2012.09.18

吉田麻也、失意のデビュー戦で光った希望と突きつけられた課題

 新たな可能性が生まれた瞬間。突きつけられた厳しい現実に圧倒された試合。

 

 日本人DF初のプレミアリーガーであるサウサンプトン吉田麻也のデビュー戦は、世界最高峰の“洗礼”を、これ以上なく受けたゲームとなった。強豪アーセナルを相手に1−6の完敗を喫するだけでなく、吉田自身も失点に絡んでしまった。ジェルビーニョの侵入を許してしまった3失点目は、どう贔屓目に見ても吉田のミスを指摘せざるを得ないほど致命的なものだった。

 

 だが、エミレーツ・スタジアムでの試合の中にあったものが失意だけであったかと言えば、必ずしもそうとは言えない。吉田はセインツ(サウサンプトンの愛称)を救えるかもしれない。そう思える輝ける瞬間も、ピッチ上に散りばめられていた。

文=松岡宗一郎(サッカーキング編集部)

写真=Getty Images

 

突如訪れたデビューの瞬間、喜びと戸惑いの間に

  吉田のプレミアデビューは唐突に、そしてあっさりと実現されることになった。前半開始からわずか28分でセンターバックの一角ヨス・ホーイフェルトがふくらはぎを痛めてプレー続行不可能に。

 

 吉田は直前まで日本代表に合流し、サウサンプトンの練習にはわずか数日しか参加していなかったが、急遽ピッチに投入されることとなった。だが、デビューという喜びに浸るまもなく、吉田の前には多くの試練が訪れることになる。

 

 CKから2得点目を奪われると、35分にはジェルビーニョに完全に裏を取られてしまい失点。吉田がマークを外したことにより喫した失点で、プレミアのスピード、厳しさを見せつけられる光景となった。

 

 結局、一時はアーセナルの攻撃を防いだセインツだったが再び崩れて合計6失点。吉田のデビュー戦は、ディフェンダーのデビューとしては“ほろ苦い”と形容することすらためらわれるほどの大敗となった。

 

プレミアの舞台でも光った吉田の武器

 だが、すべてがネガティブな結果だったかといえば、決してそうではない。吉田は敗戦の中にも、何度か光るプレーを示してみせた。

 

 ジェルビーニョにこそ突破を許したものの、後半に入ると粘り強く相手へ食らいつき、シュートをブロックするなど、及第点のプレーを見せた。また、フィジカルで相手に翻弄されるシーンもなく、ジェルビーニョへの対応のようなプレーはプレミアの水に慣れることで解消しうる問題であることを示唆した。

 

 そして吉田は後方からのビルドアップや正確なフィードという自らの武器もピッチ上で示した。何回か単純なミスパスはあったものの、ボランチのプレーヤーに勝るとも劣らない展開力はセインツの攻撃を活性化させていた。アーセナル相手には厳しかったが、横の揺さぶりに弱いプレミアリーグ下位チームの守備陣であれば、吉田の攻撃力も大きな武器となり、セインツに還元されることだろう。

 

課題はプレースピードへの対応

 プレミアのレベルでも自らの武器が武器として成り立つと思わせるプレーを披露した吉田。敗戦という結果だけでは測ることのできない成果が、フィールドには広がっていた。

 

 だからこそ、その真価を発揮するために、プレミアリーグの水にいち早く適応する必要がある。各国リーグで実績を上げてきたセンターバックが適応できずに終わる、というのはよくある話だ。

 

 例えば今回対戦したアーセナルにおいても、ペア・メルテザッカーはプレミアリーグのスピードに慣れるのに長い時間を要した。今でもスピードにおいては不安を抱えているといっても良いだろう。

 

 また、繰り返しになるが今回の場合、吉田はプレミアリーグの経験どころかサウサンプトンの練習に参加したことすら数えるほどだった。実際、ナイジェル・アドキンスカントは試合後、「マヤは過去2週間ほど日本にいて、我々に合流したのも数日前だ。4週間、トレーニングをともにしていたら結果は違ったものになっただろう。そして後半はかなり良くなっていたということも言っておかなければならない」と、吉田を擁護する言葉を発している。大敗を喫してなお、指揮官は吉田に期待し、良化を確信しているのだ。

 

 ライバルの負傷という緊急事態により訪れた吉田のデビュー。そのメモリアルな試合は、あるいは本人にとっては思い起こしたくない試合の一つになったかもしれない。しかし、敗れてなお今後への希望を抱かせるプレーがピッチにあったことは喜ばしいことだった。見限るにはまだまだ早すぎる。吉田はまだ、プレミアリーグで62分間プレーしたに過ぎないのだから。