2016.02.29

競技人口増加と育成整備が最重要課題…日本サッカー界は必然的な“第二の澤”育成を

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長きに渡ってなでしこジャパンを牽引した澤(左)。小澤氏は、“第二の澤”の登場を待つのではなく、必然的に生み出す必要があると語る。 [写真]=Getty Images

 なでしこジャパンが準優勝に終わった2015年のカナダ女子ワールドカップでは、アメリカとの決勝前日の会見で宮間あやが発した「ブームではなく文化に」という発言に関心が集まった。その発言の文脈とは、宮間が大会中に「優勝(連覇)してからが本当のスタート」と繰り返してきた真意を、会見の席で聞かれたことに端を発する。

「前回優勝してから女子サッカーにすごく関心や興味を持ってもらえるようになった中で、とはいえこのワールドカップ前はまた国内のサッカーリーグや女子サッカーへの関心が徐々に薄れてしまっていたと思います。その中でこの大会で結果を出すことが、これから先、女子サッカーを背負っていく選手たち、またサッカーを始めようと思う少女たちに対して残せることかなと思っていました。そこに立ってからこそ、ブームではなくて文化になっていけるようにスタートが切れると思っています」

 2011年のドイツ女子ワールドカップ優勝を皮切りに、なでしこジャパンは国際舞台で好成績を収め、FIFAランキングでもトップ4に入る“強豪国”に定着した。しかし、国内の女子サッカー環境は未だ脆弱で、それは宮間の発言のみならず、カナダ女子ワールドカップ帰国直後にフットサル場で勤務する有吉佐織の姿が、たびたびメディアで取り上げられた現象などからも見て取れる。

 日本サッカー協会(以下、JFA)はカナダ女子ワールドカップ終了後の2015年10月、『なでしこvision』の総括を行い、改めて以下の3つの目標を定めた。

①サッカーを女性の身近なスポーツにする。
②なでしこジャパンが世界のトップクラスであり続ける。
③世界基準の『個』を育成する。

 ①では「2030年までに、登録女子プレーヤーを200,000人にする」、②では「2020年東京オリンピック、2023年FIFA女子ワールドカップで優勝する」という具体的目標も掲げられているが、女子サッカーが文化となるためにも、競技人口の増加と育成の整備は最重要課題だ。

 ドイツ、アメリカなど、女子サッカーの人気が定着し、女子トップリーグが整備されている強豪国では、女子の競技人口が100万人を超えているが、日本は2014年度の女子選手の登録数が4万8300人にとどまる。カナダ女子ワールドカップ後の帰国会見において、宮間は「女子サッカーらしく、サッカーを始めようとしている少女たちや頑張っている選手たちが、きちんと最後までサッカーを頑張れたと言えるような環境であったり、私たちを目標に頑張ろうとしている選手たちが最後までサッカーをできるように」と語った。しかし、女子プレーヤー登録数の問題においては、中学校の女子サッカー部が極端に少なく、4種から3種の登録数が半減(約2万人→約1万人)するという受け皿不足の問題が存在する。例えば、大儀見優季の出身クラブであり、神奈川県厚木市で活動している唯一の女子チーム、FC厚木ガールズの石野光人監督は「中学に進むとサッカー部がないため、陸上部、バスケットボール部に進む選手が未だに多い」と語る。

 また、女子サッカーのクラブチームは、男子サッカーの街クラブのように1学年30人、40人を集めたクラブ経営ができないため、指導者を雇うことが難しく、本業を持つボランティアコーチの情熱と犠牲の上に成立することが多い。指導面で高いレベル、きめ細かな指導を望めるはずもなく、育成現場を見る限り、2011年に“世界チャンピオン”となった影響や効果はあまり感じない。

 そうした育成面で抱える問題への解決策としてJFAは現在、福島、堺、今治に展開しているJFAアカデミー(女子)の充実と他地域展開を推進している。実際、リオ五輪出場を懸けたアジア最終予選のなでしこジャパンメンバーの中で、GK山根恵里奈、MF増矢理花、FW菅澤優衣香はJFAアカデミー出身であり、今後もなでしこジャパンにおけるJFAアカデミー出身選手の比率は増えていくだろう。

 ただし、ピラミッドの頂点にあたる代表の強化だけでは、今後も女子サッカーは国際大会で結果を出した時だけのブームで終わってしまう。本当の意味で女子サッカーを文化とする、サッカーを女性の身近なスポーツにするためには、取り上げてきたような様々な問題の解決と膨大な時間が必要だ。そのため、短期・中期的には女子サッカーが社会に歩み寄る姿勢を求めたい。

 大儀見は「日本には競技の枠を越えて、人として社会的に評価されるアスリートが少ないと感じる。だからこそ、自分は社会に敏感でいたいし、女子サッカーというスポーツの価値を高めて、社会全体に影響力を与えられるような選手になりたい」と述べる。日本サッカー界は、現役を引退した澤穂希や、現代表で主将を務める宮間のように、社会的影響力を大きく持つ選手の登場を“偶然”に待つべきではない。彼女たちのこれまでの成長プロセスから、“第二の澤”を“必然”で育成する方法やヒントを探り当てる必要があるのではないだろうか。

小澤一郎(おざわ・いちろう)
1977年9月1日生まれ。京都府出身。早稲田大学卒業後、社会人経験を経て2004年にスペイン移住。バレンシアCFのリポートを中心としたブログが話題となり、サッカージャーナリスト活動を開始する。2010年に帰国後は、日本とスペインでの指導経験から「育成」を主軸にしつつ、指導者目線の戦術論やインタビューを得意としている。多くの媒体で執筆活動を行い、テレビなどの各メディア、セミナーやイベントでのトークもこなす。著書に、「スペインサッカーの神髄」(サッカー小僧新書)、「FCバルセロナ史上最強の理由(共著)」(洋泉社)、「サッカー選手の正しい売り方」(カンゼン)、「サッカー日本代表の育て方」(朝日新聞出版)、「レアルマドリード モウリーニョの戦術分析 オフェンス編・ディフェンス編」(スタジオタッククリエイティブ)等。


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#女子サッカーを文化に