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『努力は必ず報われる』…苦しみを越えた畑尾大翔の活躍を祈って

2014.03.20

 本連載の著者である安藤隆人氏は、元銀行員という異色の経歴を持つサッカージャーナリスト。今では、高校サッカーを中心に日本列島、世界各国を放浪し精力的な取材を行っている。巷ではユース教授と呼ばれる。本連載では安藤氏の“アンダー世代”のコラムをお届けする。

文=安藤隆人

 先日、ある記事を目にした。それは『早稲田大のDF畑尾大翔、甲府の練習に参加』というものだった。

 畑尾と言えば、FC東京U-18時代からフィジカルが強く、クレバーなCBとして注目を集めていた。ラインコントロールがうまく、三田啓貴武藤嘉紀FC東京)、山村佑樹水戸ホーリーホック)、岩渕良太(レノファ山口)ら多くのタレントを有する攻撃陣を後ろから支えていた。キャプテンとしても個性派ぞろいのチームをまとめ上げるリーダーシップの強い選手で、私が取材をした時も、「受け答えがしっかりしていて、実直で頭のいい選手だな」と感じるほど、『いい選手』であった。

 彼は高校卒業後、早稲田大学に進学。早大ア式蹴球部で1年から出番を掴むと、4年時にはキャプテンを任され、CBとしての能力だけでなく、人間性においてもスケールアップしていた。当然、大学卒業後はプロに行くだろうと思っていたが、彼が4年生になったばかりの昨年春に、突然彼の体に異常が起こった。

「走ってもすぐに息が上がるし、咳や胸の痛みもあって、プレーするのが苦しくなった」

 当時は検査をしても原因不明だった。肺の塞栓症と診断をされたが、もっと最悪のケースもあると言われていた。徐々にピッチから遠ざかって行った彼は、大学サッカー最後となる冬のインカレで、優勝を果たしたチームを、常にジャージ姿で見つめなければならなかった。

 早稲田大がこの大会で優勝できた要因の一つとして、『畑尾に金メダルを』とチームが一丸となったことが挙げられる。大会は感動的なフィナーレを飾ったが、彼の病魔との闘いは終わらなかった。同級生が新たな人生をスタートさせる中で、彼は大学に籍を残しながら、サッカーができるかどうかの瀬戸際をさまよう日々を過ごした。

 しかし、昨年の夏ごろ、「彼の病気が治る可能性がある」という話が出てきた。すぐに手術に踏み切った彼は、手術が無事に成功した後、復帰に向けてリハビリに励んでいた。私はある用事で早大ア式蹴球部のグラウンドに行った時、誰もいないグラウンドを、彼が延々とランニングしている姿を見た。声を掛けることができないくらい、彼は真剣に、かつ黙々と汗を流していた。その姿に、私は「頑張れ」と心の中で呟いてから、グラウンドを後にした。

 あれから数カ月が経ち、あの記事を目にした。高校時代と変わらず、サッカーに対して常にまっすぐと向き合い、情熱と努力を絶やさなかったからこそ、ここまでたどり着くことができた。だからこそ、彼にはプロになるチャンスを掴んでほしいと心から願っている。

『努力は必ず報われる』。それを彼に体感してもらいたい。もちろんプロである以上、感情論で結果が左右することがあってはならない。彼には、しっかりとこれまでの『成果』を発揮し、朗報を掴むために、今を全力で過ごして欲しい。私はその結果を楽しみに待ちたいと思う。

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