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ダサくてもいい、鈍足でもいい!日本で一番点を取れる男・岡崎慎司のネガティブ思考とは

2014.05.01

岡崎慎司 [写真]=Bongarts/Getty Images

岡崎慎司
「自分はコンプレックスの塊だ」と話す岡崎慎司[写真]=GettyImages

 サッカー選手、それも日本代表クラスともなれば、多くの人にとってその思考法は自分の人生の参考にしたいはずだ。
 
 例えばミランの本田圭佑は、どんな逆境をもポジティブに変換し、あるいはあえて大きなことを公言して自分にプレッシャーをかける。長友佑都は常に明るく、ポジティブに努力を続ける。もちろん、当人たちの陰の苦労は計り知れないものがある。しかしそうした選手たちの成功例や、巷あふれる自己啓発本からは、とにかくポジティブであること、大きな夢を持つこと、その夢からしっかり逆算していくこと、等々の素晴らしさが喧伝されている。
 
 そんな中にあって、マインツの岡崎慎司が4月24日に上梓したばかりの著書『鈍足バンザイ!〜僕は足が遅かったからこそ、今がある。』(幻冬舎)は異質だ。サッカー選手として決して足が速くない、背が高くない、視野が狭い、人気もない、オシャレセンスもなければ、生え際も危うい(本人が著書の中で言っている)という、コンプレックスの塊である岡崎が、まさにそのすべてのネガティブ要素に「バンザイ!」しているのだ。
 
 本書の中で岡崎はこう語る。
「スポーツの分野に限らず、ビジネスマンの間でもメンタルトレーニングは流行っているし、実際に効果もあると思う。その大半が、成功する自分、理想の自分をイメージして、そこに向かってポジティブに行動するもの。これまでお世話になってきた人たちからも、そうしたメンタルトレーニングに取り組んでみないかと誘っていただいた。でも、いつも丁重にお断りしてきた。自分には合いそうもなかったから。
(中略)僕は試合前にこんなことを考えている。
『試合、始まらんで欲しいなぁ……』
『相手のディフェンダー、ごっついやん』
 怖い。試合が始まるのが怖い。プレッシャーを楽しむなんて、もってのほかだ。僕はプレッシャーに弱いタイプ。プレッシャーなんて大嫌い。決定機で外したらどうしよう。周りの人の期待に応えられなかったらどうしよう。そんな考えがアタマのなかをグルグル回っている。
(中略)結局、僕はものすごく臆病なのだ。だから、最悪の事態を想像して、気持ちをなえさせておく。つまり、自分へのハードルを下げておく。そこまでして、なんとか試合に臨む。自分が臆病だとわかっているからこそ、謙虚に戦える。一見、僕は熱血漢に思えるかもしれないけれど、かなり冷めた部分を持って戦っているのだ」
  
 岡崎は26日のニュルンベルク戦で今季14得点目を決め、欧州主要リーグにおける日本人最多得点を更新した。その記録と試合での躍動を見ていると、とても試合前に怖がっている姿は想像できないが、その強さは自分の弱さを受け入れることから始まっている。
 
 そうした姿勢は試合だけにとどまらない。「サッカーノート」の素晴らしさが叫ばれている現代に逆行するように、こんなことも明かしている。
 
「自分で定めた日課を守れない。昔からそうだ。朝は決まった時間に起きて、夜も同じ時間に布団に入ろう。そんな予定を立てたところで、2日と持たずに崩れてしまう。サッカー選手のなかには、日々の練習や試合で気づいたことを課題やノートに書いてまとめる人も多い。俊さん(中村俊輔)、ハセ(長谷部誠)、圭佑などもそうだ。
『サッカーノートをつけて、たまに見直すといいよ』
 そうすすめられて僕も試したことはあるけれど、3カ月も続かなかった。それに、ノートに書く内容がほとんど同じことになってしまって……」
 
 あるいは、“下手くそ”であることを自覚していた清水エスパルスのサテライト時代(岡崎は8番手のFWだった)には、大きな夢やハングリー精神を抱くどころか、「アタマのなかにあったのは、ただ先輩たちに『ほめられたい』という思いだけだった。志が低いのかもしれない。でも、本当にそれだけだった」とぶっちゃける。
 
 本書のなかで岡崎は、そのコンプレックスのすべてを受け入れている。虚勢も張らないし、自分に嘘をつかない。バカにされても、人気がなくてもくよくよせず、いつも笑顔で、自分と向き合い続けるその様から、僕らが学べることは多いのではないだろうか。人は誰でも、どこかに弱さやコンプレックスを持っているのだ。本書を読んで、自分のコンプレックスにちょっとバンザイしてみよう。
 
文/田中亮平(編集部)

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