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「スポーツビジネスのトップランナーに聞く」 第4回:堀弘人さん(楽天株式会社)<前編>

2019.01.22

取材におもむくと、堀弘人さんはにこやかな笑顔で出迎えてくれた。キリッと引き締まった体つきから、見るからにスポーツマンという印象を受ける。

堀さんは楽天でスポーツマーケティングに携わる一人。楽天と言えば、FCバルセロナ、NBAのゴールデンステート・ウォリアーズ、最近ではバスケ界のスーパースター、ステフィン・カリーともパートナーシップ契約を結んで話題を呼んだ。これらの多彩なスポーツコンテンツをどうやってビジネスに活かしていくか、堀さんはその戦略を練っている。

とくに聞きたいのは、堀さんが担当するアンドレス・イニエスタのことだった。世界的なスター選手がヴィッセル神戸に加入したとき、高額の推定年俸が注目を集めたことは記憶に新しい。しかしヴィッセル神戸が、もっと言えば親会社である楽天が、何の勝算もなくイニエスタに投資したとは考えられない。その「勝算」とは何なのだろうか。

株式会社フロムワンが運営するFROMONE SPORTS ACADEMYでは、1月28日(月)に堀さんを招いた特別セミナーを開催する。彼が仕掛けるスポーツマーケティングについて、たっぷりと語ってもらう予定だ。その前に、楽天の戦略やイニエスタの素顔を少しだけ語ってもらう、というのがこの取材の趣旨なのだが、まずはこのプロジェクトを率いる堀さんとはどんな人物なのだろう? インタビューはそこからスタートした。

堀弘人(ほり・ひろと)さん
楽天株式会社 グローバル スポンサーシップ オフィス
[写真=兼子愼一郎]

──堀さんはFCバルセロナやアンドレス・イニエスタを活用したマーケティングに関わっていますよね。楽天の中ではどういった部門でお仕事されているんですか?

 2018年の期中に入社しまして、まだ楽天での社歴は浅いんです。「グローバルスポンサーシップオフィス」という新設のスポーツ関連部署に在籍しています。楽天全体でスポーツマーケティングの取り組みがグローバル化、多角化してきている中で、そのコンテンツやアセットをどのように活用し、グループ全体のビジネスに貢献していくのかを戦略的に考えるための部署ですね。

――楽天に来られる前は、様々な外資系企業でキャリアを積まれたそうですね。どんなお仕事を?

 簡単に言えば「グローバルブランドマーケティング」という言葉で表せると思います。これまで何度か転職を経験していて、そのすべてが外資系企業でした。一貫して国際的なブランドビジネスに携わりながら、そのひとつの軸としてスポーツマーケティングに関わってきた、というのが自分のキャリアバックグラウンドです。楽天は初めての日本企業になります。

――「ブランドマーケティング」というとカッコいいですけど、素人にはわかりにくい仕事ですよね。どんな案件に関わってこられたんですか?

 いくつかの事例をご紹介しますね。わかりやすい例ですと、渋谷109の前にアディダスの大型直営店がありますよね。あの店舗は私がリードしたプロジェクトのひとつです。アディダスには2005年から5年ほど在籍しておりまして、卸売チャネルへの依存度が強い中、直営店ネットワークを拡げることによる「市場の創造」と言いますか、ブランドとビジネスを同時に表現できる環境作りの仕事をしていました。そのひとつが、アディダスの本国ドイツで開発された最新の店舗フォーマットを、日本に展開していくことでしたね。渋谷店は、ただ商品を売る場所ではなくて、アディダスというブランドの広告価値も含めたプレゼンテーション効果がある。そういう店舗を、渋谷だけでなく日本全国に拡大していくという役割でした。

――渋谷店のオープンは10年前くらいですか。取材に行った記憶があります。カッコよかったし、目新しかったですよね。

 プロジェクトチームでは渋谷店にジネディーヌ・ジダン氏を招いて、イベントを実施したこともありましたね。「ジダンが渋谷に来る!」と、あの渋谷109界隈が騒然としました(笑)。また、アディダスと言えば日本代表のオフィシャルサプライヤーですし、FIFAワールドカップのグローバルパートナーでもありましたから、日本代表ユニフォームのローンチや、2006年ドイツ大会、2010年南アフリカ大会ではワールドカップのプロジェクトメンバーとしてもエキサイティングな仕事に携わることができました。

――その後、ナイキに転職されました。こちらも世界的なスポーツブランドですが、ナイキでも同じようなお仕事を?

 ナイキでは、どちらかというとスポーツライフスタイルの領域からキャリアをスタートしました。ナイキがブランドとして持つオーセンティックな要素をどうやってライフスタイルやファッション文脈に水平的に展開するか。スニーカービジネスの拡販と、ライフスタイルアパレルの立ち上げを主な業務としていました。それをアメリカ本社と直接連携しながら仕掛けていましたね。当時はスニーカービジネスが今ほど賑わっていなかった。もう一度スニーカーの魅力を広めようと考えたときに、日本固有のスニーカーカルチャーに対して敬意を払いながら、新しいイノベーションを市場に提案していく。たとえば2015年には、日本でも最大のスニーカームーブメントにもなった『AIRMAX95』に関連したプロダクトキャンペーンも実施しました。また、毎年3月26日は、1987年にAIRMAXの広告がスタートした日を記念して「AIRMAXDAY」というイベントを開催しているんですが、最初の立ち上げに関わりました。アパレルコレクションでは、「ナイキ テックパック」や「ナイキ F.C.」というコレクションの立ち上げも担当させていただきました。

――「テックパック」や「ナイキ F.C.」は、スポーツウェアの機能性を持ちながら、ストリート向けにデザインしたコレクションですよね。まさに「スポーツのイメージをライフスタイルに展開する」という。楽しいお仕事ですね。

 ナイキは戦略構築や、そのアウトプットに求められる水準が高いので、生みの苦しみはありました。でも、仕事は楽しかったですね。それ以外にはバスケットボールカテゴリーと、ジョーダンブランドの仕事も兼務していました。私は学生時代からずっとバスケットボールをやっていましたし、「バスケットボールと言えばナイキ」というブランドですから、マーケターとしての醍醐味を経験しましたね。2015年には、ジョーダンブランドの誕生30周年に合わせて、東京都現代美術館でイベントを行って、そこにマイケル・ジョーダン氏を招きました。ご本人にお目に掛かる機会を得たことはハイライトですね。

――それは熱い!

 そうなんです! イニエスタ選手もそうですが、様々なスポーツカテゴリーで世界的に偉大なスポーツ選手との仕事に運良く恵まれてきました。それは、本当にご縁だと思います。

――バスケをやってたんですか。

 学生時代はずっとバスケ少年でしたね。いろんなスポーツやってきたタイプで、幼少の頃は水泳に剣道、学生時代にバスケやサーフィンを始めて、今はキックボクシングを嗜んでいます。週3回くらいジムに通って心身を鍛錬している日々です。

――スポーツマーケティングの仕事をするうえでは、やっぱりスポーツが好きで、スポーツの情熱を理解していることが強みになるんですかね。

 そういう部分はありますね。今の楽天の仕事もそうですけど、スポーツに関わる仕事は本当にエキサイティングだと思うんです。仕事でお世話になる方々にもスポーツを愛する人たちがたくさんいて、時に仕事の現場でも、感情をたかぶらせながら、まるでスポーツのように仕事をする。ある種、その唯一無二の魅力に、自分でも気づかないうちに取りつかれているんでしょうね(笑)。

――ナイキの次に選ばれたのが高級時計の「タグ・ホイヤー」ですね。サッカーファンにとってはJリーグのオフィシャルパートナーとしてなじみ深いブランドです。

 タグ・ホイヤーがアディダスやナイキと違うのは、高級時計の市場自体がエイジング、つまり消費者が高齢化しているんですよね。40代、50代を中心とした市場構成になっている。そこでキーワードになるのは「ミレニアル世代」とか「ジェネレーションY」とか言われる世代。彼らにブランドをどのように伝達するかなんです。これはタグ・ホイヤーに限った話ではないんですが、あらゆるラグジュアリーブランドが消費者ターゲティングの際に、この若年層へのアプローチを必ずと言っていいほど考慮に入れています。

――今の20代から30代の若い人たちですね。

 私がスイス本社と連携して作ったブランド戦略は、「ミレニアル世代に高級時計の最初の入り口としてタグ・ホイヤーを持ってほしい」と考えることから始まりました。そして、それを実現するためにはスポーツマーケティングが有効である、という仮説を立てました。2016年からJリーグとパートナーシップ契約を結んだり、テニスの錦織圭選手、サッカーの香川真司選手をブランドアンバサダーとして活用したり、スポーツやアスリートを使ったブランドコミュニケーションを展開していきました。奇しくもヴィッセル神戸に移籍が決まった山口蛍選手も、タグ・ホイヤーのブランドフレンドに私が起用したんですよ。

――なるほど。山口選手はナイキの、香川選手はアディダスの契約選手でもありますし、何かこう、いろいろな部分でつながっている感じもあります。

 そうなんです。以前からご縁のあったスポーツやアスリートたちと、また今、楽天でもご縁ができるという……。これは何でしょうね。もう本当に「縁」と言うしかないんです。実はイニエスタ選手も、現在はアシックス社のスパイクを着用されていますが、その前はナイキ契約選手で、時計はタグ・ホイヤーだったんです。つまり、私が勤めてきた直近の3社がすべて、イニエスタ選手に関係していたというのは、自分でも驚きの事実です。

――ああ、そうなんですか。不思議な縁ですね。

 私は、彼のことを親しみを込めて「アンドレス」と呼んでいて、彼は私のことを「ホーリー」と呼んでくれるんですが、そういった今までのキャリアの背景があったからこそ、最初から個人的な信頼感が生まれやすかったのかもしれません。私はずっとブランドビジネスに関わってきて、ブランドというものを理解していると。そういう観点で私のことを理解してくれているので、彼とのコミュニケーションは非常に良好なんです。

――それはやっぱり、キャリアが一貫しているからつながってくるんでしょうね。グローバルな企業で、スポーツに関わったマーケティングをずっと続けてこられた。世界的なブランドに関わってきたことで、ずいぶん鍛えられたんじゃないですか?

 そうですね。ブランドを創り上げる作業は、細部にいたるまで決して妥協してはいけない。これはさまざまな世界的なブランドが共通して持つ信念かと思いますし、キャリアを通じて学んできたことのひとつだと思います。今はその知識や経験を活かして、どのようにイニエスタ選手、あるいは楽天が保有している多様なスポーツコンテンツを最大限活かせるか、「Rakuten」というブランドの成長により貢献できるかを考えています。
インタビュー中編はこちら
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