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[出張! 月刊満男 in Jヴィレッジ]小笠原満男の西シェフ訪問

2013.08.24

日本代表やアントラーズの合宿でお世話になったシェフの西芳照さんに会いに、Jヴィレッジを訪問した小笠原満男。今も代表のシェフを務め、Jヴィレッジとその近くの二ツ沼総合公園でレストランを経営している西さんとの対談を、鹿島アントラーズの広報誌『FREAKS』内で好評連載中の『月刊満男』の出張版として、お届けする。
小笠原満男
取材・構成=佐藤克彦(アントラーズメディアチーム) 写真=足立雅史
Jリーグサッカーキング10月号(8月24日発売)掲載

震災によって何が大事なのかを改めて思い知らされた(西)

小笠原 震災以降、「西さん、どうなったのかな」と、とても気になっていました。そんな時、報道で西さんがここで頑張っているのを聞いて、「会いに行きたい」と思いました。それに今まで感謝の気持ちも直接伝えたことはなかったので、今日もこうやって来られて、話すことができてうれしく思います。

西 私もすごくうれしいです。小笠原さんとは代表でずっと一緒でしたし、アントラーズでもここで合宿をしてもらっていました。特に代表だと、東北出身と言えば、小笠原さんと僕だけという期間が長くてね(笑)。

小笠原 選手とシェフの関係って、「よろしくお願いします」ってあいさつがあるわけでもないし、「いつも美味しいごはんを作ってくれる人」という感じで顔を覚えましたね。それがいつの間にか、仲良くなって……。

西 最初はジーコ監督の時じゃないですか。アウェイのシンガポール戦?

小笠原 ですかね? これって明確に思い出せないですね。

西 僕らは、選手の皆さんと少し距離を置いて接するのが基本的なスタンス。ただ、小笠原さんとはその寡黙さに親しみを感じて。でも、寡黙そうで、実は茶目っ気たっぷりなところもありますよね(笑)。

小笠原 よく見抜いていますね(笑)。そう言えば、西さんと中国でスーパーみたいなところにカエルとか見に行きませんでした?

西 行きました、行きました。

小笠原 それで二人で、「カエル、食事に出してみようか」って……。

西 唐揚げにしてね。

小笠原 今日来る時に、そんなことを思い出していました。

西 満男ちゃんが食べたいって言ったんだよね(笑)。重慶だったな。

小笠原 「カエルって言わないで出せば、みんな食っちゃうんじゃない?」って(笑)。それとどこかのホテルで一緒にカップラーメンを食べましたよね? モトとかと。

西 あったような気がする。

小笠原 その時は何気なく話していて、俺は代表の遠征だったら、普通に海外でもおにぎりやうどんとかが出てくるものだと思っていたけど、俺らが戦っている間、実は試合も見ないで西さんがずっと準備をしてくれているということが分かった。そういう人に支えられて、プレーできているんだと感じて、感謝しなきゃいけないと思いました。そして震災後もこの街に残っているって聞いて、「ああ、西さんはやっぱりそういう人なんだな」って改めて感じました。

西 僕もそうだけど、スタッフのほとんどが双葉郡の出身で、震災前からここで働いている人たちです。僕もみんなも表現が下手だから伝わらないけど(笑)、満男ちゃんが来てくれることがすごくうれしい。「大変だろうね」と口で言うのは簡単だけど、満男ちゃんは現役選手でシーズン中だし、時間を作るのも大変なのに、こうやって実際にみんなを励ましに来てくれる。本当に感謝しています。

小笠原 いえ、俺は西さんが頑張っている姿を見て、「俺もまたサッカーで頑張ろう」と逆に力を与えてもらっています。今回来たのは、今度、アントラーズでカシマスタジアムを使って『オープンスタジアム』というファン・サポーターや地元の皆さんに開放するというイベントを行うんですが、そこに西さんへぜひ来てもらって、何か料理をご提供してもらったり、こっちの野菜を売ってもらいたいと思ったことも理由の一つなんです。それと来年1月のオフには、東北人魂やアントラーズの他の選手と一緒に広野町で子供たちとふれ合うイベントもやれないかなと思っています。

西 いろいろと考えてもらって、ありがとうございます。こうやって声を掛けてもらえるのは本当にうれしいですね。

小笠原 内容はこれからみんなと話し合って進めていきます。それと9月にはアントラーズのホームタウンでもある行方市さんが、広野町の子供たちを招待してサッカー交流会をやるという企画を考えてくれています。

西 いろいろやりますね、満男ちゃん。

小笠原 いや、俺じゃないですよ(笑)。スタッフやホームタウンの人たちが考えてくれてこその企画です。

西 ありがたいですね。震災前に5000人が住んでいた広野町には、今やっと町民が1000人ほど戻って来ました。そのほとんどが、おじいさんおばあさん。それでもこの前、中田(浩二)さんや本山(雅志)さんと一緒に訪問してくれた中学校にも地元から通っている女の子がいたり……。でも「復興」という言葉を考えると、ここに帰って来ることが必ずしも正解じゃない。人それぞれ考え方も違う。でも満男ちゃんたちがいろいろと動いてくれることで、この地域の人たちは元気なんだよということが、少しでも外に伝わる。それを聞いてここで生まれ育って、今は別のところにおられる方も、「たまに里帰りしてみるか」と思ってくれるかもしれない。そんな思いで、今やっています。

小笠原 でも、少しずつは戻って来られているんですよね?

西 微妙に増えては来ていますね。

小笠原 昨日(編集部注:8月10日)も広野町でお祭りがあったと聞きました。たくさんの方が来られたって。

西 そうなんですよ。去年と違ってすごかったですよ。(避難先の)いわきから来る人がいたり、みんなで夏の風物詩だった花火をもう一度見て、昔を思い出すという……。いい花火でしたよ。

小笠原 西さんも出店したんですか?

西 お好み焼きを作りました(笑)。去年は妻と一緒に花火を見て涙を流して……。「今年もまた花火見られるね」なんて言っていたんですけど、忙しくて見るどころじゃありませんでした(笑)。

小笠原 大変でしたね(笑)。これは俺個人の考えなんですけど、今度のオープンスタジアムでもこっちの野菜も売って、しっかり検査をして安全なんだということを知ってもらいたいなと思っているんです。

西 うちでは地元の野菜で使えるものは使って、料理を提供しています。それが地元のおじいちゃんおばあちゃんの野菜を作るという生きがいにつながればいいなと。

小笠原 みんな、意外と気持ちが薄れているわけじゃなくて、「何かできないの?」という人が多いように感じるんですよね。だからここの野菜をスタジアムで売れば、買ってくれる人もいると思う。そこからスーパーでも福島県産の野菜を買う行動につながれば、少しずつでも状況は変わると思うし、変わってほしいなと思います。

西 震災直後、僕も家族を連れて東京へ避難しました。それが3月末、スタッフが包丁をJヴィレッジに置いているので取りにいかなきゃと思って戻って来たら、作業員の方々が本当に廊下で寝ていたり、ろくな食べ物もない状況で、ここから福島第一原発に行って作業をしていた。それを目の当たりにして、「何かできないかな」と強く思いました。僕の生まれ故郷は、ここから北へ40キロ、福島第一原発からは20キロの位置にある南相馬市の小高。そこで18歳まで育ちました。それから東京へ出て修業して、35歳でここに戻って来て、15年このJヴィレッジでお世話になったわけです。もう50歳なんで、生きられてもあと30年くらい。残された人生をどうやって生きていけばいいのかなと考えた時、震災で何が大事なのかということを改めて思い知らされました。家族であったり、仲間であったり。そういうことを考えると、ここに戻って来て、何か手助けをするのが自分の生きる道じゃないかなと考えたんです。スタッフも「一緒にやろう」と言って、いわきから通ってくれる。みんなに僕が助けてもらっているという気持ちです。

小笠原 そうだったんですね……。

西 「もう寝る時間もないな」なんてグチっていると、二十歳くらいの女の子が、「大丈夫、大丈夫。寝ないで頑張ろう!」なんて逆に励ましてくれたりね(笑)。

小笠原 たくましいですね(笑)。

西 もうそんな感じでやってきました。

実際に足を運んでみないと現状は分からない(小笠原)


小笠原 ここ『ハーフタイム』は一般の人も食べに来ることができるんですか?

西 可能ですよ。一時帰宅で帰って来られた方もここに寄られます。ただバスで大人数になったりすれば、東京電力の復興本社にもなっているので許可がいると思います。数名でランチを食べにいらっしゃるのならば、問題ないですよ。

小笠原 みんな、福島第一原発が近いということだけで、「Jヴィレッジって、入れるの?」みたいな認識でいると思いますからね。

西 人によっては僕がここで調理していると聞くと、「防護服を着てやっているんですか?」と言う人もいます。

小笠原 それって、実際に足を運ばないと現状が分からないですよね。だからこの記事を読んだ人の中で感じたものがあれば、ぜひ来てもらって、隣の二ツ沼総合公園にある西さんの『アルパインローズ』や『ハーフタイム』で美味しいごはんを食べてもらいたいです。そして現状を知ってもらって、何かできることがあるのであれば、考えて実行してもらえればと思います。

西 おじいちゃんおばあちゃんの中には、「以前のように野菜を作っても売れないから作らないんだ」と言う人もいます。お米も今年は大丈夫ということで、作ることに決まりましたが、その中でも作る人と作らない人が出てきています。作ることの手間もそうだし、もしまた何か出た場合は風評被害の再現になってしまいます。いろいろな考えがあります。でも少しずつでも以前の生活に戻すためにやっていかないことには始まらないですから。

小笠原 だからJヴィレッジが再開して、またアントラーズや日本代表が合宿したとなれば、それを見に来るファン・サポーターの方もまた足を運んでくれるよね。状況が落ち着いて、変わっていかないかなと思います。少しずつでも……。

西 以前はここで防護服を着たり、除染をしたりしていましたが、そういった機能が福島第一原発に移って、今は作業員が車を置いて、大型バスに乗り換えるターミナル的な役割と復興本社のオフィス機能だけを持つようになりました。以前は『ハーフタイム』で200人の作業員の方々が昼食を摂っていましたが、今は20~30人ぐらいまで減ったかな。ここで除染をしているというと、やっぱりまだ進んでいないイメージが強くなっちゃう。だから早くJヴィレッジからその拠点を移してほしいというのが、住民の意見でしたから。

小笠原 ただ、利用する人も減って東京電力の人たちもいなくなったら、西さんも大変ですよね?

西 今は5年後を目標にJヴィレッジを元のサッカー施設に戻そうという動きになっています。そこで東京電力が出て行ったら、施設の中も直さなければいけない。でもその時はその時で、何とかなるんじゃないですか(笑)。

小笠原 強いなあ。

西 いつもそんな感じでやってきたから(笑)。先を考えるとできないですよ。考えたら尻込みしちゃいます。

小笠原 何とか利用客が増えてくれればいいですね。少しずつ人も戻って来て、街の様子も変わっていくだろうし……。

西 それはなかなか難しいね。でも、この街の人間であり続けたいと住民票を移さない人もいます。

小笠原 だからこそ、オフにふれ合い活動をやりたいですね。それでいろいろな選手がここに来たということを発信できれば、何かにつながると思う。それとホントはやりたくないキャンプなんだけど、Jヴィレッジだったら喜んでやります(笑)。

西 ぜひともそういう日が来ることを信じて(笑)。昔は砂地トレーニングとかもやっていましたよね?

小笠原 やってました。つらいですよ(笑)。ホント、西さんのごはんだけが楽しみで……。でもその頃、使っていたピッチも今は駐車場になっていたりしていて。今、自分の中にはニつの思いがあるんですよ。一つは、「こんな状況になっちゃったんだ」というがっかりした思い。もう一つは、「ここで頑張っている人がいるんだ」という感謝の思い。最初は「ここでやらなくても……」と思ったけど、頑張っている方々を見て、安易に「ここを早く空けてくれ」と考えるのも違うかなとも思うんです。そしてそんな方々を支えている西さんがいて、いろいろ考えると単純にここでサッカーをしたいというのはどうなのかなと……。でも本音を言ったら、ここでまたサッカーがしたい。走り込みだけは勘弁ですけど(笑)。

西 いやいや、基礎体力は重要でしょ(笑)。

小笠原 じゃあ、たまには俺が料理するんで、西さんに走ってもらっていいですか?(笑) それは冗談として、俺は西さんが作るペペロンチーノが好きだなあ。いつもその場で作ってくれるんですよ。忘れられないなあ。

西 代表で試合前日、うどん食べた後にパスタも頼んできたことがあったよね。その時は「満男ちゃん、気合入っているなあ?」と思ってました(笑)。

小笠原 うまいから食べただけです(笑)。今の代表もそうだけど、西さんたちに支えてもらってワールドカップに出場できるわけで。また福島第一原発で作業している人たちも、西さんの美味しいごはんを食べて頑張っているわけで。こういう人に話を聞かせてもらって俺も頑張らなきゃいけないなと思います。

西 すごいヨイショですね(笑)。

小笠原 じゃあ、パスタ作ってもらっていいですか?(笑)

西 今日はもういいでしょ(笑)。

小笠原 今度、キャンプで走り込みをやってボロボロに疲れて、西さんのごはんを食べて回復します(笑)。

西 分かりました(笑)。

小笠原 ここで合宿をやるまで現役はやめられないですね。それをモチベーションの一つにします。

西 おお、頼もしいですね!

小笠原 日本サッカー協会の人に声を大にして言いたいですね、「早くしてほしい」と。そうしないと体がもたない(笑)。

西 私は満男ちゃんがここで合宿する日が早く来ることを夢見て頑張っていますから!

~From Mitsuo~
 対談を終え、西さんに「また来ます」と言って握手をして別れました。ここ福島の問題はいろいろな要素があって、何が正解かということは分からないというのが、本当のところだと思います。でも、様々な考えがある中で、ここに残って人のために何かをしようとしている西さんの生き方は、俺にとってはすごくかっこいい。状況がどうであれば、生まれ故郷で、お世話になったところで、仲間がいるところで、働いて生きていく。そんな西さんといろいろな話をして、また自分も頑張ろうと思いました。 西さん、必ずまた合宿で行くから、美味しいごはんを作ってください!
西さんが経営する『アルパインローズ』と『ハーフタイム』


広野町レストラン アルパインローズ
[住所]〒979-0402
福島県双葉郡広野町大字下北迫字二ツ沼46-1
[TEL]0240-27-1110
[ホームページ]http://www.alpinerose.jp/
[定休日]金・土・日・祝日
[営業時間]
昼 11:30~13:30(L.O. 13:00)
夜 18:00~22:30(お料理L.O. 21:30 / ドリンクL.O. 22:00)
※8月は夜のみの営業。休日でもご宴会、ご会合など、ご予約
承ります。お気軽にお問い合わせください。近隣のお弁当の
ご注文もお電話にて承っております。

Jヴィレッジレストラン ハーフタイム
[住所]〒979-0513 福島県双葉郡楢葉町山田岡美シ森8
JFAナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジ内
[ホームページ]http://j-village.jp/
[営業時間]
月~金 11:00~14:00(L.O. 13:30)
土日祝 11:00~13:30(L.O. 13:00)
Jヴィレッジは震災以降、原発事故収束のための中継基地となっていますが、ランチタイムは一般の方もご利用いただけます。

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