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松田直樹を忘れない。“最高のサッカー小僧”に捧げられたサッカー界からの『応援歌』

2012.01.22

[写真]=嶋田健一

 日本サッカー界が悲しみに暮れた夏の日から早5カ月。サッカーを愛してやまない男に捧げるメモリアルゲームが日産スタジアムで開催された。

「直樹が愛して止まないサッカーに触れた仲間が、直樹のサッカーに熱くなったポーター、ファンがこんなに集まりました。改めて、直樹はみんなに愛されていたと実感しています。恐らく、このスタジアムのどこかにいるであろう直樹が嫉妬するぐらい、みんなでサッカーを楽しんでやりましょう。それが、あいつが一番望んでいることであり、一番喜ぶことだと思います。今日はみんなの力を貸してください」

 副実行委員長・佐藤由紀彦の挨拶後、全メンバーが『3』の形に刈られたピッチの上に並び、30秒間の黙祷を捧げてスタートした『松田直樹メモリアルゲーム』。第1試合の横浜F・マリノス・OB vs 松本山雅FCは松本山雅FCが、第2試合の横浜F・マリノス・OB vs Naoki Friendsは横浜F・マリノス・OBが勝利を収めた。

 スコアはいずれも1-0。川口能活が試合後に「1-0は、あいつらしい勝ち方。守って相手の隙を突いて勝ちにいくのが彼のスタイル。そのスタイルを表現できた」と語ったように、松田直樹というサッカー選手を追悼する上で“ふさわしいスコア”だったのかもしれない。

 第1試合と第2試合の間には、松田直樹と親交の深かったゆずが『逢いたい』を熱唱。「もしも願いが叶うのなら、もう一度…逢いたい、逢いたい、忘れはしない。あなたは今も心(ここ)にいるから。ありがとう、ありがとう。伝えきれない想いよ、どうか届いて欲しい。声も温もりも、優しい微笑みも、心(ここ)にいるから。逢いたい」という歌声は、この日、日産スタジアムに集結したサッカー界の仲間たちの声とともに、“スタジアムのどこかにいる”松田の耳にも届いたことだろう。

 Naoki Friendsを率いたフィリップ・トルシエは言う。「直樹に思いを伝えたかった」と。

「かつての代表の選手たちとともに時間を過ごし、自分が代表を率いていた当時を思い出した。直樹との思い出はたくさんある。直樹と一緒にワールドカップ初勝利を挙げられたことは素晴らしい経験だった。練習では厳しく接することも多く、反発することもあったが、オフでは楽しい思い出ばかりだ。北の丸(2002年ワールドカップの宿舎)で直樹にプールへ突き落とされたことをよく覚えているよ」

「直樹を愛しているサポーターと、家族のような代表選手たち。みんなが集まったことを、直樹は誇りに思っているだろう。きっと直樹はここに一緒にいると思うし、喜んでいると思う」

「(フラット3は)直樹がいなければやる意味がない。森岡(隆三)、宮本(恒靖)、中田浩二がフラット3を理解していたが、直樹の存在は不可欠だ。今日は4バックでやるのが妥当だったと思う」

 トルシエが名前を挙げた森岡は「あいつがうらやむぐらい楽しんだし、そういうところがスタジアムを通してあいつに伝わればいい」と語り、宮本は「マツは、プレーで気持ちを伝えることのできる選手。そういう選手はそう多くない。今日のような追悼試合は日本ではこれまでなかったと思うし、サッカーがまた次のステージに近づいたように感じる」と話し、中田浩二は「たくさん世話をしてもらったけど、一番の思い出は、(2002年)ワールドカップのロシア戦で一緒にプレーして、勝てたこと。あの勝利を一緒に味わえたことが大きな思い出」だと振り返った。

 戦友として時間を共有した者がいれば、ライバルとしてしのぎを削った者もいる。想いはそれぞれだ。

安永聡太郎(横浜F・マリノス・OB)
「左のももを痛めていて、(ゴールについては)シュートを打ったときも軸足はふわっとした感じだった。でも、シュートを打つ前に太陽が出てきて、それを見ながら『やっと来たのか』って思ったので、特に声が聞こえたとかではないですけど(笑)、もしかしたらマツが降りてきたのかもしれないですね」

「最初にこの試合を企画したときは、『満員にしたい』と言いつつも不安でいっぱいでした。それはやっぱり本人がいないからです。そこが引退試合とは違う。でも、たくさんの人が試合のことを告知してくれたし、ファンの方の口コミなどもあって、今日は4万人も集まってくれて、試合中は泣かないように必死でした。いろんな絆を感じられた1日でした」

川口能活(横浜F・マリノス・OB)
「思い出はいっぱいある。あいつとはサッカーの話ばかり、サッカーの話しかしなかった。最初は衝突するときもあったけど、だんだん衝突から信頼関係に変わってきて、彼と過ごした中で、スポットの思い出ではないですが、彼と少しづつ信頼関係を築いて“戦友”になっていったこと、その経緯が一番の思い出です」

「今日の試合は、彼の気持ちを伝えられた。1-0で勝ったのが、彼らしい勝ち方。守って隙を突いて勝ちに行くのが彼のスタイル。そのスタイルを表現できたと思う」

水沼貴史(横浜F・マリノス・OB監督)
「みんな一生懸命にプレーしてくれた。今できる100パーセントを出してくれた。『マツを思うのはいいけど、わがままなプレーは駄目だ』と試合前は伝えました。ただ言えるのは、本当に素晴らしいメモリアルゲームができた。集まってくれたお客さん、選手やスタッフのみんなに感謝しています」

井原正巳(横浜F・マリノス・OB)
「マツのために多くの人が集まった。それだけ、彼を思う人がたくさんいるということだと思う。今日は『マツのために』、それだけがテーマだった」

「(一番の思い出は)代表から帰ってきてしまったこと。『代表はそんなものじゃない』と思いつつも、あいつらしいなと思った。マツは本当にスケールの大きな選手だった。マリノスにも後から入ってきて、いつの間にか僕を追い越していった。彼と一緒にやれて本当に良かった」

中村俊輔(横浜F・マリノス・OB)
「マツさんの人望だと思う。一緒にプレーしただけでは、なかなか(今日のような試合に)来ない。それでもこうやって、トッププレーヤーが集まる。マツさんのプレーに引かれたからこそ、みんなOKしてくれたんだと思う」

三浦知良(Naoki Friends)
「いつもどおり楽しむことを心掛けた。楽しんでやることが一番の供養になると思うし、ファンも楽しめると思ったんで。日本を代表する選手たちとプレーできてうれしかった」

「1995年のチャンピオンシップで負けた時、彼はまだ1年目だったけど、ルーキーらしからぬクレバーな選手が出てきたなと思った。抑えられて悔しかった。でも、ホムスタのこけら落としとなった神戸とマリノスの試合では、マツと中澤(佑二)の間を突破して、自分がやってやった。その2つが大きな思い出です」

中田英寿(Naoki Friends)
「僕とマツはサッカーをやり始めて中学時代に出会ったが、僕とマツのつながりはサッカーであったし、サッカーで始まり、サッカーで終わったと思います。14歳に出会ってから、最後まで彼との関係、距離感は変わらなかった。こういう試合をやらせてもらったことに非常に感謝しているし、僕らの中でサッカーは非常に大切なものだったと思います」

「マツははっきりモノをいう性格だし、裏表のない人間だった。それが僕にとって心地良かった。サッカーと遊ぶときの差がある選手だったが、遊ぶときは非常にいたずら好きな人間で、僕はそれをフォローする側だった」

名波浩(Naoki Friends)
「松田直樹という人間に共感し、憧れる人が本当にたくさんいるんだと実感した」

「上下関係を一切気にせずに、突っ走っていく強さがあった。ああいう選手が世界に出ていく選手だと思った。レジェンドだと思うし、僕も憧れる存在ですね」

中澤佑二(横浜F・マリノス・OB)
「一度にこれだけの人が集まることはそうそうないので、それがマツさんのすごいところだと思うし、マツさんの人柄が象徴されていると感じた」

「マツさんは、誰彼かまわず、直球勝負の人だった。来るもの拒まずみないな、器の大きい人。やんちゃだし、強い印象もあるけど、それはサッカーへの思いが強いから。何より、今日は朝に雨も降っていたし、寒い中、4万人も入れない。さすがです」

栗原勇蔵(横浜F・マリノス・OB)
「人徳があるし、プレーに関してはパーフェクトな人だった。ときに、メンタルの部分で少し弱いところもあったけど、それ以上に熱いハートを持っている選手でした」

森島寛晃(Naoki Friends)
「これだけのサポーターから愛されている存在だということが改めて分かった。周りもそうだし、その熱さで人を惹きつける存在だった。こういうメンバーとまたプレーできたこともうれしかったです」

反町康治監督(松本山雅FC監督)
「これだけたくさんのお客さんが来てくれる。松田の功績は本当に大きいんだなと感じた」

木島良輔(松本山雅FC)
「一緒にやっている気でプレーした。映像を見たり、ゆずさんの歌を聞くと、ぐっと来たけど、気持ちを切り替えなきゃいけないなと思った。(今季は)『6位は狙うぞ』とマツは言うと思う。僕たちが言い続けて若い選手たちにも、それを浸透させていきたい。以前は『(現役は)33歳までかな』とも思っていたけど、今はマツのように長くやろうかなという気持ちになった」

 試合後、メンバー全員で記念撮影を行い、背番号3のTシャツを着た選手たちが場内を一周。会場は「ナオキ!」コールに包まれた。

「みんなの思いがきっと届いたと思います」

 三浦知良が話してくれたように、サッカー界からの熱い『応援歌』は、“最高のサッカー小僧”の耳にしっかりと届いたに違いない。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(@SoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではCover&Cover Interviewページを担当。

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