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<インタビュー>カジヒデキさん「フットボールを好きになったきっかけは音楽でした」(後編)

2014.03.14

大のサッカーフリークとして知られるシンガーソングライターのカジヒデキさん。熱狂的なチェルシーファンでシーズンチケットを保有していたこともあり、2001年からスポーツ専門放送局J SPORTSのサッカープログラム『Foot!』のテーマソングを担当している。今回は、サッカーにはまった経緯やチェルシーファンになったきっかけなど、カジさんのファン歴を振り返るとともにチェルシーの魅力に迫る。

――カジさんのサッカー観戦は、やはりチェルシーが中心なんですか?

カジヒデキ やっぱり、チェルシーのサポーターなのでチェルシーの試合は毎節観ますね。

――ちなみに他のリーグの試合って見られるんですか?

カジヒデキ 一応、セリエAとかリーガとか見るには見るんですけど、あまり感情移入できないというか。それぞれの国のスタイルがあって面白いと思うんですけど、やっぱり応援しているクラブがあるリーグのほうが面白いですよね。なのであまり他のリーグは熱心には観てないです。だからプレミアリーグを観るんですけど、本当はイングランドの下部リーグも好きなんです。さすがに3部、4部は日本のTVでは無理だと思うので、できればチャンピオンシップくらいはやってくれたらいいのにって思いますね(笑)。

――プレミアが本当に好きなんですね。

カジヒデキ イングランドのフットボールが文化としても好きで、プレミアリーグの生観戦はもちろんたくさんあるんですけど、プレミアだけじゃなくて3部や4部、そしてじつは8部リーグまで観に行ったことがあるんですよ。

――8部ですか! それはすごいですね。

カジヒデキ フットボールってやっぱりスタジアムが面白いじゃないですか。とくにイングランドはチェルシーに限らず、どこのスタジアムもそれぞれの表情があって良いですよね。あとその街との関係性とか。だからできるだけ色んなスタジアムに行こうと思って、例えばホワイト・ハート・レーンやクレイヴン・コテージ、ハイバリー、オールド・トラフォードとか。そうやって見ていくと別に下のリーグでも面白いんですよ。下部になるほどスタジアムが小さくなるじゃないですか。それでとくに良いなと思ったのが、QPRのロフタス・ロードというところがあるんですけど、あそこのスタジアムの小ささがすごく良かったんですよね。2002-03シーズンはフラムがスタジアムの改装でクレイヴン・コテージが使えなくて、一時期ロフタス・ロードを使っていたんです。稲本選手がいた頃ですね。

――本当に色んなスタジアムに行かれているんですね。それでも8部リーグまで観に行くようになったキッカケみたいなものはあったんですか?

カジヒデキ それはエルというレーベルからレコードを出していたケビン・ライトというアーティストと知り合いになって、そのケビンが「ウェン・サタデイ・カムズ」という30年くらい続いてるフットボール雑誌のアンディ・ライオンという編集長と仲良しで紹介してもらったんですよ。それでみんなすごく仲良くなって、僕とケビンとアンディの3人でロンドンの色んな下部リーグの試合を観に行こうとなったのがキッカケです。それで3部、4部リーグは当たり前のように観に行ってました。例えばレイトン・オリエントとかチャールトン・アスレティック、AFCウィンブルドン、ブレントフォードとか、とにかくロンドン市内はかなり回りました。その中でも一番コアだったのがトゥーティング&ミッチャムという当時8部のクラブがあって、その試合を観に行ったときはかなりきてるなって思いましたね(笑)。

――初めて聞きました。それは相当コアですね(笑)。

カジヒデキ でも、行ってみるとどこもスタジアムの雰囲気が楽しいというか。それぞれ違うし、スタジアムの作りもかなり違いますよね。とくに下部リーグになってくると、とくにスタンドもなくてゴール裏にだけちょっとしたやつがあったりとか、メインスタンドだけあってあとは原っぱのようなところもあるし。そんなところにもやっぱり熱狂的なおじいちゃんのサポーターがいたり、ものすごい野次を飛ばす人がいたり(笑)。それでアンディがその人と知り合いだったりするんですよ。「あいつはすごいやつなんだよ」なんて話を聞きながら観ているのがすごく面白かった。でも一番楽しいのは“チャント”ですよね。

――イングランドのチャントは印象的ですよね。

カジヒデキ 僕はそこが一番フットボールにハマったところなんですよ。チェルシーでも歴史が長いので何千種類ってチャントがあると思うんです。そのチャントをみんなが法則なくというか、その場の雰囲気で自然に発生してくるんですよ。それがどんどん周りに広がっていくあの感じがたまらないですよね。ある時は選手がやったことに対して、その場で替え歌が生まれたりするし。それを聴いたときはやっぱりすごい歴史があるんだなと感じました。

――日本のサポーターの文化と少し違いますね。

カジヒデキ 日本はずっと歌い続けるスタイルで、南米とかの文化を取り入れているんですよね。それはそれで面白いなと思うんですよ。日本人が自発的に歌うのは、あまり想像出来ないし(笑)。でもイングランドのあの伝統をずっと守っている感じというか。スタジアムでウェーブなんて絶対起こらないですからね(笑)。絶対起こるわけないという感じに、彼らはポリシーというかプライドを持っているし。

――日本のサポーターのようないわゆるコールリーダーがいませんよね。

カジヒデキ 日本みたいにコールリーダーというのはいないんだけれど、チャントを歌い出せる人というのが何十人かはいるんですよ。例えばなんでもない若造とかがちょっと面白がってなんか歌い出しても誰もついていかなかったりするんですね。それがすごい良いんですよ。

――その歌い出せる人はどんな人なんですか?

カジヒデキ チェルシーに「ジガザガマン」という僕が勝手にそう呼んでる人がいるんですね。なんでジガザガマンかというと「ジガザガ、ジガザガ、オイオイオイ」というチャントがあって、それをその人が歌うんです。それで僕は一時期チェルシーのシーズンチケットを持っていて、僕の席のすぐ後ろにそのジガザガマンがいたんですよ。そのチャントは1試合に1、2回しかやらないんです。それで前半とかにジガザガマンがそのチャントを歌うとみんながついていく。それである時、僕の席の隣のエリアにもジガザガマンが現れて、ジガザガマンが2人歌い出したんですよ。そしたらこっちと向こうの人たちが「俺たちが本物のジガザガだ!」みたいな感じで、もう試合そっちのけで言い合いになっちゃって(笑)。それがまた本当に面白くて。だからといって、いきがった若い子がジガザガ言っても誰もついていかないですからね。その文化はかっこいいなと思いました。

――そういうところにもプライドがあるんですね。

カジヒデキ そのチャントの面白さはすごくフットボールの魅力ですね。あと好きなチャントに「east stand give us call east stand east stand give us call(イーストスタンド、ギブアスコール、イーストスタンド、イーストスタンド、ギブアスコール」という、ギブアスコールというチャントがあるんですね。それにイーストスタンドの人たちが気がつくと立ち上がって「チェルシー! チェルシー!」ってチャントを始めたり、それで次はウェストスタンドにコールを続いたりするんです。そのサポーター同士が応えていく一体感がいいんですよね。ただ、ウェストスタンドの人たちは基本的に高いチケットのエリアでゆったり観たい人たちなので、そのコールには全然応えてくれないんですけどね(笑)。それで「drogba give us call drogba drogba(ドログバ、ギブアスコール、ドログバ、ドログバ)」という時もあるんですよ。ドログバはやっぱりすごく良い選手で、彼はいつもそれに対して拍手で返してくれてサポーターの人気も高かったですね。

――スタジアムの中で色んな物語があるんですね。

まだシーズンチケットを持っていない頃に、スタジアムの色んな席で観てみようと思ってイーストスタンド、ウェストスタンド、ローワー、アッパーと回ってみたんです。とにかくマシューハーディングスタンド・ローワー、いわゆるゴール裏の人たちがいつもうるさくてそこへ行ってみると、やっぱりあそこの盛り上がりは尋常じゃないなと思いましたね。もしもシーズンチケットを買うならこのエリアしかないなと。フットボールも好きなんですけど、やっぱりそういうサポーターの文化も含めて面白いなと感じて、マシューハーディングスタンドのシーズンチケットを買いました。

――そのチャント文化にすごく魅せられたということですが、それが音楽活動に与えるものというのはあるんですか?

カジヒデキ 『Foot!』の2年目からずっと曲を書かせていただいてて、シーズンによってはオープニングとエンディングの両方をやった時もありますし、今シーズンはオープニングをやらせていただいています。その作曲時に曲もそうだし、歌詞もそうだし、今まで自分が肌で感じてきたことの影響はすごく強いですね。あと、ライブでさっきのジガザガマンの話とかをするんですよ。それでお客さんと「ジガザガ、ジガザガ」ってやったりとか(笑)。

――お客さんもやってくれるんですね(笑)。

カジヒデキ そういう話をするとやっぱりみんなついてきてくれるし、たまに自分が言わなくても歌ってくれる人もいるんですよ。

――曲を作る時はスタジアムのどんなことを思い浮かべながら作っているんですか?

カジヒデキ 『Foot!』の2011-12シーズンの時ですかね。まだ14、15歳くらいの男の子たちが初めて2人でスタジアムにフットボールを見に行くという架空のストーリーを歌詞にしたんです。スタンフォード・ブリッジに初めて行く話なんですけど、それは自分がスタンフォード・ブリッジに行った時のこととかフラム・ブロードウェイ駅のことを思いうかべながら書きました。あとスタジアムの周りとかも面白いですよね。ホットドックやハンバーガーを売っていたりとか、出ているお店の雰囲気が好きなんですよ。

――音楽とフットボールで似ている部分というのはありますか?

カジヒデキ イングランドのフットボールってスピード感だったりとか、アグレッシブなところもあるし、エンターテイメントをすごく感じるんですよね。お客さんに喜んでもらうことを良しとするというか。そこは音楽のライブとすごく似ている部分だと思うんです。スタジアムの興奮させるものは、音楽のライブを観に行っている感覚と同じだと思います。プレミアの試合はとくにそうですね。スタジアムにはチャントがこだまするので、ものすごく音楽的な要素も強いし、みんな歌うのが好きなんですよ。ライブでもみんな歌うじゃないですか。そういう共通点もありますよね。ゴール裏なんかはある意味試合そっちのけで、歌うことに熱中しちゃって「こいつ全然試合観てないだろう」なんていう人がたくさんいるんですよ。そういうのはなかなかその場にいないと感じられないものかもしれないんですけど、それもライブ感ですよね。フットボールは生き物というか、本当にライブだなと。とくにプレミアのその場で歌われるライブ感って、ほかではあんまりないなと思います。

――確かにそれはスタジアムでしか感じられない醍醐味ですね。

カジヒデキ でもJ SPORTSの中継とか『Foot!』を観ていていいなと思うのは、結構解説や実況の方が「あ、今こういうチャントが歌われてましたね」って拾ってくださるじゃないですか。それが僕はすごく興味深いというか、テレビだとどうしてもそこまで聞こえないこともありますよね。でもなんとなく聞こえてくるチャントをフォローしてくれるので、「あ、そうだったのか」って嬉しくなります。

――チャントが作り出すその場の空気感はライブと似ていて魅力的ですよね。

カジヒデキ シーズンの最初の試合では、歴代のチャントを一曲一曲歌っていくんですね。それもすごく面白い文化で、試合が始まってから代表的なチャントがどんどん歌われていくんです。前半とかもうそのチャントメドレーで終わるんですよ(笑)。それは本当に良い文化だなと思いますね。あとその時代のポピュラーな曲を替え歌にしていて、ほかの国もそうかもしれないんですけどそれぞれの時代が感じられて文化として面白いと思いますね。

――歴史を積み重ねるごとにサポーター文化も深みを増していくのは面白いですね。

カジヒデキ ピーター・オズグット(元チェルシー)というチェルシーのOBでレジェンドが2006年3月に亡くなって、亡くなった次の試合でキックオフ前にオズグットを讃える意味で彼のチャントを歌ったんですね。僕はそのチャントをその時初めて聴いたんですよ。それで僕の隣の席のシーズンチケットホルダーは親子だったんですけど、子供はまだ小さかったんです。だから当然オズグットのことは知らないだろうから、そんなに感情が入ることはないのかと思ったらもう号泣してるんですよ。号泣しながらオズグットのチャントを歌ってて、やっぱりイングランドのサポーター文化ってすごいなと思いましたね。

――そういう名選手が亡くなったりすると、子供にその選手の話とかを親がしてあげるんですかね。

カジヒデキ そうですね。チェルシーといっても近郊に住んでいる人ばかりではなくて、ちょっと離れたところから通う人も結構いるんですね。その親子も郊外に住んでいて1時間くらいかけてスタジアムに来ていたんですけど、たぶん行き帰りの電車の中でずっとチェルシーの話をしているんだろうなと思いますね。

――日本でもそういった文化がスタジアムで感じられるのは、もう少し時間がかかりそうですね。では最後になりますが、カジさんにとってのフットボールとはどんあ存在ですか?

カジヒデキ やっぱり生活の一部というか、フットボールがなければ人生の楽しみに何十%は失われてしまうんじゃないかと思うくらいライフですね。とくにチェルシーがなかったらどれくらい燃える思いを感じることができなかったか。やっぱりチェルシーをサポートする前はフットボールでそこまで深く思ったことはなかったし、フットボールが文化として本当に面白いと思うこともなかったかもしれないですね。フットボールはスポーツとしても面白いですけど、音楽とかファッションとか、色んなものと結びついているし、イギリスで言えばそこにパブの文化があるし、そういったあらゆるところとの繋がりが面白いですよね。そう思うと、チェルシーやフットボールがなかったら多くのことが繋がらないわけで、楽しみがどれだけ減ってしまうのかと思いますね。何度も繰り返しちゃいますけど、やっぱり僕にとってモウリーニョは神さまなんですよ。本当に一番尊敬する人はモウリーニョですね。その彼がまたチェルシーに帰ってきてくれたのは本当にドラマチックなことですよ。チェルシーを離れてインテルやレアル・マドリードで結果を出している姿を見て、嬉しさの反面、悔しさもあって。でもどこで監督をやっていても、チェルシーやイングランドを愛していることを言葉とかから感じられることができたので、ずっと気持ちが離れなかった部分はありましたね。毎年帰ってくるかもという報道があったり、希望も持っていたし、それでもやっぱりないのかなと思っていたら本当に帰って来てくれた。サポーターは本当に幸せですよ。ユナイテッドに行かなくて本当に良かったと思います(笑)。

13/14 イングランド プレミアリーグ 第30節アストンヴィラ vs. チェルシー
3月15日 (土) 深夜 02:24~<チャンネル>J SPORTS 4

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