2012.11.21

[柏レイソル 強化部新ダイレクターインタビュー]レイソルのサッカーを確立するために

Jリーグサッカーキング12月号 掲載]
2006年以降、柏レイソルの強化部は小見幸隆と竹本一彦が中心となってきた。彼らの尽力によって、レイソルは長らく続いた低迷期を脱し、昨シーズンは悲願のJ1初制覇を達成した。次のステップへ進むため、今秋、クラブが下した決断は、強化責任者の交代だった。小見に代わって、ダイレクターに就任したのは、かつてアカデミーコーチとして手腕を発揮した吉田達磨。就任したばかりの吉田ダイレクターが、クラブのビジョンと未来像を語る。
[強化部新ダイレクターインタビュー]レイソルのサッカーを確立するために
インタビュー・文=鈴木 潤 写真=兼子愼一郎、新井賢一

吉田達磨(よしだ・たつま)
1974年6月9日生まれ。千葉県出身。東海大付属浦安高を経て、93年に柏へ加入。技術力の高いレフティーとして名を馳せた。以後京都、山形、ジュロンFC(シンガポール)でプレーし、03年から柏でアカデミー(U-15、U-18)のコーチ、監督を務め、10年からアカデミーダイレクターに。11年には強化部長を任され、今年10月に強化部ダイレクターに就任した。

昨年に戻ろうという考え方は後退今ある戦力をフル活用して前進すべき

まず、ダイレクターに就任された経緯を教えていただけますか?

吉田 クラブとして“世代交代”という話をしていました。そしてクラブが一つ、二つと前へ進もうと。前進することは体制が変わらなくてもできますが、違った形で前に進みたいというクラブの意志の表れだと思います。

これまで吉田さんが務められていた強化部長との大きな違いは?

吉田 クラブの代表として、表に出るか出ないか。あとは決定するかしないか。今までも私が決定することは多々ありましたけど、ダイレクターにはすべての権限がありますし、発言も行動もオフィシャルになるわけですから、そこが大きな違いです。

就任するにあたり、クラブからの要望や要求はあったのでしょうか?

吉田 クラブと話はしましたが、ここで話すような要望というのは特にはありませんでした。これは私の勝手な解釈ですが、おそらく別の道、別の視点を持つ機会を与えてくれたのではないかと思っています。これまで務めてきたアカデミーダイレクターも強化部長も責任のあるポストですし、視点は自ずと広がります。一つのチームの監督やコーチではなく、「この仕事もやってみたらどうか」という考えが、クラブ側にあったと解釈しています。

ダイレクターに就任されて、何かが劇的に変わったことは?

吉田 基本的にこの10月に何かが変わるということはありません。変わるとすれば、次の移籍ウィンドウが開く1月ですが、それもマイナーチェンジを施す程度です。まず、やるべきことは、今あるものを100パーセントに近づけていく。あとはネルシーニョ監督が仕事をやりやすい環境を作ること。信頼を得られているという気持ちでやってもらえることが大事なので、そこにストレスや軋轢があればあるほど、チームが先に進むことはできないわけですから。そこは最小限にしなければいけません。

ということは、ネルシーニョ監督との関係や現場サイドと強化部の関係は、以前と変わりがないということでしょうか?

吉田 変わりないです。そこは崩してはいけないところでもあります。現場をすべて預かっているのは監督ですから、そこへの意見は気をつけなければいけないし、するべきではない意見はたくさんあります。誰が監督をやっても、「○か×か」という考えを出さなければいけない時期は来ますが、その瞬間までサポートをする姿勢はクラブとして持っていなければならないと考えています。正直に、真面目に、ひざを突き合わせて話し合う姿勢は絶対に崩しませんし、それが一番大事だと思いますから。

クラブによっては、強化部が与えた戦力でやりくりする監督もいれば、一緒に海外へ行って選手の獲得に加わる監督もいます。そういった部分で監督と歩調の合わせ方はいかがでしょうか?

吉田 ネルシーニョ監督が来て4年目になります。彼も「とにかく結果を出したい」と言うので、これまでは監督の意向を大事にして、我々もそれをサポートできるよう託しました。基本線としてクラブの将来的なビジョンはありますが、まず監督と話をして、監督の意向にできるだけ沿いたいという気持ちです。

クラブ側の要望も監督に伝えるのでしょうか?

吉田 もちろん言葉で伝えることもありますが、すごく頭の良い監督ですし、このクラブを見渡しているので、監督自身が理解してくれています。私たちともしっかりとコミュニケーションを取っていますし、基本的には私たちが求めていることと、自分に求められていることを分かっています。今も決して双方の意向にズレがあるわけではないですが、クラブの方向性と監督のスタイルが合致するというように、クラブに合った監督を連れてくると言われるステップはもう少し先になりますね。段階を経ないでそこに行くほど幼稚なことはないです。選手が変わっていけば監督の取る策も変わりますし、今ある力を最大限に引き出す。その最大限を増やしつつ、粛々と次の準備を進めていく必要はあると思っています。

ダイレクターとしての現在のビジョンを聞かせてください。

吉田 まず、昨シーズンの結果と成果を引きずらない。リーグ制覇を勲章として持っている、あるいは勝ったことがあるという誰もが得られるわけではない経験値を持ちつつ進むことは大事ですが、昨年とはリーグを戦うそもそもの位置づけが異なり、対戦相手も違う。メンバーも多少変わりました。あの時はこういうことができたのに、今はできないというのは、ある意味当たり前のことなのかもしれない。あの時の気持ちを思い出し、戦っていた精神状態に立ち返ることは大事だと思いますが、あの時はこうだったから、あの時に戻ろうという考え方は後退になる。決して後退することがないように、そして今ある戦力をどれだけフルに活用できるか。仮に生かし切れていたとしても、結果は難しく、いくらうちが良い戦力を持ち、良いサッカーをして、充実した90分を送ったとしても、相手のほうがもっと充実する可能性がある。もちろん逆の場合もあります。相手のレベルが低く、90分間を終えて、うちもどんよりしているんだけど、結果的に勝ち点3は取った。だからといって、“同じメンバーで臨んだ場合に、いつもそのサッカーになるか”ということはなく、外的な要因、内的な要因、いろいろなものが影響し合って、その日のパフォーマンスが決まる。成績は今あるものをフルに生かしたからといって劇的に変わるとは思えないですが、フルに生かしていれば、きっかけとなるポイントの試合で勝てていたかもしれないとは考えています。上に行くチームは連勝した後にたとえ負けたとしても、また連勝していくというサイクルが起こります。ひょっとしたら戦力をフルに生かし切れていれば、そのサイクルを得るチャンスはあったかもしれない。今あるものをフルに生かす。そして現場だけではなく、我々を含めて、あらゆる雰囲気をいつも最高潮の状態にしておく。リラックスしつつも、沈みや歪みを許さない雰囲気を作っていくことを、今やらなければいけないと思っています。

昨年は結果、勢い、成長のバランスが良く、右肩上がりの一年でしたが、現在のチームの成長やスピードは、今年、来年以降を踏まえて、どのような印象をお持ちですか?

吉田 退化はしていないと思いますし、現状維持でもないと思います。選手は一試合一試合成長していますし、この2年間に経験していなかった“負ける”という経験も、残念だけど成長に還元していかなくてはならない。選手自身もそれを無理やり気づいてやっているところはあると思います。負けることは決して望んでないですが、それをせざるを得ない。成長の度合いというと、昨年、一昨年のような急成長は見られていません。昨年の酒井宏樹、一昨年の工藤壮人や林陵平(現在モンテディオ山形へ期限付き移籍中)のような選手はいないです。それは若い選手が力をつけていないからではなく、ある一定の力をつけた上で、安定感を求められていることもあるかもしれない。選手の伸びという点に関しては、この2年間は経験値の少ない選手がレギュラーには多かった。でも、2010年のベースが昨シーズンの戦いに生きたわけで、昨年の伸び方はある種、特殊だったと思うんです。それは毎年あるわけではない伸びだったので、今はベースがしっかりしているがゆえ、なかったものが加わるというシーンは少なくなっていると見ています。


Jリーグサッカーキング12月号 掲載]

勝利へのしたたかさを持ち合わせ「柏って嫌だな」と思わせるチームに

[強化部新ダイレクターインタビュー]レイソルのサッカーを確立するために
以前、吉田さんはアカデミーのダイレクターを務められていました。今後、トップチームとアカデミーとのつながりはどのようになっていくのでしょうか。

吉田 私が「うちのアカデミーは優秀だよ」と言って回ることはやってはいけないと思っていますし、やりたくはありません。本当に良いものであれば、自然に認められると思いますから。ただ今後、トップチームにおいて、アカデミーの血が濃くなることは十分に考えられます。サッカーも、考え方も、アカデミーで身につけた価値観を持った選手が必然的にトップへ上がり、その価値観が強固になってくればくるほど、アカデミーからトップに上がる最後のラインはどんどん厳しくなっていくと思います。彼は良い選手だけど、プロ選手になる準備はできているのか、レイソルの選手として日立台のピッチに立つ準備ができているのか、そういう点で見る側の目も厳しくなるでしょう。私たちはアカデミーの選手たちを10歳から知っていますから、彼らがどういう準備を経て18歳を迎えたのかが分かっています。周囲から思われているほど、トップチームに昇格することは簡単ではありません。でも、血が濃くなっていくのは間違いないでしょうね。

アカデミーの血が濃くなることで、トップチームのサッカーのスタイルにはどのような変化が表れると思いますか?

吉田 断言はできないですが、スタイルは自ずと変わっていくと思います。サッカーのスタイルは監督が決めるものですが、一朝一夕で完成できるものではありません。だからアカデミーで育った選手が増えてくることで、サッカー自体が変わると思います。

長い目で見ると、外から獲得する選手のタイプも変わるわけですか?

吉田 将来的にアカデミー出身の選手が中心になるのであれば、選手が下の年代までいますから、「きっとこの子はこういう選手になるだろう」と、ある程度の見通しが立ちます。そういった考え方ができるのは、アカデミーの一つの利点ですね。外から獲得する選手は、そこを見通した上で、チームにないものを求めていくことになります。

目先のプラン、来年を見据えた強化のポイントを聞かせていただけますか?

吉田 そこは皆さんが予想されているとおりだと思います。ブラジル人はいる。攻撃陣はいる。じゃあどこなのかを考えると、自ずと見えてくると思います。補強に関してはポイントがあっても、それを言葉にすることでなくなってしまうこともあるし、そこは難しいところです。それに早く動いたからいいものではないし、タイミングもあります。

では3年後、5年後を見据えた中期的なプランは?

吉田 中期のプランは常に上位争いをしていることが目的です。では、上位争いとは何なのかと言えば、まずは「6位」ですね。目標と呼ぶには物足りないと思われるかもしれませんが、安定していることが大切ですし、粛々と仕事をすることも重要だと思います。中期の目標は難しく、変わる可能性もあるかもしれないですが、常に上位を狙える位置につけることが大事です。ただ、短期の目標としては、やはり勝ちたいですよね。監督もそう言っていますし。しかし、ずっと優勝し続けると明言できるクラブは、Jリーグの中では経営規模から言ってもうちだけではなく、うちはそのクラブと争っていく立場だと見ています。常に上位争いを繰り広げてそのクラブを脅かし、スキあらばタイトルを取る。そのしたたかさを持ち合わせて、「レイソルって嫌だな」と思わせるチームになりたいです。

しかしサポーターは、常に優勝し続けてほしいと願っていると思います。

吉田 そこは多くのシーズンを通じて、より多く勝ちながら、たまに負けることもあるという経験を繰り返し、自分たちの立ち位置がより明確になっていくと思います。今は「優勝を目指します」などと自分たちで立ち位置を決めることもあれば、逆にサポーターが優勝を目指さなければいけない雰囲気を作ったりと、どちらかが立ち位置を作っているように感じます。どちらかの発信ではなく、取り巻く人たちがレイソルの立ち位置を明確にして、自然と分かり合えるようになれればいいと思います。注意しなければいけないのは、決して6位を目指しているわけではなく、優勝を目指しているということ。そのためにいつも安定して上位をキープする。今年は優勝争いをして、来年は上位に行けないという不安定さではなく、「いつも」という状況にしていきたい。

今回はダイレクターへの就任ですが、吉田さんはS級ライセンスもお持ちです。いずれはトップチームの監督就任も視野に入れているのでしょうか?

吉田 私の立場で「監督をやりたい」という希望は言えないことです。現在の監督をリスペクトしていますから。でも基本的には、私は完全にジャージ(現場サイド)の人間なので、もちろん監督業への考え、思いは持っています。その中で昨年も一昨年も、クラブにおいて責任のあるポストにいる。自分が培ってきたものや自分の希望に沿って生きていく道を選択していけば、現場に立って指揮をし続けることが自分のベースになるでしょうし、おそらく力を発揮できるところでもあると思っています。でも、クラブが長いビジョンの中で自分に信頼を置いてくれたことに対しては、素直に受け入れるべきだなと思いましたし、現在の仕事が充実しているのは確かです。自分がこの職にふさわしいかどうかは別として、クラブはこの仕事に興味を抱かせてくれましたし、入り込むきっかけや違う視点を与えてくれました。そこで私もモチベーションが上がったのは間違いありません。

20年後、30年後、吉田ダイレクターの考えるレイソルの理想像とは?

吉田 細かく話せばたくさんあります。大きく話せば日立台に来てくれるサポーターすべての方々が、レイソルの“サッカー”を見に来る日を作りたい。バルセロナやアーセナルもそうだと思うんですよ。「これがバルセロナのサッカーだ」というスタイルがあり、ファンはそれを楽しみにしている。たとえ他のクラブのファンには批判されても、「レイソルのサッカーがこれなんだ」というスタイルを作り上げていきたいという理想は持っています。それに対して批判的な意見もあるかもしれないですが、ひょっとしたらそれはできない人が言うことなのかもしれない。気にせず、自分たちはできると信じ続け、ぶれずに、地面に足を着けて、称賛されても批判されても、正しいと思ったことをやればいい。選手が喜んでやってくれるなら、それは正しいことですから。今後もマイナーチェンジは必要だと思いますが、決して現状に満足することなく、「まだまだだ」という気持ちさえ忘れなければ、急成長はしなくても安定した力を発揮できるでしょうし、その安定した力がチームを支えていくことになります。先は長いですが、一日一日の練習を成功させ、みんなにとって良いものにさせる。その小さな積み重ねが将来につながる。レイソルはまさにそういうクラブになりつつある。だからクラブもチームも、絶対に立ち止まってはいけないと考えています。