[ワールドサッカーキング 2012.03.15(No.209)掲載]

[写真]=Getty Images
■爆発力を生み出す“イブラ戦術”
リーグ制覇を成し遂げた昨シーズンと同じ4−3−1−2を採用するミランだが、「3」の部分はこれまでと大きく異なる。レジスタのピルロの両脇にガットゥーゾ、アンブロジーニを配置して守備のバランスを図ることが多かった昨シーズンに対し、今シーズンはアンカーにフィルター役のファン・ボメルを据え、インサイドハーフに攻撃的なノチェリーノ、セードルフらを起用することでチーム全体の重心をやや前に置いている。
もう一つの変更点は、ビルドアップの段階でのワイドな揺さぶりだ。一方のサイドで細かくパスを回して敵を同サイドにおびき寄せ、手薄になった逆サイドへ一気に展開するサイドチェンジは、縦に速かった“ピルロ時代”のゲームメーク手法とは大きく異なる。
そして、インサイドハーフの攻め上がりとロングボールの多様に伴い、一段と存在感を増しているのがイブラヒモヴィッチだ。最前線でターゲットとなる195センチの長身FWは、常人離れしたフィジカルとテクニックを生かして多少アバウトなボールも難なく足元に収め、ポストワークやフィニッシュワークを遂行する。とりわけ、トップ下のボアテング、インサイドハーフのノチェリーノとの連係は絶妙で、自身が相手DFを引き連れて前線にスペースを作り出し、そこに彼ら2人を走り込ませてラストパスを通すというフィニッシュパターンを確立。今シーズンのイブラヒモヴィッチは言わば、“最前線の司令塔”として機能している。
もちろん、本業のフィニッシュも健在で、ここまでリーグトップタイの18ゴールをマーク。出場停止明けのパレルモ戦では14分間でハットトリックを達成し、その存在感をまざまざと見せつけた。
アッレグリ監督が求める「ひたむきなプレー」という点でも、前線から意欲的にプレスを仕掛けることで期待に応えている。一流プレーヤーが集うミランにあって、全能ぶりを誇示するイブラヒモヴィッチはもはや戦術そのもの。26試合消化時点でリーグ最多の53ゴールと爆発的な得点力を誇っているのも、“イブラ戦術”がうまく機能している照明と言える。
■最終ラインの連係と中盤のプレスが機能
攻撃の要がイブラヒモヴィッチなら、守備の要はチアーゴ・シウヴァだ。対人プレーに絶対的な強さを発揮するブラジル代表DFは、単純な放り込みやセットプレーなら単独で対処。味方とのコミュニケーション能力も高く、中央突破に対してはセンターバックのコンビを組むネスタやアンカーのファン・ボメルと鉄壁の守備ブロックを形成し、サイド攻撃に対しては両サイドバックのカバーに素早く入る“2段階構えの守備”で相手の突破を許さない。
また、ミランの綿密な守備戦術は、中盤の献身的なチェイシングによっても支えられている。アッレグリからハードワークを要求されている中盤の4人は攻から守への切り替えが抜群に速く、迅速かつ激しいアプローチでパスコースを限定。相手の攻撃を効果的に遅らせている。さらに、守備固めの際にはアンブロジーニら“守備のジョーカー”を送り込み、中盤のプレスを強化。アンブロジーニを投入する場合は中盤をフラットに並べる4−4−2へとシフトし、ファン・ボメルとダブルボランチを組ませて手堅く逃げ切りを図る。
極論すれば、アッレグリは「守備の組織さえ崩れなければ、攻撃はイブラヒモヴィッチを中心とした個人技で何とでもなる」という不敵な構想を抱いているのだ。
チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦のファーストレグでは、アーセナルを4−0と粉砕。イブラヒモヴィッチは1得点2アシストのハイパフォーマンスを見せるなど、攻撃面では“イブラ戦術””が機能。守備陣もプレミアリーグの得点ランキングでトップを独走するファン・ペルシーを見事にシャットアウトした。
リーグ連覇と欧州制覇を狙う指揮官は、エースの多様なプレーを生かした厚みのある攻撃と、チアーゴ・シウヴァを軸にする最終ラインのコンビネーションと中盤のプレッシングが生む組織的な守備に自信を深めている。
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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

ワールドサッカーキング No.209【徹底分析】ヨーロッパ戦術革命
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