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U23日本代表、3戦全勝は出来過ぎな展開?…“らしさ”発揮で勝負の決勝Tへ

2016.01.20

サウジアラビア戦、3ボランチの左として大会初出場・初先発を果たしたのが19歳の井手口だった [写真]=Getty Images

 トーナメントを勝ち上がっていくチームには、得てして“ニューヒーロー”が生まれてくるものだ。これまで決して主役の座に着いてついていたわけではないが、指揮官の抜擢に応えてチームを勝利へと導く救世主――。

 そんなラッキーボーイ的な存在となったのが、大会初出場となった井手口陽介ガンバ大阪)だった。

 サウジアラビアとのリオデジャネイロ・オリンピックアジア最終予選のグループステージ第3戦。宣言どおりメンバーを入れ替えたタイ戦に続き、手倉森誠監督はまたしても前日にした明言とおりに出場機会のなかった井手口、松原健アルビレックス新潟)、三竿健斗鹿島アントラーズ)、杉本大地徳島ヴォルティス)を起用した。

 同時にシステムも4-4-2から4-3-3へと変更。「これから対戦する国を惑わせる狙いがあった」と指揮官は明かしたが、サウジアラビアの4-2-3-1に対して中盤のマークがはっきりするという効果もあった。

 ところが前半、これがいまひとつハマらない。

 敵のトップ下、モハメド・カンノを捕まえ切れず、右サイドでは10番のフファド・アルムワラドに何度も裏を取られてしまう。攻撃においても「みんなが離れていて、選択が一個ズレたら相手に取られてしまう状況だった」と大島僚太川崎フロンターレ)が振り返ったように、ボールがスムーズに回っていたわけではない。

 そうした状況において、選手をつなぎ留め、攻守をリンクさせることに一役買っていたのが、井手口だった。

 左ウイングに入った中島翔哉FC東京)の仕掛けを斜め後方からフォローし、左サイドバック山中亮輔柏レイソル)の攻撃参加をカバー。ボールを奪われても素早くアプローチしてマーカーを逃さず、つなぎでのミスもほとんどない。さらに12分と17分にはミドルシュートも見舞い、攻めの姿勢を行動で表現した。

 大島のミドルで先制し、1点リードで迎えた54分には、さらに決定的な仕事をしてみせた。右サイドから中に入ってきた南野拓実(ザルツブルク/オーストリア)のパスに、「来たらダイレクトで打とうと思っていた」と、ゴール正面から右足を振り抜き、チームに貴重な2点目をもたらしたのだ。これにはアシストした南野も「このグラウンド(真ん中付近がグチャグチャだった)でよく押さえの効いたシュートを打ってくれた」と賛辞を送った。

 この直後にPKを取られて1点を返されたことを考えれば、この2点目がいかに大きかったことが分かる。

 ヨーロッパでプレーする久保裕也(ヤングボーイズ/スイス)や南野拓実、A代表に定着しているキャプテンの遠藤航浦和レッズ)がどうしても注目や期待を集めるが、彼らに頼ったチームではないことが、サウジアラビア戦で改めて証明された。

 3戦全勝でグループステージを終えて感じられるのは、手倉森監督が就任以来、言い続け、刷り込んできたコンセプトがチームから滲み出ていることだ。

「取れなくても、取られるな」
「失点は極力しないメンタリティを身に付けろ」
「時には割り切りが必要だ」
「相手や戦況に応じて柔軟性を持って戦え」

 前述したように、決してうまくいってなかった前半も、焦らず、攻め急がないでしのぎ、大島の豪快な一発で流れをグッと引き寄せた。

 後半も同様だ。井手口のゴールで2-0と突き放したが、4分後に不運なジャッジでPKを与えて1点差に詰め寄られると、日本のベンチはすかさず浅野拓磨サンフレッチェ広島)を投入した。

「拓磨が入ったことで割り切って蹴ろうと思いました。そういう合図かな、と受け取りました」

 そう明かしたのは大島だ。実際にこのあと浅野を何度も裏に走らせ、サウジアラビアの勢いを完全に削ぎ、流れを再び自分たちへと手繰り寄せた。手倉森監督も胸を張る。

「サウジアラビアのムラのある攻撃に対しても、タイ戦の時のようにコンパクトに守れた。PKのシーンで慌ててしまったのは少しもったいなかったが、点を取らせなければ勝てるという、勝ち急がない戦い方が今日はできた」

 残念だったのは、サウジアラビアが歯ごたえのある相手ではなかったことだ。特に終盤、1点が必要なはずなのに彼らはあまりに淡白だった。指揮官が望んでいたような「シビれるゲーム」とはならず、次に控えるイランとの準々決勝に向けた格好のシミュレーションとなり得なかった。

 もっとも、敵にそこまで望むのは贅沢というものかもしれない。あまりに出来過ぎな展開に、見ているほうとしては「この先に落とし穴が待っているのではないか」と不安になってしまうが、落とし穴に落ち得る最大の要因――慢心やおごりはチームの雰囲気に接する限り、感じられない。

「僕らはまだ何も勝ち取ってないので、あと二つ、僕たちが目指しているアジアチャンピオンまではあと三つ。次から真剣勝負ですし、違った緊張感もあると思うので、自分たちのサッカーをして勝てればと思います」と南野がきっぱり言えば、大島も「うまく行くことばかりではないと思うので、その中で割り切ってやりたい」と警戒心を強めた。過去、U-19アジア選手権のベスト8で敗退し、世界大会への挑戦権を逃してきた世代だけに、本当のスタートはここからだということは十分、理解しているようだ。

 準々決勝の相手、イランは2012年のU-19アジア選手権の初戦で対戦し、0-2で完敗した因縁の相手。その試合に出場していた久保は「悔しさとかはありますけど、それをプレッシャーに感じることなく、自分らしくやりたい」と言った。ここから日本の真価が問われる戦いが始まる。

文=飯尾篤史

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