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最初の“鬼門”も突破、堂々のスクデット争いを演じるユヴェントスの強さは本物か

2012.02.01

ワールドサッカーキング 2012.02.02(No.205)掲載]
 アントニオ・コンテ監督率いるユヴェントスは開幕から好調をキープし、セリエA首位争いの“主役”を演じ続けている。苦手とする中断期間明けの試合でもしっかり勝利をマークした。審判操作疑惑により降格処分を受けたのは6年前のこと。それ以来となる優勝争いに、チームは活況を呈している。フロントとファンまで一丸となったユーヴェの強さを現地記者が探る。

Text by Luciano MARTINI Translation by Mitsuo OGAWA

■「新年初戦は鬼門」のジンクスを吹き飛ばす

 2011年を首位で終えたユヴェントスは、2012年最初の“鬼門”も突破した。

 1月8日に行われたレッチェとのアウェーゲーム。当時、最下位に低迷していたチームとの試合が、ユーヴェにとっては今年最初の公式戦となった。中断期間明けのゲームでは、相手が最下位チームでも油断はできない。むしろ、新しい年に巻き返しを期すそういう格下のチームこそが危険なのだ。

 しかも、ユーヴェは新年初戦を苦手とするチームだ。新世紀を迎えた2001年から昨年までユーヴェの年明け初戦の成績は6勝3分け2敗。セリエBに在籍していた06ー07シーズンには、マントヴァ相手にシーズン初の敗戦を喫し、昨シーズンはパルマに1ー4と大敗している。一方、ユーヴェと熾烈な首位争いを展開しているミランは、新年初戦に滅法強い。この10年間の成績は9勝2分けで無敗。今年の初戦もアタランタに勝利し、無敗記録を継続している。

 ユーヴェは年末年始を返上してカタールのドバイでミニ・キャンプを張った。キャンプ中のドバイの気温は30度近く。一方、1月8日のレッチェの気温は10度を下回った。この“寒暖の差”がユーヴェの選手たちに襲い掛かる。

 事実、レッチェ戦は非常に難しいゲームとなった。レッチェはアントニオ・コンテ監督の地元。愛情と憎しみは紙一重である。「自分たちを裏切り、ビッグクラブに魂を売り飛ばした」郷土の英雄に観客席から辛辣なやじが飛ぶ。

 しかもスタメン出場したFWファビオ・クアリアレッラが、開始わずか22分で負傷退場するアクシデント。ユーヴェファンの頭に「新年初戦は鬼門」というジンクスがちらつき始める。そんな不穏な雰囲気を振り払ったのが、00年から6シーズン、レッチェでプレーした経歴を持つミルコ・ヴチニッチだった。27分、レッチェのDF陣を引き連れながら左サイドから中央に切り込んだヴチニッチが、エリア外から強烈なミドルシュートを放つ。GKマッシミリアーノ・べナッシがはじいたボールを途中出場のアレッサンドロ・マトリが押し込み、ユーヴェが先制した。

 その後のユーヴェは、レッチェFW陣のスピードに乗った攻撃に苦しめられながらも何とか耐え、1ー0で勝ち点3を手にした。この勝利により、今シーズンの無敗記録は17試合(10勝7分け)となった。これは、今から62年前、49ー50シーズンにジェシー・カーヴァー監督率いるチームによって作られたクラブレコードと肩を並べるもの。ユーヴェは、セリエAで27回の優勝を誇る名門だ。そのチームの開幕からの無敗記録が17試合というのは、いささか意外な気もする。例えば、78ー79シーズンのペルージャは30試合、91ー92シーズンのミランは34試合もの無敗記録を作っているからだ。ともあれ、コンテのユーヴェは記録の面でも偉大な足跡を残している。

 レッチェ戦後のコンテのコメントは次の通り。「私にとって今シーズンがユーヴェを指揮する1年目だ。ここまで無敗で来ていることを誇らしく思っている。ただ、我々は今シーズンの開幕を挑戦者の立場で迎えたチームだ。その事実を忘れてはいけない」

■安定感抜群の守備陣と課題を抱える攻撃陣

 昨シーズンと比較して、ユーヴェの何が変わったのか? 昨シーズン、ルイージ・デル・ネーリ監督に率いられたユーヴェの前半戦終了時の成績は、8勝7分け2敗の勝ち点31。一方、今シーズンは2勝分が上乗せられた勝ち点37。総得点は、昨シーズンよりも6点増えて28点。逆に失点は6点減ってウディネーゼに次ぐリーグ2位の11となっている。つまり得点、失点ともに昨シーズンの同時期の数字を上回っているのだ。

 注目すべきは、守備の安定ぶりだろう。4バックという基本コンセプトについては昨シーズンも今シーズンも同じ。ただ、昨シーズンの前半にいなかったアンドレア・バルツァーリとシュテファン・リヒトシュタイナーの加入により、クラブが伝統とする“堅守”が復活したことは大きい。

 特に、昨年1月、ヴォルフスブルクから破格の安値(約3000万円)でユーヴェ入りしたバルツァーリの存在が大きい。全盛期のスピードとスタミナは失われているにせよ、ポジショニングセンスが良く、カバーリングの妙はセリエAでもトップレベルにある。イタリア代表の守護神でもあるジャンルイージ・ブッフォンは、今も彼のことを「世界最高のセンターバック」と称えているほど。バルツァーリは今シーズン途中、チェーザレ・プランデッリ監督の要請を受けてイタリア代表に復帰しているが、ユーヴェでのパフォーマンスを見れば納得だろう。

 最終ラインにバルツァーリという柱になる選手が出てきたことで、自信を失いかけていた若いレオナルド・ボヌッチのパフォーマンスにも安定感が戻った。昨シーズンはビッグクラブでプレーするプレッシャーをうまく消化できず、ボールを失うミスを恐れてやみくもに前線へのクリアを繰り返していたボヌッチだが、今は落ち着いてボールをつなげるようになった。また、昨シーズンはヘルニアに苦しんでいたブッフォンがかつての輝きを徐々に取り戻しつつあることも、守備の安定につながっている。

 一方、攻撃陣もそれなりに好調である。ここまでのチーム得点ランキングを見ると、昨シーズン途中に加入したアレッサンドロ・マトリが7得点でトップ。純粋なウイングとしても3トップの一角としてもプレーできる万能アタッカーのシモーネ・ぺぺが5得点で続いている。ただ、今シーズンの前線のキーマンは、ここまで2得点とゴール数は伸びていないが、ポストワークからサイドの切り崩しまで多彩なプレーでチームに貢献しているヴチニッチだろう。

 レジスタのアンドレア・ピルロの加入により、敵のディフェンスを崩すバリエーションは昨シーズンに比べ格段に増えた。ただ、チャンスは多いが決定力不足が目立つというのが、今シーズンのユーヴェ攻撃陣の課題だろう。前述したように総得点は増えているのだが、そのうち6得点は飛躍的な成長を遂げているセントラルMFのクラウディオ・マルキージオが挙げたもの。それがなければ、「得点力不足」が指摘され続けていた昨シーズンの前半の数字とさほど変わらない。首位争いをしているライバル、ミランの総得点(37)と比べるとやはり物足りない。

 フロントも、後半戦も優勝戦線に踏み留まるためには、「点の取れるFW」の補強が必要不可欠と考えたのだろう。冬の移籍市場が解禁となるや、ローマから長身FWのマルコ・ボリエッロを獲得している。ボリエッロならば、3トップのセンターとしても2トップの一角としてもプレーできる。ただ、首脳陣の最大の期待はチャンスメークや崩しのバリエーションを増やすことではなく、純粋なフィニッシャーとしての仕事、「ボールをゴールに押し込む」ことだ。

 もっとも、ファンの一部には、昨年夏にユーヴェからの誘いを拒否してローマ入りを選んだボリエッロのことを快く思っていない者も多いようで、レッチェ戦ではスタンドに「誇りも威厳もない傭兵は必要ない」と書かれた横断幕が掲げられた。ボリエッロとしてはまず、味方のファンの信頼を勝ち取ることが必要になってくる。

■柔軟な頭脳を持った指揮官の功績は大きい

 コンテの監督就任が決まった時、多くの関係者は、彼が得意とする超攻撃的な布陣、4ー2ー4がどの程度通用するのかということに疑問を感じていた。ただ、ここまでのコンテの采配を見る限り、彼は一つのシステムに固執するタイプではないことが分かる。彼が持つ“柔軟性”こそが、ここまでの好調の最大の要因だろう。

 コンテは前半と後半、ホームとアウェー、その他のありとあらゆる状況を計算に入れ、基本システムである4ー2ー4を変化させ、4ー1ー4ー1や4ー3ー3などを使い分けている。当然、数字で表すシステムだけでは語れない。ポイントとなるのはやはり“攻守のバランス”であり、「ディフェンスラインと前線をつなぐ」選手がそのカギを握っている。

 そういう意味で、前半戦のユーヴェで非常に重要な役を演じたのは、ピルロとマルキージオの2人だろう。いずれもイタリア代表で主力を務める実力者だが、今シーズンのユーヴェにおいては“予想外の活躍”を見せている。マルキージオはセントラルMFを本職とするプレーヤーだが、ここ数年は中盤の左サイドやトップ下など、チーム事情に応じたコンバートを受け入れており、そこで結果を出していたために、「彼は2列目の選手」と多くの人から認識されるようになっていた。開幕当初、マルキージオをセントラルMFに据えるコンテの起用法には、疑問の声が少なからず上がっていたものだ。だが、コンテは正しかった。本職のポジションに戻ったマルキージオは、今まで以上のパフォーマンスを披露。ピルロをサポートして「ディフェンスラインと前線をつなぐ」役割をこなし、積極的に前線に攻め上がってチームの得点源にもなっている。

 ピルロもまた、周囲の懐疑論を吹き飛ばした選手だ。4ー2ー4の「2」をこなすにはパワー不足と見られていたが、開幕戦からミラン時代と変わらないクオリティーの高さと、さらに以前にはなかったエネルギッシュなプレーを見せ、「ディフェンスラインと前線をつなぐ」役割を完璧にこなしている。もちろん、もう一人のバランサーであるアルトゥール・ビダルの存在も大きい。だが、ピルロという生粋の司令塔が全体をコントロールし、若武者マルキージオが攻守にわたりフル回転することで、コンテの戦術は機能し、ユーヴェは躍進するに至ったのだ。

 国内リーグが統一された1929年以降、ユーヴェが前半戦を首位で折り返した回数は全部で24回あり、そのうち16回でスクデットを獲得している。一方、ミランの首位折り返しは17回、そのうち11回が優勝である。ユーヴェとミランが同ポイントで前半戦を折り返したのは、意外にも72ー73シーズンの1度だけ。この時は、ユーヴェがスクデットを獲得しているが……。

 ただ、スクデット争いのポイントとなるのは、前半戦の終了時ではなく、2月の終わりに予定されている両者の直接対決だろう。マルキージオもこうコメントしている。「直接対決までの戦いが重要になるだろう。サン・シーロで行われるその試合まで、何とかミランに食らい付いていきたい」

 戦力を比較すれば、やはりミランが上。経験という点でも、前年王者のミランに分がある。ただ、ミランにはチャンピオンズリーグの戦いがあるのに対し、ユーヴェは欧州カップ戦という責務から完全に解放されている。マルキージオが言うように、今後も両者のつばぜり合いが続けば、苦しくなってくるのはミランだろう。

 この1月は、フロントもチームを助けるべく補強に動いた。早々にボリエッロを獲得し、前線の余剰人員だったアマウリ、ルーカ・トーニ、ヴィンチェンツォ・イアクインタを売却。さらに即戦力のシモーネ・パドイン、マルティン・カセレスをメンバーに加えた。

 ユーヴェとしては久々となるスクデット獲得のチャンスである。ここのところの状況を見ると、フロント、チーム、ファンが名門復活に向けて一つにまとまった感がある。カルチョ・スキャンダル以後、ユーヴェは内部衝突が多く、決してまとまってはいなかったがかつてのような結束力が感じられるようになった。この一点だけでも、コンテ監督は最高の仕事をしていると見なしていいだろう。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。

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