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野村明弘氏が教えるスタンフォード・ブリッジ観戦ガイド「パッションを体感せよ」

2015.11.20
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インタビュー・文=高尾太恵子/写真=野村明弘、ゲッティ イメージズ

 サッカーファンであれば、一度は夢見るのがサッカーの本場イングランドでの試合観戦ではないだろうか。クラブの伝統と歴史、ファンの熱量を肌で感じられるのも現地ならではの醍醐味。

 今回は、プレミアリーグをはじめ、チャンピオンズリーグ(CL)やJリーグなどサッカーを中心に、多くのスポーツ中継で実況を担当し、熱狂的なチェルシーファンとしても知られている野村明弘氏に「これぞ、本場の楽しみ方」をレクチャーしてもらった。

 チェルシーの魅力とは一体何か――。今シーズンのチェルシーは史上まれにみる不振に陥っている。だが、この状況だからこそ体感できる“パッション”がスタンフォード・ブリッジにはあると野村氏は断言する。

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心からチェルシーファンになったきっかけは“ラニエリ・コール”

――野村さんはプレミアリーグを現地で観戦するために、2003年9月にテレビ局を退社されてロンドンへ留学されました。当時からチェルシーのファンだったのですか?

野村明弘(以下、野村) 実は、留学した当時はまだチェルシーファンではありませんでした。アーセナルがそのシーズンを無敗優勝してしまうほど強くて、チケットが全く取れなかった。一方でチェルシーはビッグネームがいながらもチケットが簡単に手に入ったんです。だからリーグ戦とCLのホームゲームは欠かさず見に行っていました。

――チェルシーにハマったきっかけは?

野村 完全にこのチームを愛するようになったのは2003-04シーズン、モナコとのCL準決勝セカンドレグを観戦した時です。その試合は2-2で引き分けて、結局敗退(2戦合計:3-5)しました。チェルシーにとってはプレミアリーグ制覇の夢も破れ、CLの舞台も終わった。指揮を執っていたクラウディオ・ラニエリの解任も濃厚になりました。でも、当時のチェルシーファンはラニエリをすごく愛していたので、試合終了の約3分前から“ラニエリ・コール”を始めたんです。敗退が決定しているにも関わらず、ファンはコールを止めない。さらに、その試合で決定機を何度も外していたエイドゥル・グジョンセンは責任を感じたのでしょう。終了のホイッスルと同時にスタンドに向かって謝るような体勢で泣き崩れました。そこにジョン・テリーが歩み寄り、「一緒に胸を張ろうぜ」とグジョンセンの肩を抱きかかえた。ファンと選手、そして監督が一体となった瞬間でした。僕の中でチェルシーファンはもっとクールなイメージだったので、この温かさには驚きました。当時、僕はアーセナルのサッカーも見ていたんですが、正直、アーセナルのほうが美しいサッカーをしていました。でも、チェルシーを応援する人たちの気持ちに触れた時、「このチームいいな」って素直に思ったんですよ。

――そういった心の琴線に触れるような体験は現地でしか味わえないですよね。

野村 そうなんですよ。基本的にイングランド人はそそくさと帰るのに、あの時ばかりは試合が終わってからもずっとチャント(応援歌)を歌っていました。その光景が珍しかったのもありますけど、僕は選手やファンのパッションに惚れてしまいました。

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――当時と比べて、今のチェルシーにパッションが足りないと感じたことはないですか?

野村 ありますよ。選手のパッションで言えば、やはりテリーと(フランク)ランパードの存在が大きかった。それでもファンは変わりません。この前のCLディナモ・キエフ戦で負ければ、(ジョゼ)モウリーニョが解任だと報道されていました(グループステージ第4節、2-1で勝利)が、先制点と終盤に勝ち越し点を決めた後に“モウリーニョ・コール”が起きていました。残念ながら現地で観戦することはできなかったのですが、恐らくラニエリの時と同様に「俺たちは信じている」というメッセージが込められていたと思います。確かにチームは変化し続けていますが、ファンのパッションは何一つ変わっていない。改めてそう感じました。

チェルシーの成績が安定しないからこそ、危機的状況から脱出するような勝利を収めたり、順位を落とすような負け方をした時にはモウリーニョ・コールが聞けるかもしれません。言い方は悪いですけど、現地観戦をするならば今はいいタイミングかもしれないですね。泣きながら叫び続けるファンもいて、実際のスタジアムだと周囲の熱量や信じる想いが伝わってきます。ぜひ、一度は現地で体感してほしいですね。

現地観戦の醍醐味はボックス型スタジアムとチャント

――野村さんは、実際に現地でどれくらい試合を観戦されましたか?

野村 全部で100試合くらいですね。そのうち半分がチェルシーの試合でした。

――チェルシーの本拠地スタンフォード・ブリッジで観戦する醍醐味を教えてください。

野村 やっぱりイングランド特有のボックス型スタジアムを体感してほしいですね。どこから見てもピッチが近いので、選手の声やボールを蹴る音が聞こえます。一番前の席だったら、選手がスローインする時に手を伸ばせば触れるくらいの近距離で見ることができます。飛んできたボールを選手に手渡しできるチャンスだってありますよ(笑)。選手の一挙手一投足からは目が離せませんし、息遣いすら肌で感じることができます。そろそろスタンフォード・ブリッジも改修されるので、昔ながらのボックス型を味わえるのはラストチャンスです。

ピッチとの距離が近いので、選手のオーラも感じますよ。体の大きさや動きのスピードを間近で見られるのは大きな魅力です。パススピードはとても速いですし、意外とガタイが良い選手の足元が上手かったり(笑)。いろいろな発見があります。

あとは、何と言ってもチャント。ホームゲームは日本と違ってコールリーダーがいないのがイングランドの特徴です。だから、誰でもコールリーダーになれます。目の前のプレーに対して絶妙なタイミングでチャントを歌った者勝ち。そのチャントに共感した人が次々に歌い出して、最後は約4万人の大合唱になる。これには鳥肌が立ちますよ。もし、勇気があるんだったらチャントを覚えて挑戦してみてください。ただし、変なタイミングで歌い出すと、浮いてしまうだけなので気をつけてください(笑)。加えて、イングランド人は替え歌をします。タイミングだけではなく、チャントを上手く替え歌した人にみんながついていきます。

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――そういった即興のチャントも楽しみの一つですね。

野村 そうですね。時事ネタを盛り込んだり、相手チームの状況を揶揄したりと上手いこと言ってきますから。英語が堪能な人が周りにいたら「今、何て言ったの?」と聞いてもらうと面白いはずです。

――野村さんは実際に歌い出したことがありますか?

野村 僕は勇気がなかったですね(苦笑)。一緒に歌ったりはしましたが。


――少し話を変えて、今のチーム状況についてお聞きしたいと思います。昨シーズンはプレミアリーグとリーグカップの二冠を達成したチェルシーですが、現在は第12節を終えて16位(3勝2分け7敗)と信じ難い不振にあえいでいます。

野村 今シーズンはいろいろなことが重なって、上手くいっていない印象です。昨年から選手層の薄さを指摘されていたにも関わらず、その部分を補強しなかった。モウリーニョが悪いのか、フロントの責任なのかは分かりません。何より、チーム内での競争がなくなったのが一番の原因だと考えます。特定の選手を使い続けなければならないので、選手自身も疲労してくる。だから良いパフォーマンスができない。でも、競争がないから少しさぼっても起用してもらえる……モウリーニョのチームではあり得ない状況ですよ。昔、途中出場したジョー・コールが得点したけれど、守備をしなかったことを理由に途中でベンチに下げられました。そこから彼は高い守備力を備えた選手にまで成長しました。今は、同じレベルの選手が他にいないから競争心が芽生えない。テリーを外してみたけど、代わりに出る選手が活躍するわけでもない。負のスパイラルに陥っていて、やることなすこと裏目に出ている気がしてなりません。たとえ、今冬の移籍で選手をうまく補強できたとしても優勝は難しいでしょう。少し長い目で見てあげることが必要だと思っています。

――とはいえ、これ以上負けるわけにはいきません。21日のノリッジ戦では連敗にストップをかけたいところです。

野村 いつも通りの戦いができれば大丈夫。前節のストーク戦は負けましたけれど、コンディションが戻ってきた選手が多かったし、このどん底から這い上がっていくしかありません。インターナショナルマッチでけが人がでなければ、問題なく勝てると思いますよ。もしノリッジに負けたら、それこそモウリーニョ解任の可能性が高まってきますね。

――チェルシーファンにとって、モウリーニョはどのような存在ですか?

野村 ファンにとって、モウリーニョはチェルシーを「戦えるチーム」にしてくれた監督です。CL制覇を成し遂げた監督は違ったけれど、モウリーニョがまず改革をしてくれたと思っています。ファンは今でもモウリーニョを愛しているし、信じていますよ。不適切発言で騒がれることも多いですが、モウリーニョは外に敵を作って身内を守るタイプ。今は身内とも揉めているので上手くいっていないんですが……。でも、僕は理想の上司だと思います。好きなことをやらせてくれて、しっかりと責任を取ってくれる上司だから、ファンは信じてついて行くんです。

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試合観戦以外のおすすめはミュージカル鑑賞

――これだけ低迷していてもモウリーニョを支持するとは、まさに真のチェルシーファンですね。では、試合観戦以外で、野村さんだからこそ知るロンドンやスタンフォード・ブリッジの楽しみ方を教えてください。

野村 スタジアムツアーは必見です。会場のあらゆる場所を見学できるのはもちろん、ガイドが冗談を交えながら、選手の裏話などを教えてくれます。僕が行った時は、イェスパー・グレンケアがアストンマーティンの車を購入して練習場の駐車場に置いていたら、他の選手が「あれいいな」と言い出したらしく、数日後には同じ車が複数台並んでいたそうです(笑)。他にも、アレックス・ファーガソンがベンチに座るとガムの跡がたくさんつくとか。嘘か本当か分からないですけど(笑)。面白いので絶対に行ったほうがいいですよ!

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土日の試合観戦だとキックオフ時間が早いので、夜はミュージカル鑑賞をおすすめします。ロンドンではいろいろな演目をロングランでやっています。僕は『レ・ミゼラブル』が一番好きですね。映画で予習して行くのもありでしょう。ミュージカルの舞台もサッカーのスタジアムと同様にコンパクトで縦長にできています。ピッチを見下ろす感覚で舞台を見ることができるので迫力満点。ぜひ芸術にも触れてほしいですね。

メインの観光は、ガイドブックに載っているお約束のところに行けば大丈夫でしょう。他には、ノッティング・ヒルに映画『ノッティングヒルの恋人』の舞台になった場所があるので、実際の撮影場所を巡るのもオシャレでいいかもしれません。

――食事はどうでしょう?

野村 地元料理は日本人の口に合うとは言い難いですね……。外国料理は美味しいんですけど。

――ちなみにスタジアムグルメはありますか?

野村 ありますけど、正直、イングランドのスタジアムグルメはおすすめしないです(苦笑)。一番おすすめしないのがハンバーガー。スタンフォード・ブリッジに着くとものすごくいい匂いが漂ってくるんですけど、値段も高いし、味にはがっかりします。もし食べるのであれば、売店でキドニーパイやミートパイを買ってみるのはありかと思います。イングランド人にとってはパイと紅茶がセット。子どもの頃、父親にパイを買ってもらって紅茶で体を温めながらサッカー観戦をした、という選手のエピソードはよく聞きますよ。

現地ファンと同じようにスタンフォード・ブリッジの前にあるパブに入って、お酒を飲んでからスタジアムに行くのもいいと思いますよ。ビールを飲みながら、ビネガー(お酢)をかけたチップス(フライドポテト)を食べるのがイングランド流。ビールを飲みながら「今日の試合はどうなるかな」とサッカー談義に花を咲かせ、試合開始直前に席に着くのがイングランドスタイルです。

――逆に、「これは気を付けて」という注意点は?

野村 ロンドンは他の国に比べてそこまで危険ではないですが、当然日本よりもトラップはあります。特にスリ師はアジア人を狙っているので要注意です。あとは電車やバスなどで移動する時、絶対に行き先表示を信じないでください。分岐点の手前の駅でアナウンスを聞いたりしておかないと、全く違う駅に着く羽目になりますよ(笑)。バスも乗っている途中でいきなり「ラストストップ(終点)」と言って停まったり。日本感覚で行くと騙されるので、時間には余裕を持って行動してください。僕は、キックオフの2時間前に着くように家を出たのに、スタジアムに着いたのは試合直前ということがありましたから。でも、間違いなく日本人ファンは歓迎されるので、せっかく行くのであればスタジアムで現地の人と交流を持ってみるといいですよ。ぜひ、スタンフォード・ブリッジでの試合観戦を楽しんでください!

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 チェルシーとスポンサー契約を結ぶ「横浜ゴム」は、チェルシーのホームゲーム観戦旅行やユニフォームが当たるキャンペーンを開催中。クイズに答えて応募すると、抽選で5組10名様にチェルシーの本拠地スタンフォード・ブリッジで行われる試合の観戦チケット(3泊5日宿泊券・往復航空券付)が当たる。ぜひ、現地で観戦しよう!

By サッカーキング編集部

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