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コロナ禍での99回目の高校選手権決勝 「最後の試合がある」という幸せを前に

2021.01.11

今年度も埼玉スタジアム2002で選手権決勝が開催される [写真]=兼子愼一郎

 1月11日、99回目の高校サッカー王者が決定する。山梨学院か、青森山田かという興味は尽きないだろう。ただ、今大会についてはどちらが勝ったかとか、試合内容がどうだといった話は二の次だった。こうやって日本一を決める場が「ある」こと自体に大きく心を動かされるものがある。

 大会関係者の一人は、一つも辞退する高校がなく大会が始まったことを喜び、「こうして普通に試合が終わっていくことが何よりうれしい」と漏らした。他の部活動では大会自体がなかったり、大会への参加を辞退する、あるいは途中棄権することを余儀なくされるチームが続発していた。それだけに、深い実感のある言葉だった。

 どの道、全国大会で最後まで勝利していられるチームは一校だけ。もしかすると、テレビ越しに大会を味わっていると、その一校のためだけの大会であると誤解してしまうかもしれないが、決してそうではない。誤解を恐れず言うならば、私もその方も「ちゃんと負けさせてあげたい」と思っていた。

 予選が始まる前から思っていたことだが、大会が始まってからよりその思いを強くするようになった。3回戦で敗れた仙台育英高校の城福敬監督は、参加する側の思いを率直にこう言葉にした。

「こうやって試合ができるということが本当に子どもたちにとっての幸せなんだと実感しました。コロナ禍の状況が急に明日から改善されることはないでしょう。『今までこうやってたんだから』というのは通用せず、コロナと一緒にやっていくしかない。その中にあって、『この大会をやろう!』としてくれた人たちに対し、私は深く感謝しております」

 仙台育英の主将・豊倉博斗は涙声で取材に応じてくれたが、試合すらできずに流す涙より、試合で出し切った上で出す涙のどちらが幸せかについて、わざわざ説明する必要もないだろう。

 コロナ禍による困難はどこも同じと各校の指導者は口を揃えて言い訳とすることを避けたが、内実としてはそうでもない。地域や学校による差はあったし、いろいろな条件は違っていた。また長期間にわたってトレーニングを行えなかったり、長く公式戦がなかったりする中で、例年並みのチームパフォーマンスやクオリティが出せたかと言えば、クエスチョンな部分はある。だから今大会の「勝った・負けた」とか、「試合内容がどうだ」といった議論とは個人的にちょっと距離も置きたくなる。こうして全国大会ができていること自体に奇跡みたいなところを感じているからだ。

 大会前、市立船橋高校の寮では男子バスケットボール部員を中心にしたクラスターが発生し、サッカー部も選手権の参加を危ぶまれる事態になった。12月9日から23日まで2週間の休校措置が取られる中で、チーム練習は全くできなかった。常識的に考えて、開幕1週間前からチーム練習を再開した状況でマトモなパフォーマンスが出せるはずもなく、実際に何も知らずに「素で」サッカー的な観点のみから評価すれば、今大会の彼らは特段に評価されないのかもしれない。だが、今大会の彼らが「普通に市船」だったこと自体が驚くべきことで、それは個々の意識の高さ、それを培った日々あってのもの。敗れてなお、感服するほかなかった。

 もちろん、新型コロナウイルスの惨禍に対し、われわれは厳しく備える必要はある。今大会は感染対策による厳しい取材規制が敷かれてわれわれ記者陣も難渋する日々が続いたが、その規制についても納得している。準決勝からは保護者や控え部員を含めた完全無観客試合となり、これについても批判はあったが、感染リスクを削っていることを世間に示すことによって「大会をやり切る」という運営サイドが引いたラインを守るためには必要な措置だったと思う。

 青森山田高校の黒田剛監督は大会前、「自分は学校に勤務しているので、公式戦の機会すらなく終わってしまった他の部活の子たちのことも知っている。それを思えば、リーグ戦や選手権をやれること自体、サッカー部は本当に恵まれている。感謝しかないし、だからこそ責任がある」と語っていた。

 99回目の全国高校サッカー選手権、決勝。パンデミックの中で思うに任せぬ日々を過ごした1年の締めくくり。それでもなお憧れのピッチに立って戦うことを望む高校生のためにと大人たちが奔走した結果としてこのステージがある。すべてが思い通りにはいかず、不自由だらけの中であってもなお、この1試合が行われることに幸せを感じている。

文=川端暁彦

By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

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