『師 (天才を育てる。)』掲載
なでしこの将来を担う選手として期待される仲田
[写真]=足立雅史
今や日本中から注目を集め、綺羅星のごとくピッチを駆けるなでしこジャパンの鮫島彩、熊谷紗希、田中明日菜。そして彼女たちに続くU−20女子日本代表の京川舞、仲田歩夢。
彼女たちには共通点がある。出身校はいずれも常盤木学園高等学校サッカー部。そこには彼女たちを育てた指導者がいる。それが、阿部由晴である。
自分が教えないから選手は「考えることを学んだ」
阿部が監督に就任したのは1995年。阿部が就任する前のサッカー部は全国レベルにはほど遠いチームでしかなかった。
阿部はわずか数年で、数ある高校の一サッカー部でしかなかったチームを全国の強豪へと育てたことになる。
卒業生たち、例えば京川は「自分で考えることを学んだ」、熊谷は「自分の意志を尊重してくれる場所だった」と、自信が籍をおいた部についてインタビューで語ったことがある。その言葉をぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。
「考えることを学んだ」っていうのはね、指導者である自分が教えないからからなんですよ。何も教わらないもんだから、自分で考えるしかない。自分でやるしかないかなと思って考えるわけです」
創部時部員5人。選手に向かって「日本一になるぞ」と言いました
常盤木学園高等学校サッカー部は、生徒にとって、「安心、安全」な場所であり、思い切ってやれる環境である。阿部は、監督就任以来、どのようにしてその「場所」を築いていったのか。
阿部が常盤木学園教諭となってサッカー部の監督に就任したとき、部員は5名。試合をするにもみたない人数だった。この部員たちを前に、阿部は意外な言葉を投げかける。
「そんなのじゃ日本一になれないぞ」って言いましたね。
常盤木の監督になったときは部員5人で、試合をするにも助っ人を他のクラブから借りなければいけないような状況でした。けれど、そんなことを言ったわけです。本人たちはどのように受け止めていたのか分からない。この間、当時の選手と会ったら、「私達が頑張ったから先生もここまで来れたのよ」なんて言ってましたけどね。まさにそのとおりだなと改めて思いました。生徒たちが頑張るから自分があるんです。
3年目になってようやく部員が11名そろいました。当時、一番強かった「アメリカに勝つぞ!」とかそんなことを言うようになりました。
ようやく11人揃ったようなチームで「日本一を目指すぞ」なんて言っているバカが今度は世界だと言い出して、アメリカまで行くと言い出す。先生たちからすれば、何なんだ、という感じですよね。とにかく志だけで納得してもらおうと話をしました。
最終的には校長先生がOK出してくれました。
それからも3年に一度は行くようにしていました。
最初に日本一になるぞ、次にアメリカだ、世界だと言ったのは、中学時代にサッカーを教わった恩師の影響があるんです。
その恩師が、チームのレベルからすればランク二つくらい上げて目標を言うわけです。県で優勝しようとかじゃなく、「東北で優勝するぞ、全国大会で優勝するぞ」と常に言うものですからついついその気にさせられてしまった自分がいるんです。
初めの頃は、毎回言われるたびに、なんでこの人こんなこと言ってんだろうと思いました。でも何度も言われていると、だんだんその気になってくるんですね。ああそうなんだそうなんだ、俺たち強いんだって思い込むようになってきた。
そして私たちは、東北大会に出場することができたんです。そういうわけで、私自身もランクの高い目標を掲げたわけです。
そういえば2011年、ワールドカップで優勝したあと、鮫島と熊谷が来るのにあわせて本校校長の藍綬褒章受賞記念パーティーが開催されました。すでに学校を辞められている当時の先生方も含めて多くの方が出席していましたが、当時、私が公私ともにお世話になった先生から「先生、あのとき、アメリカに行くって言っていた意味がやっと分かった」なんて言ってくださいました(笑)。
師 (天才を育てる。) [監修]テレビ朝日 Get Sports
■天才を育てる 一流選手に一流の恩師あり
平井伯昌(ロンドン五輪競泳日本代表ヘッドコーチ)
教え子… 北島康介、寺川綾、中村礼子
落合正利・土田美知恵(土浦日本大学高等学校教諭)
教え子…福見友子、塚田真希、一見理沙
阿部由晴(常盤木学園高等学校教諭)
教え子…鮫島彩、熊谷紗希、田中明日菜、京川舞、仲田歩夢
吉田達磨(柏レイソル強化本部長)
教え子…酒井宏樹、近藤直也、大谷秀和、茨田陽生、工藤壮人、指宿洋史
小川良樹(下北沢成徳高等学校教諭)
教え子…木村沙織、荒木絵里香、大山加奈、落合真理
栄和人(日本レスリング協会女子監督)
教え子…吉田沙保里、伊調馨、伊調千春