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[リーダー対談]長谷川健太(ガンバ大阪)×齋藤孝(明治大学文学部教授) 「指導者のほうが設定水準をすごく高めにすると、意外にやれるんです」

2013.10.21

写真=静岡朝日テレビ

 10月8日にガンバ大阪の監督、長谷川健太氏の著書『一流のリーダーたちから学ぶ勝利の哲学 今すぐ実践したい指導の流儀』が発売された。著者とスポーツ界&教育界の名将たち7名による対談集で、一流の指導論や組織論、マネジメント論を気楽に学ぶことができる本書から、齋藤孝氏(明治大学文学部教授))との対談の一部を紹介する。

長谷川 ヨーロッパの試合を見ることもあると思うんですが、印象はいかがですか。

齋藤 (ロベルト)レヴァンドフスキなどは、ボールを持ったら振り向きますよね。大体は振り向こうとする。そういう意思を持っているほうが相手のDFは怖いと思うんですよね。

長谷川 そう言われ続けて、日本のサッカー選手もだいぶ良くなってきているとは思うんですけどね。

齋藤 ええ、それに関しては相当良くなりましたね。一時期の本当に横パスが多いチームよりは。香川選手や本田選手のような、海外で特に、ゴールへ向かうことを意識づけられた選手が増えてきたのも大きいですかね?

長谷川 思考的にも、海外の選手と戦うために変えていかなきゃいけないというところは、よくS級ライセンス講習に行くと言われるんですが、先生はどういうふうに思いますか。狩猟民族でない農耕民族の日本人が狩猟民族に勝つためには、思考回路をどう変えていけばいいとお考えですか?

齋藤 私は、この1、2年で急に光を見いだしたんですよ。“ゆとり世代”とか言われて、何だこの子供たちは、積極性が足りないなと思ってたんですが、意外にいいということに気づいたんです。ものすごくおとなしいんです。おとなしくて、言われるがままいろいろな課題をこなすんです。だから「週1冊ではなくて週5冊読んできなさい」と、ムチャクチャなことを言ったんです。そうしたらみんなやってくる。気がついたら、20年間で一番ハイレベルな授業ができるようになったんですね。だから、指導者のほうが設定水準をすごく高めにする。これが当たり前、世界ではこうしている、ハーヴァード大学ではこうだよと言ってあげると、意外にやれるんです。

長谷川 どんどん課題を与えていけばいいと。

齋藤 そこで、「どっちにする?」と聞いちゃダメなんですよ。聞くと甘いほうにいっちゃう。原稿用紙で1枚でも10枚でもいいよと言ったら、全員1枚で書いてくるんですよ。でも10枚書いてこいと言ったら全員10枚書いてくるんですね。いまの若い人にどっちでもいいよと投げるのは、私はよくないと思います。ある程度カリスマ性のある人が、強気で、リーダーとして引っ張っていく感じのほうが乗ってきやすいなと思っていますね。

長谷川 そうは言っても、少し反抗してくる学生もいると楽しいかなと思わないですか?

齋藤 昔はね、ガチャガチャしていたんです。「俺が俺が」と言う学生が多くて。その頃はそれで楽しかったんです。でも、いまのおとなしめの子たちのほうが、ある意味素直なので、どんな練習にもついてくる。だから私はストップウォッチを使って授業をやるんですね。次は30秒で発表とか、相互に投票して一番いい人を決めるとか。スポーツの練習と一緒なんです。そういうふうにしたときに、意外といまの若い人のほうが練習メニューを次々にこなす力はあるのでは、という気はしますね。若手を指導されてて、柔軟性はいかがですか?

長谷川 柔軟性はあまりないと思います。いま先生が仰ったように、これやれ、あれやれとシステマチックに練習をやったり、戦術なんかも決めたりすると、本当にきちっとこなすような選手がかなり多い。ただ、それは私の責任だと思うんですが、そこでもう一歩壁を打ち破れない。それは自分のせいで、そこでまたさらにトレーニング法を考えてさらに高いものを要求すればいいんだとは思います。プラスアルファで考える力を選手に求めたいな、ということですね。

齋藤 自主性とか積極性でアイデアを出せというのは求めたくなりますよね。でもその直前までは仕組んであげないと、やはり考えないと思うんです。完全に放置して、放任して、ジーコ監督がどうだったかは分かりませんが、比較的言われていたのはピッチでは自分で考えろということですよね。あのやり方だと、日本人は狩猟的にはなれないのではないかなと。やはり日本人の良さというのは素直さ、真面目さなので、決められたことはうまくやれる。その上で8割方は決められているんだけど、あとの2割を8割の上に積み重ねる。それも練習というか、2割のクリエイティビティを発揮するための練習をやるということですよね。創造性というのは、私は無限ではないと思うんですよね。3つくらいの選択肢を考えて、そのなかで一番積極的なものをやろうよということだと思うんです。それをいつも言わせるのが大事な気がします。選手に、いまお前のなかの選択肢でどれがあった? 3つ言ってみろ、と。どれを取った? そのなかのABCだったら、積極性の強いAを取るようにしなさい、と言う。その人の頭のなかの選択肢をはっきりさせる。意識の問題が一番大きいかなと思うんですよね。

長谷川健太(はせがわ・けんた)
1965年、静岡県生まれ。ガンバ大阪監督。清水東高等学校、筑波大学、日産自動車でプレーし、Jリーグの創設に合わせて1991年に清水エスパルスに加入。決定力の高いFWとして1999年まで活躍した。J1通算207試合45得点、日本代表27試合4得点。現役引退後、浜松大学サッカー部(現・常葉大学浜松キャンパス)のサッカー部を指揮、2004年に日本サッカー協会S級指導者ライセンスを取得し、2005年から2010年まで清水の監督を務めた。サッカー解説者を経て、2013年にG大阪の監督として現場復帰を果たしている。
齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年、静岡県生まれ。教育学者・作家。東京大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在は明治大学文学部教授。2001年に『身体感覚を取り戻す-腰・ハラ文化の再生』(NHKブックス)で新潮学芸賞受賞。2002年にはベストセラーの『声に出して読みたい日本語』(草思社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。「齋藤メソッド」と呼ばれる教育・ビジネス・身体論を提唱し、テレビでも活躍する。近著に『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)など。

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