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ロンドン行きを決めたU-23代表の原動力は各年代がつないできた“勝利の歴史”

2012.03.16
U-23日本代表
[写真]=兼子愼一郎
 
バーレーン戦は課題も浮き彫りにした。絶対的な左利きの不足である。
 
 フィリップ・トルシエが、山本昌邦が、反町康治が浴びてきたミネラルウォーターのシャワーが、関塚隆監督に浴びせられる。気温8・3度の肌寒い夜には荒っぽい祝福だが、この日ばかりは心地良さを運んできただろう。
 
 3月14日に行われたバーレーン戦で、U-23日本代表は2対0の勝利を収めた。1996年のアトランタ大会から、5大会連続となる五輪出場をつかんだ。最終的には自力での予選突破となったが、苦しんだ印象は強い。対戦相手だけでなく、ピッチ外でも戦いを強いられた。
 
 今回ほどメンバー編成に苦慮したことはなかっただろう。香川真司、宮市亮、酒井高徳、宇佐美貴史ら、五輪世代にして海外へ移籍する選手が出てきたからだ。バーレーン戦も、大迫勇也が出場停止だった。
 
 それでも、ロンドンへ辿り着いた。得失点差で救われたわけでもなく、勝ち点でしっかり2位以下を突き放した。
 
 バーレーンのピーター・ジョン・テーラー監督の記者会見が印象的だ。イギリス人監督はこんな話をしている。「私たちのパフォーマンスでマイナス面があったとすれば、信念が足りなかった。自分たちを信じる心が足りなかったということだ。ナーバスになってしまい、ボールをすぐに奪われてしまった」
 
 かつては日本の監督が、試合後にこうしたコメントを残していた。1980年代や1990年代前半までは、なかば定番化していたものである。
 
 かつての日本は、なぜ自分たちを信じる心を持てなかったのか。持てたとしても、足りなかったのか。国際試合で勝った経験がないからだった。勝つ日本を見たことがなく、自身も勝ったことがないだけに、勝利のイメージが沸かないのである。1点を取られた瞬間に、「やっぱり」とか「またか」といった思いにかられてしまうのだ。
 
 このチームの選手たちも、勝った経験はない。2008年のU-19選手権で準々決勝敗退を喫し、U-20ワールドカップの出場を逃した。U-17ワールドカップにも出場できていない。劣等感を抱いてもおかしくないだろう。
 
 ところが、彼らが抱いていたのは責任感なのである。「自分たちはダメだ」という自己否定や、国際試合へのコンプレックスとは無縁だった。
 
 なぜか。彼らの知る日本は、勝った経験を持っているからだった。同じチームでプレーし、同じリーグで戦う選手が、アジアの予選を突破している。五輪の舞台に立っている。自分たちだってできる、オレたちもいかなきゃいけない、と思うことに違和感はないだろう。アトランタ以降の各年代がつないできた勝利の歴史が、彼らをロンドンへ導いたのである。
 
 もちろん、チームの成長とそれを裏付けた個人のレベルアップも、予選突破の要因だ。チームの立ち上げ初戦に出場したメンバーで、バーレーン戦に先発したのは比嘉祐介、鈴木大輔、東慶悟、山口螢の4人だけだ。金メダルを獲得したアジア大会のキャプテン山村和也、同大会得点王の永井謙佑らがベンチに控えることが、チームの変化と成長を分かりやすく表わしている。
 
 一方で、バーレーン戦は課題も浮き彫りにした。絶対的な左利きの不足である。スタメンはもちろん途中出場の3人を加えても、左利きは扇原貴宏ひとりしかいない。彼が欠場すると、リスタートのキックのバリエーションは極端に減ってしまう。
 
 この試合の前半に、右サイドバックの酒井宏樹がしばしばフリーになっていた。ボールがつながればチャンスが拡がるシーンがあった。ところが、なかなか彼にボールが入らない。右利きのプレーヤーが多いために、左サイドへボールが偏りがちだったからである。
 
 後半は酒井を生かすことかできたのも、バーレーンの圧力低下が直接的な要因だ。ボールホルダーへのプレッシャーが弱まったために、右サイドへ展開することができていたのだ。左利きの選手が少ないことによる弊害は、ピッチ上でいくつも見つけることができる。今後本格化していくであろうオーバーエイジの招集にも、レフティー補充という視点を加えるべきだと僕は思う。

【戸塚啓 @kei166】 1968年生まれ。サッカー専門誌を経て、フランス・ワールドカップ後の98年秋からフリーに。ワールドカップは4大会連続で取材。日本代表の国際Aマッ チは91年から取材を続けている。2002年より大宮アルディージャ公式ライターとしても活動。著書には 『マリーシア(駆け引き)が日本のサッカーを強くする(光文社新書)』、『世界に一つだけの日本サッカー──日本サッカー改造論』(出版芸術社)、『新・ サッカー戦術論』(成美堂出版)、『覚醒せよ、日本人ストライカーたち』(朝日新聞出版)、『世界基準サッカーの戦術と技術』(新星出版社)などがある。2011年12月に最新著書『不動の絆』~ベガルタ仙台と手倉森監督の思い(角川書店)が発売。『戸塚啓のトツカ系サッカー』ライブドアより月500円で配信中!

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