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ブンデス解説者、鈴木良平氏が語る日本人8選手の評価

2013.08.11

ドイツでの地位を確立しつつある日本選手たち、要因は日本のレベル向上とドイツサッカーの変化

 いよいよ2013-14シーズンの開幕を迎えるドイツ・ブンデスリーガ。開幕を前に、FOXスポーツではドイツサッカー協会(DFB)の公認S級ライセンスを所持し、今シーズンもFOX SPORTSでブンデスリーガの解説を務める鈴木良平氏に、総勢8人の日本人選手について語ってもらった。

――ドイツでプレーする日本人選手が増えた理由の1つは、Jリーグができて日本のサッカーのレベルが上がってきたということ。二つ目の理由は、日本のレベルが上がったと同時に、ドイツのサッカーも変わったということだ。90年代までのドイツのサッカーは、身体が大きくパワフルな選手がゴール前で肉弾戦を繰り広げるという、体力的にはすごいが、つまらないというイメージ。日本人からだけでなく、ヨーロッパ中からそう思われてきた。

 それがEURO2000での惨敗をきっかけに、ドイツはこのままではもうヨーロッパの頂点にはいられないと自覚し、大きな改革を始めた。育成の改革から始めて、サッカーの質が変わってきた。パワフルな選手しかいないというイメージを覆し、足下が上手くクリエイティブな選手がどんどん増えてきた。

 3つ目の理由は外国の流れを汲む選手の増加だ。ドイツは移民が非常に多い。ドイツ代表はポーランドやトルコ系の移民選手を積極的にチームに勧誘した。また、アフリカ系の選手もいて、彼らは移民でこそないが、成功を夢見て続々とヨーロッパへと進出してくる。そういう選手をドイツは積極的に代表チームに招集していった。ドイツでは5年以上の在住経験があれば、ドイツの市民権を獲得できる。アサモアがその代表格だ。

 しかも、ブンデスリーガのルールでは、EU圏内の選手に限らず、外国人枠が一切ない。たとえスタメンが日本人11人であっても構わない。そういったブンデスリーガのルール改正がドイツの改革を加速させ、その流れに日本人選手もうまく入っていけた。香川や乾のように身体は大きくないが、テクニックと戦術眼がある選手が求められるようになってきたのだ。今季のブンデスリーガでは現時点(2013年8月9日現在)で8人の選手がプレーすることになる。以下でそれぞれについての評価を述べていきたいと思う。

■内田篤人(シャルケ)

 上位進出を義務付けられたシャルケでレギュラーポジションを獲得している上、日本人にとっては一番難しいと言われる最終ラインでポジションを確保している。それは非常に価値あること。昨シーズンは肉離れという想定外のケガをして、復帰したと思ったらまた同じ箇所を傷めてしまった。それを踏まえて今オフはケガに強い体づくりにも取り組んだようだ。

 今シーズンもレギュラーで出られる可能性が高い。内田にとってラッキーなのは、シャルケが今オフ、右サイドバックを補強ポイントにしていたにもかかわらず、選手の獲得に成功しなかったことだ。

 ツイてるとも言えるが、年々守備力は上達し、フィジカルも強くなっている。さらにファルファンとのコンビネーションは誰もが認めるところ。順調に成長している選手の一人だ。

■長谷部誠(ヴォルフスブルク)

 長谷部は昨シーズン開幕前にプレミア移籍を目指していた。この話は非常に上手く進んでいて、移籍が決まりかけていたが、直前で破談になってしまった。これを当時チームを率いていたマガト監督は気に入らず、長谷部は戦力外の様な扱いを受けた。

 ただ、そこで長谷部がすごかったのは、決して腐らなかったこと。ヴォルフスブルクには(かつてJリーグでもプレーした)リトバルスキーがコーチをしていて、彼が長谷部の練習ぶりをつぶさに見ていた。リトバルスキーは「戦力外扱いされても、これだけ真面目にトレーニングして、サッカー中心の生活を送れる選手はそうそういない。試合に出れなくても、彼はチームにとって必要な選手だ」と言い続けてきた。それが実を結び、マガトが解任された時、長谷部はすぐさまレギュラーに返り咲いた。

 本職のボランチでは出られていないが、彼はそれでも前向きに努力できる選手。ヴォルフスブルクは決してレベルが低いチームではない。個々のレベルも高く、ここでポジション争いをするのは大変なこと。そこで目的を失わずに努力する長谷部は素晴らしいと思う。

■乾貴士(フランクフルト)

 彼のドリブルのキレや突破力に、最初はブンデスリーガのディフェンダー陣もずいぶんと戸惑った。それぐらい素晴らしいキレがあった。ただ、シーズン後半になり2回目の対戦になると、相手も研究してきた。そうなった時、乾はワンパターンのプレーしかできなかった。ドリブルからカットインしてシュート。このパターンは怖いが、それ以外のパターンはあまり持ち合わせていないので、相手に抑えられる場面が多くなっていった。

 今シーズンもレギュラーとして扱われることは間違いないと思うが、引き続き抑えられるとなると、先発落ちにつながりかねない。プレーの幅を広げることが今季の課題ではないだろうか。

■清武弘嗣(ニュルンベルク)

 清武はCKやFK、クロスの精度が高く、多くのアシストを記録した。シーズン後半に入ると右サイドだけでなく、トップ下のようなゲームメーカーのポジションもやるようになってきた。ここで起用されればプレーの幅も広がるので、今後を考えればよいチャレンジなのではないだろうか。

 視野が広くて色々な所にパスが出せるという彼の良さを発揮していけば、ニュルンベルクでは大黒柱としてやっていけるはず。また、彼ならニュルンベルクからビッグクラブへステップアップしていけるのではないだろうか。

■岡崎慎司(マインツ)

 昨シーズン1点しか取れなかったのは非常に残念な結果。とは言え、なかなかスタメンで出してもらえなかったということもあった。岡崎の良さはとにかくよく頑張るところ。それはシュトゥットガルトの首脳陣も間違いなく評価している。しかし、FWである以上もう少し点を取ってもらわないと困るということで、シュトゥットガルトは点を取れる選手を補強した。そのなかで岡崎は溢れてしまった。

 ただ、それに対して、マインツは岡崎は点の取れるFWと評価。非常に優秀なトゥッヘルという監督が岡崎を評価しており、獲得を決意した。恐らくトップではなく、左サイドの前目のポジションでプレーすると思うが、トゥッヘル監督はそれでも岡崎は点が取れると評価して、シーズン開幕に向けて準備している。

 岡崎は非常にいいチャンスをもらったと思う。シュトゥットガルトでも戦力外という扱いではなかった。マインツは評価しており、ドイツにおける岡崎の評価はまだまだ下がっていない。目標は5点以上。10点取れればサイドの選手としては最大級の評価を与えられる。

■細貝萌(ヘルタ・ベルリン)

 細貝はレヴァークーゼンでプレーしていた昨季、前半戦は左サイドバックとしてレギュラーポジションを獲得した。しかし後半戦は控えに回ることが多くなった。本職のボランチとしては出られなかったが、レヴァークーゼンのこのポジションは非常に層が厚い。一方で、ヒーピア監督は非常に頑張る選手として評価していた。

 ヘルタでは高い確率でボランチとして出場できると思う。というのも、ヘルタの監督が細貝がアウクスブルクにいた時の監督であるヨス・ルフカイで、彼が細貝の入団を望んだからだ。課題は攻撃力になるが、このポジションで試合に出続け、ゲームのなかでチャレンジし続ければ、光は見えてくるはずだ。

■酒井高徳(シュトゥットガルト)

 酒井高徳は非常に高い評価を受けている。最初は左SBでスタートしたが、右サイドが手薄になったら今度は右でもプレーするようになった。左右どちらでもプレーでき、日本人には珍しくフィジカルも強く走力もある。攻撃力も高いため、重宝されている。

 ただ、今シーズンのシュトゥットガルトには1つのポジションに同じレベルの選手が2人いる。少しでも出来が悪ければ、交代になりかねない。今シーズンは昨シーズンよりポジション争いは激しくなるから、勝負の年になると思う。

■酒井宏樹(ハノーファー)

 酒井宏は今シーズンはチャンスだった。ポジション争いしている主将のチェルンドロは高齢で、その後継者になることが期待されていたが、シーズン開幕前に2人ともケガをしてしまった。

 ハノーファーはクラブとして酒井宏樹に期待している。その期待に応えられるかは本人次第というのが現状。今シーズンはチャンスではあるが、今はちょっと厳しい状況に置かれている。8月末まで移籍市場が開いているので、ひょっとすると、ハノーファーがこのポジションに選手を一人補強するかもしれない。ただ、素晴らしいクロスを持っているのは間違いないので、強い気持ちを持ってサッカーに取り組んで欲しい。

語り手:鈴木良平

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