2018.12.19

「英語教育のトップランナーに聞く」水野 稚さん(Primus Edge 代表取締役)<前編>

雑誌版SOCCER KING(=SK)編集長。前身の『ワールドサッカーキング』でプレミアリーグやブンデスリーガを担当したのち、すったもんだの末に2016年から編集長を務めた。好きなクラブはサンダーランドと名古屋グランパス。

 ちょっと前から、勝手にスポーツビジネスのインタビューシリーズを始めた。FROMONE SPORTS ACADEMYで定期的に開催しているビジネスセミナーがあって、そこに登壇される方々に話を聞く。それだけなんだけれども、取材対象はみんなスポーツビジネスの第一人者で、話はおもしろいし、学べることがたくさんある。こんな楽しい仕事を他人にやらせるのはもったいない。

 ところが今回は何を血迷ったのか、FROMONE SPORTS ACADEMYが英語の講座を始めるという。講師としてお招きした水野稚(ゆか)さんの経歴を調べると、「オックスフォード大学」やら「東京大学」というワードが目に飛び込んできて、少したじろいだ。英語コンプレックス丸出しのサッカーメディア編集者が、英語教育のスペシャリストに何を聞こうというのか?

 結果的に、これはとても楽しい、自分の取材経験の中でもベスト3に入るくらい楽しいインタビューになっていて、それは読んでいただければ伝わると思う。英語の難しい話は一切なし。その代わりに、「ちょっと握手してみましょうか」から取材はスタートした。水野さんは声が美しく、話が楽しく、ニコニコして親しみやすく、何というか、こんな人に英語を学びたかったと、英語コンプレックス丸出しの僕は思う。

 ちなみに僕の握手は100点満点中、おまけして46.7点(60点以下は失格)だそうです……。これは英語講座に通うべきかもしれない。みなさんも一緒に握手を練習しませんか。FROMONE SPORTS ACADEMYでお待ちしています。

水野稚(みずの・ゆか)さん
株式会社Primus Edge代表取締役/プリムスアカデミー代表
(写真=兼子愼一郎)

──FROMONE SPORTS ACADEMYで英語講座がスタートするということで、全6回の講座内容を拝見したんですね。すると第1回が「握手」と「自己紹介」っていう……。いくぶん変わった内容だと思うんですけども、これはどういう意図があるんですか?

水野 握手から教えるレッスンって、たぶん私しかやってないと思います(笑)。一般的な英語の講座って、「英語のための英語レッスン」になりがちなんですよね。つまり、英語ができるようになりたいから英語を勉強する。でも本当は、英語ができるようになったら、その先に何かあるはずでしょう? 外国の方と一緒に仕事をするとか、観光して現地の人と仲良くなるとか。サッカーだったら現地に試合を観に行きたいとか。誰かとコミュニケーションをしたいから英語を学ぶんですよね。

──確かに。英語を学ぶこと自体が目的ではないですね。

水野 目的がコミュニケーションだったら、まず挨拶が大切よねってことです。日本人の場合はお辞儀をしますけど、それが英語圏では握手から始まる。だから、まず相手への敬意や親しみをきちんと示すために、握手から始めましょうと。それができるとね、ちょっとホッとするんですよ。いきなり話そうとするから「ナ、ナ、ナイストゥーミーチュー」みたいになっちゃう。

──はい。それ、身に覚えがあります(笑)。

水野 それは「英語」を話そうとするからですね。言葉の前に、相手と知り合いたい、仲良くしたいっていう気持ちがあるわけでしょう? 最初にちゃんと握手ができれば、そこでお互いに心を通わせて「きっといいヤツに違いない」みたいなね(笑)。そこから話し始めれば、空気が全く違うんですよ。ただ、握手ってすごく難しい。私は経営者の方に英語の個人レッスンをすることもあるんですけど、最初の6回くらいは握手だけだったりするんです。

──本当ですか? どういうことですか?

水野 そもそも握手とお辞儀は由来が違うので、なぜ握手するのか、なぜお辞儀するのか。そういう背景を知らないと、理解できないんです。「初めまして」と言うとき、日本人同士はお辞儀してぶつからない距離に立つじゃないですか。でも握手の場合はもうちょっと距離を詰めないと、うまく手が届かない。握手のときの手の握り方、力の入れ具合も全部、「これがいい握手」というものがあるんです。きれいなお辞儀をする人は、「あ、いい人だな」と思いますよね。それと同じ。握手がきちんとできるだけで第一印象が良くなるんです。逆にヘタな握手だと、「やる気がないのかな」とか、「仲良くなりたくないのかな」とか。

──誤解を招くことがある。

水野 そうなんです。まず「握手がきちんとできる」という自信を持てれば、それでコミュニケーションがうまくいく。これは英語じゃなくて、コミュニケーションの問題ですよね。そこから始めるんです。それってレッスンの1回をまるまる使ってもいいくらい大切なことで、たとえば経営者の方が海外に進出したいときに、握手ひとつで「この人は何なんだ?」と思われるか、「この人と一緒に仕事したい」と思われるか。これもひとつのアピールなんですよ。

──水野さんは有名な企業とか大学とか、いろいろなところで英語を教えてこられた、いわば英語教育のスペシャリストですよね。それなのに最初は握手からっていう。そこが不思議だったんですけど、そういうことなんですね。

水野 英語を学びたければ英語から始めない、というアプローチです。私自身の話をすると、英語が大好きで、中学生の時にALTの先生がいらっしゃって話をするのが楽しかったんですね。でも、それは別に、この先生を使って英語の練習がしたいわけじゃなくて、仲良くなりたいんです。「とにかく英語、英語」というよりは、先生はどういう人なんだろう、日本に来てどう思ってるんだろう、とか。それが英語を勉強するモチベーションになったんですよね。

──先ほど言われたとおりですね。「英語」の前に、「コミュニケーションしたい」がある。

水野 もうひとつは、父が商社マンで英語が得意だったんです。その父が私によく言ってくれたのが、「ニューヨークに行ったら3歳の子供だって英語をしゃべるんだよ。英語ができるからって人として偉いわけじゃないんだよ」と。そういう教えも大きかったですね。

──それはたぶん、かなり幸せなケースだと思います。普通の学生は、英語を中高6年間、単語を覚えて文法を覚えて、テスト勉強をして、大学受験を何とか乗り切る。で、大学の4年間で全部忘れてしまい(笑)、社会人になってから、「ここでもっと英語が使えたら……」とか、「やりたいことがあるのに英語が……」とか、やっと必要性に気づいて、じゃあもう一回勉強してみようと思ったときに、もう何をしたらいいかわからない。これはまあ僕のことなんですけど(笑)、同じような人がたくさんいると思うんですよ。じゃあどうやって考え方を整理すればいいのか、ということが知りたいんです。

水野 それはね、海外事業部があるような大企業でも、実情はあまり変わらないです。私は企業の英語研修もやっていましたけど、みなさん読んだり書いたりはそれほど困らない。でも、スピーキングとかリスニングになると「ああ……」という感じなんですよね。でも、それは仕方ないんです。日本の英語教育は優れているところもたくさんあるけれども、音声教育をあまりしてこなかった。だから仕方ないことなんですよ。みんな「英語ができない」ではないんです。「知らない」だけ。「できない」と「知らない」って全然違いますよね? たとえばサッカーを始めたばかりの子供が「ドリブルってどうやるの?」というのと、ずっと練習してるのにドリブルができない、というのは違いますよね?

──やったことがないだけだと。能力の問題じゃないってことですか?

水野 もちろん、Jリーガーになろうと思ったらセンスとか能力が必要かもしれませんけど、ある程度までなら誰でもできるようになりますよね? 英語もサッカーや楽器と同じなんです。「できない」わけがないのに、今までの経験がトラウマになって、「できない」と思いこんでいる。でも本当は「知らない」だけ。何を知らないかっていうと音声的な面ですよね。話したり聞いたりというのは、やったことがないから知らない。だけど単語はたくさん知っているし、ある程度、読んだり書いたりもできる。知らない部分もあるけど、知っている部分もたくさんあるはずなんです。

──音声的なところがボコッと欠けている。ちょっといびつな形になっているというか。

水野 それって「できてない!」って責めるようなことじゃないでしょう? サッカーだって、ドリブルができてパスもできる、だけどシュートがちょっとヘタだったとして、「お前はサッカーができてない!」とは言わないですよね。「まだ練習するところがあるね」と言いますよ。英語も同じ。だから、まず自分の英語力の認識を変えてほしいんです。技術よりもまず認識。サッカーだって、自分に何ができるのか、何をもっと練習しなくちゃいけないのか、そういうことを分からないまま、「自分はサッカーができないんだ、できないんだ」と言われても、いやいやちょっと待て、一回落ち着けと(笑)。

──確かに(笑)。「ダメ」から始まるのもつらいですよね。

水野 それだとモチベーションも低いし、効率も悪いし、いい目標も立てられない。悪いことばっかりなんです。だから、まずは「できない」じゃなくて「知らない」と。学ぶべきところが残っている、チャレンジすることがいっぱいあるね、というふうに考え方を変えてもらいたいんです。そこが整えば「じゃあこれをやりましょうか」と言われても、すんなり始められると思うんですね。

──まず頭の中を整理して、握手や自己紹介から始めてみる。つまり、コミュニケーションを楽しむところから英語に入っていくということですね。

水野 自己紹介にしても、いきなり自分の趣味を語れとかじゃないですよ。「自分の名前を英語にしてみませんか?」ていうところから。いきなり英語はしゃべらせません(笑)。ほら、47都道府県を英語にするとどこがカッコいいか、みたいな話を聞いたことありません?

──あー。ありますね。

水野 たとえば静岡県なら、「silent hill」ですごくカッコいいんです。つまり静岡県はサッカーでもカッコいいんですけど、英語でもカッコいいんです(笑)。そうやって入っていけば、たとえば、「I am from silent hill, and my name is water field.」という具合に、出身地も自分の名前も英語で言えちゃう(笑)。

──なるほど(笑)。

水野 これはね、単純に楽しいんです。だからすごい自己紹介をやるんじゃなくて、知っている英語で遊んでみましょうと。で、握手の練習をするわけですね。大人が5点だとか20点だとか、あり得ない点数をつけられて(笑)。私は日本語禁止にはしません。リラックスして、楽しく。そうすると、実際に外国の方と会うときに「例のやつだな」と思って、いい握手ができる。そして、英語にするとこんな名前なんですよって話せば、外国の方にとって日本語の名前は覚えにくいですから、そこでもうひとつ話題ができる。そうなるともう、英語の勉強じゃないんですよ、これ。何だろう、自己紹介ゲーム(笑)。そんなふうにして、英語はできないもの、嫌なもの、という感覚をリセットしたいんですね。

──言い方がアレですけど、なんかリハビリみたいな……。

水野 そうかもしれない。でも結局、いろんなところで英語研修をやると、それで伸びるんですよね。「英語を勉強しなくていいよ」と言われると、できるようになる。たぶん人間って、「これをしなくちゃいけない」と言われるとプレッシャーが生まれて、できなくなっちゃうんだと思うんです。でも、「やってもいいし、やらなくてもいいし」なんて言われると、「あ、いいのか」と思うだけで力が抜けて、やれてしまう。

──つまり講座の目的としては、もう1回英語を好きになってもらって、とにかくコミュニケーションしてみましょうと。

水野 もちろんね、ビジネスマンの方で「絶対にTOEICで何点取らなきゃ」みたいな人もいるかもしれませんけど、私はそういう人にさえ同じことを言います。だって、そういう方は結局、テストが終わったら全部嫌になっちゃうんですよ。だからとにかく、自分の好きなことをやる。それが大事です。だってサッカーが好きな子供たちは、みんなで集まってサッカーしたら、夕方になってボールが見えなくなるまでやるでしょう? 大人に「もうやめろ」って言われてもやりたかったですよね? それがサッカーじゃなくて英語だったら、もう勝ったようなものじゃないですか(笑)。そのきっかけと、やり方のヒントをお伝えして、みんなでやってみようよ、というのがこの講座です。

──いいですね。まず水野さんと握手するところから。

水野 そうそう。私は一人ひとりとちゃんと握手をしますよ。できるところ、できないところはみんな違うから。そうやってみなさんの顔を見ながら、コミュニケーションしながらやっていきたいと思っています。

インタビュー後編はこちら

▼FROMONE SPORTS ACADEMYでは、水野さんから学べる「英語短期講座」を実施します▼


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