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SC相模原の「MOVE」に出会う旅 第2話 菊岡拓朗が胸に秘めていること「毎日、大事に、1試合の重みを」

2016.09.02

思い詰めずに、少し楽観的に物事を見つめる

「まだまだ老け込む年ではないと思っていますから」と語ったのは、6月30日に31歳となる菊岡拓朗である。

 菊岡は、法政大学サッカー部から2008年に水戸ホーリーホックに加入すると、すぐにレギュラーの座をつかむ。その後、東京ヴェルディ1969に移籍し、栃木SCからコンサドーレ札幌とキャリアを積み重ねていく。そして、SC相模原に加入することになるのだが、札幌では契約満了でチームを去ることになった。


「プロになってから、試合に出られていて、出られることが当たり前だと考えるようになっていた。札幌に移籍してから試合に出られない時期があって、そこではじめてアウトになった。そういう経過を考えると、もっと毎日、大事に、1試合1試合の重みというか、試合に入るための気持ちというものが強くなったんです」

 札幌で試合に出られなくなったときに、どうしたら試合に出られるようになるのかと時間をかけて考えて、そして悩み抜いたという。

「もう、本当に、いろいろ考えました。いくら考えてもうまくいかなかった。監督が何を求めているのかとか。どういうプレーをすれば試合に出られるんだろうかとか。結局、僕的には、監督が求めているプレーヤーではなかった、という結論にいたったんです。あのときはいろいろ考えたけど、相模原に来て、そういうモヤモヤしたものを吹っ切って、自分が思いっきり楽しめるようにやれればいい、と考えるようにしたんです。きっと、それでいい。いま、相模原に来てそう思うんです」

 札幌から契約満了を告げられる前、2015年11月2日に右足関節遊離体除去の手術を行う。関節遊離体とは、軟骨や骨の小片が、関節内に遊離して動きまわるもので、痛みやひっかかりを感じ、関節が伸ばせない、曲げられないなどの症状がみられるものだ。治療方法として、一般的に、からだへの負担が少なく、回復も早い関節鏡を用いた手術が行なわれる。

 試合に出られずに悩んでいた菊岡は、この時期に手術と契約満了という試練の前に立たされる。しかし、彼は、自分にどれほどの不安が押し寄せようとも、楽観的に物事を捉えるようにした。
「不安はありましたけど……『大丈夫だよ』と考えるようにしました。チームにしても……『どっかあるだろう』と漠然と思っていましたね。相模原に来た理由ですか? それは、望月(重良)会長が声をかけてくれたからです」

 菊岡は、望月会長から誘われて相模原に移籍してきた。札幌で試合に出られなかった菊岡。そんな彼が、チームの中心選手として毎試合、ピッチに立っていられる。サッカー選手としてこれほどの喜びはない。

「いま、コンスタントに試合に使ってもらっていて、やりがいがすごくある。中心選手として試合に出られているということで、すごい充実感もあります。それに、(薩川了洋)監督のサッカーは、ボールをつなごうとしているし、自分のサッカー感にもフィットしています」

 今季から監督になった薩川監督は、菊岡のプレーに対して様々な注文をつける。

「監督は、『良いことは良い』『悪いことは悪い』『ダメなものはダメだ』と誰にでも、はっきり言ってくれます。本音で話してくれるので、すごくやりやすいです。選手との距離が近い監督ですね。自分は、ポジショニングのところとかを言われます。ボランチとか最終ラインがボールをもったときの自分の立ち位置とかです。ビルドアップの際に、『ここに顔をだしてくれ』とか。それから、チームとしての守備のやり方を指摘されます。『前から行きすぎているときは下がれ』とかですね」

試合内容と失点場面を振り返る

 戦術眼の高い菊岡の目には、この日の試合(6月19日 第13節 対カターレ富山戦)がどのように映ったのだろうか。

「自分は、やっぱり点が取れなかったので、それがすべてですね。無駄なミスからセットプレーを相手に与えて、時間帯も気をつけなければならないのに。チャンスがいくつもあった中でのセットプレーでの失点。相手にとっては最高の先取点であったし、うちにとっては最悪な失点だった」

――相模原は、というか、得点能力が少ないチームはどこもそうだけれども、前半は抑えて後半にペースアップするというやり方なの?
「前半は抑えて、後半にパワーを出していく。そのパターンでうちは勝ててきたんです。ただ今日は、試合開始早々に前から行けていたので。チャンスが何度もあって、決められるところもあった。そこを決められなかったから(前半終了間際の失点により0-1で敗れる)。逆転勝ちできた試合でした」

――菊岡選手は、中央から縦パスという攻撃を意識していたよね。
「中央からの攻撃はいつも意識しているところです」

――この試合は、サイドの保崎(淳)選手と富山の北井(佑季)選手のマッチアップが見ものだった。それに深井正樹選手が後半になって出てきたけれど、それについてはどういう感想をもっている?
「今日に限って言えば、サイドの選手がアグレッシブでしたね。(保崎と北井のマッチアップについては)『おっ、やってるな』と。後半から出てきた深井さんが、あれだけパワーをもって出てくれると、すごく助かります。他の選手で頭からプレーできるような選手が出てきたら、さらにオプションが増えますよね。試合途中からのパワーがいつも不足しているのかなと、自分的には感じていたので」

――失点の場面はどんな風に映ったの?
「失点のときは、ゴールキーパーが相手の選手と競り合って、そのあとのうちの反応がちょっと遅かったかな、と思います。相手の方がボールへの反応が早かった。GKが前に出てボールを弾こうとした。うちの選手がゴールカバーに入ったと思うんですけど、マークをほっちゃったんですよね。そこは判断が難しいですけども、マークにつくのか、相手をほってゴールにつくのか。難しかったとしても、防げない失点ではなかった」

 前半41分の失点の場面を振り返ってみよう。

 ゴールエリア内には相模原の選手が6人に対して、富山の選手は4人だった。数的優位に立つ相模原。コーナーキックから蹴られたボールは、ゴールエリア内のファーサイド寄りに到達する。ゴールキーパーの川口能活がパンチングでボールを弾こうと前に出てくる。このときに、富山の2人の選手が川口と競り合って、弾かれたボールがニアサイド寄りにいた北井のところに飛んでくる。北井には、フォワードの普光院誠が付いていた。しかし、普光院は、マークをしている北井を見切って、ゴールマウス前にポジションを移動する。ゴール前にはすでに、菊岡を含めて2人の選手がカバーに入っている。菊岡の言う通り、マークを捨てるかゴールをカバーするのか、判断において難しい局面だったことは確かだ。だか、はっきり言って、あの場面でマークを捨てる判断をした普光院のミスである。ゴールマウス前には、すでに2人の選手がカバーをしていたので、マークする選手を最後までケアすることが先決だった。

 23歳という若い普光院には、当然、経験不足という言葉が今は付きまとう。この経験を次につなげてほしいものだ。

勝っていけば、何かが変わってくるかもしれない

 いくつもチームを渡り歩いてきた菊岡。31歳を目前にして、チームへの想いが日々強くなっていると言う。そんな菊岡に「サッカーをやっていて、今が一番楽しいのでは?」と訊ねた。菊岡は、しばらく考えてからこう話した。

「一番楽しいかどうかは難しいかもしれないんですけど、ただ、毎日、自分自身成長していきたいと思っています。まだまだ、老け込む年ではないと思っているので。常に毎日を大切にして、いま試合に出られているし、すごく充実しています。相模原のために、チームを勝たせるために、やっていきたいという強い気持ちはすごくあります」

――ライセンスの問題で、J2リーグに昇格できないチームにいて、菊岡くん自身、モチベーションを維持するのは難しくないの?

「それについては、あまり思わないですね。毎週試合があって、目の前の試合でいいプレーして勝ちたい、ということしかない。Jリーグの舞台で真剣勝負できること自体が誇りです。それで勝ち続ければ、何かが変わってくるかもしれない。それは、自分の価値を上げることだったり、チームの価値を上げることだったりしますよね。試合に出られないときがあって、相模原に来て公式戦出場。ひさびさだったんです。サッカー選手は公式戦に出てなんぼのものだと思う。成長も全然違うし。いま、真剣勝負ができていることがすごく楽しいんです」

 試合が終わって、菊岡が控え室から出てくるのを待って話を聞いた。2人での立ち話が続いたのだが、そろそろ終わりの時間が迫ってくる。「最後に、サポーターに対して何かメッセージはある?」と聞いてみた。

「目の前の試合に勝つことだけを僕は考えている。サポーターが試合を見て喜んでもらって帰ってくれるようなプレーをしたいと思っている。今日もスタジアムにけっこう(5,668人の観客)入ってくれた。勝ってまたスタジアムに来たいと思われるようなプレーをしたいんです」

 この談話が、偽らざる菊岡の心境である。勝ち続けて何かが変わってくるのを見届けるために、今日も菊岡は、真剣勝負の場に向かうのである。

<了>

第3話に続く

By サッカーキング編集部

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