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【インタビュー】史上最速でJ加入、 SC相模原の望月重良が開くクラブ代表という新たな道

2014.10.27

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写真=兼子愼一郎 インタビュー・文=小谷紘友

 システマチックに時が流れる現代のサッカー界でも、稀におとぎ話のような物語が紡がれる。

 駅前にある小料理屋での会話に端を発して、2008年2月に一つのクラブが誕生した。神奈川県社会人リーグの最下位カテゴリーにあたる県3部からスタートして6年。2014年には、ついにJ3参入を果たした。今季も、日本代表のエースとして君臨したFWとブラジル代表招集歴を持つ大物ボランチを、相次いで獲得に成功している。

 夢物語に衰勢は見られない。しかし、SC相模原の軌跡は当然ながら現実である。クラブの代表を務める望月重良氏に話を聞くと、史上最速となる創設6年でJリーグ加入を成し遂げた道のりも、決して平坦なものではなかった。

クラブを作って自分で運営していくことも、一つのサッカー人生

――J3は今季から創設され、リーグもクラブも試行錯誤だと思います。開幕前に想像していた以上に難しかった面はありましたか?
「成績という面(第29節終了時点で6位)では、最後まで優勝争いに関わっていたかったですね。夏を過ぎたあたりから、上位との勝ち点差が開いてしまい、常に中位にいるような状況になってしまいました。初代王者を狙うという目標を掲げたシーズンでしたので、少し不甲斐なさは感じます」

――昨季はJFLに所属していましたが、J3とJFLの差はどういったところにありますか?
「チーム数が少なくなり、リーグのレベルは上がったと思います。昨季のJFLは18チームが所属していたこともあり、上位と下位で差がありましたが、J3は12チームということで、その差がより詰まった感じはしましたね」

――J3というJリーグの冠がついたことで、プラスの面はありましたか?
「チームの見られ方や地元企業のチームに対する感じ方は、やはり違うと思います。地元からJクラブが誕生したと見られますし、Jリーグという信用と信頼がつきました。観客動員数とサポートしてくれる企業も増えています。Jクラブを応援したい、サポートしたいという意識の表れだと思いますね」

――SC相模原というクラブが、独自にやっている取り組みはありますか?
「特別なことはなく、今は本当に日々の積み重ねによって、クラブを大きくしていくというところです。ですから、いきなりJクラブになったからといって、千人単位の観客や億単位の収入が増えるということはありません。本当に地道にやっている最中ですね」

――クラブ創設のきっかけが、相模原駅の近くにある小料理屋さんだったと伺いました。

「2007年の6月に、知人に誘われてその小料理屋さんを訪れると、大将がすごいサッカー好きで。僕のことも知っていて、そこで盛り上がった話が、相模原にサッカークラブを作ってJリーグを目指すという発端になりましたね。初めて相模原に来て、たまたまそこのお店に行って食事をしたときに盛り上がり、冗談交じりの話から色々と悩んだ末に、どうせやるなら、そういうこともいいかなと」

――冗談交じりの話が実現していくには、どのような過程があったのでしょうか?
「結局は、僕が『やるか、やらないか』という話だったと思います。現役を引退してからサッカーに携わる仕事と言えば、指導者を目指すことが王道でした。自分でも、引退直前には指導者ライセンスを取得して指導したいと思っていましたが、クラブを作って自分で運営していくことも、一つのサッカー人生ではないかなと。引退前に思い描いていた道とは別の道に進むことになりましたが、やるからには上を目指してやりたいという志を持っていましたから、自分の意志や覚悟という気持ちから、クラブができあがっていきましたね」

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――クラブの代表を務めるにあたって、元選手ならではのアドバンテージもあるのでしょうか?

「最大の強みは、やはりネットワークや人脈だと思いますね。その強みを最大限に生かしてチーム作りをしてきたつもりです」

――今春に高原直泰選手が加入して大きな話題になりましたが、移籍実現はその人脈を生かした形だったのでしょうか?
「そうですね。恐らく自分がいなかったら、高原は来ていなかったと思います。それに、移籍期限の時期も重なりました。当時移籍しなければ、夏まで所属クラブに残らなければならない。試合に出場できていなかったという状況も、移籍にはプラスに働いたと思いますし、情報とタイミングが上手くマッチしましたね」

――獲得の際、「ピッチで輝く姿を見たい」と声をかけたそうですね。
「本当ですよ。彼はまだ35歳で、引退にも、高原という選手が終わるにも早いと思いました。しかし、グラウンドで自身を表現できなければ、そうなってしまう。やはり、ピッチに立ってプロとしてのポジションというものが必要だったと思いましたね」

――獲得成功には、情熱が伝わったという感じでしょうか?
「我々はクラブの意志を彼に伝えただけで、それを感じ取ることは本人次第です。もっと活躍できると思うし、ピッチに立っていなければいけない存在だということを話して、それが我々のクラブならば、なお良いよということは伝えました。今は相模原でやりがいを感じてくれていますし、また高原の活躍を世の中に発信できたらいいなとは思いますね」

――8月には、ブラジル代表招集歴のあるトロ選手が加入しましたが、外国人選手ということで高原選手とは事情が違ったと思います。
「トロの場合もタイミングで、ネットワークや代理人にも繋がる人脈の中から、彼が所属チームのないフリーの状態ということを知りました。彼自身も日本のことが好きということもあり、上手くタイミングが合って加入することになりました。ですから、トロを狙っていたというよりも、良い選手がフリーだったということですね。J1でも十分に活躍できる選手が、上手いタイミングによってJ3でプレーすることになったという形です」

――現在、横浜F・マリノスに所属しているファビオ選手も2012年に在籍していましたが、望月さんがブラジルで視察した上で獲得した選手の一人です。
「僕は毎年、ブラジルに行って選手を見ています。J1やJ2で活躍できるような選手を獲得しているつもりで、そこが一番の強みだと思います。少ない予算でより効果的な選手を獲得できる部分が、我々の選手を見る眼なのかなとは感じます」

――選手獲得を決める基準はあるのでしょうか?
「クラブで活躍することによって、次のステップに進むことを選手は望んでいるでしょうし、我々も望んでいます。相思相愛のようなところで納得している部分もあるので、加入する選手は夢と希望を持って日本にやってきていることもあり、怠けませんね。僕も選手として、外国人選手と触れ合ってきて感じたことですが、例えば複数年契約を結んで保証ができれば、1年契約の選手とメンタリティが違ってしまう場合もありました。『俺は来年も、再来年もある』ということで、少し怠けてしまうようなところもあったりします。なので、人間性を含めて常にベストを尽くすような選手を自分の眼で見て、獲得しているつもりではあります」

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魅力のあるクラブにすることが、自分に課された使命

――史上最速となる発足6年でのJリーグ加入ということで、外からは成功していると思ってしまいますが、苦労というものもあるのでしょうか?
「実際は、苦労の方が多いですね。周囲からは、Jクラブの代表ということで、『すごい』とか『羨ましい』とは言われますが、これまでの7年は当然喜びもありましたが、その分苦労というものもあります。情熱、やり続ける信念というものを持ち続けないと、チームは続かないと感じていますね」

――具体的にはどういう部分でしょうか?
「勝たないといけないプレッシャーは、相当ありました。Jリーグ入りを目指して旗揚げしたクラブにとって、大きな障害の一つに躓くことがあると思います。勝てないことによって、同じカテゴリーで足踏みをしてしまうと、当初の情熱や人の集まりも段々と薄れてしまい、勢いもなくなり続けられなくなってしまいます。それを避けるためには、毎年昇格するしかありません。神奈川県3部リーグからスタートしましたが、絶対ということがないスポーツで、昇格し続けなければならない責任感や重圧というものは相当で、メンタル的にもかなりの負担がありました。もしかしたらJ3の今よりも、県3部当時の方がそういう意味では大変だったかもしれませんね」

――プロ選手とアマチュア選手が混在する中でのクラブ運営の苦労はありますか?

「現在は3分の2がアマチュア選手で残りがプロ選手という形ですが、運営は相当難しいですね。アマチュア選手はアマチュア選手の考えがあり、プロ選手はプロ選手の考えがあります。それを同じベクトルに乗せないといけない。仕事をした後に夢や希望を持って、このクラブでプロ選手になりたいという考えやここを足掛かりに次のステップに行きたいという野望を持っている選手と、報酬を受けてこのクラブでプレーする選手では、言い方や接し方がどうしても違ってきます。そこは、すごく難しいところですね」

――多くの苦労がある中で、チーム作りでどうしても譲れない部分はありますか?
「やはり、勝利に対してクラブが貪欲にならないといけない点ですね。ただ、本当に反省になりますが、チームを立ち上げた時は勝たなければ次がないという環境でしたが、今年はクラブライセンスの関係もあって、勝った末の昇格も負けた後での降格があるわけでもなかった。その状況下で、勝利への意識や貪欲さが薄れてしまったのかなと。立ち上げから、メンタル的にもフィジカル的にも勝つ集団を作っていましたが、今年はその目標が少し薄れて今の成績になってしまったとすごく感じます」

――11月2日に行われる福島ユナイテッドFC戦前には、名波浩さんが率いるJ‐DREAMSと相模原市高校選抜が対戦するさがみはらドリームマッチ2014が行われます。開催は、どういう経緯で決まったのでしょうか?
「清水商業高校の先輩でもある名波さんとは昔から仲が良くて、サッカー界を盛り上げていきたいという話の中から、『11月2日、空いているから試合をやろう』と。対戦相手が福島ということで、2011年から毎年福島との対戦では被災地の子供達に少しでも元気になってもらおうと、相模原にホームステイをしてもらっていることもあり、対戦カードとしても一番良い日だったので決まりました」

――名波さんはジュビロ磐田の監督に就任されましたが、開催決定のタイミングはいつ頃でしたか?
「監督になる前ですね。就任後は他に決まっていたスケジュールを全部キャンセルしたそうですが、この試合だけは出るということです。本当に長年の付き合いということもあり、可愛い後輩のために何かしてあげたいという、彼の人間性だと思いますね」

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――今後の具体的な目標を聞かせてください。
「発足当初、Jリーグ入りを目標にクラブ作りを進めて、今年Jクラブの一員になったということで当初の目標を一つ達成できたかなと思います。ただ、別にゴールではなく、あくまでも通過点です。今後はより地域に根差したチーム作りをして、カテゴリーをJ2、J1と上げていくとともに、アジアに通用するようなチーム作りというものも心がけてやっていきたいなというのはありますね。それと、同じ野心や目標を持ち、関わっている人間が本当に楽しく関われているというクラブを作っていきたいとは思っています」

――発足当初は、何年以内にJリーグ入りという目標はありましたか?
「そういうものはなく、毎日毎日について考えていました。何年と決めたから達成できるということでもないと思いますし、日々の努力や毎日ベストを尽くすことが、将来的な目標や夢を実現できるのではないかと思います。J2昇格についても、まだクラブライセンスに関して問題はありますが、一つひとつを地道にクリアする作業はしています」

――相模原にしかないという強みを教えてください。
「新しいことで伝統はまだなく、これから自分達が作り上げていくクラブなので、色んなことにチャレンジできると思うんですよね。一から作ったことで、他のクラブとは成り立ちが違いますし、真っ白なところから自分達で絵を描いていけます。相模原市も人口が約72万人ということで、町としてのポテンシャルもあります。地方が衰退していると言われる中、相模原はこれからの町。在日アメリカ陸軍の補給施設の返還やリニア中央新幹線の中間駅計画もあるので、クラブもリンクして大きくなることで、相模原という地名を全国に発信できたらいいなと思いますね」

――クラブ代表の醍醐味は、どういったところでしょうか?
「リーダーシップですね。自分が先頭になって、クラブを作って引っ張っていく。もちろん、多くの人が集まるので、色んな考えがあります。それをまとめることは、すごく大変で、大きくなればなるほど、色んな考えも増えていきます。それをどうやって良い方向、もしくはひとつの方向に進めていくのかは一番苦労することでもありますが、クラブの指針ということも、先頭で試行錯誤しながらクラブをベストの状態で歩ませ続けていきたいですね」

――最後になりますが、クラブ代表をやっていて一番嬉しかった出来事を教えてください。
「7年前の週末は、市民のみなさん達が様々なことをしていたと思います。そこからサッカークラブができて、今では平均3千人のみなさんが、週末に試合を観戦してくださっています。まだ文化とは言えませんが、週末にサッカーを観に行こうという行事や習慣というものが根付いたことに関しては、クラブを作って良かったなと思います。これを習慣ではなくて文化にしていきたいですし、観戦する方が3千人から5千人、1万人になっていくような魅力のあるクラブにすることが、自分に課された使命なのかなと感じますね」


 2000年のアジアカップ決勝で、日本を王者に導くゴールを決めた選手である。現役を引退した望月氏の前には、「王道」という指導者の道が続いていたのだろう。それでも望月氏は今、クラブ代表として「引退前に思い描いていた道とは別の道」を歩んでいる。

 情熱と覚悟をもとにゼロからはじまり、元Jリーガーが作った初めてのJクラブの物語。壮大なストーリーは、まだ描かれはじめたところである。

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