2013.01.23

伝説のサイドバック・マルディーニが長友を語る「長友は実にうれしい驚きだった」

[サムライサッカーキング 2月号掲載]
ミランはもとより、この四半世紀のイタリアサッカー界の“シンボル”。カルチョにおけるサイドバックの意味を知り尽くすパオロ・マルディーニが、インテルで躍動する日本人サイドバックについて熱く語った。長友佑都は、この“レジェンド”のハートも既に奪ってしまったようだ。
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インタビュー・文=クリスティアーノ・ルイウ 翻訳=宮崎隆司 写真=Getty IMages, AFLO

サイドバックは体力、集中力ともに激しく消耗するハードな仕事だ

──始めにサイドバック(サイドバック)の“レジェンド”である君に聞きたい。ここ10年ほど、このポジションの難易度は格段に上がっているように感じるけど、その難しさとは一体何だろう?

マルディーニ(以下M) それはやはり、走力と戦術眼を90分間、攻守にわたって持続させなければならないという点だろうね。僕がサイドバックを主戦場としていた頃も、アリゴ・サッキの下で猛烈にエネルギーを消耗するスタイルを実践していた( 80年代後半のミランや90年代のイタリア代表を指揮したサッキは、激しいプレッシングを柱とする当時革新的な戦術で多くのタイトルを獲得。名将としての地位を確立した)。幸いにも当時の僕はまだ若かったから、サッキが求める尋常ではない要求に応えることができたけど、体力、集中力ともに激しく消耗するハードな仕事だったよ。守備をこなした上で、猛ダッシュでオーバーラップを繰り返し、正確なクロスを上げる。これを90分間いかに高いレベルで続けられるかでサイドバックの評価は決まる。この10年は、戦術の進化に伴って、その要求がますます高まっていると言えるだろうね。

──では、この過酷なポジションの一番の魅力は何かな?

マルディーニ ありきたりな答えになってしまうんだけど、DFにも関わらず一貫して攻撃的な役割が求められるわけだから、必然的にゲームの組み立てに参加できるとろかな。むしろ今では、サイドバックこそが攻撃の起点になることも多いよね。ものすごい運動量を求められるし、確かにきついポジションだけど、だからこそ攻守においてチームでの存在意義が高まっている。そのことを試合の度に強く実感できる点も魅力だと思うね。最も分かりやすい例を挙げれば、ブラジルだよ。あの国では、カフーやロベルト・カルロスがそうであったように、サイドバックから守備のイメージを失わせてしまったんだ。その点、イタリアはまだ攻守の比重はほぼ五分五分だけど、この比率は今後ますます攻撃に偏っていくだろう。将来が実に楽しみだよ。

──他の選手にはなくてパオロ・マルディーニだけが備えていたもの、サイドバックとしての自分の武器は何だったと思う?

マルディーニ まずはフィジカルの強さ。これは神に与えられた幸運だけどね。その上で、とにかく徹底した体調管理とハードなトレーニングで肉体の強化に努め続けたこと。でもね、本当の意味で“違い”を僕が示せていたとすれば、それを可能にしたのは“頭”さ。つまり、“限りなく高いプロ意識”を20年以上にわたって保つことができたからなんだ。結局のところは、そこに行き着くと思う。「チェーザレの息子」と呼ばれては懐疑的な眼を向けられていたし、それを覆すのは容易なことではなかった(マルディーニの父チェーザレも、ミランの名選手であり、ミランやイタリア代表の監督を務めている)。だから僕は、人の2倍、いや3倍のトレーニングを重ねてきたんだ。おかげで、引退してから「ピッチが恋しい」とか「トレーニングのない毎日が寂しい」なんて言う元選手たちの気持ちが全く分からないんだよ(笑)。

──そのパオロ・マルディーニ以外に、歴史に残るサイドバックのベスト5を挙げるとすれば誰を選ぶ?

マルディーニ 真っ先に思い浮かぶのは、あのペレ率いる黄金のセレソンに名を連ねていたジャウマ・サントス( 58年と62年のワールドカップで優勝。ブラジル代表史上最高のDFとも評される)。そして、さっきも触れたカフー、ロベルト・カルロス。このブラジルの3人が並んで、その隣にはジャチント・ファッケッティ( 60~ 70年代のインテル黄金期を築いた伝説的名手)とアントニオ・カブリーニ(ファッケッティの後継として82年W杯制覇に貢献)というイタリア人が2人……いや、更にライバルにして盟友であるベッペ(ジュゼッペ・ベルゴミ。80~ 90年代のインテルの顔であり、イタリアサッカーを代表するDF)と、まさに正真正銘の盟友であるマウロ(タッソッティ。80~ 90年代のミラン黄金期を支えた)も加えなければいけないだろうね。5人にはどうしても絞れないよ(笑)。

──では、現在のサッカー界でサイドバックのベスト5を挙げるとすれば?

マルディーニ うーん……これは実に難しい問題だね。率直に言わせてもらえれば、今のサッカー界に、さっき挙げた7人に肩を並べるサイドバックがいるのかどうか、僕は多少の疑問を抱いているよ。良い選手は確かに多いんだけどね。

──そう言わずに、敢えて名前を上げるとすれば?

マルディーニ であれば、やっぱりマイコン。そして(ギャレス)ベイルだね。この2人が、先ほど述べたサイドバックのスタイルの変化を象徴する選手なのは確かだよ。彼らはもはやDFじゃない。もちろん、それは肯定的な意味で言っているんだ。サッカーの魅力を高める上で、非常に大きな役割を果たしている選手たちだと思うよ。

僕は長友のプレーに熱い眼差しを注ぎ続けている

──ここまで名前が挙がらなかったけど、日本が誇るサイドバックである長友佑都について話を聞かせてもらいたい。現在のサイドバックのベスト5に彼はまだ入らない?

M そうだね、「今はまだ」と言うべきだろう。でもその可能性は十分にあるよ。年齢的にも彼にはまだ大きな伸びしろがあるし、実際、その技術は試合を重ねる毎にレベルアップしているよね。実に素晴らしい選手だよ。

──長友のプレーに注目するようになったのはいつ頃から?

マルディーニ もちろん、彼がチェゼーナに入った頃からさ。彼のことをとりわけ注意深く、興味深く見たのは、イタリアに来て1年目、最初のミラン戦だね。あの(ズラタン)イブラヒモヴィッチやパトを相手にしても一切怯まず、むしろ堂々と真っ向勝負を挑んでは見事に渡り合ってみせたんだ。本当に、これはお世辞でもなんでもなくてね。そんな彼の姿を見たのは、かつて同じポジションを務めた者として、実にうれしい驚きだったんだよ。その後、彼は宿敵インテルに移ってしまったけど、僕は変わらず長友のプレーに熱い眼差しを注ぎ続けている。

──2011年1月、ダヴィデ・サントンを追いやる形で、長友はインテルへ移籍した。サントンは、かつてマルディーニの後継者と言われた選手だ。その時に君が抱いた率直な感想は?

マルディーニ 正直、特にこれといったものはなかったよ。なぜなら、サントンだけじゃなく、これまでに一体どれだけのDFが僕の、あるいはフランコ・バレージの、またはファビオ・カンナヴァーロの後継者と呼ばれては消えていったことか……。その現実をイヤというほど知っているからね。そもそも僕は、サントンがそう言われていること自体を気にしていなかったし、必然的に長友の加入とサントンの退団を意識することもなかったんだ。いずれにせよ、まだ若かったサントンは、インテルでプレーするという事実と、何よりあのサンシーロの重圧に耐えることができなかった。さっきの話、“限りなく高いプロ意識”がなければならないという意味で言えば、サントンにはまだ足りない部分があったと言うべきなんだろうね。一方、当時の長友が置かれた立場は、サントンとは明らかに違っていた。誤解を恐れずに言えば、チェゼーナに入った時も、インテル移籍を決めた時も、彼に対して周囲が“過度な期待”を抱くことはなかったわけだからね。更に言えば、彼がインテルに来た時の監督はレオナルドだから……(笑)。より攻撃的であろうとする監督の下だったからこそ、長友はより自由に自らを表現できたのは間違いない。守備の局面で、仮に長友が多少ポジション取りを誤ったとしても、監督はそれに気付かなかっただろうし……(笑)。

──という冗談はともかく、ミランと並ぶ名門インテルのレギュラーに日本人選手が、しかもサイドバックとして名を連ねる日が来ると思っていた?

マルディーニ 「そう思わない理由はない」と言うべきだろうね。つまり、至って当然のことだ、と。これだけ世界的に技術レベルが向上した今となっては、それこそ世界中の至る所から優れた選手がやって来る。更に、ここ20年で技術レベルを世界で最も向上させた国が他ならぬ日本なんだから、長友だけじゃなくて香川(真司)や本田(圭佑)の活躍も決して驚くことではないと思っているよ。約20年前、トヨタカップで遠征していた頃に見た日本のサッカーは、確かに欧州のそれとは比較しようがなかった。ところが今は全く違う。クラブでも代表でも、いわゆる欧州の強豪と言われるチームが今、日本のチームと試合をすれば、それこそ先のフランス対日本の結果が示すとおり、大きな差などは生まれない。これは紛れもない事実なんだよ。

長友はサンシーロの重圧に全く屈していない

──長友はインテルのスタメンにも定着している。ミランやインテルといったビッグクラブのギュラーの重みとはどれほどのものなんだろうか?

マルディーニ 決して軽くはないさ(笑)。さっきのサントンの例じゃないけど、大事なのは重圧に耐えられるか否か。その実力を備えているか否か。そして、実力に驕らず、まさにインテルの主将(ハビエル)サネッティが最高の模範として示し続けているように、毎日のトレーニングと毎週末の試合で常に100パーセント以上の力を注ぎ続けることができるか否か。問われるのはそこなんだよ。その点、長友はサンシーロの重圧に全く屈していない。むしろ彼は、あの重圧をエネルギーに変える術を体得しているように見えるね。もちろん、そこには相当な彼の努力があるはずだけど、無数の選手たちを押し潰してきたスタジアムで逆に輝きを発揮できるプレーヤーは、本当に一握りの存在なんだ。彼はこの先、更に存在価値を高めていくはずだよ。

──君はサイドバックとしての長友のプレーを率直にどう評価いている?

マルディーニ 非常に良質なサイドバックだ。彼のプレーのクオリティーは、名門インテルの名に決して恥じない。今はまだ100パーセント不動のスタメンとまでは言えないけど、極めて高い確率で、しかもそう多くの時間をかけずに、その地位を確立するだろうね。なにより、彼には僕がさっき言った“頭”がある。長友は自らの驕りによって消えていくパターンにだけは陥ることがないと断言できるね。

──サイドバックとしての長友のストロングポイントは何だろう。それと、君から見た彼の課題は?

マルディーニ 長所は今言ったとおり“頭”の良さ。彼のプロ意識には非の打ち所がない。課題は……同じく“頭”だね。と言っても、ヘディングのことだよ(笑)。あとは、守備の時のポジショニング精度がもっと良くなれば、更にレベルアップできるだろうね。

──長友は左右のサイドバックのみならず、中盤の両サイドでも起用されるけど、彼に最適なポジションはどこだろう?

マルディーニ まず言っておきたいのは、長友という選手がとても高い柔軟性を持っているということ。その特長が示すのは日々のたゆまぬ努力であって、常にチームにとって有益な存在になろうと努めている証だよ。それは本当に素晴らしいことなんだけど、同時にこんな風にも言える。マイコンがそうであるように、特定のポジションでスペシャリストと言われるには、他を圧倒する力と、場合によってはエゴが必要なんだ。その点、チームプレーに徹する長友は、まだ“特別な存在”になったとは言い難い。彼は今、柔軟性と献身性で、着実にインテルでの地位を固めようとしている段階なのさ。そう考えると、最適なポジションは左サイドバックを置いて他にはないだろう。確かに2列目でも一定のレベルにはあると思うけど、やはりあの位置でプレーするには1シーズンで10~15ゴールを挙げる力が必要になる。今の長友には、そんな得点力よりもサイドバックとしての幅広い能力を求めたほうがチームにとっても間違いなくプラスだよ。

長友がミランに来たら一人のファンとして大歓迎する

──イタリアに来る前から、長友は「世界一のサイドバックになりたい」と公言してきた。彼の夢がかなう可能性はあるかな?

マルディーニ それは分からない。でも、そう言い続けることは極めて重要だし、そう言えるだけの自信があるからこそ、彼はサンシーロの重圧にも屈しないんだよ。大切なのは、常に今よりも上を目指し続けること。そのための努力を絶対に怠らないこと。上を目指し続けてこそ成長し、上手くなり、そして勝つことができる。この世界では自らの力で勝ち取る以外にない。誰も何も与えてはくれないのだからね。

──チームメートに慕われる彼の魅力はどんなところにあると感じる?

マルディーニ ここでも答えは同じさ。それは彼が常に今よりも上を目指し続けているから。長友という選手がインテルのために常に100パーセント以上の力を注いでいることをチームメートはもちろん、何よりもファンが知っているのさ。ティフォージと呼ばれる熱狂的なファンは、クラブのために全力を尽くす選手だけに熱い声援を送るんだ。サンシーロのスタンドを見れば、長友がいかに受け入れられているかすぐに分かるだろう?

──もし長友がロッソネーロ(ミランの愛称)のシャツを着ることになったら、ミランのティフォージも受け入れるかな? 君も歓迎する?

マルディーニ もちろん、一人の熱いファンとして大歓迎するよ。もっとも、今のミランにも将来を嘱望されるサイドバックがいるんだけどね。92年生れのマッティア・デ・シーリオさ。チアーゴ・シウヴァが何度も「あの子は本物だよ」と話してくれたんだ。スタメンを初めて務める今シーズンはまだ周囲の眼も甘いけど、来シーズンからはそうはいかなくなる。長友のように重圧に屈せず上を目指せるか、それが問われてくるだろう。デ・シーリオには長友の姿から多くを学んでほしい。いずれにせよ、当面はライバルチームでプレーする2人のサイドバックに注目して、ミラノのサッカーを見守ることになりそうだよ。