2012.08.31

宮本恒靖流 サッカー観戦術「人々がサッカーをより理解して試合を観ることが、日本のサッカーの発展には欠かせない」

日本サッカーを強くできるのは、何も監督や選手だけではない。試合を観る我々もまた、その一環を担っている。 そして、強化を効果的に促すには、しかるべき戦術眼が必要となる。元日本代表キャプテンが、自らの経験を踏まえて高水準のサッカー観戦術を教授してくれた。

宮本恒靖
聞き手=伊東武彦(朝日新聞) 写真=佐山順丸

ロンドンオリンピック、ワールドカップ最終予選、そして香川真司選手のマンチェスター・ユナイテッド移籍など、サッカー界が注目されています。

宮本
 盛り上がりを感じますね。サッカーが日本人にとって、欠かせない存在になること。それが、選手としてだけではなく、サッカーにかかわる人間としての夢なので、そういう流れになってきているのはうれしいですね。

日本人選手がヨーロッパでプレーする映像がニュースですぐに飛び込んでくる時代です。サッカーファンの目も肥えてきているのでは?

宮本
 僕たちが子どものころとは比べものにならない環境です。ただ、「教材」が多いだけに、見方も問われてくるという面もあるかもしれません。人々がサッカーをより 理解して試合を観ることが、日本のサッカーの発展には欠かせないと思います。もちろん、サッカーの見方は一つではなく、人それぞれの見方と楽しみ方があっていいわけですが。

宮本さんが書かれた新書『宮本式・ワンランク上のサッカー観戦術』には、そのヒントがちりばめられていますね。「良い選手ってどんな選手なんだろう」という問いから始まっていますが、確かに、改めて聞かれると、困ってしまいます。

宮本
 スタンドで観戦していると、どうしてもボールの動きばかりを追ってしまいます。試合はボールを中心に動くわけですから当然なのですが、ボールのないところの動きを見ることが、良い選手を理解する第一歩になると思います。サッカーの1試合90分のうち、一人の選手がボールに触れている時間は数分に過ぎません。かつては3分台と言われていましたが、ボールプレッシャーが激しい現代サッカーでは、2分を切るという報告もあります。状況がめまぐるしく変化する中で、その状況に合った最善の選択ができるかどうか。そのためには、ボールのないところにいる選手も常に考え、次のプレーの準備をすることが大切になります。

観客は「守備」「中盤」「攻撃」という3つのゾーンでサッカーを観がちですが、実際にプレーしている選手は、4つのゾーンを意識していて、そこにマッチした選択をしているのですね。

宮本
 自分がディフェンダーだったこともあるのですが、選手はリスクとチャレンジの選択を連続的にしています。観る側も4つのゾーンを意識して、そのゾーンにふさわしいプレーを選択できているかどうかを判断することが、選手の価値を計る一つの物差しになるかもしれません。また、攻めのチャレンジをしなければならないゾーンで、バックパスの数が多いチームは、ボールを保持する時間が長くても、攻撃的チームとは言えない。どんなに守りを固められていても、どこかでブレークスルーする パスを出す動き、そしてそのパスを受ける質の高い動きがあるチームは強いですよね。

世界最強と言われるバルセロナがそうですね。まるで「森」のように密集した相手守備の中を、巧みに分け入っていく。

宮本
 彼らは、その「森」にいながら、巧みに顔を出す動きをして一瞬のほころびを狙っています。そこには、FWとDFの高度な駆け引きがあります。ボールを追っているばかりでは、そこが理解できないのです。

バルセロナは、ボールを取られた瞬間を見るべき、とも。

宮本
 攻守の切り替えとよくいいますが、本当に攻撃的なチームというのは、攻めているときに、守りの準備をしているのです。バルセロナがパスを回している時の、シャビらボランチの動きを観ていてください。パスの出し入れをしながら、常に相手のカウンターに備えて、パスコースを切る準備をしています。ボールがないところでも、誰もサボっていない。だからこそ、相手ボールになった次の瞬間にボールを奪い返し、いわゆる波状攻撃が繰り出せるのです。 先日、バルセロナの試合を観ていたら、味方GKがボールを持った瞬間に、センターバックが猛然とダッシュをして、GKの横のポジションを取りました。攻撃の第一歩になるために、そこでパスを受ける動きをしたのです。そんなボールのないところでの動きからも、バルセロナというチームが理解できます。

ヤットこと遠藤保仁選手が今の日本に欠かせない理由も、非常によくわかりました。

宮本
 崩しのパスを出すヤットのうまさは、ある意味、誰にでも理解できます。でも、ヤットの神髄は、崩しの局面の前の、何げないパス交換にあるのです。もっといえば、パス交換をしている間の動きといってもいい。パスを出し、動き、またパスを出して動く。その連続の中から、攻めの糸口を見つけ出していける選手なのです。ただテクニックがあるだけだったら、30歳を超えてから、日本代表の中心選手にはなれなかったはずです。

遠藤選手のことを、 「プレーをやめられる選手」と表現していますね。

宮本
 一流の選手とは、一つのプレーを選択しながらも、最後の最後まで最終的な判断を待てる選手です。なでしこの澤選手も同じです。「あ、そのパスコースは、読まれてるぞ」。スタンドから観ていて、そう思う瞬間がありますよね。そこで他のプレーを選択できるかどうか。そんな見方も、サッカーをよく理解するヒントになると思います。

「ブロック」など、テレビ解説でよく聞く言葉も、わかりやすい解説で復習できました。

宮本
 いま解説をしていて、「守備のブロック」という言い方をしますが、ガンバ時代には、こういう言い方はしなかった。新しい言葉ですね。コンパクトやゾーンなどの言葉と連動して理解すると、わかりやすいのではないでしょうか。

その他、中田英寿選手や松田直樹選手などの回想など、ともにプレーした立場でしかわからない特徴が語られています。ところで、宮本さんは、これから「FIFAマスター」というコースに進まれます。どういったことを学ぶのでしょうか?

宮本
 FIFAの大学院にあたるもので、サッカーをビジネス論、組織論など多角的に学んできたいと思います。将来、どんな立場になっても、サッカーやスポーツの発展に力を尽くしていきたいと思っています。

宮本式・ワンランク上のサッカー観戦術

元日本代表キャプテンが、ワンランク上のサッカー観戦をしたい方にとっては必読の一冊を出版

  • 宮本恒靖の近著『宮本式・ワンランク上のサッカー観戦術』が好評発売中だ。自身の日本代表、Jリーグ、海外チームでの実際の体験をもとに新しいサッカー観戦の方法を提案する内容で、ワールドカップ予選や海外リーグなどを見る際に、ワンランク上のサッカー観戦をしたい方にとっては必読の一冊。「試合を見る際にはどこに着目すれば良いのか」、「監督のイメージする戦術を実現させているのは誰か」、「ボールがないところでどんな動きをしているのか」を把握すれば、今まで以上にサッカー観戦が楽しくなるはずだ。
  • [書名]宮本式・ワンランク上のサッカー観戦術
    [著者]宮本恒靖 [価格]756円(税込)
    [発行]朝日新聞出版
    [お問い合わせ先]朝日新聞出版 直販担当 TEL:03-5540-7793(平日10:00~18:00)
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