2016.01.23

「あの時と同じ」「一瞬のひらめきで変えた」…豊川の劇的なヘッド弾に秘められた舞台裏

豊川雄太
豊川雄太(右)は延長前半に値千金の決勝ゴールを奪った [写真]=Getty Images
2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

 右サイドバックの室屋成(明治大)が巧みな切り返しから左足でクロスボールを送り込む。2枚のセンターバックの間へコントロールされたボールに頭で合わせたのは、MF豊川雄太(ファジアーノ岡山)。リオデジャネイロ・オリンピック アジア最終予選準々決勝イラン戦の延長前半6分、後半終了間際に交代出場してきた元気者が見事に決勝点を奪い取り、この試合のヒーローとなった。

 そのゴールを後方から見つめ、狂喜していたのはDF植田直通(鹿島アントラーズ)である。大津高時代からの同級生は「ものすごく、うれしかった」と破顔一笑した上で、「試合が終わった後、『あの時と同じだな。本当に一緒だったな!』という話をしていました」と明かしてくれた。「あの時」というのは、今から約3年半前の2012年6月5日のこと。熊本県の水前寺陸上競技場で行われたインターハイ県予選決勝、熊本工業高戦の話。0-0のまま延長戦までもつれ込む中、同じようなクロスから豊川がヘディングで決勝点を叩き込んだシーンを指す。

 このゴールが決して偶然の産物でなかったことをよく示すエピソードだが、もともと手倉森誠監督もMF関根貴大(浦和レッズ)やMF前田直輝(横浜F・マリノス)といったJ1での実績を持つワイドハーフの候補がいる中で豊川を選んだ理由として、「クロスボールに飛び込める」、「ヘディングに強い」、「ボールを持っていない時に仕事ができる」ことを挙げていた。ゴールシーンはまさにその賜物である。

 右サイドバックの室屋がボールを持った時点で「(室屋)成なら上げてくれる」と動き出す。狙ったのは2枚のセンターバックの間。身長173センチの体では屈強なイランDFを相手に「普通に競り合っても勝てない」(豊川)だけに、大事なのはタイミングと駆け引きだったが、これが絶妙にハマった。もちろん動き出しだけではなく、速いクロスに対してしっかり頭でミートするヘディングの技術あってこそ。「すべてイメージどおり」という言葉もうなずけるハイレベルなゴールだった。

 実はこの試合、豊川は先発予定で、それもヘディングの強さを買われてのものだった。非公開となった前日練習では「セットプレーの練習では、僕にしか蹴っていなかった」というくらいに明確な方針だったのだが、当日の朝になって「一瞬のひらめきで変えた」と手倉森監督が豊川を呼んで「スタンバイ(交代選手)でいってくれ」と話すことに。大一番で先発という緊張感から一転、気落ちしてもおかしくないが、ここで気持ちを切り替えてベンチメンバーとしてムードメーカーの役割を果たせる人間性もまた豊川の魅力である。

 手倉森監督は「23人中22番目に選んだ」と言う豊川をこの試合のどこかで投入することは事前に決めていた。「ゲームがこう着状態になった際、豊川の得点力と先制した後の守備力が効いてくる」という読みの上で、87分になって「延長へのアイドリングだ」とピッチに送り出す。延長突入前に助走時間をつけたのは、「ちょっと今までにない雰囲気で緊張していた」という豊川に対する配慮でもあったのだろう。

 送り出された豊川もまた、「自分を選んでくれた」指揮官に対して「何かしら結果を残さないといけないとは思っていた」という熱い思いをピッチで表現することにためらいはなかった。勝利を呼び込むゴールを奪い、ベンチでは指揮官と熱い抱擁を交わす一幕について記者から突っ込まれると、「抱き合ったけれど、僕は抱き切れなかった。(何かが太すぎたわけではなく)手が短くて届かなかった」と笑いを誘うあたりも豊川らしかった。

「しびれる経験だった」と少し感慨深げに話した豊川は同時に、「まだ切符を、(リオ行きの)切符を取ってないですから」とも続けた。確かにあと一勝という段階までは来たが、そこで負けては準々決勝の価値も雲散霧消する。26日の準決勝に向けて「次ですね。次も得点を取る気持ちでやっていきたい。リオの切符を取る。それができれば最高です」と言って、彼らしい快活な笑顔を浮かべていた。

文=川端暁彦

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