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ペップ・グアルディオラ監督の戦術解体新書(1)~多くの怪我人により戦術を変更したペップ~

2014.12.23

Getty Images

怪我人が多いバイエルンの現状

バドシュトゥバー
Photo by Gettiy Images

 今季のバイエルンは、多くの怪我人を抱えたままウインターブレイクに入ることになった。怪我人の中には、レギュラークラスの選手が何人もいる。DFのホルガー・バドシュトゥーバー、ダヴィド・アラバ、MFのハビ・マルティネス、チアゴ・アルカンタラは、今も復帰できないでいる。11月18日の練習中には、DFのフィリップ・ラームが足首骨折で3カ月の重症を負った。

 さらに、12月16日に行なわれた第16節のSCフライブルク戦では、DFのメディ・ベナティア、MFのシャビ・アロンソ、FWのロベルト・レヴァンドフスキが怪我によって途中交代している。そして、4日後の19日にあった第17節のFSVマインツ05戦には、前節に途中交代した彼ら三人は大事をとって出場を控えた。長期離脱するほどの怪我ではないことが幸いだった。

 2015年の最初の試合は、1月30日にある第18節、VfLヴォルフスブルク戦からである。ウインターブレイク明けまでに、どのようなメンバーで試合に臨めるのかにより、ペップ・グアルディオラ監督の戦術に大きな変化をもたらすかもしれない。

予想フォーメーションを鵜呑みにするな!

 サッカーの試合をテレビ中継で見ていると、試合開始前にスターティングメンバーの名前が記された予想フォーメーション図が画面に映し出される。たとえば、GKを含めて配列すれば[1-4-2-3-1]に並ばれた図とか、[1-4-3-3]で中盤の3人は逆三角形になっている図とかである。

 バイエルンの試合を見るときは、図式化された予想フォーメーションの配置を決して鵜呑みにしてはならない。画面に映るフォーメーション図を信じて試合を見てしまったら、間違った認識のまま観戦することになってしまうからだ。

 2014年9月30日に行なわれたUEFAチャンピオンズリーグ・グループリーグEの戦いで、バイエルンはCSKAモスクワと試合をした。このとき、UEFAが予想したバイエルンのフォーメーションがテレビ画面に映し出される。

 最終ラインにアラバ、ダンテ、ベナティアの三人が並ぶ3バックの[3-5-2]の布陣だった。実際に、試合が始まって選手の配列をよく見てみると、左SBのフアン・ベルナトと右SBのラームの間に、CBのダンテとベナティアが並ぶ4バックの4-4-2の配置だった。

 逆に、テレビが知らせる予想フォーメーションが、実際の試合と一致している場合がある。そうしたときでも、バイエルンに限っては予想された情報を鵜呑みにしてはならない。

アラバの変則的ポジショニングにペップの思考の斬新さを見る

ダヴィド・アラバ

 2014年10月4日にあったブンデスリーガの第7節、バイエルン対ハノーファー96戦では、テレビ画面に[4-3-3]のフォーメーションで選手が配置された図が映し出される。この図を目にした多くの観戦者は、[4-3-3]のDF4人のうち両SBを務めるアラバとラフィーニャの動きに関して、一般的なSBのプレースタイルをイメージするかもしれない。

 一般的なSBのプレースタイルとは、タッチライン沿いを縦に駆け上がってセンタリングを上げるとか、3トップのサイドにいるWGやインサイドハーフと協力してサイドアタックを仕かけるなどであろう。しかし、ピッチの中で行なわれているSBの動きは、観戦者の従来のイメージを徹底的に打ち砕くものだ。

 バイエルンのSBの動きは、タッチライン沿いを縦には駆け上がらない。特に、左SBのアラバは、アンカーのアロンソの真横に位置する。そうすると、アラバの目の前にいるMFのベルナトは、タッチライン沿いにポジションを代える。次に、ベルナトの前にいた左WGのシェルダン・シャキリは、右に動いてペナルティーアーク前に移動する。今までそこにいた選手が次の場所に移動して、またその選手が別の場所に移動していく。試合中だと言うのに、予め次の移動場所が決まっていたかのように、選手がローテションしていくのである。

 さらに、前述したCSKAモスクワ戦での[4-4-2]のシステムの場合、中盤の4人の配置は、ボックス型でもなくダイヤモンド型でもない。言うなれば、変則的システム型と呼べる形をしている。

 左MFのアラバが常に浮いた状態でポジショニングをしているのだ。アラバは、攻撃の際に相手のDFとMFの間にいて、守備の際にはアンカーのアロンソの横にいる。この場合の浮いた状態とは、攻守において相手とマッチアップにならないポジションにいるということである。

「このポジションの選手はこうした動きをするだろう」という観戦者が当たり前だと思っている認識は、グアルディオラ監督の戦術においてはまったく通用しない。今まで見たことのない何かを、監督はピッチの中で示してくれるのだ。それが、グアルディオラ監督の指揮するバイエルンのサッカーであり、最もモダンで斬新なシステムを観戦者に提供してくれるのである。

 しかし、アラバが怪我によって試合に出場できない状況になったとき、監督はシステムの変更を余儀なくされたのであった。

[4-1-4-1]というシステムで「引いて守る」相手と戦う

ミュラー

 アラバが欠場して以降は、同じポジションの左SBをベルナトが務める場合が多い。最近の試合を参考にすれば、第16節のSCフライブルク戦に採用したシステムは、[4-1-4-1]であった。グアルディオラ監督は、ベナルトにはアラバに課したようなポジショニングを求めなかった。ベナルトは、タッチラインを駆け上がって縦に突破して、MFと協力しながら相手陣内深く切り込んでセンタリングを上げる、という簡単にイメージできるSBの仕事をした。

[4-1-4-1]のシステムは、右から4人のDFラフィーニャ、ベナティア、ダンテ、ベルナトがいて、彼らの前にアロンソがアンカー役を務める。MFの4人は、アルイェン・ロッベン、トーマス・ミュラー、マリオ・ゲッツェ、フランク・リベリがいる。1トップにはレヴァンドフスキがかまえる。

 FWの役割に関して昨季との違いを言えば、アトレティコ・マドリードに移籍したマリオ・マンジュキッチよりも、レヴァンドフスキの方がグアルディオラ監督の意向に添ってプレーしている。たとえば、サイドに流れてボールを受けてクロスを入れ、あるいは、トップ下にポジションチェンジしてパスを供給する役目を担う。

 グアルディオラ監督は、システムを進化させて勝利することに徹底的にこだわってきた。その彼が、怪我人の多さによって現状のシステムを維持することさえ難しくなっていた。

 厳しい状況にあるバイエルンに対して、第16節で戦ったSCフライブルクは、アウェイで強豪チームと戦わなければならないという条件もあって、DFを5人にした5バックを採用し、「引いて守って」という作戦にでてきた。ブロックを敷かれて引いた相手を崩してどのように得点を奪うのかというテーマは、サッカー戦術の中でも最も難しい永遠のテーマとなっている。

 そうした難問を前にして、グアルディオラ監督が指揮するバイエルンは、初めから「引いて守って」という戦術のフライブルクを、どのように攻略していったのであろうか?(Part 2 に続く)

(表記の説明)
GK=ゴールキーパー
DF=ディフェンダー
CB=センターバック
SB=サイドバック
MF=ミッドフィールダー
WG=ウインガー
FW=フォワード

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