2012.11.23

ネルシーニョ(柏)「“太陽王”を新たなステージに導いた名将の帝王学」

[Jリーグサッカーキング12月号掲載]

将棋の棋盤をにらみつけるようなその佇まいは、さながら手練の棋士だ。勢に出ていれば、そのまま静かに戦況を見つめる。ほころびが生じそうになれば、いち早く的確な指示で、人知れず修繕を施してしまう。先日、柏との契約を延長した名将の帝王学とは──。

インタビュー・文=田中直希
写真=兼子愼一郎、徳原隆元

今年の我々はチャンピオン、研究されることは当然だった

――柏レイソルにとって、難しい一年になると思われたシーズンでした。それは、優勝した翌年であることが主な理由です。監督は今年をどう位置づけて臨んだのでしょうか。

ネルシーニョ 我々は2010年からの2年間、ずっと勝ち続けてきました。目的を達成し続けてきたチームです。そして今年は、もう一度私たちの力を見せつけるという、大事な責任がありました。昨年、一昨年は我々のスタンダードをコンスタントにゲームで出せていました。その結果が素晴らしい成績に結びついたと思っています。ただし、今シーズンは、ここまで調子の波が大きかった。技術的にフィットしないところもありましたし、ミスも続くこともあり、チーム本来のレベルを維持できなかったと思います。あとは、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)のフィジカル的な影響もあったと思います。移動に伴うコンディション調整の難しさだったり、単純な試合数の増加ですね。しかし、チームのやろうとしていることは、いくつかあった”良いゲーム”では出せていました。その点で言えば、来年に向けて非常に期待が持てるチームだと私は見ています。あとは、先ほど話した”今シーズン、チームにあった影響”についても考えられます。一つ例を挙げますが、今年の9月時点において、昨シーズンの総試合数にほぼ達したんですね。開幕から約8カ月、シーズン終了まで2カ月ほどを残した段階でです。スケジュールのタイトさにおいて昨年との違いはあったと思います。あくまで一つの要素として、ですが。

――確かに日程はタイトでした。

ネルシーニョ それに昨年までのゲームの内容と比べると、今年は決めるべきところで決められていないと言えます。負けたゲームに限って言うと、レイソルが優位に試合を進めながら取りこぼした試合がいくつかありました。決定機に決めるかどうかで勝ち星を逃してきたということです。それが、今シーズン唯一のネガティブな要素です。

――昨シーズンはFW陣の激しいポジション争いがあり、出た選手が活躍するという状況でした。今年は工藤壮人が継続的な活躍をしているものの、他の選手がその段階まで至っていない。それも一つの問題でしょうか。

ネルシーニョ そうではありません。何度も言いましたが、決定機を逃しているのが一番の課題で、そこはFWだけの責任ではない。FWばかりがチャンスに顔を出すわけではありませんから。決定機を作る前の選手もそうですし、その前にプレーする選手もそう。チームとしてコンスタントな力を出すことが維持できていない。昨年ならば90分間、常にゲームを優位に進める内容を見せられていましたし、それに加えてゴールを決めることもできていた。唯一違うのは、ゴールを決めるかどうかの部分だけです。私は常に、全ポジションでの競争は公平にあると思っています。ただ、今はゲームに波がある。その原因は、決定機を逃しているからなのです。

――ポジションに関係なく、決めるべき人間のところに問題があると。

ネルシーニョ 決定機を決められない最大の理由としては、選手個々に点を取ることに対する焦りがあると思います。「昨年と同じ評価を受けたい」、「プレーをしたい」と個人が思うあまり、大事な時に焦りが出ていることは感じますね。最近の具体例を挙げると、1─3で敗れた第26節のサガン鳥栖戦です。あの試合、前半の42分間は我々のペースで進みましたし、決定機も作りました。しかし、そこで決められなかった。サッカーではそうしているうちに試合の流れが相手に移ってしまいます。鳥栖戦は前半残り3分間で2失点し、リードされて前半を終えてしまった。自分たちのペースで進めているのに、決め切れないことで相手にリズムを奪われてしまうという試合中の波がある。これを今年中に改善して、いい形でシーズンを終えなければならないし、レイソルにはそれができる力があると思います。いや、できます。

――その焦りを改善するために選手たちに声をかけるとするなら、どんな内容でしょうか。

ネルシーニョ 練習あるのみですね。我々はそうして自信を積み上げてきたチームです。2年間、勝ってきたチームがこういう状態になることは、フットボールの世界において多くのチームが経験してきたことでもあると思います。そうすると、余計な不安が頭の中に住みつくようになる。我々がこれまで培ってきたものは、日々の練習の中にあります。ですから、練習で自信を取り戻し、結果につなげる。それしかないと考えています。

――選手からは「昨年よりも相手に研究されていると感じる」という声をよく聞きます。監督から見て、どこを相手に研究されていると感じますか?

ネルシーニョ 確かに相手のマークには苦しんでいます。今年のチームは“チャンピオンチーム”で、みんなが倒したいチームです。全チームが我々の戦い方を観察していたわけですから研究もされますし、いつも以上の気迫で試合に臨んできます。それに対し、我々は日々のトレーニングを重ね、スタイルを継続して試合に臨んでいる。そして試合になれば相手は我々のスタイルに対して対処してきます。それはフットボールでは当然のこと。特に大きな問題としては捉えていません。研究されたから結果が出ないわけではない。理由はそこではないのです。それでも今年、我々はシーズン半ばに3位まで順位を上げました。調子を上げて勝利を重ねた時期もありましたし、結果も残せていました。ではなぜ今、この位置にいるのか。もう一度繰り返しますが、それは決定機を生かせていないからなんです。ゲーム中に訪れるチャンスを決められず、相手にペースを譲り渡してしまう。決めるべきところで決めていれば、そういうことにはなりませんから。

――昨シーズンとは違い、今年は連敗することもありました。監督が考える「負けから得られるもの」は何でしょうか。

ネルシーニョ まず何よりも、落ち着いて対処しながら、練習を続けていくことが大事だと思います。例えば第27節浦和レッズ戦の敗戦(1─ 2)ですが、ゲーム内容を見れば優位に進められた時間もありました。結果的には、最後の最後で相手に勝利の女神が微笑んだ。そういう敗戦は、ミスを観察できます。そして自分たちの準備を落ち着いて進めていくためにも、チームとして修正すべきところは修正していく。もちろん良かったことについてもしっかりと抽出しています。勝った時は良いものしか見えなくなります。負けた試合でどれだけの情報を得るかは、チームとして大事にしているところではあります。

――監督は毎試合後、次の試合への準備が始まる練習の冒頭に、10分ほど時間をかけて選手に話をしていますね。

ネルシーニョ 次の試合に向けての最初の準備ですから、精神的に安定して準備を進められるようにすることです。まず、現状を選手たちへ伝えます。自分たちが置かれた順位や状況、次の対戦相手のこと、その対戦相手と対する時に起こるであろう障害であったり、難題であったりを話していきます。安定した精神状態、そして次の相手に勝つための士気を上げていくことを気にしながら、選手たちに話をしています。

国際大会を経て感じたクラブとしてのレベルアップ

――シーズン開幕前、監督は「私はコパ・リベルタドーレスなど国際試合をやっているから、ACLも同じように臨めるだろう」とおっしゃっていました。今シーズン、実際にACLを戦ってみた印象はいかがでしたか?

ネルシーニョ どちらの大会も移動の問題がありますし、食事の違い、レフェリングの違い……そういう面でも、同じような大会だと思っています。そういう国際大会を、私はこれまで経験してきました。ACLは私だけでなく、レイソルにとっても間違いなく忘れられない教訓になったと思います。ですから、再度レイソルがACLに出ることが非常に重要になってくるのです。


――ベスト8で対戦した蔚山現代ホランイ(韓国)との試合では、相手の徹底したロングボール攻撃に沈みました。一方、同じような戦術で挑んできた鳥栖戦では、その経験を生かし、相手の特長を出させずに試合を進めたように思います。監督はACLを経験したチームの成長はどこにあると思いますか。

ネルシーニョ そうですよね。蔚山現代戦は非常に苦戦しました。空中戦は7割近くを相手に制され、しかもそれが失点につながってしまった。でも、あの教訓があったから、Jリーグでも鳥栖戦を始め、ロングボールを多用するチームとの試合で経験を生かしてピンチの局面を減らせているとは思います。

――その他では具体的にどんなところが成長したか、選手名を挙げるなどして説明していただけますか?

ネルシーニョ 私は名指しでほめることが好きではありません……。ただ、一つ言えることがあります。それは、このチームは経験のあるチームになってきているということ。若さだけではなく、今まで戦ってきた大会での経験、手にしたタイトルが生きていますし、これから先にもプラスに働くと思います。

――監督はこの夏でレイソルでの指導が丸3年を越えました。これは監督自身にとって同一クラブでの采配において最長記録となります。継続してチームを率いる上で感じるメリットとデメリットを教えてください。

ネルシーニョ 私にとってはメリットしかありませんよ。何より選手個人について良く知ることができますから。今ではネガティブな部分もポジティブな部分も含めて選手たちを細部まで理解できているので、メンバーを決める際にでも安心して決めることができる。能力はもちろん、性格も、どんな反応をされるかも分かります。自分がやってきたことが、成長しているチームに反映できているので、非常にやりがいがあります。その中で最も大切なのは、チーム全体が成長していること。それが最も重要なことですね。

――ブラジルでは継続した指導がなかなかできないと聞きます。その頃と現在とで、指揮における具体的な変化はありますか?

ネルシーニョ ブラジルではブラジルの練習のリズムがあり、レイソルではレイソルの、日本には日本人が慣れているリズムがあります。そこへ私たちがブラジルから持ってきたリズムを落とし込んだ時に、一番重要なのは選手の反応、理解力、吸収力といった部分です。このチームでは、選手の理解力、吸収力が優れていて、チーム全員が成長してこれました。ブラジルでは開幕から9カ月間、日曜日、水曜日、日曜日と“1ウィーク3ゲーム”が続きます。そういう国での采配と比べると、日本では試合のスパンも練習のリズムも全く違う。日本のリズムに仕事を振り分けて、日々の練習にボリュームを与えていきながら、仕事をしなければなりません。日本では選手一人ひとりが試合に向けて準備できる期間が長いですよね。基本的にはヤマザキナビスコカップや天皇杯が入る場合しか、タイトな日程にはなりませんから。指揮を執る上では、選手とチームに対して自分の考えを落とし込む時間をたくさん割けるメリットがあります。

――では今シーズンを経験して、監督自身が一番学んだものは何でしょう。

ネルシーニョ 「今シーズン」と限定されると答えるのが難しいですね……。日々、このクラブで仲間、選手と仕事をしながら、尊敬し合える環境がここにはあります。その中で問題を解決していく。そういった日々の連続で感じているのは、試合に臨むファーストプランがあり、それがダメだった時に“さらに練られた“プランB”を袖に隠し持っておかなければ、いろいろな局面に対処できないということですね。

――その“プランB”は、試合でも相当な確率で当たっていると感じます。

ネルシーニョ そうですね(笑)。それが必要な時は、だいたい結果を残しています。

――前半と後半でビックリするほど内容が変化するので、見ていて感心させられます。選手にどのような“魔法”をかけているのかと。

ネルシーニョ プランBで成功する場合もありますからね。私はただ選手に話をしているだけです。選手ができるだけ話を消化してグラウンドに入れるように、気をつけて話します。長く一緒に仕事をして、言葉を使って指導をしていますから、何を求めているのか、何を求めていないのかを、選手は分かってくれていますね。

――それに最近、サイドバックがより積極的にプレーするようになっていると感じます。

ネルシーニョ 試合映像を常に私が編集しているのですが、試合全体における編集だけでなく、必要に応じて選手個々の映像も編集します。サイドバック全員に話をしますし、映像を見ながら改善を求めています。彼らがそれを見て、グラウンドで表現をしてくれているわけです。

――一昨年は練習試合が多かったですが、昨シーズンはその機会が少なくなりました。ところがこの1カ月でまた練習試合の機会が増えています。これはチームが、次のステージに移っているということでしょうか。

ネルシーニョ スケジュールの問題もありますし、ケガ人の問題もあります。試合に出られる選手の数が18、19人の時がありましたから、なかなか練習試合を組めませんでした。アカデミーの選手をたくさん借りてきて、試合をするような状態でしたから。今はトップの選手にケガ人が少なく、しかもトップの練習にアカデミー所属選手も継続的に入っています。練習試合も、公式戦と同じ試合です。私はもともと練習試合を組みたいタイプなので、その条件が合ったということです。ただでさえ人数の多いチームではないですし、アカデミーも重要な大会に参加していることが多かった。

レイソルは離陸を果たした飛行機、あとは、どこまでも飛んでいくだけ

――このチームの今後の可能性について、どのように感じているのでしょうか

ネルシーニョ 例を挙げるならば、レイソルは離陸した飛行機です。トップチームにしても、アカデミーにしても同じです。前方の視界は開けています。遠くまで飛んでいくと思いますよ。その先に新しいステージへたどり着くでしょうし、新しいタイトルを手にするでしょう。

――サポーターにとっては、この数年でJ2、J1、ACL、クラブワールドカップと、応援するチームが急激にステージを上げてきたわけで、その変化の度合いはすさまじいものがあったと思います。監督が展望する今後のレイソルの見解を、もう少し具体的に教えていただけますか。

ネルシーニョ レイソルがどういう取り組みをして、どのタイトルを獲得するのかを具体的には申し上げられません。ただ、繰り返しになりますが、レイソルは決して戻ることはない。進むのみなのです。チームにも選手にも、常に高い目標を設定して、そこへ臨んでいく力があります。それは約束できます。

――昨年は結果と勢いが相乗効果を生み出して、チームと選手が急激に成長した一年だったと思います。では、今年の選手、チームの成長スピードについて、どういった感覚を持っていますか。

ネルシーニョ この2年間と比べると、同じような成長スピードはありません。サポーターが目に見える、グラウンドにおける試合での90分間で残した結果も、あまり良いものではないのですが、チームの内側では成長を止まらずに続けています。理解していただけるとうれしいのですが、一昨年から昨年にかけて飛行機が離陸しました。今、飛びながら、南十字星のあたりを飛んでいるとでもいいましょうか(笑)。レイソルはそのまま高度を維持しているところです。

右肩上がりで来た2年を経て、安定飛行の状態にきていると。

ネルシーニョ 先へ進むという意味で、間違いなく成長し続ける飛行の仕方ですね。エンジン全開で離陸から水平飛行に移行して、そのあとの段階です。我々には常にヴィトーリア(勝利)という目標があります。それがブレることもありません。

――安定して力を出すチーム、選手になっていると捉えて良いのでしょうか。

ネルシーニョ そうですね。自分たちが持っている力をコンスタントに出すべき時期にきていると見ています。そうすればタイトル獲得につながるでしょうし、私としてもそういった手応えを選手たちから感じていますから。

サガン鳥栖の挑戦 Jリーグサッカーキング1月号

Jリーグサッカーキング最新号

 11月24日発売のJリーグサッカーキング1月号はサガン鳥栖を大特集! 初挑戦のJ1で健闘を見せているサガンをクローズアップしました! 巻頭では豊田陽平選手と藤田直之選手のスペシャル対談が実現! チームが誇るエースと熱血キャプテンが激闘のシーズンを振り返ってくれました。また、チームメートの素顔を明かす人気企画では2人のストライカーが登場。池田圭選手と野田隆之介選手が息の合ったトークで様々なチームキングを決める対談は爆笑必至です。一方、守備をテーマにした赤星拓選手と丹羽竜平選手の対談では、試合の裏側や二人の関係性をクローズアップ。恒例企画「クエスチョン50」には岡田翔平選手が登場し、サッカーのことからプライベートまで全開トークを繰り広げてくれました。

 また、異なる年代の3大座談会も要チェック! 岡本知剛選手、水沼宏太選手、金民友選手はチームをけん引する若手として、木谷公亮選手、磯崎敬太選手、小林久晃選手はチームを引き締めるベテランとして、それぞれの立場でJ1初年度を振り返ってくれています。さらに来シーズンからの新加入が内定している清武功暉選手、岸田翔平選手、坂井達弥選手の座談会も実現! JFA・Jリーグ特別指定選手としてチームとともに過ごした今シーズンの記憶とともに、プロ入り後の目標も熱く語ってくれています!

 今回はサガンを支えるクラブ関係者、スタッフにも直撃。井川幸広会長、竹原稔社長、永井隆幸強化部長には経営面やチーム強化を、尹晶煥監督には躍進の秘密を存分に語ってもらいました。幾度となく訪れたクラブ存続の危機を乗り越え、ついにJ1の舞台で躍進を遂げたサガン鳥栖。その裏側を徹底特集しています。ぜひご一読ください!

Football★Plazaで購入 amazonで購入
honto(電子版)で購入 Fujisan(電子版)で購入
試し読み プレゼント応募