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ベルギー代表「今こそ、我々の番だ」

過去に12回経験した大舞台での最高成績は4位。アルゼンチン、ドイツといった強豪国に一歩及ばず大会を後にしてきた。そのディアブル・ルージュが、ロシアでは自らが強豪国となって挑む。国民はいまだかつてない輝きを放つ黄金世代に、頂点への望みをかける。

文=クリストフ・フランケン/ラ・デルニエ・ウール
翻訳=小川由紀子
写真=ゲッティ イメージズ

優勝を逃してきたのは不運のせいだった

 ベルギーは小さな国だ。国の人口は、東京都のそれにも満たない。なのに、この国にはフランス語、オランダ語、ドイツ語と3つの公用語があり、それぞれの言語圏に独自の文化が存在する。それらを一つにできるものは二つしかない。一つは国王。もう一つはフットボールだ。

 特にワールドカップは大きな意味を持っている。言葉の壁や政治的な問題があるベルギーが一つになれることを感じられる機会は、そう多くはない。

 だからこの国では、誰もが1986年のメキシコW杯のことを覚えている。この大会で優勝したアルゼンチン――絶頂期にあったディエゴ・マラドーナがいた――を最も苦しめたのは、準決勝で対戦したベルギーだったと誰もが信じている。その4年後、ベルギーはさらに強力なチームを作り上げてイタリアW杯に乗り込み、ベスト16でイングランドに敗れた。スコアレスで迎えた119分に決まったデイヴィッド・プラットのゴールは確かに素晴らしかったが、それまでの118分間はベルギーが支配していた試合だ。

 1994年のアメリカW杯では、クルト・レトリスベルガーが我々の記憶に刻まれた。そんな選手はいただろうか? いや、ベルギーがベスト16で対戦したドイツとの試合で、ヨシップ・ウェーバーがゴール前で倒されたのに笛を吹かなかった主審だ。同じように、2002年日韓W杯のブラジル戦でマルク・ヴィルモッツのゴールを無効にした主審、ピーター・プレンダーガストの名前も忘れることはない。その試合でベルギーに苦戦していたブラジルは、2週間後には世界チャンピオンになっていた。

 2002年からの12年間は、ベルギー代表のいないW杯を寂しく見続けるだけだった。ようやく出場権を手にした前回のブラジル大会では、アルゼンチンのゴンサロ・イグアインの1ゴールによって準々決勝で敗退。そのアルゼンチンは決勝にまで駒を進めた。

 つまり、世界の人々がどう思っているかは分からないが、ベルギー人はこう思っている。我々にはこれまで何度も優勝のチャンスがあったが、不運なミスやひどい主審のせいでトロフィーを逃してきた、と。

 だからロシア大会こそ、ベルギーの大会になる。我々はそう期待している。

かつてない黄金世代が悲願のタイトル獲得へ

 黄金世代と呼ばれる現在の“ディアブル・ルージュ”は今、ピークを迎えている。 ケヴィン・デ・ブライネとエデン・アザールは、プレミアリーグのベストプレーヤーのトップ5に入る逸材だし、ロメル・ルカクは世界で最も恐れられているストライカーの一人だ。ティボー・クルトワは世界最高峰のGKとして、確かな地位を築いている。

 前回のW杯と同じく、ベルギーは2016年のユーロでも準々決勝で歩みを止められた。だからこそ、頂点を目指すのは今回の大会しかない。国中が「今大会で優勝できなければ、永遠にチャンスは巡ってこない」と感じている。

 続く世代にもタレントはいる。だが、今のチームほどの力は備えていない。すべてのポジションに世界クラスのタレントがそろうことなど、そうそう起こり得ることではないのだ。今年4月に発表されたFIFAランキング3位という数字も、現世代の強さを物語っている。

 2016年9月、ベルギーフットボール協会はヴィルモッツとの契約を解除し、それまで長らくプレミアリーグで指揮を執っていたスペイン人のロベルト・マルティネスを就任させた。彼に与えられたミッションはただ一つ。「才能にあふれる個々の選手を一つのチームにまとめ上げること」だ。

 しかし、就任から約1年半が経過した今、マルティネスの成果が国民を納得させているとは言い難い。確かにベルギーは、欧州最速で本大会出場の切符を手に入れた。とはいえ、グループで戦ったのは格下の相手ばかり。本大会で対戦するような組織力の高いチームを相手に同じことができるのだろうか?

 本大会開催が数週間後に迫った今もまだ、国民はこの疑問を抱いている。

 マルティネスが選手に求めている戦術は複雑なもので、せいぜい6週間おきにしか集まれない代表チームで機能させることは簡単ではない。それなのに、本大会への準備期間中は、現ヨーロッパ王者のポルトガルを除いて強豪国とのテストマッチを行わなかった。プレミアリーグがいかに選手の体力を消耗させるリーグであるかを知っているからだ。

マルティネスの手腕はW杯の本番で判断される

 現在のベルギー代表選手の多くは、プレミアリーグでプレーしている。今年3月、強豪国がこぞってテストマッチに精を出している間、マルティネスが選んだのは、ブリュッセルでのサウジアラビア戦だけだった(この試合に招集されたメンバーのうち、10人はイングランドのクラブに所属していた)。

 つまり、マルティネスの手腕を判断できるのは、もうW杯の本番しかない。

 今の段階で言えることなど何もない……いや、一つだけあるとすれば、ベルギー中の人たちが7月15日、モスクワで行われる決勝戦を心待ちにしているということだ。ルジニキ・スタジアムに流される2つの国歌のうち、1つは「ブラバントの歌」(ベルギー国歌)だと信じている。

 W杯のような国際大会では、たいてい大きな国が主役になる。ドイツには8000万人、ブラジルには2億人もの国民がいる。そんな出場国が集まる中で、最小国の一つであるベルギーがトロフィーを掲げたら?

 しかも、舞台は地球上で最も広大なロシアという国で――。そうなったら奇跡だろうが、可能性は十分にある。今回こそは、我々ディアブル・ルージュの番だ。 その6日後の7月21日は、ベルギーの建国記念日に当たる。我々はW杯の決勝からこの日まで、1週間ぶっ通しでお祭り騒ぎをしよう。世界チャンピオンになったベルギーを称え、我々は国中のビールを一滴残らず飲み干すのだ。その覚悟なら、とっくの昔にできている。