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浦和、試練を超えろ黄金世代——08年高円宮杯組の現在地と未来

2012.08.20

浦和レッズマガジン9月号(8月11日発売)』掲載

 浦和レッズのアカデミー選手は順調に成長を遂げている。しかし、その筆頭株である原口、山田直、高橋、濱田ら『08年高円宮杯ユース優勝組』は、五輪代表選出外やケガ、そして出場機会を求めて期限付き移籍をするなど、彼らにとってのキャリアにおいて、1つの分岐点を迎えている。

 

 ユース時代から彼らをよく知る高野和也氏が思い描く、彼らの『ここまで、そしてこれから』とは——。

 

文=高野和也
写真=足立雅史

 

 

サッカーの神様が導いた原口の鳥栖戦での2ゴール

 

 サッカーの神様、そんな言葉が頭に浮かんだ。7月7日、J1リーグ第17節、サガン鳥栖戦後のことだった。

 

 この試合、先制は前半7分だった。右サイドの平川忠亮がワンタッチで斜めにボールを入れると、それを迎え入れる動きを取っていた柏木陽介は、次のプレーが成功する確信を持っているかのようにスルーをした。同じ軌道に位置していた原口元気がワンタッチでボールを落とし、前向きに身体を返した柏木が、この間にタッチライン際を駆け上がって、高い位置に進入していた平川に、ていねいにボールを送る。平川はニアサイドへの折り返しを選択した。

 

 その先には、勢いを持ってエリア内に進入していた原口がいた。彼は右足を振り抜き、強い弾道のシュートを放つ。ボールは、わずかに枠内からそれ、ポストをたたいた。そして跳ね返ったところを梅崎司が押し込み、レッズは試合の流れをつかむ待望の先制点を手に入れた。

 

 この試合の5日前、ロンドンオリンピックの日本代表メンバーが発表され、レッズの中で、最後までメンバー入りの可能性が残っていた原口と濱田水輝は、ともに落選の憂き目にあっていた。そして、このときは、まだ後半に彼が2得点するなどと思ってもいなかった。

 

 だからこのゴールが、ストレートに原口のものとして入っていたなら、と得点した梅崎には申し訳ないと思いながら、そんな感情を抱いていた。そして一方で、原口らしいな、と妙に納得してしまっている自分もいた。

 

 ロンドンオリンピック日本代表の落選。その直後の試合で、得点を決めることができれば、それはストーリーとしても美しく、彼自身も少しは晴れやかな気持ちになれるだろう。だが、ユース時代の彼を知り、プロという厳しい世界でもがき、苦しみ、つまずきながらも少しずつ前に進む彼を見てきたとき、すんなりとはいかないところが、これまでの彼の歩んできた道をよく表しているようにも思えたからだ。

 

 もちろん、そんな思いも後半の鮮やかな2得点で吹き飛んでしまうのだが。

 

 そして終了間際とは言え、この日、最後には濱田もそのピッチに立つことができていた。わずかな時間での出場など、濱田からすれば満足のいくものではなかっただろう。だが、同じくロンドンオリンピック日本代表のメンバーから外れた彼が、直後のホームゲームでピッチに立ち、ファン・サポーターの前でプレーする。その事実には、それなりの意味があったように思えた。4得点を奪ったあと、わずか4分間で3失点して1点差に迫られるという、何かあり得ない力が働いているような展開だったが、そうした状況にならなければ、濱田の出場はない可能性もあっただろう。

 

 そう考えた時、試合後、名前をコールされて深々と頭を下げる彼を見て、ふだんは絶対に信じないサッカーの神様という不確かな存在を思い浮かべてしまったのかもしれない。

 

 

選手、そしてファンにとっても望んでいた未来と違う現実

 

 原口、濱田、そして、山田直輝、高橋峻希、永田拓也。

 

 この5人は2009年、トップチームへと昇格した。彼らは、前年にユース年代の真の日本一を決める大会、「高円宮杯第19回全日本ユース(U−18)サッカー選手権大会」を、見る者を魅了する素晴らしいサッカーで優勝していた。このとき、おそらく多くの人たちが、数年後、彼らがピッチで躍動し、レッズの中心選手として活躍する姿を夢見たのではないだろうか。

 

 だが、あれから4年目を迎えた現在、レッズで継続的に出場機会を得ているのは、原口1人となってしまっている。その原口も、ポポの負傷の後に、1トップとして出場機会を得た状況で、それ以前はレギュラーを獲得するまでには至っていなかった。もちろん、現時点でJ1通算出場数は100試合を超え、通算得点も16という数字を残していることは、21歳の若者としては十分という見方もできるかもしれない。だが、そのポテンシャルを考えたとき、決して十分とは言い切れないものがあるのも事実だ。

 

 そして、彼の戦友でもある当時のチームメートもまた、同じように壁にぶち当たっている。山田直は不運とは言え、度重なるケガで活躍の機会を奪われ、濱田は大きな背中を見せる先輩の壁に阻まれて出場機会を得られずにいる。そして、永田は昨季からJ2に出場機会を求めなければならず、先月15日には、この5人の中で山田直と同様に最も早くトップチームに登録された高橋も、J2への期限付き移籍という決断をしている。

 

 彼ら自身にとっても、ファン・サポーターにとっても、望んでいた未来とは違う現実になってしまっている、と言えるだろう。

 

『9−1』の圧勝、そして忘れられないゴールがある

 

 今でも多くのレッズファン・サポーターの中に鮮やかに記憶に残っているだろう、あの高円宮杯決勝の9−1のゲーム同様に、私が彼らのことを考えるとき、思い出す試合がある。いや、忘れられないゴールがある、と言った方が正しいかもしれない。

 

 その年の高円宮杯準決勝でのことだ。

 

 対戦相手は、高校サッカー界の雄である岡山県作陽高校だった。レッズユースは前半に山田直のゴールで先制したものの、CKから失点し、1−1という状況のまま苦しい戦いを強いられていた。90分では決着をつけることができず、試合は10分ハーフの延長戦に突入した。ピッチ上の選手たちは、体力が限界を超え、すでに互いに気力を振り絞るような状況にまで達していた。

 

 そして延長後半に入り、試合終了まで残り5分という時間を迎える。この時キャプテンである菅井順平がロングフィードを前線へ送った。そのボールは、ともに途中出場だった礒部裕基、石沢哲也とつながる。石沢はペナルティーエリア内から後方にいた原口へと、冷静にボールを落とした。

 

 「チャンスは絶対にあると思っていて、その1本に懸けていた」という原口は、思い切りよく左足を振り抜く。ボールは約30メートルの軌道をまっすぐに進み、そしてゴールネットへと突き刺さった。

 

 まさにチームの勝利を決定づける、渾身の一撃だった。

 

 見ている人たちに何かが伝わるサッカーをしたい——。

 

 この年のユースチームの選手たちは、大会を勝ち上がっていく中で、合い言葉のようにそう話していた。この言葉は当時、監督としてユースを率いていた堀孝史が、選手たちに折りを見て語っていた言葉だった。まさに彼らは、そうした試合をこの大会で披露していたのだ。

 

 なぜ彼らのことを思う時、あのゴールが思い起こされるのか。自分たちが楽しみながらサッカーをし、相手を翻弄していく中で観衆をも魅了する。やって楽しく、見て楽しく、勝てるサッカーこそ、決勝の舞台で見せた彼らの姿だった。

 

 だが、それと同等に、準決勝の苦しみ、緊迫した試合展開の中で見せた、勝利への執念とも言えるあのゴールもまた、価値ある彼らの姿だった。まるで彼らのサッカーへの思いを表すかのように生まれた、強くまっすぐなゴールは、何かを起こせるのではないか、というあのチームへの期待感が具現化されたようにも思えたのだ。

 

今の自分を越えるために日々の練習、環境に変化を

 

 プロという世界は厳しい。

 

 あの時、何かを起こせるのではないかと感じさせ、実際にユース年代では何かを起こし、その中で最も光り輝いていた選手たち。しかしチーム事情もあったとは言え、大きな結果を残せずに3年が経過してしまっている。

 

 この年月が長いのか、短いのか。それはわからないが、《安く》形容されていた「才能」や「センス」という言葉だけでは、乗り越えられない現実が彼らの眼前には立ちはだかっている。

 

 だが、鳥栖戦で原口が見せたように、少しずつでも彼らは、そうした壁を乗り越えようとしているように思う。あの先制につながった動きや2つのゴールも、代表落選の後に見返したいという強い思いがあったことは事実だろうが、それだけで得られたものではなかった。

 

 ボールがないところでのDFとの駆け引きや引き出すタイミング、そして前向きになれる瞬間を探す作業。いわゆるオフ・ザ・ボールの動きの必要性に気づき、試行錯誤してきたこと、つまりサッカーというスポーツをより深く理解しようとした成果が現れたものだった。

 

 一方で濱田は、「自分の強みが鈍っているように思った」という理由で、ここ最近、後輩である野崎雅也らがコーチの天野賢一と行なっている全体練習後の自主トレーニングに参加する機会を作り始めている。そこでは止める、蹴るなどの基礎的なメニューが行なわれているが、その意識づけの成果として、全体トレーニングのゲーム中、これまでにはなかった強いパスを縦に入れていく姿を見せ始めている。

 

 そして、高橋。7月初旬に移籍の話を受けた際、彼はすぐにその申し出を受け入れたと言う。来季レッズに戻ってくることは大前提だが、そのレッズで出るためにも、現状のままではいられないという強い危機感があったのだろう。彼もまた、大きな決断をして前へと進もうとしているのだ。現在、リハビリ中の山田直、J2で経験値を上げている永田。彼らもまた、それぞれの場所で全力を尽くし、少しずつでも前に進んでいるはずだ。

 

 もちろん、全力を尽くすことで成功が担保されるわけではない。今後、誰かしらが、レッズというチームから、本当の意味で離れていかなければいけない時が来るかもしれない。

 

 たとえば濱田は、「いつまでもこういう状況でこのチームに居続けられるわけではないと思っています」と口にしている。そして、「一日でも早くレギュラーになって、試合に出続けたいと思っていますし、ユース出身の選手がそうなっていくのが、一番いいことだと思っています」とも述べている。それは、愛するチームに居続けるためには実力をつけ、その力を示さなければならないということを自覚し、かつて描いた未来と背負っている期待を、現実にしたいということでもあるのだと思う。

 

 確かに08年に描いた未来は、今の現実とは違う。だが彼らは、今もあのとき描いたものを、「見ている人たちが何かを感じるサッカーをしたい」という、あの思いとともに追っているのだ。だからこそ、彼らが前に進み続けるかぎり、あの期待感は続いていく。

 

 近い将来、彼らの多くが赤いユニフォームを着て、あの高円宮杯を超えるものを再び埼スタのピッチで披露する。

 

 それが≪今≫となる日が来ることを願っている。

 

高野和也
埼玉県蕨市出身。中大から2004年にNHKに入局。約3年間、放送記者として取材など担当した。07年2月からMDPのスタッフとなり、翌年から(株)清風庵社員に。トップチームだけではなく、ユース、レディースも追いかけている。

 

 

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