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サッカーのおもしろさはデータにあり?…「サッカーとデータの関係性」に迫る

2020.08.21

[写真]=Getty Images

「ボールは丸い」。サッカーが好きな人なら、一度は聞いたことのある言葉だろう。サッカーはほかのスポーツと比べて変数が多く、最後まで結果が分からない、という意味だ。

 しかし、90パーセントのゴールは4本以内のパスから決まっていたり、番狂わせが起こっても、最終的にリーグの上位を占めるのは常連のチームだったりすることも事実だ。つまり、サッカーは変数が多いスポーツながら、その裏には“一定のパターン”が隠されているのではないか――。

 そう考えたのは、サッカーを専門としたビッグデータの分析を行う韓国のTeamTwelve社でCEOを務めるパク・ジョンソン氏だ。パク氏は、その“一定のパターン”を形成するデータを分析することで、「勝利の法則」を探り当てることにした。

取材・文=近藤七華(サッカーキング編集部)

アジアでは分析データをうまく活用できていない

――サッカーはほかのスポーツに比べ、データ分析技術が進んでいると考えられますか?
パク データ分析技術が最も発展しているスポーツだと思います。データ分析は15年ほど前、サッカービジネスの最前線であるヨーロッパで始まりました。一方、アジアでデータ分析が一つのビジネスとして成立するまでには、まだまだ時間がかかると感じています。

――ヨーロッパとはどういった違いがあるのでしょうか?
パク ヨーロッパのクラブの監督やコーチングスタッフは、長いあいだ蓄積されてきた経験と”直感”に磨きをかける参考ツールの一つとしてデータ分析を活用しているため、試合で意思決定をするときに積極的にデータを使います。一方、アジアでは指導者の経験や直感を重要視しているため、データをあまり活用していません。つまりヨーロッパではデータ分析を「補助するもの」として見ていますが、アジアでは指導者の経験や直感に「代替するもの」として見ている。こういったことから、アジアのクラブにはデータを扱う専門家、いわゆるデータサイエンティストが少なく、各チームの分析官は過去の試合映像から分析するスタッフがほとんどです。

――リアルタイムでデータを分析するには、1試合あたり何人くらいの手が必要なんですか?
パク だいたい1試合あたり2~3人は必要です。パス部門やシュート部門、セットプレーの部門といったように、分野ごとに手作業でデータを取るからです。リーグのすべての試合をリアルタイムで分析するには相当な人件費がかかるので、昨年末に開発した『AI11』のように、今後はAI技術を活用していく必要があると考えています。

●E-1選手権やKリーグで導入…勝敗予測システム『AI11』って何?

――御社は2015年に中国の2部リーグに分析データを提供し始めました。現在も継続していますか?
パク いえ、やはり中国にも我々が提供した分析データをうまく活用できる人材がいなかったため、現在は行っていません。当時は中国政府がサッカー産業の活性化に注力している時期だったので、ヨーロッパのように大きなマーケットになると期待していたんですけどね。

TeamTwelve社のCEOパク・ジョンソン氏 [画像提供]=TeamTwelve

――ビジネスとしては定着しなかったということですね。
パク はい。データ分析の役割についての認識不足、データ専門家の不在などの理由で定着しませんでした。

――御社は2017年に、韓国の小中高のサッカー連盟とパートナーシップ契約を結び、子供たちに分析データを提供していますよね。
パク アマチュア選手やユース選手にとって、自分のプレーを映像で振り返ることは、能力を高めるためにとても大事なことなんです。しかしアジアのユースチームでは、20~30人ほどいる選手たちに対し、コーチングスタッフが一人ひとりに細かいアドバイスができていないのが現状です。もちろん大事なポイントを伝えたり、アドバイスをしたりすることはありますが、選手たちが自身のプレーを見返す機会はほとんどない。そこで我々が、試合での一つひとつの動きを収集し、振り返ってもらうことのできるアプリを開発・提供することで、彼らの助けになるのではと考えました。実際に子供たちはとても喜んでくれましたよ。今後は韓国だけでなくアジア全体で、これが当たり前になっていけばと思います。

今までになかった話題を提供したい

[写真]=Getty Images


――2018年のロシア・ワールドカップでは、これまでとは方向性を変えて勝敗予測コンテンツを発表しました。このサービスを始めることになったきっかけを教えてください。
パク 以前から、クラブやリーグに提供する以外にもデータの使い道があるのではないかと考えていて、観客向けのサービスを開発することにしました。実は、これまでデータ分析を行っているなかで、大きな発見があったんです。

――どんな発見でしょう?
パク 攻撃の回数とシュートを打った回数が試合結果と深く関わっていることが分かったんです。我々はこれを「攻撃完了率」と呼んでいるのですが、それに基づいて一つのアルゴリズムを作りました。そのアルゴリズムを使ってロシアW杯の勝敗を予測してみたところ、ベスト16に進出するチームのうち13チームを的中させることができました。

――その要因は何だったと思いますか? 最近では、W杯の開幕前にいろいろな分析会社が優勝国などを予想していますが、御社は何か違った方法で行ったのでしょうか?
パク 一般的にそうした予測にはビッグデータが使われていて、出場する32カ国のチームの過去十数年の試合のデータが集められています。しかし我々には、その方法で正確な予測ができるのかという疑問がありました。

――十数年前とは選手や監督も違えば、戦う相手も違いますからね。
パク そこで「攻撃完了率」を用いて、本大会直前に行われるフレンドリーマッチ数試合に出場している選手のデータのみで予測することにしたんです。何パターンかシミュレーションしてみた結果、直前の3試合のデータを使った予測が最も的中率が高いことが分かりました。

――リアルタイムで勝敗を予測する『AI11』は、その先に生まれたものと言えますね。ここからは『AI11』の開発マネージャーであるオ・ソンテク氏にお話を伺います。
 『AI11』は、サッカーファンに今までになかった話題を提供したいという思いから開発しました。時代が進むにつれ、野球などほかのスポーツでは中継時に様々なデータが表示されるようになりました。しかしサッカーは、シュート数やコーナーキックの本数といった昔ながらのデータしか表示されない。そこで、我々が持っている様々なデータとAI技術を融合させれば、何かおもしろいサービスができるのではと考えたんです。さらに、『AI11』はサッカービジネスで大きな部分を占めるベッティングビジネスにも大きな役割を果たせるのではないかと期待しています。

――『AI11』を開発する前にも、AI技術を使った分析は行っていましたか?
 ロシアW杯では 『AI11』の土台になるAI勝負予測の分析を行いました。そのときは人が手作業で収集したデータと、そのデータから作った アルゴリズムをAIにインプットし、予測の計算を行っていました。『AI11』ではそれをさらに発展させ、データ収集自体もAIが行っています。AIの役割が一つ追加されたようなイメージですね。 結果、映像さえあればAIが自ら学習をし、精度を上げることができました。

『AI11』開発マネージャーのオ・ソンテク氏 [画像提供]=TeamTwelve

今後は選手の評価にも活用されていく

――AI技術を融合させることで、どんなことが実現可能になるのでしょう?
 いくつかありますが、一番は手作業ですべてのデータを取る必要がなくなったということです。AIが膨大なデータを取ってくれるので、そのぶん、データ収集にかかる時間は短くなり、人は収集したデータを活用して新たなデータを作ったり、開発できるようになりました。また、AIは膨大なデータを自ら学習をするため、僕たちが見逃していた新しい部分を見つけてくれる役割も果たしています。

――データ分析やAI技術はサッカーにどんなものをもたらし、どう変えていくと思いますか?
パク 近年、AI技術やIoT技術が急速に発展したことで、データを取得するためにかかる時間とコストが削減されました。これにより、サッカー界では今後、いろいろな分野でデータを導入し、有効的なツールとして使われるようになるはずです。例えば、「選手の価値」を計る指標として活用されていくと考えています。現在、大きな指標となっているのは「移籍金」で、移籍金が高ければ高いほどいい選手であり、安ければ安いほど実力が低いと見られています。しかし、金額を設定しているのはチームやエージェントで、近年はその額がどんどん高騰するばかり。獲得を狙っているクラブはそれに左右されてしまい、選手が持つ本来の能力を見極めることが難しくなっているんです。

――データを使えば選手の本来の価値を見極めることができる。
パク はい。例えば100億円の価値がつけられた選手を獲得したクラブがあるとします。しかし、いざ加入してみると本領を発揮できず、別の「安くても上背のあるFW」のほうが戦術的にフィットしたりすることがありますよね。能力を一つひとつデータ分析することで、本当にチームに合った選手を選ぶことができるんです。我々の役目はデータを使い、「勝利の法則」を追求していくことです。『AI11』は「勝利の法則」をファン目線で見たものの一つですが、それだけでなく、今後もチーム目線や選手目線でも活用できるコンテンツを考え、様々な場面に貢献していきたいと思っています。

By サッカーキング編集部

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