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リオ五輪出場の舞台裏…チーム一丸を支えたアトランタ組・秋葉氏ら「スタッフの力」

2016.01.28

イラク戦に勝利し、リオ五輪出場を決めたU-23日本代表 [写真]=Getty Images

 勝利と同時に号泣していた秋葉忠宏コーチは取材エリアで「出来過ぎ!」という言葉を連呼していたのだが、確かに見事すぎる流れではあった。

 DF植田直通は勝因として率直に「スタッフの力」を挙げた。「相手の分析、西さんの作る食事、コンディショニング、メディカルの人……。何よりスタッフが僕たちを『見てくれて』いた」と言う。

 手倉森誠監督は相手に対応した術策を施す名人である。しかし、そもそも正確な分析に基づく情報が上がってこなければ、正しい対策などできるはずもない。中2日で試合が続く状況の中、時には夜を徹して映像を分析して考察を加え、情報を指揮官のところに届けたテクニカルスタッフの力なしに快進撃は語れない。

 今大会で選手たちの口から何度「分析のとおりだった」という言葉を聞いたことだろう。セットプレーの弱点、個人の脆い部分を見つけ出す力。それを選手に巧みに伝える、あるいは練習に落とし込んだのは指揮官の技量だが、その前提を作ったのは分析スタッフたちの奮闘である。

 また選手たちから頻繁に声が挙がったのは「西さん」こと、帯同シェフの西芳照さんの料理である。「何も楽しみがない環境にあって、食事こそが楽しみになっている」と形容したのは選手ではなく監督だったが、「本当にバリエーションが豊富」(植田)な料理を継続して選手たちに提供してきた。

 通常のホテル飯に加えて、西シェフの作る数品が加わることで食欲が増強されると同時に、「食事の時間になると、みんなのテンションが上がる」(植田)という状況を作り出した。「僕は外国の料理でもまるで問題がないタイプ」と言う植田ですら、「でも、楽しみなんですよね」と、一種の娯楽として機能していたのは見逃せない。ホテルと練習場の往復生活は、しばしば選手を心理的に疲弊させるものだが、「料理」という娯楽が彼らを慰めた形だ。

 リオデジャネイロ・オリンピック出場決定の直後、植田が「きっとこの後に、ホテルで西さんの料理が待っているはずなんですよ」と顔をほころばせていたのは、何とも印象的だった。

 これまで五輪世代以下にシェフの帯同はないのが通例で、今回はA代表の日程とバッティングしなかったこともあっての特例的な措置ではある。予算的な理由もあるだろうが、同時に「厳しい環境でハングリー精神を養おうという趣旨があった」(手倉森監督)という。ただ、「この選手たちは平和な日本の恵まれた環境で育ってきていて、そこでいきなり食事で『ハングリーになれ』と言っても……」というのも客観的事実。食事を思うように摂れないと本当にハングリーな状況になりかねないだけに、今回はシェフの帯同という形に踏み切り、それが間違いなくポジティブに作用することとなった。

 もう一つ、大きな勝因はコンディショニングだろう。ほぼ中2日(準々決勝と準決勝の間のみ中3日)という厳しい大会日程の中でのマネジメントは大きな問題だった。

 ベースの体作りは12月下旬に「コンディショニングが第一」(手倉森監督)として敢行した石垣島合宿からスタート。シーズンをフルに戦い抜いてボロボロの選手もいれば、逆にほとんど試合に出ておらず肉体的にはフレッシュな選手もいて、負傷からの復活を目指すという段階の選手もいるバラバラのスタートラインから、早川直樹コンディショニングコーチが中心となって選手の体調を整えていった。

 最後に追加招集された2名が石垣島合宿に参加した選手から選ばれたのも偶然ではなく、コンディショニングが理由の一つにあったことは想像に難くない。12月末、あるいは1月1日までシーズンをフルに戦い抜いた選手を中東の連戦に駆り出すのはリスキーだった。それよりもじっくり体を作った選手のほうが、連戦では効くという読みである。

 ターンオーバーで巧みにチームを運用した指揮官の手腕は見事だったが、同時に事前の体作りと大会中のコンディション作りがモノを言ったのも確か。この大会、日本が「走り負けた」ゲームは一つもない。

 そして最後に触れておきたいのが秋葉コーチの貢献である。かつて28年ぶりに予選突破を果たしたアトランタ五輪の代表メンバーは。底抜けの明るさでチームを盛り上げ、手倉森監督を盛り立て続けた。

 疲れが溜まって言葉少なの選手がいればハッパを掛け、練習で良いプレーが飛び出せば、少し大げさなくらいに「ナイス!!!!」と叫ぶ。もちろん天然のキャラクター性もあるだろうけれど、同時に「盛り上げ役」としての自分の役割を認識して、あえて道化を演じることもいとわない強さが感じられた。

 ちょっとおとなしい選手が多いこの世代の練習が暗いムードにならないのは秋葉コーチによる部分が大きく、とてつもない重圧にさらされていた指揮官にとっても心強かったに違いない。

 スタッフの力をひとしきり強調した植田に、「全員の勝利だったんだね?」と問うと、「はい!」と即答。その少しばかり誇らしげな様子が、「チーム手倉森」の仕事の確かさを雄弁に物語っていた。

文=川端暁彦

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