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若きインテルの悩み。この2年間で極度のスランプに直面した“元王者”の進むべき道とは

2012.07.18

ワールドサッカーキング 2012.07.19(No.222)掲載]
 インテルの悩み相次ぐ監督交代と“3冠メンバー”への依存により、この2年間で極度のスランプに直面した“元王者”インテル。36歳の青年監督、アンドレア・ストラマッチョーニに未来を託した今こそ、ベテランから若手を主体とした新たなサイクル作りに踏み切るべきだ。現地記者がインテルの「進むべき道」を示す。

Text by Augusto CIARDI

■迷走した監督人事と若きストラマッチョーニ

 今から2年前、ジョゼ・モウリーニョ率いるインテルは、サンティアゴ・ベルナベウでの決勝戦でバイエルンを撃破し、チャンピオンズリーグ優勝を果たした。イタリアのクラブとして史上初の“3冠”達成の瞬間である。だが、そこからインテルの転落が始まった。栄光の瞬間からの2年間は、失意と屈辱の連続。スクデットはミランとユヴェントスの手に渡ったが、いずれもインテルはタイトル争いに加わってもいない。CL制覇のシーズンを別にしても、セリエAでのインテルは何年も無敵の存在だった。だが、ミランやユーヴェの「打倒インテル」の意気込みは空振りに終わった。いや、「倒す前に自ら転倒していた」と表現したほうが適切だろう。

 インテルの没落は4人の監督を巻き添えにした。2010ー11シーズンはラファエル・ベニテスとレオナルド、11ー12シーズンはジャン・ピエロ・ガスペリーニとクラウディオ・ラニエリ。「改革」をテーマとして新たなサイクルを築くべく、外部から監督を招き入れるのはいいが、インテル首脳陣は結局、ベニーテスもガスペリーニも信用しようとしなかった。序盤戦で低迷するとすぐに解任に踏み切り、後任(レオナルドとラニエリ)に立て直しを依頼。だが、その時点で少なくともタイトルは狙えない状況に陥っていた。監督人事が場当たり的で、フロントと監督とのコミュニケーションが不足していたのは疑いようのない事実だ。

 新シーズンの指揮は、ラニエリ解任後の終盤戦で暫定監督を務めたアンドレア・ストラマッチョーニに託された。ヴァルテル・マッツァーリ、チェーザレ・プランデッリ、アンドレ・ヴィラス・ボアス、マルセロ・ビエルサといった名前も挙がっていたが、マッシモ・モラッティ会長の肝入りでストラマッチョーニの続投が決まったことは、インテルにとっては朗報だろう。この数年の実績を見てみると、会長主導で決まったロベルト・マンチーニ、モウリーニョ、レオナルドは好成績を残している。それに対し、マルコ・ブランカを始めとする役員が連れてきた監督は失敗続きなのだ。モラッティのお気に入りであるかどうかが成否を分けるのだとしたら、クラブの機能としては正しいとは言えないのだが……。

 ストラマッチョーニは1976年生まれで、キャプテンのハビエル・サネッティより3歳も若い。ストラマッチョーニはローマのUー17カテゴリーで指揮を執っていたが、ローマの下部組織からトップチームに引き上げられるとしたら、圧倒的な実績を誇るアルベルト・デ・ロッシ以外にはない。ローマでは出世の可能性がないと見たストラマッチョーニは、インテルの下部組織へと移籍したのだ。そしてプリマヴェーラ(21歳以下のカテゴリー)を任され、今年3月にUー19世代のCLに相当する『ネクスト・ジェネレーション・シリーズ』で優勝し、一躍その名を上げた。それから程なくしてラニエリが解任されることになり、トップチームで指揮を執るチャンスが回ってきたというわけだ。

■ユーロ危機に巻き込まれたインテル

 トップチームで実績のない若手監督にインテルのようなビッグクラブを任せて大丈夫なのか。その不安があるのは確かだ。しかし、経験で言えばベニーテスやラニエリは欧州屈指の監督だったはずだ。次にヴィラス・ボアスを連れてくれば成功するという見込みは成り立たない。少なくとも、インテルというクラブの文化を理解している点、そしてローコストでのチーム再建に適した人物という点で、ストラマッチョーニという監督人事には説明がつく。

 インテルは金満体質で、低迷したシーズンの直後には大金を投じて大型補強に踏み切るというイメージが強いが、現在はその余裕すらない。CL制覇により巨額のボーナスが入り、サミュエル・エトオも想定外の高値で売れたはずだが、それらの“臨時収入”も赤字補填のために消えてしまった。来シーズンのCL出場権を失ったことでの収入減も大きい。来年の収入は、3冠を達成した3年前に比べて約7割もダウンすると見込まれているのだ。当然、補強に大金を投じるわけにはいかない。

モラッティ会長がそのクラブ愛をポケットマネーで示す“裏技”も、もう使えそうにない。ヨーロッパ全体を巻き込む不況は、モラッティ・ファミリーが経営する石油精製会社『サラス』に大きなダメージを与えている。

 そんな中、インテル首脳陣は下部組織に希望を見いだした。『ネクスト・ジェネレーション・シリーズ』での優勝を抜きにしても、カルチョ・スキャンダルによりイタリアサッカーの勢力図が塗り替えられた06年以降、インテルは下部組織でもイタリアで圧倒的な強さを誇るようになった。マリオ・バロテッリ、ロベルアックアフレスカ、マッティア・デストロ、リッカルド・メッジョリーニ、ダヴィデ・サントン、ジョナタン・ビアビアニー、レオナルド・ボヌッチ、イヴァン・ファティッチと、その“卒業生”は豪華な顔触れが並んでいる。もっとも、ここに挙げた全員が今はインテルに所属していない。インテルの下部組織は毎年のようにタイトルを勝ち取っていたが、トップチームも黄金時代を極めていたために昇格できず、出場機会を求めて別のクラブへと移っていったのだ。もう少しうまく振る舞っていれば、彼らは貴重な戦力になっていたはずなのだが……。もっとも、バロテッリでさえほとんど出場機会を得られなかったことを考えると、将来有望な若手を放出するのも致し方なかったのかもしれない。

 そんな悪い流れを断ち切るために打った手が、ストラマッチョーニの監督起用だった。『ネクスト・ジェネレーション・シリーズ』の優勝に貢献したチームには、ロレンツォ・クリセティグ、アルフレード・ダンカンなど才能ある若手が多数存在する。また、レンタルや共同保有で武者修行に出されている若手も多い。ストラマッチョーニは当然ながら彼らのことを熟知している。下部組織が生み出した素材を生かすという点では、ベニーテスやラニエリの何倍も期待できるのだ。

■高給取りのベテランに見切りを付ける時期

 インテルにとって最大の問題は、クラブ上層部(特にモラッティ会長)が、3冠の快挙を成し遂げた栄光のチームに必要以上にしがみついているという現状である。モラッティ会長は、今なお3冠メンバーに夢を託そうとしている。他クラブから巨額のオファーが舞い込んでも断り、選手の要求通りの年俸で新契約を結んできた。そのツケが現在の赤字体質を生んでいるのは疑いようのない事実である。

 昨夏はマルコ・マテラッツィが退団し、この6月にはイバン・コルドバが契約満了を迎えた。だが、ジュリオ・セザル、ルシオ、デヤン・スタンコヴィッチ、エステバン・カンビアッソ、ディエゴ・ミリートはまだ契約を2年残しており、クリスティアン・キヴとは6月下旬に2年間の新契約を結んでいる。

 ベテラン選手の経験が重要であることは否定しない。しかし、30歳を過ぎて疲弊した選手たちは年々パフォーマンスを落としている。例えばミリートは昨シーズン、ほんの一時期だけ好調だったが、シーズン全体を通して見せたパフォーマンスは平凡だった。だが、モラッティは一時期の好調を見て3冠の記憶を思い出してしまうため、彼を切り捨てることができないのだ。

 率直に言おう。ミリートよりもジャンパオロ・パッツィーニに賭けるべきだ。長友佑都はキヴの後継者として立派に務まることを既に証明している。長友をレギュラーに据え、その控えのポジションには下部組織出身の若手を置くべきだ。どのポジションにも同じことが言える。

 リカルド・アルバレス、アンドレア・ラノッキア、コウチーニョは主力として扱うべきだ。彼らをベンチに置いておくようだと、プリマヴェーラ上がりの若手にポジションが回って来ることはない。ストラマッチョーニに指揮を委ねる以上、フロントはこれまでのベテラン重視の傾向を改めるべきだろう。

 もう一つのポイントは、インテリスタ(インテルのファン)と地元メディアが若いチームと監督を辛抱強く見守ることができるかどうか。我慢と言っても、3冠達成後のこの2年の辛さとは種類が違う。「生みの苦しみ」は受け入れられるはずだ。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

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