2016.02.21

157のアシストに感謝を…佐藤寿が明かした57の“恩人”への特製プレゼント秘話

佐藤寿人
塩谷司のアシストから先制点を挙げた佐藤寿人 [写真]=野口岳彦
スポーツ報道を主戦場とするノンフィクションライター。

 左足に違和感を覚えながら、佐藤寿人は必死につま先を伸ばした。試合状況が、何よりもサンフレッチェ広島に注ぐ深い愛が、無意識のうちに故障と背中合わせのプレーを選択させる。

 20日に天皇杯覇者のガンバ大阪と日産スタジアムと対戦した富士ゼロックススーパーカップ2016。シーズンの到来を告げる一戦の均衡が、51分に破れる。サポーターの喝采を浴びたのは、昨シーズンのリーグ王者が誇るワンタッチゴーラーだった。

 右サイドの高い位置でパスを受けたDF塩谷司が、間髪入れずに右足で鋭いカーブ回転がかかった低空のアーリークロスを放り込む。ターゲットはニアサイドへ加速する佐藤。前方にいるDF今野泰幸の死角を巧みに突きながら、パンチングで防ごうとダイブしてくるGK東口順昭の眼前で利き足の左足をかすらせる。

「左足のかかと? いや、つま先というか、内側で当てにいきました。ああいう場面では振ったらダメなので。当てるだけで十分に入りますから」

 ゴールの匂いを誰よりも早く察知する嗅覚。濃密な経験に導かれた千載一遇のチャンスで、確実にネットを揺らすまでのメソッド。無人のゴールにボールが吸い込まれるのを見届け、雄叫びを上げながら右タッチライン際へ走る背番号11の下へ、アシストを決めた塩谷が笑顔で駆け寄ってきた。

 塩谷がクロスを上げた瞬間、その右側をミキッチがトップスピードで追い抜いていった。つまり、広島の右ストッパーと右ワイドがともに敵陣深くに攻め込んでいた。

「ストッパーがあそこまで上がってきたら、最後にシュートにつながるような仕事をしないと逆にリスクが生じてしまう。そこでゴールにつながったことがうれしいですよね」

 大きなスペースが生じていた右サイドをG大阪のカウンターの標的にさせないために。最後の仕上げを託されるストライカーが背負う責任感が、直後に左太もも裏の違和感を訴え、自らの意思でFW浅野拓磨との交代でベンチへ下がった佐藤の体を突き動かしていた。

「ゴールの前から前兆がありましたけど、足を伸ばさなければボールには届かなかった。あの後にスプリントしていたら、間違いなく肉離れを起こしていた。そう思えるほどの張りがあったので、これは危ないと。筋肉系のケガは少ないほうなんですけど、もしかしたら今日の寒さにやられたかもしれませんね」

 試合後の取材エリア。患部を冷やしながら姿を現した佐藤は、自身の“らしさ”が凝縮された泥臭いゴールよりも、塩谷が放ったアーリークロスに目を細めた。

「シオ(塩谷)といいイメージを共有できた。実は初めてシオがアシストしてくれたんですよ」

 J2の水戸ホーリーホックで2年目を迎えていた23歳の塩谷が、大宮アルディージャ、清水エスパルスを含めた3クラブのオファーから広島を選択したのは2012年8月。初めて練習に合流した無名の若武者のプレーを見た佐藤は、ちょっとした衝撃を受けている。

「日本代表に入れるポテンシャルを秘めていると思えたんです」

 広島の最終ラインは、マイボールになると森崎和幸がボランチから下りてきて3バックから4バックへスイッチし、左右のストッパーはそれぞれ左右のサイドバック的な役割を任される。求められるのは攻め上がってからのクロス。右ストッパーに配置された塩谷は、佐藤から常にあるプレーを要求されてきたと明かす。

「高い位置でボールをもった時には、自分のことを見てくれと。そしてシュート性の速いクロスをDFとGKの間に入れてくれとずっと言われてきたんですけど。難しいんですよね。練習で何回やっても通らなかったのが本番で出て、そこで寿人さんがうまく駆け引きして、寿人さんらしいゴールを一発で決めてくれたのはさすがだなと思いました」

 実際、クロスに対して塩谷は苦手意識を抱き続けてきた。佐藤の予感通りに塩谷はアギーレジャパンで日本代表デビューを果たし、ハリルジャパンが発足した直後の昨年5月に行われた国内組対象の日本代表候補合宿にも名前を連ねた。もっとも、当時は内田篤人(シャルケ)の故障離脱などで手薄になっていた右サイドバックとしての適性を試された形だ。合宿中には、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督からこんなハッパをかけられている。

「もっとクロスの練習をしろ」

 塩谷自身も「クロスの精度が良くなかった」と苦笑いしながら振り返ったことがある。翻って、雨中を切り裂いた佐藤へのアーリークロスは、コース、スピード、そしてタイミングのすべてが申し分ないものだった。

 公式戦の舞台で結果を残せば、自信は幾重にも膨らむ。成長が促された先には、日本代表として2年後のロシア・ワールドカップの舞台に立つ夢も広がる。

 可愛い後輩の飛躍がうれしくないはずがない。右サイドからの攻撃の幅が広がることへの手応えを含めて、佐藤はガンバ戦後にこんな言葉も残している。

「今まではミカ(ミキッチ)くらいしかいなかったけど、今日はシオが本当にいい形で攻め上がってきてくれた。シオが移籍してきてからずっとやってきたことだけど、すごくうまくなっていますよ」

 昨年11月22日。佐藤は明治安田生命J1リーグ・セカンドステージ優勝を決めた湘南ベルマーレとの最終節でJ1通算157ゴール目を決め、長く歴代1位に君臨してきた元日本代表の中山雅史(現アスルクラロ沼津)に追いついた。

 迎えたオフ。2000年にジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド千葉)でスタートさせたプロサッカー人生の軌跡をゆっくりと振り返った彼の脳裏に、改めて万感の喜びが込み上げてきた。

「数多くの仲間に支えられてきたからこそ、157度もゴールネットを揺らした今の自分がある」

 そう考えた彼は、ある行動に出る。

「今までゴールをアシストしてくれた人に感謝の気持ちを、と思って自分なりにあるものを作りました。今月の宮崎キャンプ中にできあがってきたので、それをプレゼントしました」

 佐藤が発注したのはクラッチバッグ。肩紐のついていない小型のハンドバッグで、一つにつき1万円ほどかかるものを57個作製して、157ゴールをお膳立てしてくれた人たちに贈った。

 170センチ、71キロとストライカーとして決してサイズに恵まれていない佐藤は、市原、セレッソ大阪、ベガルタ仙台、そして2005シーズンから所属するサンフレッチェで同じ作業を繰り返してきた。

「自分がどのような選手なのかをまず味方に知ってもらわないといけない」

 瞬間的なスピードとポジショニングに長け、相手DFとの駆け引きを駆使しながら隙を突いて裏へと抜け出し、ワンタッチで相手ゴールを陥れる。ゆえに「常に自分を見ていてほしい」と口を酸っぱくして要求し続ける。

 本人の“振り返り”によると、最も多くアシストを決めたのは、佐藤の動きを熟知しているMF青山敏弘。ちなみに仙台時代の2003年11月16日の京都サンガF.C.戦でアシストした広島の森保一監督、2006年4月29日の横浜F・マリノス戦でロングフィードからゴールを導いてくれた下田崇GKコーチもプレゼントの対象者となった。

 一方で、昨シーズンまでアシストがゼロだった塩谷にもクラッチバッグが贈られている。理由は2014年10月22日のFC東京戦の30分にあると佐藤は屈託のない笑顔を浮かべる。

「シオが獲得してくれたPKを、僕が外しているので。それは“ほぼアシスト”だろうということで、シオにも渡しました。しっかりとアシストという形で返ってきてくれたので、先に渡しておいて良かった」

 実はゼロックス杯のG大阪戦ではキックオフ直後から、相手DF丹羽大輝がこんな警鐘を仲間へ鳴らし続けていた。

「ニアに来るぞ、ニアに来るぞ!」

 幾度となく佐藤に神経を尖らせ続けていたものの、結局は最初に訪れた決定機でネットを揺らされた。ゴールは佐藤が相手との心理戦を制し、味方とは完璧にイメージをシンクロさせている証に他ならない。

 開幕直後に34度目の誕生日を迎えるが、元イタリア代表の点取り屋フィリッポ・インザーギに憧れ、試行錯誤しながら築き上げたプレースタイルは、まったくといっていいほど衰えを感じさせない。

「ニアに来ると警戒されても、DFの背後に入っていればなかなかマークできない。言葉によるマークの受け渡しほど、難しいものはありませんから。もちろん自分で(パスやクロスに)合わせることがベストですけど、それができなければ、まずは自分が一番危険なニアへ入っていく。そこで僕がどれだけいいボールを引き出せるか。前で先に触られてしまうことほど守りづらいものはないし、たとえ僕がニアで潰れてもボールがファーへ流れてきて、他の仲間が空いてくると思っているので」

 G大阪戦のゴールシーンでは、背後を突かれた今野が振り向きざまにバランスを崩して転倒。眼前でニアを陥れられた丹羽は、佐藤の一挙手一投足を呆然と見送るしかなかった。味方に目を移せば、ゴール中央には柴崎晃誠、ファーサイドには柏好文の両MFがほぼフリーの状態で詰めていた。

 チームのために小さな体をリスクにさらす勇気と覚悟を心に抱き続ける限り、異能のストライカー・佐藤が放つ輝きは色褪せない。さらには不動のレギュラーに成長した塩谷との、4年越しの宿願だったホットラインも開通した。リーグ戦では次のゴールで中山の持つJリーグ歴代通算得点記録を更新することになる。研ぎ澄まされた類まれな得点感覚をこれからも――。27日から幕を開ける2016シーズンのJ1が、ますます楽しみになってきた。

文=藤江直人

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