攻めずにボールを回して、ものすごい賛否両論あったんですけど。私はやっぱりあの場面であの決断をするというのは、ある意味悪い言葉を使えば、自分が率いているチームを見切ったなと。あのままやっていてもポーランドから点を取れそうな気配はなかったじゃないですか。そこをすごく客観的な目で冷静に見て、この人は自分のチームを見切ったなと。ああいうところに惚れちゃいます。

西部 曺貴裁さんは、「あれを○か×かで論じること自体が嫌だ」と言ってました。

ひぐらし まあ、結果しかないですよね。

西部 例え話で言われたんですけど、「西部さんの家に、正月に6時になったら必ずお参りに行くという風習があるとします。雨が降っても晴れの時も必ずそれをやる。他の家の人が、『それって意味あるんですか?』と言われても、それは他人が口をはさむことではない。意味があろうがなかろうが、それが西部家のルールだったらそうなんだ」と。
 京都の人だからそういう例えになったんだと思うけど。他人の家のルールに対して、それが意味があるかないかとか、○か×かなんていうことを他人が口をはさむべきじゃないというのが曺さんの意見でした。
 ちなみに曺さんは、「自分が監督だったらやらない」と(笑)

ひぐらし でしょうね(笑)

―― 絶対、そうですよね(笑)

西部 「できない」と言ってた。「上手くいかなかった場合に、全部他人まかせにしてと絶対に言われるだろうし、人間だからそこが気にならない人はいない」と。
 しかも西野さんみたいなタイプの人がやったことについて「凄いなと思います」と言ってました。

―― ひぐらしさん、他に西野さんの印象って。ガンバ時代とか。

ひぐらし あれだけの長期政権でやれていたということ自体が奇跡的な感じです。日本であれだけやれたというのは、海外ではヴェンゲルぐらいのレベルの話だと思うんです。そこでリスペクトしていました。
 さきほど西部さんがおっしゃっていましたけど、基本的にしゃべるのはあまり得意じゃないですよね。

西部 得意じゃないよね。ワリと天然なので。

ひぐらし 言葉が一つ二つどころか全然足らない感じを受けるんです。

西部 時々、ルー大柴みたいになってるんです。
「今日はタフなゲームで相手のコンパクトな守備に対してアグレッシブに仕掛けていったが結果的にロースコアのゲームになりました」とか、そういう感じなんです(笑)

ひぐらし そういうのがポエムっぽくなってしまうのが西野さんですよね。

西部 西野さんが柏の監督をやっていた時にインタビューに行ったことがあって、監督室に通されたんです。これはいつか本人に聞こうと思ってるんですけど、マネというフランスの画家が描いたハトの絵が、監督が座る場所の上に飾ってあったんです。これは西野さんの趣味なのかなと思って、聞きそびれて十数年なんですけど(笑)
 なんかあれは西野さんの趣味のような気がするんです。

ひぐらし マネのハトの絵ってけっこうお洒落な感じのやつですよね。

西部 デパートの包装紙なんかに使いそうなイラストチックなやつですけど、ある意味メルヘンな感じで。
 まず監督室に絵を飾るという人がいないんですよ。しかも抽象画を。ひょっとしたらスタッフの誰かなのかもしれないけど、なんとなく西野さんの趣味なんじゃないかと。ポエマーという意味じゃないんだけど。
 記者会見ではすごく攻撃的な姿勢を見せる人で、にべもない答え方をすることがある。だけど一対一で話を聞くとものすごく優しい人なんです。親切だし。その優しさと頑固さのバランスが面白い人。で、マネの絵とかをうっかり監督室に飾っちゃう感じがするんですよね(笑) 「俺、なんかこの絵好きなんだよね」とか言って。

ひぐらし そういう感じって高木琢也監督も……。

西部 え、高木さん?(笑)

ひぐらし 高木さんて絵を描かれるらしいんです。

西部 えっ、そうなの?

ひぐらし お父さんが絵を描く方だったらしくて、私も父親が絵描きだったものですからシンパシーを感じました。

西部 いま言われると、そういう感じだね。高木さんと西野さんて似てるかも。

ひぐらし 似てるでしょ。記者会見の時にやたらと攻撃的だけど、話をすると信じられないくらい優しいし。

西部 高木さんはある意味、気が弱い。

ひぐらし そうですかね?

西部 ワリと神頼みするらしいし……というか、彼が監督になるとは思ってなかったんだよ。

ひぐらし みんなそう言いますよね。

西部 森保もそうだし長谷川健太もうそうなんだけど。監督やるタイプじゃないだろう、という人の一人。高木さんて。
 取材に行った時に雑誌とか持って行くじゃない? 取材まで時間がある時に置いておくんですけど、高木さんがサッカーショップのカタログみたいなページを熟読してるんですよ。「何、そんなもの見てるんですか。ユニフォームなんかチームからいくらでももらえるでしょ」と言ったら「俺、このユニフォームが好きなんだよね。コレいいなと思っちゃうんです」なんて言ってる。そういう人なの。ちょっと子供っぽいというか、純真なところを失わないでいる人。それが弱さにつながるということをプロフットボーラーとして本人も自覚しているところがあって、あえてそれをふさいでいる部分もある。でもそれは自分の性格だから全否定するわけではなくて、時々そういう優しさというかポエムなところが出てくる。確かに西野さんに似ているかもしれない。言われてみると。

―― もうちょっと、高木さんのことをひぐらしさんに。本にも書かれていますし。

ひぐらし 高木さんはエピソードがいっぱいあるんですけど。高木さんてホント誤解されやすい人です。
大分と長崎が対戦して、微妙な判定によって長崎が勝った試合があったんですよ。内容的には長崎が負けてた試合を判定で勝ったという試合でした。高木さんが試合後にものすごい無愛想なしゃべり方で、「今日は審判に感謝しないといけない」と言ったんです。
私たちは高木さんのキャラクターを知っているから、高木さんは今日は大分にめちゃくちゃ気を使って、内容は大分の方が良かったということを言ってくれていると思ったんですけど、文字に起こして記事として出した瞬間に、大分サポたちが「ふざけんな!!」みたいになってしまって、ホントに申し訳なかったです。

―― その辺は難しいですよね。会見の言葉って文字にするトゲトゲしくなってしまうことがあるじゃないですか。

ひぐらし そうなんです。そこをだいぶ手を加えてわかりやすく整理して、言い間違えたところも直してるんですけど。

西部 人の言ったことだから、そんなに修正できないんだよね。そのまま文字として出てしまうと、だいぶ違う受け取られ方をしてしまう可能性はけっこうありますね。記者会見とか。

ひぐらし あれは高木さん気の毒でしたね。あれだけ気を使って言ってくれたのに。でもまあ、あのキャラだからしょうがないのかな。

―― いろいろと楽しいお話しをうかがってきましたが、そろそろお時間ということで本日は起こしいただきありがとうございました。

西部・ひぐらし 本日はありがとうございました。

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