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地に堕ちた“レアル”の気品。圧倒的ペースで勝ち点を積み重ねるマドリーが嫌われる訳

2012.04.02

ワールドサッカーキング 2012.04.05(No.210)掲載]
 優勝への道をまい進するレアル・マドリードだが、最近の調査では、“国教”と言われたほどの人気の下落が明らかになっている。指揮官の傍若無人な言動が選手にも広がり、もはや“レアル”の気品すらも失われている。彼らが自分たちの過ちに気づく日は来るのだろうか。現地記者が“レアルの凋落”を語る。

Text by Andrea De Benedetti, Translation by Minato TAKAYAMA

■スペインで起きた大きな逆転劇

 最近、スペインサッカー界では大きな逆転劇があった。スペイン紙『アス』と市場戦略を研究する団体「IKERFEL」が実施した調査により、史上初めて人気の面でバルセロナがレアル・マドリードを上回ったことが判明したのである。スペイン人の約44パーセントがバルサを、そして37パーセントがマドリーを支持しているという結果が導き出されると同時に、スペイン人の嫌いなチームのランキングでは、マドリーがバルサに11ポイントの大差をつけたという。100年以上の長きにわたって続いたマドリーの“統治”が、ついに終わりを迎えたのだ。

 今回の調査を実施した『アス』は、『マルカ』とともにスペイン中央政府の影響下にある新聞であり、マドリーびいきの記事内容で知られている。その新聞がマドリーの人気低下を指摘したのだから、信頼できる数値だと言える。マドリディスモ(マドリー主義)はもはやスペインの“国教”ではなくなっており、国民が最も注目しているのはマドリーではなく、バルサなのだ。

 この逆転劇は、バルサがこの3年間で無敵の存在となったことだけに起因しているわけではない。もちろん、勝利を積み重ねてタイトルを勝ち取ることは大きな意味を持つ。わずか3シーズンで、獲得可能な16タイトルのうち13のタイトルをもぎ取ったジョゼップ・グアルディオラ率いるバルサが、マドリーの支配下にあったスペインサッカー界に大きな風穴を開けたことは事実である。特に勝利者に感化されやすい若者たちはその強さに大きなインパクトを受け、バルサのスタイルに傾倒していった。だが、バルサの歴史的な逆転劇の裏にあるのはそれだけではない。バルサとの直接対決で失態を演じ続けているとはいえ、相変わらず強力なマドリーに対する憎しみが増大した理由は他にもあるはずだ。なぜなら、アンチファンにとってマドリーは「負けても憎い」存在。敗れた時は憎さが倍増するほどだという。では、圧倒的ペースで勝ち点を積み重ねるマドリーが嫌われる理由はどこにあるのだろうか。

■指揮官の下品な言動が選手たちにも伝染

 人気凋落をジョゼ・モウリーニョのせいにするのは簡単だろう。彼はバルサのコーチに目つぶし攻撃を仕掛けたり、スタジアムの駐車場でレフェリーを待ち伏せして侮辱したりする男だ。対戦相手をけなし、敗戦の際には言い訳を並べ立て、敗北を決して受け入れようとしない。ただ、そうした言動がチームへの敵対心に直結しているわけではない。問題はむしろ、苦しんでいるクラブが王座を取り戻すためにそういう男を指揮官に選んだことにある。

 フロレンティーノ・ペレス会長は好んで人前に出るような人物ではなく、彼の声は優雅で教養のある補佐官、ホルヘ・バルダーノによって伝えられてきた。納得できない敗北を喫した時も、審判によるミスジャッジへの怒りも、すべて美しい言葉で伝えられてきたのだ。そこには“レアル”(「王室」を意味するスペイン語)を冠することの気品を重視する姿勢があった。しかし、ペレスは昨夏にモウリーニョとバルダーノの対立が深刻化し、二者択一を迫られた時、迷うことなくモウリーニョを選択してバルダーノを追放している。クラブの伝統である紳士的な振る舞いが消え、モウリーニョの交戦的な教義に従うことになるだろうと覚悟した上で、バルダーノを追い出したのだ。

 また、ペレスは「モウリーニョのように勝利のために戦うこと、そして不公平な判定からチームを守ることは、紳士的な行為だ」とも公言している。100年以上にわたって保持してきたスポーツマン精神とクラブの威厳を放棄するような発言だ。ペレスの影響力はとてつもなく大きい。この発言と同時に、モウリーニョだけでなく選手や関係者もが、まるで上層部からの特別認可を得たかのように公の場で暴言を吐き始めた。品位に欠ける言葉でバルサへのライバル意識を口にするようになったのだ。

 その典型はペペのケースに見られる。モウリーニョの“言葉の暴力”の信奉者である彼は元々闘志を前面に押し出してプレーするファイタータイプの選手だったが、最近になってその傍若無人ぶりに磨きが掛かっている。コパ・デル・レイ準々決勝で実現したクラシコにおいて、ペペは明らかに故意にリオネル・メッシの手を踏みつけた。恐らく彼の頭の中では、このような蛮行を犯してもモウリーニョは許してくれるだろうし、クラブ全体が彼を擁護してくれるだろうという意識が働いたのだろう。もしかするとクラブから称賛されるとさえ思ったのかもしれない。

 スポーツマンシップの欠如も目を覆いたくなる状況だ。モウリーニョが監督に就任してから1年6カ月が経過したが、彼の挑発的発言や恨み節は数え上げたらきりがない。また、昨シーズンのチャンピオンズリーグ決勝前、意見を求められたほとんどすべてのマドリーの選手は「(バルサではなく)マンチェスター・ユナイテッドの勝利を祈る」とコメントしていた。クラシコで両チームの選手がもみ合う騒動を起こした直後には、冷静さとフェアな精神で知られるイケル・カシージャスやシャビ・アロンソまでもが自制心を失うような言動を取った。「バルサが勝利を“盗んでいる”」という事実無根のうわさを、この2人も信じてしまったのだろう。

 カシージャスはその後、衝突を避けるためにスペイン代表の合宿でバルサの選手たちと話し合い、和解に達している。だが、この論争の緩和にマドリーが組織ぐるみで乗り出したことは一度もない。それどころか、モウリーニョはカシージャスのこの行為に対して怒りをあらわにした。彼は代表でキャプテンを担うをカシージャスの模範的な行動を「チームへの忠誠を欠いた行為」として“罰する”ため、コパ・デル・レイの試合で彼をスタメンから外してしまった。モウリーニョの信念では、敵はあくまでも敵。たとえ代表という飛び地で出会ったとしても、憎悪の対象であることに変わりはないのだ。

 マドリーが下品な態度を取れば取るほど、彼らに対する敵意は増幅していった。普段からマドリー寄りのマスコミでさえ、この現象には戸惑っている。マドリーの気品が減少すると同時にグアルディオラ流のサッカーが輝きを増していったため、これまでマドリーを信奉していた記者が、バルササッカーの虜になったと公言するケースもあった。

■自業自得の失墜、気品を取り戻せ

 モウリーニョのスポーツ精神崩壊に嫌気が差してマドリディスモからの“脱会”を宣言した人間は数多くいる。そのうちの1人があの偉大な作家、ハビエル・マリーアスである。「モウリーニョのせいで、私はサッカーを愛することを辞めた」。彼は苦々しく語っている。そのマリーアスと熱狂度を競っていた小説家のマヌエル・バスケス・モンタルバンは、「マドリーの本質である美しいサッカーへの信仰と下部組織を重視する姿勢、そして紳士的な振る舞いは、終わりのない論争と不平不満が渦巻く“酸”の中で融解してしまった。それは今、本来なら憎むべき敵であるバルサの中にしか見いだせない」と嘆いている。

 マドリーがヒステリックなまでにバルサへの敵対心を示せば示すほど、バルサに対するマドリーの劣勢が浮き彫りになってくる。今のマドリーは、あまりに多くの点でバルサに劣っている。カンテラ出身選手が10人も並ぶスタメンで勝利を収めてしまうバルサに対し、マドリーは高額の“傭兵”を国内外からかき集めてもタイトルを獲得できない。クラブの象徴であるグアルディオラやチャビ、メッシに対して大きな敬意を払うバルサに対し、退団セレモニーさえ行わずにラウール・ゴンサレスとグティを追い払ったマドリー。背に「UNICEF」のロゴを入れてプレーするバルサに対し、オンラインベッティング会社をスポンサーとするマドリー。何もかもが対照的だ。

 実績面における違いも大きい。例えばカタルーニャの象徴であるバルサは、スペイン王国を象徴するマドリー以上に、スペイン代表の栄光に貢献している。カシージャスを最後に、マドリーの生え抜き選手が一切世に出ていないことも意味深いことだ。これらの要因となっているのは、現在のアンチ・マドリディスモをもたらした張本人であるペレス会長が強固に推し進めてきた“ガラクティコス帝国主義”だ。バルダーノ時代は“ジダーネス・イ・パボーネス”政策が公に語られた。これはジネディーヌ・ジダンを始めとする外国人のスーパースターと、フランシスコ・パボンに代表される下部組織出身選手を組み合わせて強力なチームを作るという政策のことだ。しかし実際のところ、ペレスがカンテラに興味を示すことはなかった。トップチームのイメージを重視する一方で下部組織を無視し続け、カンテラの若手を積極的に起用しようとした唯一の監督、ビセンテ・デル・ボスケを容赦なく解任した。機能するかどうかは別にして、スター選手の影響力にすべてを賭けたのだ。バルサからルイス・フィーゴを引き抜いたことで明らかなように、それはクラブ間のマナーを完全に無視するものだった。そしてスター選手を獲得するために現実離れした金額の移籍金を支払い、市場価格を混乱させたのである。

 マドリーが最近、スペイン国内から選手を獲得できなくなったのも、ここに原因がある。スペインの他クラブはペレスの傲慢な態度に対応すべく、自軍の選手に対するオファーがあるととてつもない金額を提示するようになった。国内からの選手獲得が難しくなった今、ペレスはやむを得ず国外に選手を求めるようになり、さらに高い値段で獲得せざるを得ないという悪循環に陥っている。

 事態を好転させるには、4シーズンぶりのリーガ制覇を果たすだけでは不十分だ。彼らは“レアル”の気品を取り戻す必要がある。それは残念ながら、いくら大金を積んでも購入できるものではない。自らの内面から変えていくしかないのである。

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