2017.05.08

時代はサーカスの象に乗って去っていく-けっぱるんだ!ラインメール青森FC-「第2話 昨季の失速と今季の幕開けのために」

サッカーライター

去っていく選手とやって来る選手

2017年シーズンに向け、ラインメール青森FCは大幅な選手の入れ替えを行った。契約を更新された選手はMF奥山泰裕など9人しかいない。今季の25選手のうち、16選手が新加入のプレーヤーたちである。その中で、アスルクラロ沼津からFW中筋誠をはじめ4人が移籍してきた。沼津は、今季からJ3に昇格することから、選手強化のために14人の選手と契約更新をしなかった。沼津からラインメールに加入した選手たちは、コンスタントに試合に出場していなかった選手たちで、彼らの年齢を考慮すれば、ラインメールが最後の主戦場になるかもしれない。また、クラブはDF松原央門など大学出身の新人選手を獲得している。こうした選手のテコ入れには、昨年から抱えていた選手層の薄さがあった。

監督の葛野昌宏は、レギュラー選手と控え選手の質の違いに悩んでいた。しかし、今季は、その問題はいくぶん解消された模様だ。

「今季は、サブのメンツが充実しています。いろいろなチョイスができるようになりました。逆にそれが、悩みの種にもなっている(笑)」

チームの主力選手である奥山も監督と同じように感じている。

「沼津から4人の選手が入って、個の力というか、実力のある選手が入ったなという感じはありますね」

なぜ、ラインメールは、これほどまで大幅な選手の入れ替えをする必要があったのか。それは、所属している選手間に実力の違いがあったからとも言えるし、選手それぞれのサッカーに対する意識の違いがあったからとも言える。葛野監督は、試合に出ている選手と出ていない選手の質が釣り合わないので、選手交代したくても現実にはできない、というジレンマを抱えて指揮を執っていた。ジレンマを解消できないまま、チームは昨季のセカンドステージで首位に立っていた。それが、残りの数試合で急に失速。チーム内で解消できないジレンマが、失速の原因だったと言っていい。

失速の3連敗とJFLの厳しさ

2016年10月22日の東京武蔵野シティFC戦での勝利(2-1)によって、チーム力を立て直すのかと見えたラインメールだったが、「ここが正念場」と望んだソニー仙台FC戦(10月30日)では0-3の完敗を喫する。続く第14節のHonda FC戦(11月6日)も0-4の敗戦。セカンドステージ最終節となったMIOびわこ滋賀戦(11月13日)では、いいところなく0-2で撃破された。

上記の3つの敗戦について共通する点がある。ラインメールの主軸であるウイングバック(WB)奥山泰裕に話を聞いた。

――ソニー仙台との試合は、首位通過の最後のチャンスとなった試合だったね。

奥山「チームのみんなが気合とモチベーションを高くして、臨んだ試合だったんです。しかし、試合開始10分に、ソニーの有間(潤)に得点を入れられて。結局、試合が終わったらラインメールのシュート数はたったの4本でしたね」

試合前のミーティングで、葛野監督は、選手たち全員を鼓舞しながら、重要な戦術的な部分を説明する。

「いいか、相手は3バックでくる。うちも3バック。つまり、この戦いはミラーだからな。うちが(セカンドステージで)優勝するためには、ソニーと、このミラーの戦いで、ガチンコの中で戦って、個の局面でどちらが上回れるかに懸かっている。それが勝敗を分ける。サイドで、どっちがディフェンスに回ることになるのか。うちなのか、ソニーなのか。そこで、この試合の流れは決まるぞ」

しかし、笛吹けど踊らず。試合は0-3の完敗だった。

奥山は「相当に研究されていた」と告白する。

奥山「3点差じゃないですけど、やっていて点数ほど差は感じなかったんです。おのおの選手自身もいろいろ考えてプレーしていたと思うんですが、7連勝していた時の展開ができなかったのは事実ですね。ここまでのラインメールの得意な展開は、ワイドを使って、左サイドだったら左サイドで、右サイドだったら右サイドで、やり切るというものでした」

そして、こう続ける。

奥山「ファーストステージで戦った仙台と、セカンドステージでの仙台では、違う戦い方をしてきました。ラインメールの戦い方が相当に研究されていると感じましたね。ファーストステージの時は、サイドで起点をもっと作れていたんです。僕も高い位置に上がって行けた。仙台に対しては、そういうイメージがあったんです。ファーストステージの試合は0-0(2016年5月15日)で、もっとオープンになれた展開でした」

奥山「僕は、そのイメージで試合に入ったんですが、僕とマッチアップしている選手は、仙台がマイボールの時は上がってくるんですけど、うちにボールが渡ると僕の近くにいてマークするんじゃなくて、自陣に引きこもってしまうんです。攻撃の時に、僕が行きたいところは、ペナ(ペナルティエリア)横くらいのところなんですが……。そこは全く開かなかった」

敗戦後、選手たちは残りの2試合に向けて話し合いをする。

「負けたというのもあって、ロッカールームは暗かったです」と奥山は当時を振り返る。奥山は、DF河端和哉とすぐに話をする。

河端はこのように奥山に伝える。

「前と後ろの関係だよな。前の選手は点を取りたいから前に行く。後ろの選手はラインを上げたくても、裏のスペースを突かれることを気にしてしまう。その結果、前の選手と後ろの選手の距離が開いて、中盤がルーズになってしまう。そんな時に、2シャドーの1枚がポジションを落とし気味にするとか、そうしてくれればいいんだけどな。俺が声掛けをやれれば良かったんだけどね」

葛野監督が、ハーフタイムで選手たちに話したことを、奥山は思い出す。

「深い位置まで行ったらしっかりクロスを上げろ!消極的なプレーはするな。一対一において、腰が引けていたぞ。相手の方が上回っていたように見える」

奥山自身は、ファーストステージと違うやり方を、対戦チームがやってきていることを、強く感じていた。

奥山「相手が間合いを計って寄せてくると縦に行きやすい、というのはあります。相手と走り合いになっても、ボールを前に蹴って追い付いてクロスを上げるやり方は作りやすいんです。相手は、あきらかに縦切りにきていた。僕が前に行くのを阻んできた。そのためにピッチの中を開けることもいい、というやり方をしてきたんです」

「僕が縦に行っても、相手は僕の前を防ぐ。2シャドーのどちらかが下りてくるとか。ボランチが寄せてきてくれるとか。そうしたことが、やれていない。縦を切られた僕は、ボールを横に出そうにも相手に塞(ふさ)がれた状態を作られる。ボールを相手に取られてカウンターを受ける。最後の3試合、ソニー仙台、Honda、MIOびわこ滋賀は、うちのやり方を研究しているのが、対戦してすぐに分かりました」

春は雪が溶けるまで青森市の練習場が使えない。雨が降ると天然芝の小さなスポーツ会館で練習する。練習でボールを使う日は、弘前市の人工芝のグラウンドに行く。あるいは、八戸市の練習場に赴く。青森市からそれぞれの練習会場に移動だけで2時間以上は掛かる。自前の練習場も、スタジアムも持っていない。

シーズン最後は、メンバー不足のため11対11の紅白戦もできず、人数合わせに苦労した。そうした環境で彼らは、1年間を戦ってきたのだ。彼はなぜ、青森の地でプレーを続けるのだろうか。サッカーが好きだから。サッカーしかやってこなかったから。どれも当てはまる理由だろう。

奥山は、葛野監督が最終戦のMIOびわこ滋賀戦を前に、選手たちに語ったこと心に刻んでピッチに立ったと言う。

「今季のわれわれは、優勝を狙える位置で戦えたことに感謝しなければならない。こんな幸せなことはない。われわれは、感謝を忘れてはならない」

JFLで戦った1年間は、ラインメール青森にとって、大きな財産になったはずだ。そして、チームにとって何が必要なのかを理解させてくれた。いよいよ2017年シーズンの幕開けが、そこまで迫ってきていた。

今季のシステムと新加入選手の適正ポジション

2017年1月30日から2月12日まで、ラインメールは、高知県でキャンプを行うことになった。暖かい土地に出掛けての春キャンプは、チームで初めての試みであった。トレーニングは、ハードな日々となる。ほぼ毎日、2部練習が行われた。しかし、新加入の選手が多くいるので、ラインメールのサッカーをチームとして落とし込むには時間が掛かる。それでも、選手層の厚さと選手の質の向上は大きく進歩したようだった。奥山は「半分くらい入れ替わりました。入ってきた人は、個々の実力があるので、チームのやり方に慣れてきたらもっともっと良くなる」と話す。

2017年シーズンの基本的なシステムと主要な選手を紹介しよう。

システムは「3-6-1(3-4-2ー1)」が基本型である。

GK編
伊藤拓真は、試合中に大きな声でコーチングをして、チームの士気を高める。昨年、ラインメールが7連勝していた時も守備の要となった。

DF編
右のストッパーにはチーム最年長で精神的支柱となる河端和哉が構える。左のストッパーには、新潟経営大学から入った新人の松原央門がいる。監督に「育てることも役目」と言わせた期待の大型DFである。3バックの真ん中にいるのが近石哲平で、ポジショニングに優れる。アスルクラロ沼津から加入した高橋寛太もレギュラーを狙える位置にいる。

MF編
村瀬勇太は昨年からキャプテンを務める。酒井大登とセンターハーフのコンビを組む。アスルクラロ沼津から来た水木将人にも出場のチャンスがある。WBには、安定感のある奥山泰裕と、縦への突破力を持つ小幡純平がいる。武蔵野東京シティFCにいた望月湧斗は、WBのポジションを狙っている。

FW編
FWには今季加入の横野純貴と中筋誠の競争になる。横野はバンコクFCから加入した。対人に強く、ポストプレーヤータイプの選手。中筋は、アスルクラロ沼津からやって来た。ともに、身長183センチとヘディングが強く走れるFWとして期待されている。システムとして1トップ体制なので、トップのFWがしっかりボールを収めて、ヘディングでボールをそらして攻める攻撃スタイルの基本型となる選手。

システム上、シャドーストライカー(セカンドストライカー)となるポジションには、中村太一と新加入の秋吉泰佑、小栗和也が競う。秋吉は、ファジアーノ岡山からの移籍。小栗は、城西国際大学から加入した新人選手である。167センチと小柄ながら、ドリブルで仕掛けて自分のスタイルでシュートまで持っていける選手である。

このように、ポジションそれぞれにライバル関係が成立するレベルまで、今季は選手の質は上がったと言える。では具体的に、2017年シーズンは、どのような戦いになっているのかを見ていこう。それには、指揮官の葛野昌宏の視線が重要になってくる。

目標順位4位、葛野昌宏監督が語る今季


2017年のラインメール青森の開幕戦は、3月5日のHonda FC戦であった。試合は1-3で完敗する。ラインメールのシュートは2本だけ。全くいいところがなく敗れる。葛野監督は試合後のロッカールームで「これをワーストゲームにしてほしい。個人的なミスが多くて、これでは、戦術のところまで話を落とし込めない。もっと選手個人が意識して、イージーなミスを減らしていかないと。全く話にならない」と話した。

第2節は、3月12日のヴェルスパ大分戦である。試合は、大分に先に点数を入れられると青森が追い付く試合となった。2-2の引き分けは、選手たちにとってチーム力向上のキッカケとなる試合に思えた。そして迎えた第3節・ブリオベッカ浦安戦であった。2試合消化しての1分け1敗は、2016年と同じ成績である。3試合目にして、JFL昇格初勝利を得た。ラインメールの関係者や昨年いた選手たち誰もが、3節目の勝利を思い出していた。

試合は、84分に横野純貴のシュートが決まり、1-0でラインメールが逃げ切った。試合後に葛野監督に話を聞く。いまのラインメールで何が「できること」で、何が「できないこと」なのか。そして、今季加入の選手の特徴などが話された。

――今季、初勝利ですね。試合を振り返ってください。

「結果的に勝ったんですけど、どっちに転がってもおかしくない試合でしたね。われわれは、開幕戦と第2戦目で失点が多かった。先に先制点を取られる展開だったんです。せっかくいい形で、自分たちのペースになりそうなところで、失点をするという状況だったんです。浦安戦は、まず前半『ゼロ』で行こうと。ただ引いて守るんじゃなくてね。ボールにもう少しアプローチをする。スライドの部分とか、ゆるかったんですよ。中盤のところでこっちがボールを取りたいのに、一歩が出ないとかね」

――右サイドも左サイドもですが、簡単に突破されていました。

葛野「ドリブルで簡単に、うちの2人のところを破られてしまうとか。相手の6番の坂谷(武春)選手がうまくてね。彼に振り切られてしまった。あれをやられると、こっちとしも苦しくなる。そこは徹底できなかったな。相手もそうだけど、こっちも取れるところで点数を取っていれば、というシーンがあったから。サイドからの攻撃が徐々に、中筋にしても横野にしても、いいところに入っている。もう少しクロスの質を上げていけば得点場面は増える。ジュニーニョは、今日初めて使ったんだけど、彼が入れば、自分の間でボールを持てるので、リズムに変化が出て、いいところにパスを出せる。攻撃のバリエーションは増えるよね。彼はまだコンディションが完璧じゃない。徐々に高めていけば、もっと良くなる」

――ラインメールは、村瀬選手が攻撃のキーマンです。今季は酒井選手と村瀬選手の2人のセンターハーフですね。

葛野「考え方として、高い位置で村瀬の技術を生かしたいんだよ。あいつがペナ付近で前を向いてボールを持つと、相手にとっても脅威になる。うちにとってはチャンスになる。だからあいつには『常に高い位置を取ってくれ』とは言っている。そうすると、3バックで(村瀬が前に出て)酒井のアンカー1人のような状態になる。アンカーの脇は当然空くよね。それをどうやって遅らせるのか。スライドして前で取るのか。そこが、チームとしてというか、個人として状況判断ができていない」

――62分に酒井を交代させたのは、そういう意図があったんですか。

葛野「酒井の交代は、中(両脇)をちょっとやられていたしね。本来は、あそこでやられるような選手じゃないんだけど。水木を入れて活性化したかった。そうしたら流れがこっちに傾いて、水木が落ち着いてボールをさばいてくれた」

――大幅な選手の入れ替えがありました。今日の試合では、望月選手がスタメンでした。

葛野「望月は東京武蔵野シティFCで試合に出ていました。今季加入した彼以外の選手は、前所属チームで試合に出られていないんです。だから、試合をしていきながら、成長させていかないとならない」

――大卒で新加入の松原をスタメンで使っていますね。

葛野「松原央門は、ポテンシャルを持っている。経験を積ませながらね、これからの選手として、われわれも育てていく考えがあるんです。彼は試合に出られるだけのものを持っているから使っています。一対一の強さとか。球際で相手と競り合いながらの強さを持っている。もっと自信を持ってやってくれれば、もっともっと良くなる選手なんだよね」

――昨季は悩みの種だった選手層の薄さや選手の質の問題は、だいぶ改善されたんじゃないですか?

葛野「んん、そうだね。サブのメンツは充実した。いろいろなチョイスが、できるようになりましたね。逆に、悩みの種にもなっている(笑)」

――今季は春に高知キャンプもやりました。雪で練習場がなくてチーム戦術を落とし込む場所と時間がない、という悩みもだいぶ改善されたんじゃないですか?

葛野「八戸市に練習に行ったりできて、そこもだいぶ改善されたんですが、それでもね、ダメなんですよ。移動の時間や距離などコンディションを上げたり維持したりするには、まだまだですよ。いまだって状態は7割くらいです」

――開幕から3戦して1勝1分け1敗は、去年と全く同じなんですよね。それでも、今日はラインメールのサッカーは見せられたんじゃないですか?

葛野「確かに今日は、われわれのサッカーを少しだけ見せられたのかな。積極的に仕掛けるところとかね。危険な場面もいくつかあったんだよね。中途半端にプレスを掛けると、FWとDFの間が空いてしまう。相手がバイタルに入ってきて中を使われて、最後にクロスを上げられる。試合開始15分から30分くらいは、われわれのペースだったんです。それが、ショートパスを奪われてピンチになる。そんなことを4回繰り返しているんですよ。それをやっていたら、流れなんて簡単に変わってしまう」

「選手がやろうとすることを、きちんとやり切らないとならない。まだまだ未熟というかね。ドリブルにはしっかり付いていく。中から外に追い込むという守備の基本の部分がまだ徹底されていない。簡単に相手に飛び込んでしまう。簡単に中に入られてしまう。これは個人守備戦術の部分なんだけど。ラインメールの守備ってどういうものなのか。特に、新しい選手にはまだ浸透していないことが、この試合ではっきりした。前期は我慢のシーズンになると思います」

このように語った葛野監督が率いるラインメールは、5月7日の第8節のヴィアティン三重戦で1-0と勝利を収めた。現在(5月8日)4勝3分け1敗の勝点15の5位に付けている。サッカー戦術からサッカー選手としての心構えまで、チームに浸透させてきたのは、葛野監督の功績によるところが大きい。東北社会人1部リーグからJFLへと昇格されたチームの改革者は、いったいどんな人物なのだろうか。本人に直接聞いてみることが最も確かな手段である。葛野本人は、自分自身を何と語ったのか。(第3話につづく)

文・取材=川本梅花

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