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【コラム】国内組合流から始まる真の競争…加藤恒平は欧州組合宿の成果を生かせるか

2017.06.05

日本代表に初招集された加藤恒平 [写真]=野口岳彦

 ブルガリアの首都・ソフィアから西の231キロ行った人口16万の町、スタラ・ザゴラ。8000年の歴史を持つ欧州最古と言われるこの地に本拠を置くベロエ・スタラ・ザゴラ(ブルガリアリーグ1部)から日本代表にジャンプアップしたのが、加藤恒平である。

 東欧の無名クラブで背番号4を着け、アグレッシブなプレーをしていた27歳のボランチに目を付けたヴァイッド・ハリルホジッチ監督は前々から熱視線を送り続け、今季の欧州シーズンが終わったこのタイミングで招集に踏み切った。サプライズ選出された時の人は「周りがガラッと変わって自分がまだ戸惑ってる部分もあるんで、ピッチの上では自分のやるべきことをやって、周りに流されないように今まで通りしっかりやっていきたい」と欧州組合宿初日から自分に言い聞かせるようにコメントし続けた。報道陣から次々と寄せられる質問に誠心誠意、耳を傾け、自分の言葉で懇切丁寧に答えようとしている姿は、吉田麻也(サウサンプトン)が言う「好青年」そのもの。アルゼンチン、モンテネグロ、ポーランドとマイナー国を渡り歩いただけのフレンドリーさと適応力が垣間見えた。

 ピッチ内でもハリルホジッチ監督のハードなランニングメニューを意欲的にこなし、3対3や4対4といったゲーム形式では長友佑都(インテル)らに真っ向からボールを奪いに行くなど、代表常連組に引けを取らない動きを見せていた。「ボールを奪うのが特徴」と本人も言う通り、寄せの激しさや球際の強さは確かに一見の価値があった。ただ、奪ってからの展開やパス出しの部分はミスが目立ち、今野泰幸(ガンバ大阪)や山口蛍(セレッソ大阪)といった代表常連組より劣る印象だ。そこは否めない事実だと加藤自身も自覚している。

「攻撃のところでもっとボールに関われればいいかなと。ただ、取ったあとのつなぎでまだミスがある。大きいゲームになったらどうか分からないけど、小さいゲームでもそういうミスは少なくしていかないといけない。自分がプレーするリーグもそうですし、能力的にも1ステップ上げていかないといけないというのは感じています」と本人も欧州組合宿最終日の4日、神妙な面持ちで語った。

欧州組のみの日本代表合宿に参加した [写真]=野口岳彦

 ここまで8日間で本田圭佑(ミラン)や香川真司(ドルトムント)、長友ら代表看板メンバーとは慣れることはできたが、本当の勝負はここから。5日からはいよいよ国内組が合流し、今野、山口、遠藤航(浦和レッズ)、井手口陽介(ガンバ大阪)らとボランチのポジションを争わなければならないからだ。国際Aマッチ88試合の今野、32試合の山口は2014 FIFAワールドカップブラジル大会の経験者。遠藤と井手口は2016年リオ・デ・ジャネイロ五輪に参戦している若手のホープだ。異端の加藤は全く違った道のりを歩いてきたが、彼らに負けるつもりは一切ない。

「みんな守備のところで特徴がある選手たちで、タイプ的には似ているかなと思います。僕的には攻撃のロングパスであったり、ボックスに入って行くところで違いを出せればいい。クラブでは1試合に何回かそういうチャレンジをしています。相手の体勢やどこにスペースがあるかをしっかり見つけられば、スイッチを入れるタイミングが取れるんじゃないかと思います」と攻めの起点になる仕事で勝負していくつもりだ。

 ハリルホジッチ監督は初招集の選手をすぐに試合に出さない傾向の強い指揮官だが、昨年11月の久保裕也(ヘント)のように本当に確信が持てればいきなりピッチに送り出すこともある。加藤がシリア戦で初キャップを飾れるかどうかは日々の積み重ね次第。「加藤は結構能力がある」とこの日もコメントしていただけに、どこかでチャンスが与えられる可能性もゼロではないだろう。

 仮に、この試合で大きな一歩を踏み出せたとしても、この先も日の丸を付けられるという保証はない。今回の2連戦でブラジルW杯組の西川周作(浦和)、森重真人(FC東京)、清武弘嗣(C大阪)が落選したように、代表に指定席はない。それはまもなく100の大台に迫ろうとしている長友も口を酸っぱくして言っていることだ。過去にもサプライズ抜擢されて、1度や2度で消えていった選手は枚挙にいとまがないだけに、加藤の今後の過ごし方も大きなポイントになってきそうだ。

「できるだけ欧州の西の方に行きたいですね。スペインとかドイツの2部以上であったり、ベルギーやオランダに行きたい。個人的には毎年環境を変えて、知らない世界を見てみたいというのもあります。同じチームにずっといたいタイプではないし、できれば1年おきにチームを変えたい」と本人も話したが、現時点でUEFAランキング22位のブルガリアから脱出して、どれだけ高いレベルのリーグに上り詰められるかを考えていく必要がある。今回の日本代表サプライズ抜擢できっかけを得て、より良いクラブに移籍できれば、欧州組偏重の考え方が強いハリルホジッチ監督にとって重要な駒になれるかもしれない。

 いずれにしても、加藤が国内組と混じってどう変化するか、シリア戦でピッチに立ったら何をするのか。そこをしっかりと見極めるところから始めたいものだ。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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