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スコールズの電撃復帰がもたらす『3つのメリット』とファーガソン監督の思惑

2012.02.18

ワールドサッカーキング 2012.03.01(No.208)掲載]
 ポール・スコールズの現役復帰にはこの冬のどんな移籍よりもインパクトがあった。サプライズの張本人であるベテランMF、そして、アレックス・ファーガソン監督の真意を探る。

Text by Footmedia, Photo by FOTOSPORTS

■絶妙なタイミングでのポジティブな復帰

 1月8日、FAカップ3回戦のダービーマッチを前に、マンチェスター・ユナイテッドのドレッシングルームは驚きに包まれた。ウェイン・ルーニーはこう証言する。「誰も知らなかった。彼がいきなりロッカーで着替え始めて、何が何だか分からなかった。てっきり試合に帯同するだけかと思っていたら、急にユニフォームに着替え始めたんだ。彼が22番というのは見慣れないけれど、みんなが復帰を歓迎したよ」

 リオ・ファーディナンドはうすうす感づいていた。「FAカップ前日に彼がチームと合流し、チーム練習に参加していた。『試合を観戦するため』なんて言っていたけど、彼らしいね。もしかしたら復帰するんじゃないかと思って、翌日にユニフォーム担当のスタッフにこっそり聞いたんだ。彼のシャツはあるかってね」

 こうして、ポール・スコールズは電撃的な現役復帰を果たす。彼がベンチに座るのを見た敵将ロベルト・マンチーニも「信じられなかった」とこぼしたが、それもそのはず。復帰の公式発表は、実にマンチェスター・シティ戦のキックオフからわずか1時間前のことだった。

 サプライズの発端は、スコールズがアレックス・ファーガソン監督に話を持ち掛けたことだった。スコールズは全盛期のプレーができなくなり、ビッグマッチの先発を外れることが増えたことを理由に、昨シーズン終了をもって現役を退くことを発表。引退後はクラブでコーチやスカウトの手伝いをしていたが、復帰を決めるに至った経緯をこう説明する。

「昨シーズン終了時は引退にふさわしいタイミングだと思った。だが数カ月が経ち、他の選手のプレーを見たり、自分がリザーブの練習に参加したりすると、思っていたよりもフットボールが恋しくなったんだ。だから監督にもう一度プレーしたいと伝えた。ありがたいことに、ポジティブな返事をもらえたよ」

 数週間ほどファーガソンとの話し合いを重ねながら、スコールズはジムで精力的に体を動かし、リザーブチームでの練習ペースを上げていく。一方で、ファーガソンはメディアにも選手にもこのことを告げぬままFAカップ3回戦の2日前にスコールズを選手登録。秘密裏に事を進めた理由をこう明かしている。

「どう作用するか分からなかったが、FAカップでアウェーでのシティ戦という難関に立ち向かうところだったので、インパクトを与えるために隠していた。アウェースタンドにいた5000人のファンは、彼の名前をチームシートで見つけるなり、最高の反応をみせてくれたよ」

 クラブOBのニッキー・バットも、「年末年始のプレミアで(ブラックバーン、ニューカッスルに)連敗した直後のダービーマッチ1時間前。発表はベストなタイミングだった」と、指揮官が練りに練った復帰のタイミングを称賛している。

■ベテランの復帰による3つのメリット

 現役復帰を決めたのはスコールズ自身だったが、ファーガソンにとっても彼の申し出は渡りに舟だった。トム・クレヴァリー、アンデルソンが相次いで負傷、ダレン・フレッチャーも昨シーズンから苦しむ病が完治せずに今シーズン絶望となり、中盤の選手層に大
きな不安があったからだ。

 スコールズを復帰させるメリットは大きく分けて3つ。まず、彼との再契約はコストが掛からないという“財政面”だ。ダビド・デ・ヘア、フィル・ジョーンズ、アシュリー・ヤングの獲得で夏に5000万ポンド(約63億円)以上を費やし、チャンピオンズリーグ敗退で補強費に余裕がないクラブにとって、これは重要な要素だ。2つ目は逆転優勝に向けてチームの精神的支柱になりうるという意味での“精神面”。クラブOBのリー・シャープは「もしタイトルを獲得するすべを知っている選手がいるとしたら、それはスコールズだ」と証言しているし、GKアンデルス・リンデゴーアも「口数は多くないが、口を開けばチームのみんなが静かになって彼の話に聞き入る。苦しい時も、良い時も、みんなが彼を見てプレッシャーへの対処法を学ぶんだ」とスコールズの影響力を語っている。

 そして3つ目は、もちろんピッチでの“プレー面”だ。復帰初戦となったシティ戦では途中出場直後に失点に繋がるパスミスを犯したが、それ以外にブランクを感じさせるプレーはない。復帰したベテランに指揮官が課した仕事は試合のコントロール。ゲームを落ち着かせ、パス回しを円滑にする役割は、若手が増えた今シーズンのチームに欠けていた要素だ。

 かつてバルセロナのチャビが「お手本にしている」と語ったパスセンスは、3−3で引き分けた2月5日チェルシー戦でも顕著に発揮された。1−3の状態で64分から投入されると、彼はすぐさまチームに良いテンポを生み出し、同点劇を演出した。ファーガソンが早くも来シーズンの現役続行を要請するという記事や、ファビオ・カペッロ(2月8日にイングランド代表監督を辞任)が代表招集を検討しているという記事が紙面を躍らせたことからも、そのプレーがさび付いていないことが分かる。盟友ライアン・ギグスが「100万年経っても彼のような選手は現れない」と絶賛するのもうなずける。

 実際のところ、“過去の人”に頼る決断を下したファーガソンには、後継者探しを怠ったとの批判もある。だが、指揮官はスコールズの復帰が「後退的なステップではない」と反論し、彼と一緒にピッチに立つことで復帰後のクレヴァリーやアンデルソンがより成長できると考えている。ファーガソンにとって、スコールズの復帰は短期的にも長期的にもベストな選択だったわけである。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

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