FOLLOW US

世界王者バルセロナを支える闘将、カルレス・プジョルが「世界一のDF」である理由

2012.02.15

 アウェーでレヴァークーゼンに快勝。チャンピオンズリーグ2連覇に向け、邁進する王者を支えるのは闘将カルレス・プジョルだ。33歳にして今なおトップシーンで存在感を示し続けるこの“バルサ産の名DF”について、スポーツライターの鈴木智之氏がプジョルのパーソナルコーチを担当していたダビッド・エルナンデス氏に話を聞いた。

ダヴィド

 クラブワールドカップの優勝で、名実ともに世界一に輝いたFCバルセロナ。チームを長きに渡って支えるのが、キャプテンのカルレス・プジョルだ。バルサの闘将は33歳を迎えてもなお、衰える気配は一向に感じられない。それどころか、年を重ねるごとに進化を続けているように見える。

 なぜ、プジョルはパフォーマンスを落とすことなく、トップレベルに君臨し続けられるのだろうか? そのカギを握るのが、「サッカーサービス」のダビッド・エルナンデスだ。カタルーニャサッカー協会やヨハン・クライフ大学で指導インストラクターを務めるダビッドは、バルサのメソッド部門の責任者であるジョアン・ビラとともに「サッカーサービス」という組織を作り、プロ選手のコンサルティングを行なっている。プジョルのパーソナルコーチをつとめていたダビッドに「プジョルが世界No.1 DFである理由」を聞いた。

Q:プジョルのプレーを見ていると、とても33歳とは思えません。スピード、パワーともにキャリアのピークを迎えているように見えます。なぜプジョルは長い間、トップレベルの選手でいられるのでしょうか。

ダビッド まず言えるのは、プジョルはバルサという世界最高のクラブのキャプテンで、数々のタイトルを獲得しているにも関わらず、「おれは世界一だ」などと満足する素振りを見せたことがないこと。それどころか「どうすればもっとうまくなるか」を常に考えています。自分のプレーを改善したい、良い選手になりたいという意欲は飛び抜けています。彼が世界トップレベルのDFで在り続ける理由のひとつとして、並外れた向上心の強さがあります。

Q:プジョルがディフェンダーとして優れている部分は、どこだと分析していますか?

ダビッド 多くの人はプジョルのフィジカル面、そしてハートの強さに注目しますが、彼の長所はそれだけではありません。DFとして、いつボールに行くのか、いつスペースを埋めるのか、いつディフェンスラインを修正するのかといった、状況把握と判断の質がずば抜けています。その部分において、彼は世界でトップの選手です。ただしそれは、多くの人にはわかりずらい部分です。だから、我々はプジョルと仕事を始めたのです。「プジョルはフィジカルに長けた選手だから、年令を重ねるごとに衰えるだろう」と、誰もが言いました。それを覆すのが、サッカーサービスの仕事です。

Q:プジョルの長所を具体的なプレーで説明してもらえますか?

ダビッド たとえば、守備の場面でボールが自分から遠いサイドにあるとき、100%のパワーとスピードで戻る選手はなかなかいません。『近くにいる味方がディフェンスに入るだろう』と考えて任せたり、『もう間に合わないな』と思って、100%の力では戻らないものです。しかし、プジョルは違います。どんな場面でも、常に100%の力で守備に戻ります。彼のプレーを見ていると、ゴールを割るか割らないか、ギリギリのところでクリアする場面がありますが、それは的確な判断と、どんな状況でもあきらめないメンタリティの賜物なのです。

Q:プジョルのプレーを改善・向上するためにどんなことをしたのでしょうか?

ダビッド プロ選手のコンサルティングをする方法は2つあります。1つは選手の長所を伸ばすこと。もう1つは修正点を改善、向上させること。プジョルは1つのアクションが終わったあとに、プレーを止めずに何度もアクションを続けることができる選手です。彼の特性を試合の中でさらに数多く出すことを考え、スペースを埋める動き、ボールホルダーへの寄せなど、彼が実際にプレーした試合の映像を使い、いままでできていたプレーを良くするために話をしました。ほかにも、彼と同じポジションの選手の良いプレーを見せ、ディスカッションをしました。プジョルはその映像を何度も見て、普段のトレーニングや試合の中で活かしています。

Q:クラブワールドカップでは、若くて伸び盛りのネイマールを、ほぼパーフェクトに抑えました。

ダビッド ヨーイドンで競争したら、ネイマールのほうが速いかもしれません。しかし、プジョルは試合のなかでどこにポジションを取ればいいのかを素早く判断し、相手よりも先に動き出すことができます。動き出しのスピードが1秒違うだけで、ものすごく優位に立つことができます。サッカーは陸上と違って、相手よりも先に動くことができるスポーツだからです。ネイマールとマッチアップしたときも、ポジショニングで優位に立っていました。重要なのは、どのタイミングで、どこへ走り始めるかです。プジョルは動き出しのスピードとフィジカル的なスピードを備えているので、ネイマールのような選手でも封じ込めることができます。

Q:メッシとプジョルが1対1で対峙したら、どちらが勝るのでしょう?

ダビッド それは難しい質問ですね(笑)。世界トップの攻撃の選手が、世界トップの守備の選手と対峙するのですから。お互いに世界一の選手を相手に練習しているので、試合になったときにプレーしやすいのは間違いないでしょう。ちなみに練習では、1対1で対峙するシチュエーションはほとんどありません。DFの選手に重要なことは、どの選手を観るのか、どの選手についていかなくてはいけないのかを見極めることです。その点でも、プジョルは優れた選手です。ラウレアーノ・ルイス(1970年代にバルサの下部組織で指導し、後にトップチームの監督を務めた人物)は、プジョルのことを「ミステリオ(不思議)」な選手だと言いました。ピンチになるとどこからともなく現れ、チームを救うからです。相手チームの選手からすると、プジョルは幽霊や透明人間のように見えることでしょう(笑)。メッシやシャビ、イニエスタはよくボールに絡んでいるので、すぐ目につきます。しかしプジョルはいないかのように見えて、重要なときに必ず現れる。そういう選手が後ろで支えているから、前線の選手は安心してプレーすることができます。それが世界中の人々を魅了する、バルサの攻撃的なサッカーにつながっているのです。

■関連リンク
バルサの育成を知り尽くしたサッカーサービスの指導メソッド
バルセロナの強さの秘密は「チームプレー」にある
カンテラ時代のコーチが語る「セスク・ファブレガス(バルセロナ)」の才能
元チームメイトが語るイニエスタの少年時代

■指導者向けトレーニングDVD『知のサッカー(Think soccer, express your potential.)』
ダビッド・エルナンデスをはじめ、FCバルセロナのメトドロヒーア(メソッド部門)のディレクターとして、練習内容の分析・改善、コーチの育成を担うジョアン・ビラ率いる世界的プロ育成者集団「SOCCERSERVICES,SCP」。彼らが初めて、日本のために開発した「状況把握」「判断」を鍛えるトレーニングDVDが発売。DVD2枚組、U-12世代向けの32の指導メニュー。オリジナル指導書(非売品)付き。Twitterのアカウントは、@thinksoccer
・『知のサッカー』スペシャルサイト http://www.think-soccer.com/

■取材・文:鈴木智之
スポーツライター。『サッカークリニック』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書多数。最新刊は『ゲキサカ』で好評連載中の『青春サッカー小説  蹴夢 KERU-YUME』(講談社)。「読めばサッカーがうまくなる」をモットーに、練習の大切さ、うまくなるために必要な情報を小説の中で表現した意欲作。TwitterID:@suzukikaku
http://suzukilog.seesaa.net/

■取材協力:Amazing Sports Lab Japan

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO